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SS・featuring Sumika

'03年鑑純夏・聖誕祭SS「白い聖夜の空の下に響く、穏やかな二重唱。」Page.1

12月23日 黄昏時 柊町駅前周辺

俺、白銀武はクリスマス(&年末)を前にして人のごった返す橘町から柊町まで戻ってきた。
一応夕飯前までに戻らないと毎日のように夕飯をこさえに来る、半押しかけ女房状態の純夏 が非常に煩いからだ。
普段なら何とでも言い訳して許してもらうんだが、肝心の明日=世間ではクリスマスイブ、俺たちにとっちゃ交際(正確には俺があいつを選んで)一周年の記念日も兼ねてる。その明日は、あいつを驚かせてやるためプレゼントの仕込みと店の手配がある。肝心の明日の昼間、連れ立って一緒にいてやれない。
となると、今日は何が何でもあいつの夕飯を一緒に食ってやらないといけない。夕飯一回を 無駄にしただけでああも落ち込まれた顔をされると、やはり付き合ってる身…つーか、世間でいうところの彼氏として、責任を感じる。一回連絡なしで連れの家に外泊した時なんて、あいつ俺ん家の台所で作り置きの晩飯と書置き前にして、待ちくたびれて寝こけてたことあったしなぁ…自分の家は隣なんだから、帰って寝てもいいのに。
全く、お袋の「浮気したら絶対刺し殺されるよ、あんた」発言が冗談に聞こえないくらいだ。

「きゃっ」
不意に柔らかい衝突の感触と可愛らしい声。その二つを知覚してやっと俺は我に返った。
声のした方を見返すと、ふわふわの白いコートに身を包んだ長い髪の女性が尻餅をついて路面にへたりこんでた。
長い髪に混じるように結われた三つ編みが、彼女の少し幼い顔立ちには案外似合ってたように思う。
「……っと! あ、すいません、俺…」
慌てて俺は女性に手を貸す。そして空いた片手でぶつかった時に落とした本屋の紙袋を取り、 ゆっくりと女性の手を引き上げた。 ふかふかした手袋と儚げな顔立ちが結構可愛らしい人。
あ、いや、別に一目惚れとかそういうんじゃないからな。…俺には、あいつが待ってるし。
「えっと、すいません。俺、ぼーっとしてて…大丈夫ですか?」
「……あ、は、はい…」
少し落ち着きのない上目遣いで俺を見る。顔立ちからして年上の女性に見えるんだけど、実は俺より年下なのかな… って、あんまじろじろ見たら失礼だな。

っと、足元に紙袋が落ちてる。 この女性が落としたのかな? そう思うと同時に紙袋を拾い上げ女性に差し出す。
「あの、これ…落としました?」
「あ、はい……ありがとう、ございます」
自分のものの筈なのに、彼女は少し遠慮がちに手を伸ばして俺の手から紙袋を受け取った。
どうやらこの人は人見知りするタイプらしい。声色や物腰はかなり上品だし顔立ちもまあそこそこ可愛いと思うんだが、どことなくおどおどした感じがしてちょっと勿体無い。これでもうちょっとはきはき喋ってくれれば、もっと可愛くなると思うんだが。
でも、こういう守ってあげたい系の女の子ってのも俺としては新鮮で可愛いかも。
「……? あの、私に、何か…」
女性は少し訝しげに声をかけてきた。ちょっと視線を合わせすぎたかな。いかんいかん、只でさえ俺がぼっとしてぶつかったんだ、これ以上心象の悪い態度を取っちゃまずいだろ。
「あ、いや、すいません。怪我、してないですよね?」
「はい…大丈夫、です」
見たところ足を擦り剥いたところもないようだ。安心した。 流石にこのまま寒空の下突っ立ってるのも寒い。俺が寒いとか何とかより、目の前の女性を立たせておくのが良くないと思った。放っとくとこのまま睨めっこ状態で、この人がくしゃみとかしそうな雰囲気だ。
「じゃあ、俺、こっちなんで…ほんと、すいませんでした。失礼します」
俺は自分の家の方向に向かって駆け出した。…時間的にも歩いてのんびりって訳にはいかなそうな時間帯だし。
「えっと……気をつけて」
女性が遠慮がちに俺に手を振って見送ってくれた。でも俺はそんな可愛らしい見送りをずっ と見ている訳にもいかず退屈な帰路についた。

 
 
