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SS・featuring Sumika

'04年鑑純夏・聖誕祭SS「天川を仰ぎ見る夜想曲」

「ねえ、どこ行くの?」
誰から借りてきたか知らない四駆の車に乗って、わたしは助手席から隣のタケルちゃんに尋ねた。
さっきからずっと車は夜の海沿いを走り続けてるけど、どこに向かってるのか、いつ目的地に着くのか、タケルちゃんはわたしに何も教えてくれない。
「ねえ、タケルちゃん、どこ行くの?」
わたしは、ちょっと不満げに聞き直した。
大学に上がって、それまでみたいに一緒にいる時間が減ってきたから、こうして一緒にどこか行けるのはわたしだって嬉しい。だけど、車を運転し始めてから、タケルちゃんはあんまりわたしに話しかけてくれないし、わたしから声をかけても何かぶっきらぼうな返事ばっかり。
さすがに、ちょっと寂しい。 だからわたしは、何度かこうして聞き返してる。
「…もう暫く、かかるかな」
何回か帰ってきた返事も、さっきから大体こんな感じだ。
「なんかさっきから、ず〜っとそんな感じ…わたしちょっと退屈だよ」
「ん、あ、そっか…悪い、俺まだ運転慣れてないしさ。それに、何つーか、こういう雰囲気でお前と話すってのも、何かさぁ…」
それを聞いてわたしは、タケルちゃんに「彼女」扱いされてるんだなーって、そう思って、嬉しくなった。
(あ、別に、普段彼女扱いされてないって意味じゃないからね!)
「…何だよ、ニヤニヤしやがって」
「別にわたしは、普段通りのタケルちゃんでいいよ?」
言いながら、わたしの顔には自然と綻んで笑みが浮かんだ。
「彼女」相手に落ち着かないなんて、タケルちゃんも可愛いとこあるじゃないか。ふふふ。
…だけど、タケルちゃんの方が一枚上手だった。いつものことだけど。

「んな台詞、気合入れておめかししてるお前に言われたくねーよ」

そう言い返しつつ運転席からわたしに視線を向けた、タケルちゃんの真面目な横顔が格好よかった。
(いつもが格好悪い…って言ってるわけじゃないからね!)
今日下ろしたての白のブラウスも、ぜんぜん気付いてくれなかった。
ちょっと気合入れてルージュ引いたのにも、全く気付いてくれなかった。
わたし、一人で舞い上がってただけなのかなぁ…わたしはさっきまで、そう思ってた。
だけど、タケルちゃんはそんなわたしの変化にも、ちゃんと気付いてたんだ…あはは。そうだよね。
タケルちゃんは昔からいつだって、 わたしの事をちゃんと見てくれてたもんね…
だけど、それなら気付いた時に言って欲しいよ…いじわる。

「で、おめかしした退屈な純夏姫は、何をご所望なんだ?」
急にお姫様の役を振られても、どう返していいか分からないよ…ええっと…
考えに考えたわたしの口から出た応えは、
「うむ、タケル、そなたとドライブしながら楽しい会話がしたいぞ」
「……その口調、お前にゃ全然似合わねぇ」
「うるさいなー、もう!」
ちょっとおどけて、怒った風を装って何度かぽかぽかタケルちゃんの左腕を叩く。
「ってお前、運転中に殴るなよ、危ねぇだろ!」
わたしにはちゃんと見えた。
そんな風に騒ぎつつも、タケルちゃんはちゃんと前への視線を逸らさず運転してる。
そういう何気ない気配りと普段通りのやりとりが、タケルちゃんらしくて嬉しかった。

