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SS・featuring Sumika

'03年鑑純夏・聖誕祭SS「白い聖夜の空の下に響く、穏やかな二重唱。」Page.2

12月24日 午後3時55分 すかいてんぷる

「ふう、何とか間に合っただろ…」
俺は「すかいてんぷる」の入り口の前に立って、漸くさっきまでの小走りを止めた。
今朝からとある店で(正確には大学の連れの時間限定の代理で)バイトしてたのだが、肝心の連れがなかなか出勤しなかったのでかなり焦った。
「2時には行くから」なんて前日連絡よこ したくせに、実際到着したのは3時を過ぎた頃…しかも理由が「今日デートする予定の女に振られて前日自棄酒してたから」ときた。理由を聞くまでは例の時間=4時までに間に合うか気が気じゃなくて苛立っていたが、二日酔いの連れから理由を聞いて流石に同情した。尤も、そこの店長はマジ切れしてたのでその連れも無事では済まないだろうけど。

それはさておき。俺は店の入り口ドアの前で立ち止まって少しの間息を整え、落ち着いたところで店の自動ドアをくぐって入店した。もちろん、絵本の入った紙袋は携帯してる。
「いらっしゃいませ、お煙草はお吸いになりますか?」
ツインテールで鋭い釣り目の小柄なウェイトレスが俺を出迎える。彼女の姿はわりとはよく見る。時々ものすごい剣幕でお客・店員構わず怒鳴り散らす姿も、大抵の場合同じ日に目撃する。
「いえ…人を探してるんですけど」
「お名前をお伝え頂ければ、お呼び出しいたしますが?」
少し眉間がひきつってるように見えるんだが、もしかしてこの人怒ってるのだろうか。
もし彼女がキレたら…考えると怖いものがある。

「いえ、あの…」
時間にしてひと呼吸、必死に昨晩ぶつかった女性のイメージを頭に思い浮かべる。その間店内を見回すがそれらしい女性は見つからない。まあ、後姿だと分からないだろうし、もしかするとまだ到着してないかも知れない。俺はとっさに思いつき、
「すいません、自分で探します」
「かしこまりました。それでは、また後ほどご注文をお伺いいたします」
ウェイトレスは慣れた口調と動作で俺を通し、自分は慌しく店内へ駆け込み次の接客へ向かう。
「ったく、あの糞虫、このクソ忙しいのに女とデートで定時退勤とかヌカさんやろな…」
今、ウェイトレスの小声の悪態が聞こえたような気がしたが、俺は聞かなかったことにした。

 
 
 
12月24日 午後3時56分 すかいてんぷる

遙は約束の時間の一時間ほど前から「すかいてんぷる」に入店し、特にクリスマスも何も関係ないケーキセットを注文して店内で待機していた。
それも少し前に平らげて丁度鞄に入れた文庫本でも取り出そうとしたところで、昨日の黄昏時にぶつかった男性=武の姿を店内入り口付近に見つけた。

今日、こうして明るい場所で見てみれば、自分より幾つか年下の男の子だった。背は割と高いようだが、顔つきや仕草が孝之に比べたら少し若い。…若い、は極端な言い方かも。
で、肝心の彼は入り口付近できょろきょろしてたようだが、遙に気付いた様子はまだ無い。直接目線が合った訳ではないから、今ここで気付かなくても仕方は無い。ただ、このままだと遙が店内にいることに気付かないまま店を出るかも知れない。そう思い、丁度彼が入り口からフ ロアの中に向かって歩き始めたところで手を振って呼んでみた。
「あのー…」


12月24日 同時刻 すかいてんぷる

俺が店内フロアに歩き進んでこれから件の女性を探そうとしたところで、運良く女性の方から 自分に手を振ってくれたのを見つけた。
正直な話、こうして女性を見つけるまでは「もしこの女性がコースターのメモの時間に店内にいなかったらどうする?」という素朴な疑問を抱かなかった。だがその疑問に気付いたと同時、俺は信じてもいない神に、彼女に引き合わせてくれたことを調子よく感謝した。

ふと気付くと女性の方から、半ば必死に俺に向かって話し掛けてきていた。
「あの…えっと、昨日柊町の駅前で、これ、落としたんだよね?」
いかんいかん、お目当ての女性を見つけてそこで感激してる場合じゃない。肝心なのは見つけてからだ。
俺は気を取り直し、自分が持ってた紙袋を女性に向かって差し出した。
「すいません…俺があそこで、間違えて渡したりしなけりゃ、こんなことにならなかったのに」
「あ、ううん!…私の方は別に困らないけど、あなたのこれ…大切なものですよね?」
お互いの紙袋をそこでちゃんと間違えず交換する。よかった、これでプレゼントが買える。

柔らかい顔立ちが物語る通りの優しい人だ。俺の間違いを怒るよりも、俺がなくしたもののことを心配してくれてる。
少し感激した。いや、そんな感傷を抱いてる場合じゃないんだが。これを受け取って銀行行って、軍資金を用意して買い物に行かないといけない。
しかし目の前の親切な女性に本を渡すだけ渡して、「はい、さよなら」というのも正直気が引けた。

ここで一人店を出なかったのが後々の問題の種だったとは、この時俺が気付く由も無かった。

「あ、はい……今日、買い物しようと色々下見してたんですけど…って、やっぱり、中、見ました?」
「うん…彼女さんに、『あれ』を、プレゼントするんだよね?」
女性が付箋を貼った雑誌のページを見れば、それくらいバレバレだろう。そう思いつつも俺は少し恥ずかしかった。どうせ年上の女性と出会うなら、もう少し格好つけたいい出会い方をしたいものだ。
「…とりあえず、相席、どうかな?」
女性に空いた席を手の平で促されてから、俺は上着から携帯を取り出し背面の液晶を覗く。も うすぐ午後4時。確か彼女は午後4時にここで待ち合わせをしていた筈では…?

