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SS・featuring Sumika

'03年鑑純夏・聖誕祭SS「白い聖夜の空の下に響く、穏やかな二重唱。」Page.3

12月24日 (2ページ目・最後と)同刻 橘町・繁華街

横を通り過ぎたひとりの女の子のことなど気付きもせず、俺と遙さんは繁華街にあるこじんまりとした、しかし洒落た佇まいと品のある装飾でお客さん(その殆どが女性だった)が絶えない装 飾品店に入っていった。

12月24日 午後4時頃 すかいてんぷる
「あ、孝之くん。ほらほら、彼、来たよ〜」
「見れば分かるって、遙。…ほら、お前が急に子供っぽくなったから彼、呆れてるだろ」
ああ、この二人は本当に仲がいいんだな。俺にも今のやり取りで二人の関係が明確に分かった。
なるほど、彼=孝之さんが「すかいてんぷる」で働いていて午後4時に上がる予定だったから、それに合わせてここで彼女=遙さんと待ち合わせていた訳か。
「ええ〜、そんなんじゃないよ。もう、孝之くん、意地悪だよ〜」
「遙、そういうことは後だろ。…えっと、挨拶が遅れてたね。済まない。俺は鳴海孝之、まあ見てのとおりここの店員。それからこっちは、涼宮遙。まあ、俺との関係は…お察しの通り」
「改めまして、はじめまして。涼宮遙です」

二人のやり取りを見守っていたら突然自己紹介をされちゃって、俺は当惑した。
だが、自己紹介されたんだからまずは紹介を返すべきだろう。思った以上に俺はその場に順応していた。
「あ、えっと…初めまして、白銀、武です。今日は、どうも、すいませんでした」
「それはいいって…何も武くんが悪い訳じゃないからさ」
孝之さんはそう言って軽く手を降りながら、
「さて、これも何かの縁だ、武くんに頼みがある。俺は事情があってまだ二時間はここで残業しないといけない。流石にこのまま遙に待ってもらうのは、店が混雑してきてるから無理があるし遙自身退屈だと思う」
俺は、二人が妙に嬉しそうにしてるのに気付いた。もしかして…
「あのね、私、『あのお店』見に行こうと思うんだけど、武くん、一緒に来てくれるかな?」
「え、いや、その……いいんですか、俺が、一緒で?」
「そりゃ、自分の恋人が他の男と一緒に歩くってのは面白いもんじゃないけど。でも武くんさ、 『あのお店』、いつも女のお客さんばっかりだけど、その中で『あれ』、買い物できるかい?」
「うっ……」

言われてみれば、自信がない。大体、長年待たせた幼馴染みと付き合い始めることが出来たのだって去年からだ。
女の子だらけの場所になど出入りしたことがない。純夏に付き添う時でも俺は遠巻きに外から待ってるだけで、自分から中に入ろうなんてとても思わない。
クリスマスイブに装飾品店に男一人で入る…言われたとおり無謀だ。自分の計画の甘さをまた一つ思い知らされた。
「……無理、ですね」
「だろ? じゃあ悪いけど、少しの間遙の面倒見てくれるかな」
「もう、さっきから私のこと子ども扱いばっかり。孝之くん、ひどいよ〜」
どうやら、二人は事前にこうすることを打ち合わせていたらしい。それに、やはり自分一人で装 飾品店などに入るのは心細い。となれば、この提案を受けた方がお互いを立てることになる。
結局、俺は二人の申し出を受け入れ、遙さんと一緒に装飾品店へと向かった。
途中、銀行のATMに寄ることも忘れない。
何せバイト先に無理言って給料日を一日早くして貰ったのは今日のためだから。

「糞虫ぃ〜、いつまで彼女と駄弁っとるんじゃ!残る言うたんお前やろが!」
そういえば俺たちが店を出る時に、出迎えてくれたツインテールのウェイトレスがフロア内にも構わず大声で怒鳴っていたっけ…入り口で言ってたのって、まさか孝之さんのこと?

