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「俺が望むマブラヴ」〜私が渇望し、希求したマブラヴのかたち〜

最終章

純夏が力一杯操縦桿を前方に繰り出す。丁度その動きは、宙に浮かんだティアマットの頭部と胴体の中枢・コクピットとその背面に対し、<武御雷>が繰り出すパンチの動作と重なっていた。
逃げることも落下することも許されず、ティアマットの残骸は<武御雷>の両の拳によって胸部を打ち抜かれた格好となる。そしてコクピットの二人が…

「いっけぇぇぇぇ!!」
「おおらぁぁ!!」

怒号のような掛け声と共に操縦桿のボタンを同時に押す。すると<武御雷>の両肘の部分からピストンのシャフトが飛び出し、勢い良く外に向けて迫り出し、続いて激しく拳の側へとピストンのシャフトが打ち込まれる。光輝に満ちた戦術機の両拳が炸裂、敵の心臓部を拳の炎熱で破砕・爆殺…

《余のティアマットが…… 新たなる星への道が……
  お前が真の『祈りの子』なのか……
    (中間部分、酷いノイズの為聞き取れる状態にあらず。しかし何か言葉を発していた模様)
      あの時果たせなかった贖罪を、今ここで果たすというのか!? 》

コクピットの内部で無残な刺殺体となっていた神無木頼子の体も、彼女を包む血染めの純白ドレスも、ティアマットを焼き尽くさんと燃え盛る地獄の業火に焼かれて不浄の地から旅立っていった。彼女が最後に浮かべた表情は、果たしてどのようなものだったろうか。機械とケーブルに陵辱され尽くし、燃え盛っている今となっては誰にも知るよしはなかった。


ほぼ同時。慧の<迦具土>も、半身を水龍に呑み込まれた状態のまま右の手に光と炎の気を溜め込んで半握り状態 のまま敵の体内に向けていた。慧が同乗の二人に小声で何かを促す。

「わ、私のこの手が…真っ赤に、燃える……」
すごく恥かしそうに何とか棒読みにならない程度の千鶴。
「勝利を掴めと、轟き、叫ぶぅぅっ!!」
楽しそうに、ノリノリで叫ぶ壬姫。
壬姫が叫んだところで掌が軽く突き出され、指から手からより一層の強い輝きが放たれる。そして最後の締めは、相変わらずぼそぼそと気のない声で決め台詞を棒読みする慧。
「流派・東方不敗、最終奥義…石破、天驚拳……」
胸の中央部で光り輝く炎熱を両手で抱え込み、腰溜めの姿勢から前方へと力強く解き放つ。交差した剣とハートの紋様を描く炎熱が水龍の体内奥深くに撃ち込まれ、<迦具土>の右手の一握りで爆砕、炸裂。水龍の内部から炎と炸裂が巻き起こり、滅びの歌を奏で輝く。
水龍・ヴリトラの内部。炎上を始めたコクピットに座る水代葵は、長らく会っていない弟・紫苑の面影を思い描きながら絶望に満ちた生涯の終幕を希求した。自分が淡い思いを抱いた佐伯という男の小さな行動の過ち、躊躇、そうしたものの集積が生んだ彼女の絶望の日々に、漸く終わりが訪れる…しかしそれは、救済と呼ぶには余りに悲しい終幕。
次の瞬間、<迦具土>を飲み込んでいた巨大な水龍は木っ端微塵に破砕して消失した。残され砂浜に脚を下ろしているのは、無傷の<迦具土>。残された彼女等には、葵の過ごした苛烈な日々のことなど思い至るよしもなかった。

   *   *   *   *   *

「終わった…よな?」
<武御雷>のコクピットで純夏の背中を抱きながら俺は優しく声をかける。もうこいつを泣かせたり、苦しめたりするような問題はない筈だ。そこにまりもちゃんの声で通信が入った。
『神宮司より本部へ……任務完了』
「うん、もう、終わりだね…タケルちゃん、ほんとにわたしでよかったの?…」
「よくなかったら、こんな場所までわざわざ来るかよ……ほら、こっち向け」
「え?」
そのままの体勢で純夏が顔だけを俺の方に向ける。あーあー、もう酷い顔だな。折角助け出したお姫様がこれじゃ、俺が何かやらかしたって誤解されっぱなしになるしな。
純夏の体に巻かれた布の端で、泣き腫らしてぐちゃぐちゃになったままの顔を拭いてやる。少しは可愛くなったろ。
ったく、バカみたいにビービー泣きやがって…人の話聞かずに勝手に泣くなっつーの。
「ったく、お前は昔っから、泣き虫なんだからよ。ほれ」
「あ…ありがと。…あのね、タケルちゃん…」
「ん?」
不意に唇が近づいてきた。軽く触れるだけの、柔らかい感触。俺はそれがもっと欲しくて、そっと顎に手を伸ばし引き戻す。時間とか場所とか意味とか関係ない。ただ、唇の柔らかい感触だけを暫くの間お互いに求め合った。ただ、触れ合って、求め合って、お互いを実感していた。それ以外の何も、今の俺たちには必要じゃなかった。


