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SS・featuring Sumika

'03年鑑純夏・聖誕祭SS「思い出と、はじまりと、恋心の小夜曲。」


「……っと」 わたしは、いつものように日記を書き終えて部屋を見回した。
明日は白陵柊の入学式。なんとか頑張って合格できた白陵柊に、わたしが(入学できるかどうかは別にして)密かにちょっと憧れてたあの制服を着て、明日からまた、タケルちゃんと一緒の毎日を過ごすことができる。

今日の日記も、そんな気持ちをいっぱい書いた。気がついたら、いつもよ り結構遅い時間になってた。
それでも窓を見ると、向かいの窓から明かりが漏れてる。どーせタケルちゃんのことだから、まだ夜更かしして起きてるんだろうな。
「もう、起こして苦労するのわたしなんだから、入学式の前の夜くらい早 めに寝てよ、タケルちゃん…」

もう一度壁に掛けた真新しい白陵柊の制服を見る。
明日からまた新しい学園生活が始まる。そのこと自体もわたしにとって楽しみだし嬉しい。だけど一番楽しみなのは、明日、初めて、あの制服を着てタケルちゃんと一緒に通学すること。
わたしが少しだけ早起きして、隣の家の玄関を開けて、おばさんに挨拶して、二階に上がってタケルちゃんを起こして、二人で一緒に通学する。
こうして改めて思い浮かべてみれば、今まで続けてきたことと変わりはない。だけど、あの制服をわたしが着てそうするのは、明日が「はじめて」。

またひとつ、わたしが積み重ねていく、タケルちゃんとの「はじめて」。
   
 
  この部屋には、そんな「はじめて」が沢山しまってある。他の人が見たらたぶん、つまらないものかガラクタに見えちゃうようなものも沢山あると思うけど、わたしにとっては大事な「はじめて」。

例えば、ついこの間机の引き出しを掃除してたら出てきた、小学校の時の読書感想文。
今と比べて字も汚いし、ひらがなばかりの文章で読み返してみるととても恥ずかしいんだけど、これは確か、「はじめて」タケルちゃんと二人でやった宿題。 (もしかすると「はじめて」じゃないかも知れないけど、わたしが覚えてて形として残ってるものとしては「はじめて」なんだよ)

「本よんでかんそう、つったってこんなの『つまんねー』しかかけねえよ」
「そうかなー、わたしはこの本、おもしろかったけど…」
「ウサギおいかけてたいへんなめにあうはなしなんて、おれはやだなー」
「そんなことないよ、ウサギさんやねこさんとおはなしできたら、おもしろいとおもうよ」
「そっか、なるほど…『ウサギやネコや、トランプがうごいてしゃべるのがおもしろかった』、っと」
「あー、タケルちゃん、ひとのかんそうまねしたー!」

結局、あの感想文ってお互いの感想写しっこして出しちゃって、写しっこしたのがバレて先生に訊かれた時、タケルちゃんが一人で「おれがうつした」って言い張って先生に職員室かどっかに連れて行かれたんだっけ。タケルちゃん、変なとこで格好つけるんだよね、昔っから…
 
その感想文の近くにしまってあった、ビーズの腕飾りも懐かしくて大切な「はじめて」。
わたしが貰った、タケルちゃんが作ってくれた、「はじめて」のアクセサリー。…もう、ちっちゃくてわたしの腕には入らないけど、これを見てると作ってくれた時の様子が今でも思い浮かぶ。

「なに作ってんだ、純夏?じゅずでも作ってるのか?」
「んー、違うよ、ビーズでうでわ作ってるんだよ、えっと、ここを…」
「違うって純夏、そこはこーだろ…」
「あ、タケルちゃん上手だー。ねえねえ、わたしの作ってよ!」
「これっくらいなら、まあ任せとけ」