 
12月23日 薄闇 柊町住宅街の一角

寒空の下微かに白い息を吐きながら小走りに家へ向かう。外はすっかり暗くなってきた。流石に冬至過ぎたばっかのこの頃じゃ、日が落ちるのも早い。
俺の家まであと数分ってところで、携帯電話が軽やかな着信音を鳴らす。っと…ポケットに手を入れてボタン一押しで携帯を開き、液晶表示を確認。って、俺の家から? まさか…
「…何だよ純夏、もう三、四分もしたら家に着くぜ」
『おじさんかおばさんかも知れないでしょ。てゆーか、たまにはもっと変わったリアクショ ンしてよ』
案の定、俺の家から電話してきたのは純夏だ。親父やお袋が俺の携帯番号を聞いてきたことなんてない。
子育ての放任主義にしたって程があるとは思うが、俺から番号を言ったところでどーせ覚えもしないだろう。ここ一年通じてロクに顔も合わせてない(つーか、冥夜の差し金で世界一周してから味を占めたのか、国外を飛び回る仕事に転職し夫婦して海外転勤に落ち着いちまった)両親だ、わざわざクリスマスや正月だからって戻ることもあるまい。

「あー、もう、要件があるなら先に言え。喋ってるうちに家に着いちまう」
『あ、えっとね〜、おネギとお豆腐買ってきてよ。今日はお鍋するから、焼き豆腐だよ』
「今日買い物に行ったんだろ?…何でそこで買わなかったんだ?」
と言うか、俺の現在位置からスーパーに戻るより家に帰る距離の方が断然短い。内心は一旦家に戻って荷物を置いてから買いに行ってもいいかと思うくらいだ。
『……うん、でも、帰ってから冷蔵庫の中見て、今日寒かったし、材料あるからお鍋の方がいいかなーって思って…タケルちゃんの好きな具もちゃんと揃えてるよ、ちゃんと?…それ ともあれかなぁ、他に食べたいものあった?…材料からいうとねぇ…』
なんて話しながら歩いてくうちに家の玄関が見えてきた。そこで提案、
「つーか、俺もう着いちまうからさ、一緒に買いに行こうぜ。…まだ料理してないんだろ?」
『えっ…うん!』
あいつの嬉しそうな声を残して通話は切れた。

それから少し歩いて玄関の前に着くと、丁度狙い済ましたかのようにエプロン姿にサンダル履きの純夏が玄関から飛び出してきた。
「おかえり、タケルちゃんっ!」
相変わらず俺が後から帰ってきたら、それはもう獲物を追いかける猛獣さえ逃げ出すようなすさまじい勢い(いや、確かにこいつは女の子だが、だったらもう少しこう、おしとやかに抱きついてきて欲しい…)で飛びつき抱きついてくる。
「…っと、お前なぁ、危ないから全力で抱きついてくるな」
口ではこう文句を言ってる俺だが、俺の胸の中にきれいに収まってる純夏の感触が温かくて心地よい。その感触がもっと欲しくて、背中に手を回して軽く引き寄せる(普段からこんなべったりな訳じゃないからな、誤解するなよ)。
もちろん、手にした紙袋が見つからないよ うこっそり隠して(純夏の)背中の方に回す。
「あ……」
「温かいな…こうすると」
「ん…そうだね、温かい」
もう付き合いだして一年になるっつーのに、お互いこうして触れ合ってると胸の鼓動が不規則に響きあう。

だけど、そんな感触が、そんな響きが冬の夜には無性に心地よい。

 
 
 
12月23日 夜 俺の自室

「はぁ……何だこりゃ…」
散々純夏に問い質されても何とか誤魔化してきた本屋の紙袋。今日頑張って(数少ない女友達の伝手まで動員して)探した、良さげなプレゼントの内容と売ってる店を確認しようと中を開いた。
が、紙袋の中身は俺の全く知らない本ばかりに化けていた。

「おつきさまこんばんは」「空飛び猫」「サンタ・クロースからの手紙」「おとなしいきょうりゅうと うるさいちょう」…
共通してるのは絵本、もしくは児童文学というジャンル。 さて、どこで中身が絵本に化けたのか…俺はある場面が頭に浮かんだ。

  『あの、これ…落としました?』
  『あ、はい……ありがとう、ございます』

どうやら駅前で女性とぶつかった時、女性の持ってた紙袋と取り違えて自分の紙袋を彼女に手渡してしまったらしい。
…気付いて俺は頭を抱えた。そして思わず、 (あの時か!)
声を上げそうになったが、そこは何とか自制した。
声を出そうものなら窓の向かいの部屋の主、純夏に起きてることがバレてしまう。一応純夏には「明日は朝から夜まで大学の友人のバイトの手伝い、終わったら連絡する」ということにして、何とか必死に頼み込んで明日昼間空けさせて貰った(夜まで、と言ってあるのは「早く終わった」と言って驚かせるためだ)。
もちろん、俺だって本当は純夏も一 緒に買い物に連れて行ってやりたかった。去年のクリスマスのデートだってあんな安上がりなデートで喜んでくれたくらいだ、今年のアレを見た純夏は泣いて喜ぶだろう。