それからどちらからともなく離れ、笑い合う。
「俺たち、すっげえ遠回りしてたんだな。…悪ぃ、ずっと待たせちまって」
「そうだね…わたし、ずっと待たされたんだから、タケルちゃん、責任取ってよ?」
何つーか、恋人同士のそれらしい会話みたくなってきたな。少しばかり気恥ずかしいが、すごく心地よいもんだ。俺が純夏相手にこんな気持ちになるなんて、ついこの間まではこれっぽっちも想像出来なかったけどな。
「…って、ちょっと待て」
俺は、いい雰囲気に浸りかけていたところだが、今純夏が手にしているものに気付いた。
「お前、それ、<武御雷>の操縦桿じゃねえかよ!」
「え? うそっ!?」
見直してみると、純夏が使っていた操縦桿のところだけが二本とも根元から折れちまってた。しかも捻じ切ったとか叩き壊したとかそういうレベルじゃなくて、斬鉄剣か何かで綺麗に切り落としたかのような切り口だけが残ってた。
「何をどうやったら、操縦桿がこんな綺麗に折れるんだよ?」
「わたし、知らないもん! …そんなつもりなかったんだってば!」
純夏は握ってた操縦桿の棒をあっさりと足許に投げ捨てる。っておいおい、いいのかそれで。

「はぁ……お前みたいな怪力が彼女だなんて、間違っても親には紹介できないな」
「親に紹介、ってタケルちゃんとこと、うちはお隣同士でしょーが! 今更紹介……って、今、彼女って言った? わたしのこと、彼女だって言ったんだよね!? ね、ね、もう一回言って!」
ほんと、こいつは怒ったり笑ったり喜んだり、感情の起伏が激しいやつだな。ま、付き合ってく分には分かりやすく て気楽でいいか。
「お前みたいな怪力が彼女」
「あーん、その最初のとこ、余計だよぉ〜! 普通に『彼女』って言ってよ!」
「言えるかよ、そんなこと!…恥かしいだろうが」
「なによー、さっき迎えに来てくれた時には、もっと恥かしいこと大声で言ってたよ?」
そこから、純夏はわざと俺の(似てない)声真似をして『調律』世界での恥かしい台詞を繰り返した。
「『俺が好きだって言ってるのはな、目の前にいる、お節介で、生意気で、大した取り得も無くて、胸も大きく なくて、バカで…』」
「おい、それ以上言うなこのバカ!」
「ふーんだ、わたし、どうせバカだよ。でも、そのバカが好きだって言ったの、タケルちゃんじゃない!」
「言ったな、てめー!」
「言ったよ、わたしだって、タケルちゃんのこと大好きだもん!」


このとき二人は、自分達の会話が戦争終結の記録としてリアルタイム通信で流されているという事実に気付いてなかった。 こんな平和で、恥かしくて、開放的で、格好悪い、そんな通信が数え切れない人々に笑顔をもたらしたという事実にも、今の二人には気づく由もなかった…


「ほんとタケルは、お馬鹿さんだね……」
「でも、喧嘩するほど仲がいいって、言うからね〜♪ 純夏ちゃん、幸せそうだね〜」
「珠瀬さん、それ、ちょっと違うんじゃないかしら…」

「(猛……いや、もう一人のタケル……そなたの与えてくれた命、決して無駄にはせぬ)」
「…冥夜様は、立派に戦われました。今は、せめて今だけは、この月詠の膝枕でゆっくりお休み下さいませ」
「なら、帰りは安全運転だな。任せろ、俺の送迎最速理論にかかれば、冥夜様の安眠も妨げん」

「孝之くん、茜、お父さん、お母さん、平くん、それから……みんな、無事だよね?」
「あーあ……この髪型、ほんとは嫌いなんだけどなぁ…ま、いっか。孝之、驚くだろうし」