そう疑問に思い、素直に聞いてみた。
「でも、待ち合わせ…いいんですか?」
「うん、彼の方が予定遅れちゃって…あ、コースターのメモ、見たんだよね?」
「……はい、すみません。貴方のものだって気付かなかったから、つい」
「ううん、私、怒ってないから気にしないで。…それより、座って?」
どうやら女性は本当に怒ってないらしい。安心してか、さっきまで走ってきて疲れてか、俺は促されるままに彼女の正面向かいの席に腰掛けた。

ぶつかった時やさっきの会話の時には何も感じなかったが、こうして真正面に相席すると少しどきっとするものがある。何と言うか、目の前の女性がすごく大人びて、でも少し子供っぽくて可愛い顔をしてる。そのギャップに思わず見入っていた。すると、そこでウェイターの声が後ろから、
「……おほん。ご注文は、お決まりですか?」
「あ、孝之くん。ほらほら、彼、来たよ〜」
…目の前の女性は本当に子供っぽい人だったようだ。いやそれより、このウェイターが、女性の彼氏ということか。
彼女が「すかいてんぷる」で待ち合わせしてた理由も、メモに使ったコースターが「すかいてんぷる」のものだった理由も、午後4時になっても『彼の方が予定遅れちゃっ』 た理由も、全部ここで納得がいった。

なるほど、そういうことか。今更ながら俺は合点した。

 
 
 
12月24日 宵が迫り空が混ざる夕方 橘町・繁華街

「そういえば遙さんの苗字って、『涼宮』ですよね…妹…じゃなくて、妹さん、います?」

人と、クリスマスソングと、明るい装飾で彩られた繁華街を歩きながら俺は先程から疑問に思ってたことを隣の遙さんに尋ねた。
「うん、よく分かったね?…もしかして武くん、茜のお友達?」
遙さんは目をくりくりさせて不思議そうな顔を見せた。涼宮、という苗字がそもそも珍しいのだが本人にそんな自覚はなさそう。まあ、俺の白銀ってのも多い苗字じゃないだろうが。
「え、いや、まあ、涼宮……茜さんとはその、同じ学年で。つっても、向こうが有名人だったから誰でも知ってたっていうか、そんな感じで…」
「そっか、茜、有名人だったんだ…なんか、茜らしいね」
遙さんはまるで自分の評判を聞いたみたいに嬉しそうに笑った。
妹と見た目正反対だけど、仲がいいんだな。俺にもそのくらいは遙さんの表情から感じ取れた。

彼女の嬉しそうな様子を、仕草を見てると、俺の頬まで自然と緩んできた。

 
 
 
12月24日 宵が迫り空が混ざる夕方 橘町・繁華街

「はぁ……もう、何だよ、タケルちゃんってばさ。今日が何の日か、ぜったい忘れてるよ…」
楽しそうな恋人達が歩く町中を、純夏はひとり歩いていた。寂しげに手に抱いたお洒落な紙の包みは、今日武に渡すつもりのプレゼント。日頃のやり取りから武が欲しがってるものは容易に想像がついたが、今年はちょっと背伸びしてプレゼントを選んでみた。

「わたし、今日、すっごい色々準備してたのに…ひどいよ」
呟きながら、町の景色と歩いてる人々の中で純夏は自分の寂しさを痛感した。本当だったら今日、周囲の男女と同じようにこうして町を歩きながら、一年前の出来事に思いを馳せ「彼女」に心で感謝しながら、今出てきたばかりのお店でプレゼントを選ぶはずだった。それなのに…

その時、純夏は彼女の横を通り過ぎた男女の姿に目を疑った。
女性の方は見覚えがない。でも、その隣を歩いていたのは、間違いなく…
「タケルちゃん? …どうして? だって、今日、夜までバイトだって……」
そう呟きながらも、胸の中にあった小さな不満が、今見た光景と疑念に彩られて大きく膨らんでゆく。

『ねえ、タケルちゃん、今日お泊りしてっていいかな?』
『えっと……いや、明日朝早いから。悪ぃ、また今度、な?じゃ、俺は寝るから』
『…もぉ、しょうがないなぁ…次の休みは、ちゃんと予定空けといてね』

『タケルちゃーん、ご飯できたよっ…ねえ、何読んでるの?』
『っ!…な、何だよ……部屋に入るときはノックしろって、何度も言ったろ?』
『いーじゃん、どーせわたししかこの家に入らないんだから。ねね、見せてよ!』
『駄目だ。お前には見せられねーよ…ほらほら、飯なんだろ、早く食おうぜ』

彼女につかれた小さな嘘が幾重にもすれ違い積み重なり、純夏の中で信じたくない回答を導き出そうとする。
否定したい、でも今見たものは否定できない。見間違いじゃない。間違える訳がない。自分が、自分だけがずっと見てきた「タケルちゃん」を、間違えたりする訳がない。
でも、現実には今、その 「タケルちゃん」が自分の知らない女の人と楽しそうに話しながら歩いてた。

自分が先に約束したのに、それを断って別の女の人と一緒にいた。
肌寒い冬空の下、幸せそうな照明や装飾が目立つ雑踏の中、純夏はひとり寂しく佇んでいた。


#次のページに続く。
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