 
 
 
12月24日 宵が迫り空が混ざる夕方 橘町・繁華街

装飾品店に入った俺と遙さんは、ほどほどに混雑した店内のショーケースを眺めながらお互いのことを話していた。
ちょうど二人が『指輪』の陳列された場所で立ち止まった時。
「そういえば孝之さん、何で俺と携帯の番号交換したんですか? 遙さんなら連絡できるんでしょ? それなのに、何でわざわざ俺の携帯…」
「あ、あはは…それなんだけどね、私、携帯電話使えないの」
「へ?」
俺は流石に素っ頓狂な声をあげた。確かに女の子の方が機械の操作が苦手というイメージはあるが、携帯電話を使えないなんて聞いたことがない。目の前の遙さんはまあ、ほややんとした外見では あるが、それでも携帯くらい…
「あ、えっと、全然使えない訳じゃなくてね、かかってきた電話を取るのはできるの。でもね、その、登録した番号にかけるのとか、メールするのとか、そういうの説明書見ながらじゃないと分からなくなっちゃうの。だって、最近の携帯電話、操作が難しいんだもん…ねぇ、武くん?」
…いや、それは「携帯電話を使えない」というのと同じ意味だと思うんですが、遙さん?
心の中でそう思いつつも、そこまではっきり言うのはここに付き添ってくれた恩人に失礼。なのでそこは何とか、
「あはは…ま、まあ、無駄な機能は多いですよね」
適当に話を合わせた。

丁度会話の一区切りを見計らったところで店員さんが声をかけてくる。
「何かお探しの指輪、ありますか?」
どうやら俺たち二人をカップルと見なしたらしく、二人に向けて声をかけてきた。
「あの、えっと…」

実は事前に買うものは決めていた。「nocur」、フランス語の"nos coeur"から取ったというこ の日に相応しいもの。
純夏の方のサイズは、今日返して貰えた情報誌の付箋に書いてある。

 
 
 
12月24日 午後6時過ぎ 橘町 「すかいてんぷる」近郊

肌寒い冬空の下、幸せそうな照明や装飾が目立つ雑踏の中、純夏はひとり寂しく佇んでいた。

さっきの光景を見てから、どこをどうやって歩いてきたのか覚えてない。半ば放心状態で歩いてきた。気がつくと、武と二人でよく立ち寄ってる「すかいてんぷる」の近くにいた。
(そっか…橘町に来たら、よくここに寄り道してたもんね)
こんな時でも自分の足が武といる時のように動いてたことが、少し腹立たしかった。

不意に、携帯の着信音が鳴った。大学入ったらタケルちゃんと一緒にいられる時間が減るから、その代わりいつでも話せるようにしよう。そう思って買った携帯電話。その着信音が耳に重い。
片手で胸に抱いたプレゼントを持ち、空けた片手で小さなバッグから携帯を取り出し液晶を見る。案の定発信元は「タケルちゃん」…
「今更、何だよ……」電源を切って無視してやろうかと思った。でも、それも何だか癪だ。
わたしのこと放っぽって、一人だけ女の人と楽しそうに歩いて…文句の一つでも言い返さなきゃやってらんない。

自分はこうして、(強いて呼び方を今ここで付けるとすれば、正式交際開始から)一周年の記念のプレゼントを買いに来て、家にはクリスマスらしい夕飯をたくさん用意して、今こうして身に着けてるものだってこの日のためだけに買い揃えたものなのに。
何で自分は、嘘をつかれてこんな日に寂しい思いをして一人で町を歩かなければならないのか。

そう思って純夏は、不承不承通話ボタンを押して重苦しい声で応じた。
「もしもし…」
沈んだ彼女の周囲では厳かに、しかし街の装飾を盛り立てるかのように曲が流れていた。

♪Silent night, Holy night,
    All is calm, All is bright……♪


 
 