「あー、もう、何よ! 艦長自ら<吹雪>に乗って戦ってるっていうのに、イチャイチャしちゃって〜!」
「艦長、ボクたちもずっと地道に戦ってますよー」
「…副指令、また男に振られたんだ。だからお酒はやめとけって言ったのに」

「やれやれ…世界を救うのがあんなバカップルだって予見できたんだから、あたしも大したものよね」
「いや、香月司令の力というよりは、シオンの導き出した因果律だと思うんだが…そういえば、たまは無事なのか? たまー! たまー! パパは無事だぞー!」

「あたしは、アホ毛だけで戦闘してたわけじゃありませんからね!」
「俺たちの町は無事だよ、ありがとう…遙。……それから、水月」

「社…霞?……私は、すみかじゃなくて、いいの?」


God's in his heaven,all's right with the world...... Log out.


   *   *   *   *   *



<エピローグ>

「ほぉ〜ら、タケルちゃん、早く坂を上らないと、遅刻しちゃうよ!」
制服姿で学園前の坂を登る俺たち二人。戦争のおかげで校舎の補修工事なんてやってる真っ最中だっていうのに、 何で平常通り学校に通学しなきゃならねーんだよ。おまけに俺んちの両親も、純夏んちのおじさんおばさんも、戦後処理のためとかで世界中を飛び回って数年間は帰ってこないって言う。そのおかげで俺と純夏は事実上一緒に暮らしてる。
うちの親も、純夏んとこのおじさんもおばさんも、妙に嬉しそうに含み笑いしながら出かけて行っちまったが、何考えてんだよ…
純夏んとこのおばさんに至っては「武くん、帰ったら初孫とお迎えしてよね」って。俺達ゃまだ学生だっての…そりゃ、まあ、付き合ってるから、そういう営みもあるにはある訳だが…初孫って、なぁ?

「って、純夏、何で俺たち普通に通学してるんだよ?」
妙に晴れやかな笑顔で振り返る純夏。こいつって、こんな可愛かったっけか? え、なに、俺の惚気だって? …うるせぇ、ほっとけ。
「なに言ってんの、学校が休みだって連絡、どっからもなかったでしょ?」
「…って、お前校舎があんだけ壊れてたら、授業なんてできねえだろうが」
「授業なんて、わたし達がいて、先生がいたら、どうにでもなるよ…それに、みんなに会える方が気分も晴れるじゃない?」

「そうだタケル、我々がこうして普通に学園に通って生活できる。それが何より平和な生活の証拠であろう?」
気付かないうちに、冥夜が俺たちに歩いて追いついて来た。普段車に乗ってる割には、こいつも案外健脚だな。
「あ、おはよう、冥夜!」
「ああ、おはよう、純夏、タケル。今日も二人、仲睦まじくて何よりだ」
「別に、普段通りだと思うぜ? …そういや、今日は車じゃないのか?」
冥夜は口元に微かな笑みを浮かべて答えた。どこか冷やかしたような、しかし愛情のある口調で。
「ああ…今日は、鷹嘴が、車をオーバーホールするとかで私から暇を取らせた。流石にあの車で毎日送迎してくれて、宇宙まで走ったのだ。車に無理も来よう」
つーか、宇宙を走る車なんて007でも出てこないぞ。流石は御剣グループ、何でもありだな。

「みんな、おはよ〜♪」
更に後方から、たまが駆け上がってきた。あの小柄な体で、よく俺たちに追いつけたな。
「よお、たま」「壬姫ちゃん、おはよ〜♪」「珠瀬、おはよう。今日もよい朝だな」
一同の挨拶に、たまは本当に楽しそうに答える。
「そうだね〜、やっぱりミキも、こうやって普通に学園に通えるのがいちばんだよ〜」
そこで丁度俺たちは校門をくぐって学園の中に入っていく。今日は予鈴との競争じゃなく、余裕を持って入れた。 校舎に向かって歩いていく途中、校舎前のグラウンドでは相変わらずラクロス部が朝練をしていた。もちろん、例に よって引退した筈の委員長もだ。
「よお、委員長。朝から精が出るな」 「榊さん、おはよー!」「千鶴ちゃん、おはよぉ〜♪」「今日も良い朝だな、榊」

