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SS・featuring Sumika

'05年鑑純夏・聖誕祭SS「ひとつの想いを願い合う追複曲」

いつからだろう、七夕の夜空を見上げなくなったのは。

大きくなって、織姫と彦星のお話に何も感じなくなったから?
七夕に天の川をみんなで見て、短冊を飾るような行事が小さい頃だけのものだから?
それとも、七夕っていう一日に、特別な気持ちを持てなくなってきたから?

わたしの場合、どれも違う。七夕はわたしの誕生日で、今でも特別な一日。
だけど、もう長い間ずっと、七夕の夜には決まって雨が降って星空が見えなくなっていた。
だから、雨雲に覆われた七夕の空を、天の川の見えない夜空を、見上げなくなっていた。

その代わり、夜寝る前、電気の消えたお隣の部屋の窓を眺めては、溜息をつくようになった時期があった。
わたし達もいつか、織姫と彦星のように、一年に一度しか会えないようになるかな、なんておぼろげな不安を抱きながら。
そんな不安を振り払いたくて、胸の奥にしまった大切な気持ちを確かめたくて、一人で短冊を書いたりした。大切な気持ちを伝えるまでは。

  *  *  *  *  *

今年も七夕は雨模様で、お隣の部屋の窓は明りが消えたまま。きょう一日、わたしが見た時はずっと留守だった。

毎日一緒に過ごしてるけど、毎日お弁当食べてもらったりしてるけど、一人の夜はきゅっと胸が締め付けられる。
小さな頃から一緒に過ごしてきたけど、家族とは違う人。時々ムカつくこともあるけど、それでも離れられない人。
一番一緒にいて欲しい、そんな夜に限って連絡が取れなくて、家にもいなくて。どこ行ったんだよぉ、わたしを一人にして…

むっとしながら、今年の七夕もわたしは一人で短冊に向かい合う。ずっとお決まりになっている願い事を胸に。
短冊を机に置き、小さい頃プレゼントしてもらったウサギのキャップの付いたペンを取り出し、目を閉じて深呼吸。
それからゆっくりと、胸の中にある願い事を文字にしていく。今では二人で分かち合えているはずの、大切な気持ちを。

最後まで短冊を書き終えた時、玄関のチャイムが鳴った。きょうはお父さんもお母さんも用事で出かけてわたし一人。
誰だろう、こんな時間に…わたしはペンに蓋をし、足早に階段を下りて玄関に向かった。その間もチャイムは忙しなく鳴ってた。
玄関の鍵を回してドアを開けたら、そこに立っていたのはズボンを泥だらけにして両手に笹を抱えた「彼」だった。

  *  *  *  *  *

雨上がりの空は、まだ重い雲で覆われていた。ことしも天の川は見られそうになかった。

開口一番、「彼」はご飯を用意してくれと言った。連絡を返さなかったことを悪びれる風もなく、ごく当たり前のように。
目にした瞬間笹の意味に気付いたわたしは、連絡をくれなかったことにも、「彼」の我が侭な態度にも、問い質せなかった。
自然と表情が綻んで、「彼」の着替えとタオルを用意して家に上がり、ひとり寂しく食べる筈だった晩ご飯の準備を始めた。

晩ご飯を食べながら、二人で小さい頃の七夕の話をした。わたしが思い出を話して、「彼」が茶化して、わたしが拗ねて。
だけど最後に天の川を見上げたのが何年前のことだったのかは、話し合っても思い出せなかった。出てくるのは、雨の思い出ばかり。
気がつくと、テーブルのお皿の上には何も残ってなかった。わたしは殆ど食べてなかった。だけど、とても満たされた感じがした。

後片付けを済ませてから、短冊がある二階のわたしの部屋に移った。机の上の、きょう書いた一枚の短冊が「彼」の手に取られた。
短冊の上の言葉が読み上げられた。わたしはそれを聞きながら一人で短冊に思いを篭めていた頃を、「彼」に追われ選ばれた夜を思い出した。
それからのわたし達に、二枚目の短冊を書く必要はなかった。寄り添って触れ合って、短冊の上の言葉を二人して確かめ合った。


その夜、わたしは優しい温もりに包まれながら、「タケルちゃん」と二人で、満面の星空の下で天の川を見上げる夢を見た。来年は、二人で天の川を見られるといいな…
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