借り物の黒い四駆で二人海沿いを走る今、七月六日の真夜中。

もうすぐ、七月七日。柊町ではなぜか雨が多い七夕。…その日は、わたしの誕生日。


  #  #  #  #  #

それから二人で話したのは、主に昨日の昼間のこと。
明日(もう日付が変わったから、今日のことだけど)がわたしの誕生日だからということで、
二人で一緒に橘町まで買い物に出かけた。
別に私からおねだりした訳じゃなくて、ちゃんとタケルちゃんから誘ってくれた。
去年までの誕生日にはこんなこと全然なかったから、すごく嬉しかった。
だけど、その時急に「今晩ちょっと車で出かける」って言われたから、すごくドキドキもした。
だって、今晩二人で出かけるっていうことは、お泊りするってことだし…

え、えっと、それより…昨日のお昼、お買い物の時の話なんだけど。

タケルちゃんが最初にわたしを案内したのは、最近出来たショッピングビルの一角にある…駄菓子屋さん。外壁がガラス張りでお洒落なんだけど、お店の売り物は懐かしい駄菓子。
ひとつひとつが可愛いラップに包まれてて、綺麗籠に盛られてる。見てるだけで楽しそうだけど…
「…あのさ、何で駄菓子屋さんなわけ?」
真顔で尋ねるわたしに対して、タケルちゃんは意外そうな顔をしながらザルを手渡して、
「遠慮しなくていいからな〜、お前の誕生祝い、今までの分までまとめて贈ってやるから」
そう言いながら、自分は自分で思い思いの駄菓子をザルに放り込んでいく。
場所柄、若い女の子連れやわたし達みたいな組み合わせも珍しくない。だからタケルちゃんも抵抗なくお店の奥の方へ入っていってお菓子を物色していく。
わたしはそんなタケルちゃんから離れないようにしながら、
「そうじゃなくて、何でわたしの誕生祝が駄菓子なんだよー!」
思わずぶすっとして言い返したわたしに対して、タケルちゃんは苦笑を返して、
「…お前な、オレはさっき、『今までの分まとめて』って言わなかったか?」
「うん、言った」
わたしは、まだ納得のいかない気持ちで頷いた。
タケルちゃんのことだから、油断すると本当にわたしの誕生祝を駄菓子で済ませてしまいそうだし。
だけど、今回に限っては、わたしの心配は杞憂だったみたい。
「だから、この駄菓子は去年までろくに祝ってやれなかったお詫びみたいなもんだって…今年のプレゼントは、ちゃんと別にある。だから、心配すんな」
「……ほんとに?」
だけど、タケルちゃんの場合今までが今までだから、ちょっと疑っちゃう。
「ほんとだって…お前なぁ、幾らオレでも、『初めて迎える彼女の誕生日』に駄菓子渡して納得させるほどひどくないぞ」
「でも、今までのタケルちゃんだったら全然ふつーじゃない」
そう言いながらも、タケルちゃんは色とりどりのどんぐり飴の前でどれにするか真剣に迷ってる。
「純夏、お前ソーダ味とコーラ味、どっちが好きだっけ?」
「えっと…ソーダ」
答えたのと同時に、わたしの籠へソーダ味のどんぐり飴が放り込まれた。
「……じゃなくて!」
「だーかーらー、ここで買い物したら、ちゃんとお前の欲しいもの買ってやるって。 …ここの隣、何の店か知ってるだろ?」

この駄菓子屋さんの隣にあるのは、携帯電話のお店。

そう、わたしが欲しいと思ってたのは携帯電話。一緒にいない時でも、電話とかメールとかできる携帯電話。な〜んだ。最初から、そのつもりだったんだ。あはは…


  #  #  #  #  #

「…だけどお前も、買ってすぐにメールすることないだろ? 目の前にオレがいるのに」
まんざらでもない表情を見せながら、タケルちゃんは助手席のわたしに言った。

お店でお揃いの携帯電話を買って貰って(もちろん通話料はわたしが自分で払う契約)、嬉しかったからすぐにメールを送った。
携帯の使い方自体は、友達が持ってるのを見せてもらって知ってたから、ちょっとわたしの「できるところ」を、タケルちゃんに見せたかった…んだけど。