…と、任せてみたら何かいびつな色使いのものが仕上がったっけ。
それでも、タケルちゃんはわたしが一生懸命頑張ってたものよりも器用に、この腕飾りをささっと作ってくれた。 タケルちゃん、意外なとこで要領いいんだもんなー。ちょっと悔しいよ。  
 
  それから、今日白陵柊の制服をクローゼットに入れる代わりに前の学校の制服を片付けてた時に見つけた、自分では結構気に入ってるよそ行きのブラウス。
これは割と最近、タケルちゃん「達」と一緒に「はじめて」友達同士だけで遊園地に行ったときの服。

…だけど、タケルちゃんはこの服のことなんかぜったい知らないだろうな。
だって、あの時ずーっとお目当てのコの方ばっかり向いて嬉しそうにしててさ、わたしのことなんて家に帰るまで放ったらかしだったし。
しかもその子とのことだって、わたしが相談されてお膳立てしてあげたのに、結局うまくいかなくて降られたんだよね。

むー、何かあんまり嬉しくない「はじめて」だけど、それでも、わたしは自分からタケルちゃんにまつわる「はじめて」を捨てることができない。 何かシャクだから、これ、初デートの時とかに着てやろうか。
その「はじめて」のデートいつになるかも、その時服のサイズが合うか分かんないけど、とりあえず置いとこ。

ぜったい、その時になったらこれ着てタケルちゃん見返してやるんだから。
 
他にもいろいろ沢山「はじめて」の品はあるんだけど、どれも大切な「はじめて」なんで、順番とかつけられない。だって、わたしとタケルちゃん「はじめて」はまだまだ現在進行形で、とりあえず、わたしが頑張ったからあと3年間は続けることができる。
大学とか将来とか、先のことはまだ全然わかんないけど、白陵柊だって頑張って入れたんだから、わたしが頑張ってタケルちゃんを追いかけられれば、まだまだ「はじめて」を積み重ねること、できるよね?

もう一度壁にかけた白陵柊の制服を見る。 わたしの中では明日着ていくものの準備は万端。
学校が上がるからと決心して、タケルちゃんがわたしのことを、もっと女の子として見てくれるように思い切って買った、新発売の寄せて上げるブラを着ける。着けてみたらちゃんと谷間できたし、これ使ってたらぜったい胸、おっきくなるって店員のお姉さんも言ってたもん!
この前ちょっとした間違いで胸触られた時の、「お前のなんて胸って言わねぇ」発言をタケルちゃんにぜったい撤回させてやるもんね。
それから、何かの間違いで見られた時タケルちゃんに「子供っぽい」と散々バカにされたパンツだって、可愛い縞々のパンツに変えたんだから。 白陵の制服って今までよりスカート短めだから、もしかしたらまたパンツ見えちゃったりするかも知れないけど、これなら子供っぽいなんて言わせないぞ。
その上からこの可愛い制服を着て毎日一緒に通学。そうすれば、タケルちゃんだって、ちょっとは…

「ふっふっふー、見てなよ、タケルちゃん。わたしが今までと同 じだと思ってたら、大間違いなんだから」
わたしはついさっき電気の消えた隣のうちの窓に目を向けてひとり呟く。  
 
  段々とわたし達が大きくなってくるのにつれて男の子だけの「はじめて」、女の子だけの「はじめて」が増えてきて、小さい時のように何でも「はじめて」をタケルちゃんと共有できないことも多くなった。
明日から新しい学校での生活が始まって、その中でいっぱいいっぱい、 わたしだけの「はじめて」、タケルちゃんだけの「はじめて」、二人での 「はじめて」、色々な「はじめて」を経験していくんだと思う。

そんな「はじめて」の中で、ひとつでも、少しでもタケルちゃんと一緒の「はじめて」を積み重ねていければいいな。 そう願いながらわたしは布団に入り、これからタケルちゃんと迎えるだろう沢山の「はじめて」、白陵柊での三年間を思い描いきながら目を閉じた。

(タケルちゃん、できれば明日からは、わたしが起こす前に起きてよね…)


#Fin.
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