 
12月24日 午後6時過ぎ 橘町

繁華街から駅に向かって人通りの邪魔にならないよう、道の端に身を寄せて携帯電話で会話する俺。
「お前、もういいって、何だよそれ!……わかんねーよ、昨日の晩まで『楽しみにしてるね』っ て言ってた……」
『…じゃあ、さっきお店に一緒に入っていった女の人、誰?』
「っ!!……」
見られた? さっき『あのお店』に遙さんと二人で入っていくのを? どこで、何故?
俺の中で様々な疑問が同時に巻き起こり、電話中にも関わらず過剰な沈黙を招いてしまう。
「………」
『……言えないんだね。わたしにも、言えない相手なんだね』
「いや、違うって! 俺は、お前のため…」
ここで俺は一瞬躊躇した。本当のことを、どうせプレゼントを渡すなら渡す時まで何も知らせずに驚かせてやろうと思って必死こいて頑張ったことを、ここで、電話口でばらしていいのかどうか迷った。
『……もう、いいよ。わたし、別にいいよ。…そういえば、最近のタケルちゃん、何か わたしに隠しごとばっかりだったよね。あれって、あの人のことだったんだね』
「何でそうなるんだよ、だから違うって言ってるだろ…」
『違わないよ! だって、タケルちゃんが何か雑誌読んでたから、何見てるのかなって見に行ったら慌てて隠してたし、最近何かあったら「金ない」「時間ない」「バイト」 ばっかじゃない!
……わたしがお泊りしたいって言っても、最近うんって言ってくれなくなったよね。あれも、あの人のせい?』

段々話が泥沼になってるように思えた。何を話しても最初から純夏は「疑っている」。
何を言っても「嘘だ」「あの人(=遙さん)と何かある」の一点張り。電話口でこれじゃあ埒があかない。とりあえず会って話すしかない。
「本当の事を話す。だから、今いる場所を教えろ」
『…何よ偉そうに! もう知らないよ、あの人と好きにすればいいじゃない、馬鹿っ!』
…通話はそこで切られた。お互いの携帯にGPSなんて便利なものはない。俺は素早くリダイヤルの操作を行う、が。

<< …お客様がおかけになられた番号は、電波の届かない場所にあるか、電源が入って いないため、かかりません。…… >>

ついさっきまでノイズも殆ど無く通話できてた筈だ、それに橘町一帯でそんな電波が切れるような場所なんてそうそうない。となると…電源を切られた。会話の拒絶。

またあの日と同じ。ちょうど一年(と一日)前のあの日と同じく、純夏が飛び出していった。
俺は少しの間だったが、呆けて足が動かなかった。

 
 
 
12月24日 午後6時過ぎ・その2「すかいてんぷる」近郊

「何よ偉そうに! もう知らないよ、あの人と好きにすればいいじゃない、馬鹿っ!」

叫んで携帯の電源を切り、前も見ずに純夏は駆け出した。
ひとつひとつは小さな嘘、小さな間違い。でも、そんな小さな間違いだって積み重なれば、やはり気持ちは揺るぐ。
例えその気持ちが十数年着実に、毎日毎日育ててきたものであってもそれが罅割れて崩れるのは、意外に一瞬のことだったりする。残酷だが、それもまた事実。

目の前が濡れて揺らいでよく見えない。でも歩いていたくない。とにかく駆け出したい。逃げ出したい。
理由はよく分からないが、純夏の足は動き続けた。
「きゃっ」
不意に柔らかい衝突の感触と、可愛らしい声。その二つを知覚しても、純夏は止まらなかった。ただ一言、
「すみません、ごめんなさい!」
何とか搾り出すように叫んだ。そしてそのまま橘町の駅に向かって走っていった。

取り残されたのは、昨日のようにふわふわの白いコートに身を包んだ長い髪の女性=遙。
やはり昨日と同じように尻餅をついて路面にへたりこんでた。
「どうしたんだ、遙?」
店の入り口階段から降りてくる孝之が声をかける。
「え、あの……走ってた女の子とぶつかって、それでその子…あれ?」
遙のブーツのそばに『あのお店』のクリスマス用の包装を施された紙袋が落ちていた。
さっきの女の子がぶつかった拍子に落としたものだろうか。