「なんだよー、まだあのメールのこと、バカにしてるわけ?」
…ちょっとだけ、わたしが勉強不足だったこともあって、わたしが初めてタケルちゃんに送ったメールは笑いの種になってしまった。内容はすっごく真面目なのに。
今だって、タケルちゃんは慣れない夜道を運転しながら口元だけで笑ってる。なんだよー、そんなに笑うことないでしょー。
「いやだってお前、変換全然使わないメールなんて、オレ初めて見たからさ…」
「だ、だって…変換って自動でやってくれると思ってたんだもん!」
そう、わたしの記念すべき初メールは、「メールアドレス以外全部ひらがな」という、ちょっと(色々な意味で)恥ずかしいメールになっちゃったのだ。
送信して「タケルちゃん、見てよ見てよ!」なんて言った後、大笑いされて分かったから、何だか余計に恥ずかしい。
「あー、いや、悪い…内容は真面目なんだから、こんな笑っちゃ悪いよな…あはは」
…まだ笑ってる〜。ひどいよ、もう。

それから車の中では、携帯電話でできることをタケルちゃんに色々教えてもらった。
わたしは電話とメールのことくらいしか知らなかったけど、最近の携帯電話だと簡単なゲームとか、インターネットもできるみたい。ちょっとびっくりした。
折り畳んでもこんなに薄い携帯なのに、色々便利なんだなぁ…

と、わたしが携帯電話に関心しているうちに、車が速度を落とし始めた。
どうやら目的地に到着したらしい。わたし達が降り立った場所、そこは薄暗がりの砂浜だった。


  #  #  #  #  #

「うわぁ…すごいねぇ〜!」
砂浜に降りて空を見上げたら、今まで見たことがないくらい天の川がはっきり、綺麗に見えた。
…何て言ったらいいんだろう、星がたくさん集まってて、とっても 明るい。
その明るくて帯のようになった星々が、暗い真夜中の空の中で光ってて…
タケルちゃんがドライブに出てから、目的地のことも到着する時間のことも、ぜんぜん話さなかったのは、こういうことだったんだ。
「柊町だと、大抵七夕は雨だからな…けど、久し振りだよな。天の川見るのなんて」
隣のタケルちゃんが、一緒に空を見上げながら少し得意げに話し掛けてくる。どーせ昨日の夜か今日に、慌てて準備したくせに。…でも、ありがとね。
「…うん!」
わたしはただただ嬉しくて、一面の天の川を見上げたまま頷いた。
最後にタケルちゃんと天の川見たの、どれくらい前のことだろう。思い出せない。
小学校くらいだったら、わたしはちゃんと覚えてる。だけど、思い出せないくらい前のことだから、幼稚園とかそのくらいになるんじゃないかな…
「でも、ちょっと冷えるな…お前、大丈夫か?」
「このくらい、大丈夫だよ…っくしゅん!」
今日は昼間暑かったから薄手のブラウスを選んできたんだけど、夜の陸風でこんなに肌寒くなるなんて思わなかった。本当は、ちょっと寒いくらい。だけど、折角の天の川がこれくらいのことで見られなくなるのは、残念だし、嫌だ。

天の川、七夕、わたしの誕生日。
今までずっと、全部揃うことなんてなかったんだから。
せっかくタケルちゃんがわたしのために、天の川を見に連れて来てくれたんだから…

「・・・っしゅん!」
「ったくお前は…変なとこで意地っ張りなんだよ」
言いながら、タケルちゃんが何歩か歩いた。わたしの隣から後ろに回って…
「え? えっと…」
背中にあったかい感触。とくん、とくん…少し速いお互いの鼓動が、わたしの背中とタケルちゃんの胸の間で鳴り響く。ちょっとだけ、こうして欲しいなって思ってたけど…嬉しい。すっごく嬉しい。嬉しすぎて、熱が出たらどうしよう。
「お前さ、案外…太ってる?」
わたしは、黙って後ろに肘を入れる。もちろん、(グーで殴るときみたいに)本気じゃなくて。
「うるさいなー、わたし太ってなんかないよ!」
「ってぇな…冗談に決まってるだろ、お前いい加減そのくらい気付けよ」
そう言いながら、タケルちゃんはちゃんと胸の中でわたしを抱き抱えたままでいる。
さっきまでの肌寒さは、気がつくと温かさに変わってた。