俺たちの朝の挨拶に、委員長は練習を切り上げ少し皮肉っぽい笑みを浮かべて応じてくれた。
「おはよう…あら、白銀君。あたしはてっきり、鑑さんと二人っきりで登校だと思ってたけど?」
「な、なんだよ、それ…!」
「あーら、随分気の利かない彼氏だこと。あ、別に、珠瀬さんや御剣さんが一緒だから悪いって言ってるわけじゃないわよ。勘違いしないでね」
「途中でばったり会ったんだから、しょうがねーだろ…それまでは、その、ちゃんと二人で…」
「あ、あはは…千鶴ちゃん、今日はちょっと攻撃的かも…」
「榊、そなたの言いたいことは分かるつもりだが、私の同行は私の我侭だ。あまりタケルを責めないで欲しい」
ったく、委員長のやつ、わざと俺に嫌味言ってるんだな。俺以外、みんな笑いながら話してるし。そんなやり取りを交わしてたところで、
ツーツー……不意に通信音が鳴る。どうやら冥夜の漆黒の腕時計からの呼び出し音らしい。
「冥夜様」
「どうした、月詠?」
「本日からの学園の皆様の昼食でございますが、我が御剣家からご用意させていただこうかと思います。いかがでしょうか」
「さすが月詠、用意がいい。私もそう頼もうとしたところだ」
「えー、わたし、タケルちゃんのお弁当用意してきちゃったよー!」
「……鑑、それ、わたしが貰う」
どこから現れたのか、彩峰がおねだりのポーズをして純夏の前に立っている。
「って、お前は食い物の話にだけ反応して出てくるなっ!」


そんな一同の姿を、校舎の陰から遠巻きに眺める少女の姿があった。
黒いウサギの耳のような髪飾り、漆黒のドレスにも似た軍服姿。淡い紫の髪。眺める彼女の口元の綻びは、喜びなのか、惜別なのか。
彼女はただ一言、小声で「…またね」と言い残し、視線の先の六人に対し右手を小さく何度か振ってから校舎の陰ををあとにした。

「……ん? あれ、霞…じゃ、ないか」
校舎の陰に黒いドレスの少女が見えた気がしたんだけど、俺の気のせいか…あの背丈、霞だな?
「え? そういえば霞ちゃん、あれからどこにいったんだろうね…わたし、あの時のお礼言いたいのに」
「そっか、そうだな。俺たち、あいつのおかげでこうなれたんだよな」
俺たちは、周りに気付かれないようにそっと手を握り合って、心の中で霞に向けて感謝の言葉を思い描いた。
(あれでお別れなんて言わずに、また会おうぜ。霞)


白陵柊の校舎の離れ、丘の上の木の下には始業前にも関わらず三人が集まっていた。
「水月…やっぱり、行っちゃうの? わたしも、孝之くんも、水月のこと…」
「そうですよ、水月先輩! 折角戻ってきてくれたのに、この町をもう一度出て行くことないですよ…」
涼宮姉妹の慰留にも、水月は応じない。自分で決めたことだから。自分が選んだ時の流れだから。
「ごめんね、遙、茜……あたしだって、あんた達のこと今でも好きよ。引き止めてくれて、本当嬉しい。
…でもね、あたし、もう一度孝之のいない場所で考え直してみる。あたしの意味。…あたしが持ってる<祝福>の意味。それでね、気持ちの整理がついたら、また…この町に、帰ってきていいかな?」

遙が水月の左手を両手で握って答える。
「うん…水月、いつでも待ってるよ。ぜったい、ぜったい帰ってきてね」
茜が水月の右手を両手で握って答える。
「はい、水月先輩…また、一緒に泳ぎましょう!」

「遙、茜……ありがとう」
水月の目に、光る粒が浮かんだ。遙と茜も、笑みを浮かべながら小さな涙を浮かべていた。

   *   *   *   *   *


どこからともなく一枚の白い羽根が宙に舞い、風に揺られて流れていく。

涙交じりの晴れやかな笑顔で別れを告げる三人の上を掠め、グラウンドで賑やかに談笑するクラスメイト達の間を小躍りし、そして最後に黒いドレスと淡い紫髪の少女の背中へと止まり、小さく微風に戦いで揺れた。

そしてまたこれから、何気なく、騒々しく、そして心和やかな日常の音が奏でられていく…


(俺が望むマブラヴ・Fin//Thanks for your reading...)


<補足>「俺が望むマブラヴ」関連質疑応答 (「俺が望む〜」関連のFAQです)
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