けど、明日のプレゼントが最初に思いついた時、男なりの見栄がちょっと働いた。
どうせプレゼントを渡すなら渡す時まで何も知らせず、心底驚かせて喜ばせてやりたかった。そこで今日、わざわざ伝手を使って「女の子じゃないと分からないこと」も調べて貰ったところなのに…計画前夜に早くも頓挫か。今更ながら、純夏についた嘘が心に重い。
「まずいよなぁ…付箋に書いて張った時安心して、サイズなんて忘れちまったしなぁ…」
自分の計画が崩れ落ちる音を心で聞きながら、重苦しい気分で俺は絵本をまた紙袋の中に戻そうとした。
しかしそこで、俺は絵本の下から滑り落ちた円形の紙を見つけた。見たことのある白い紙。
拾って明るい場所に出してみた。そこには「24日 午後4時」と綺麗な女性の字で書かれており、更にはローズピンクの少し上品な可愛らしい印刷が…
「すかいてんぷる?」
俺はその円形紙、コースターに見覚えがあった。ご丁寧に店名まで印刷されてる。

すかいてんぷる。この近くだと橘町にあるちょっと洒落たファミレス。女の子の制服がなかなかイケてて、料理も悪くないと評判のファミレス。橘町まで出かけた時には大抵そこに(一人でも、デートの途中でも)寄ってるくらい俺にとっては馴染みの店だ。
その時、俺の頭が閃いた。
「すかいてんぷる」「24日 午後4時」…そこでこの絵本の持ち主は待ち合わせしている。
そうあってほしい、いやそうに違いない。そこに行けば、あの女性に会える。
そこまで思いついて、俺は何とか落ち着いた。とにかく明日此処にかかれた時間より早く 「すかいてんぷる」で待っていればどうにかなるだろう。そう腹を括って今日はさっさと寝ることにした。明日は一応昼まで「本当に」バイトの手伝いをしなきゃならない。それからあちこち走り回ることになるんだから、体力は温存すべきだ。

決断してから俺が眠りにつくまで、さほど時間はかからなかった。

 
 
 
12月23日 夜 ある女性の自室

ここはとある女性、武が本を取り違えた女性の部屋。
品のいい調度品とたくさんの絵本が仕舞われた本棚に囲まれ、楽な部屋着に着替えた女性が自分の書き物机に向かって紙袋を開いた。
「あれ? これって…」

紙袋を開けて中身を取り出してから、漸く女性は帰り道での違和感の正体に気付いた。紙袋が心なしか軽い気がしていたのだが、どうやら本当に中身が入れ替わってたらしい。
しかもその中身は彼女が買い揃えた絵本ではなく、いかにもクリスマス、女性に贈り物をする男性が読みそうな情報誌の特集号だった。
あの男性はよほど相手の女の子に真剣なのか、同様の雑誌を何種類も買っていた。中には買おうとしてるもののカタログやメモ書きなども混じっていた。いかにも男性らしい走り書きのメモもあれば、可愛い字のメモもある。

女性は情報誌のうち、付箋紙が張ってあるもののページを開いた。付箋紙に書かれた走り書き、開かれたページ。
女性には男性の買おうとしたものがそこではっきり分かった。 女性は情報誌のそのページを開きながら自分の事より相手のことを心配して、
「どうしよう…あの人、きっと今ごろ困ってるよ…これがないと、彼女にプレゼント、買え ないんじゃないかな? だって、こんなに頑張って、今日プレゼント探してたんだよね?」
柔らかい声で呟く。ほややんとした外見とは裏腹に、なかなか洞察力はある模様。

実際彼女がそう考えていた頃、男性=武は自分の部屋で頭を抱え「まずいよなぁ…」と真剣に苦しんでたのだから。
しかし、自分の本のことより目の前の本の持ち主の心配ができるというのは、優しい性格だからなのか、ちょっと抜けたところがあるせいなのか。どちらにしても、彼女らしいのかも知れないが。
「あ、えっと、明日の時間…メモしたコースター、絵本と一緒だ。どうしよう… 確か私がメモした時間は、明日の4時だよね。でも孝之くん、明日バイト上がるの6時になるかもって言ってたよね…うん、電話して、確認しよっと」
漸く女性=涼宮遙は、紙袋が入れ替わって自分が困る理由を見つけた。

女性=涼宮遙は、妹が家を開けてからフリーになった電話の子機を取り出し、苦労してメモリに登録した孝之の番号を呼び出して「発信」ボタンを押した。
呼び出し音は程なく途切れ、孝之の少し眠そうな応答が聞こえてきた。
「あ、もしもし孝之くん? あのね、明日の時間なんだけど…」


#次のページに続く。
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