「あれ、あの子、クリスマスプレゼント落として行っちゃった…どうしよう?」
「どうしよう…ったって、本人が拾いに来ないと誰のプレゼントかも分からないし、届けるつったってどこの誰に届ければいいかも分からないだろ? 俺たちはサンタクロースじゃないんだから」
「それは、そうだけど…」
届けることも出来ず、かと言って見過ごすことも出来ず。
二人はひとまず、落し物のクリスマスプレゼントを預かって届け出ることにした。その代わり遙は、落し物があった場所の近くに手持ちのものを使って書置きを残した。しかし、二人とも純夏のもう一つの落し物には気づかなかった。


12月24日 夜 橘町某所

あれから俺は、電話口から聞こえてきた町の雑踏を手がかりにして橘町周辺を駆け回り純夏の姿を探した。
走っても、歩いても、探しても、時には呼んでも、彼女の姿は見つからない。
しかしそうやって雑踏の中を探し回ってるうちに突然、俺の記憶で似たような場面が見つかった。

一年前のあの日のようで…あの日も半ば一方的に俺を怒鳴った末に上着も着ないで部屋を飛び出てった純夏を探し回ったことがあった。その時、彼女を見つけた場所は…
「って、もしかしてあいつ……」
そこで俺は純夏の行き先に思い当たった。あの場所。二人のうちからどちらか一人を選択した、あの場所。

俺は迷わず橘町の駅に向かって走った。

 
 
12月24日 夜 「すかいてんぷる」近郊

俺は駅に向かって走ってる途中、丁度「すかいてんぷる」の前で見覚えのある落し物に気づいて足を止めた。
道の端に落ちていたそれはキーホルダー。懐中時計を眺める白ウサギのキーホルダー。この間何気なく二人で町を歩いてて、たまたま入った小物屋で見つけて買ってやったもの。その先についているのは、紛れもなく俺の家の鍵。

「え、うそ!ホントに買ってくれるの?」
「……あのなぁ、キーホルダーくらいでそんな喜ぶなよ、子供じゃあるまいし」
「じゃあ、もっといいもの買ってくれる?…たとえば、指輪とか!」
「指輪ねぇ…まあ、もちっとバイトすりゃ買えるけど、今は無理だって」
「ってことは、買ってくれるんだよね♪」
「あいにく、クリスマスプレゼントの予約は受け付けてないからな。そういうのはサンタに頼め」
「サンタさんって…何だよ、タケルちゃんのケチ〜」

キーホルダーを拾い上げようとしながら、その時の会話を思い出した。
そういや、今日指輪を渡そうなんて思いついたのは、キーホルダーを買ったあの時の純夏の嬉しそうな顔がいつになく印象的だったからだった。それで、どうせなら内緒で買って驚かせてやろうとこっそり計画を進めてみたけど…それが裏目に出てしまった。

「はぁ…俺って隠し事下手なのかなぁ……」
力なく言葉を漏らしながら鍵とキーホルダーを手に取る。その時俺は、たまたまキーホルダーの横に落ちてた円形の紙に気がついた。紙の中央には「24日 午後4時」と見覚えのある字。
キーホルダーと一緒に拾い上げて見る。これは遙さんの紙袋に入っていたコースター…そこで偶然耳に入った歌。さっき喧嘩になった電話口の向こうから聞こえた歌。
♪Silent night, Holy night,
    Darkness flies, and is light……♪


それを聞いて俺は、ふと我に返り自分の目的の場所を思い出した。
今は思い出や一時の感傷に浸っている場合じゃない。自分の悪い癖だ。このキーホルダーと、今日買った指輪を持って、純夏のところに行かなければいけない。

俺は気を取り直し、キーホルダーと紙コースターを上着のポケットに押し込んだ。それから寒々とした曇りがちの空の下を、俺は一目散に橘町の駅に駆け出した。
「全くこれじゃ、俺がアリスの白ウサギだよ…遅刻したら洒落にならねぇって、それ」


#次のページに続く。
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