それから二人して、どちらからともなく、そっと唇を寄せた。
「誕生日…おめでと」
「うん、ありがと……」
その間わたし達には、穏やかな潮騒も満天の天の川も目に入らなかった。


  #  #  #  #  #

…それから、わたし達は二人寄り添ったまま砂浜に腰かけ、きらびやかな天の川をずっと眺めてた。
時々、他愛のない会話をしたり、時々、その…いちゃついたり。
(え、えっと、どんな風に、とかは言わないからね!)

どのくらいそうしてただろう、気がついたら、東の方から空が白み始めていた。
わたしが最初に目にしたような、満天の星空は朝日の色に消え入ってしまった。
そこでわたしは、なんとなく疑問に思った。
「あ…でも、ほんとは七夕って、次の夜じゃないの?」
「え、あ…そう、だよな。言われてみれば、七夕の行事やるのって七月七日の夜なんだよな。…悪ぃ。明日、っつーか今晩、また来るか?」
わたしの頭を柔らかく撫でながら、いつもと違って大サービスのタケルちゃん。
普段のデートとかだったら、「もうこれでいいだろ」とか言うくせに。誕生日だから、ちょっと気を遣ってくれてるのかな。
「ううん、いいよ…綺麗な天の川、たくさん見れたし」
体を預けて甘えながら、わたしは落ち着いた気持ちで答えた。
「その代わり来年は…ちゃんと七夕の夜に天の川、見に来ようね。短冊も用意して」
子供の頃は、二人で一緒に短冊に願い事書いたっけ。…だけど、たいてい毎年雨が降ってたから、短冊を飾る笹もわたしの家か、タケルちゃんの家の中だった。
「短冊なんていらねーだろ…大体こんな所で、どこに短冊飾るんだよ?」
「短冊だけここで書いて、おうちの笹に飾るの」
わたしは小さい頃よく書いた、小さい頃からずっとずっと願ってきた、たった一つの願い事を思い出しながら、来年の七夕(とわたしの誕生祝)の予定をタケルちゃんに 話した。
予算がどうだとか笹の片付けが面倒だとか色々言ってたけど、きっと準備してくれる。だって、さっきまで天の川見てたのも、わたしがつい最近お願いしたことだから。

タケルちゃんに家まで送ってもらって、部屋で着替え終わってから、わたしは真新しい携帯電話を取り出す。それから、借りた車を返しに向かったタケルちゃんに、さっきみたいにバカにされないちゃんとしたメールを打って、送った。
変換するためにいっぱいキーを押したからすっごく時間がかかったけど、初めて送ったメールと違って、ちゃんと漢字も使ってる。これだったら、タケルちゃんも笑ってバカにしないだろう。
メールを打ち終えて送信ボタンを押したら、何だか急に眠くなってきた。昨日の日記、まだ書いてないんだけど……もう早朝だし、このまま寝ちゃおうか。おやすみなさい…


「ん? また純夏のやつメールかよ…今度は漢字変換してんのか?」

Subject:タケルちゃん、だいすき。
本文:綺麗な天の川、ありがとうね。また来年も、一緒にみにいこうね。
   その次の年も、その次の次も…一緒に天の川、みようね。短冊、書こうね。
   それからこのけいたい、大切に使うね。 すみか

「あいつ、件名最後に入力したろ。ったく…」
そう言いながらも、武の口元には照れ臭そうな笑みが漏れていた。



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