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「俺が望むマブラヴ」〜私が渇望し、希求したマブラヴのかたち〜

十二章 (Another02:珠瀬壬姫 vs 穂村愛美)

(はじめに)
たまファンの人、めっちゃごめんなさい。最初にマジで謝ります。
螺旋陣営+マナマナってことで私の本性(ダークな作風)が出ました。ほんとごめんなさい。
決してたまが嫌いなんじゃないです〜、袴っコ(弓道着、巫女服など)は私のツボです!

あと、マナマナがすっげぇ悪者です。ファンの人ごめんなさいw

   *   *   *   *   *


『なあに、このいけない子猫ちゃんは? …それじゃあ、貴女からお仕置きしてあげましょうか、うふふふ…』
「ミ、ミキだって……やれます!」


巨大な蛇の<殲術鬼>は瞬時に姿を変えて赤い甲冑を身に纏い、12枚の翼を持つ天使の姿になった。手には剣。シンプルで飾り気のない広刃の長刀。その剣を悠然と下手に構えながらサマエルの主、穂村愛美は笑う。
『そう、壬姫ちゃんって言うんだ…お姉さんが、大人にしてあげるからね?』
弓を構えたままの<武八幡>に対して、サマエルは一歩一歩ゆっくりと歩を進める。
壬姫の耳に聞こえてくる鈴の音。壬姫が自分の首につけているような鈴の音とは違う、ある種耳障りな高音。
その音が、その鈴が、近づいてくるたびに壬姫の心にざわめくものが次第に強くなってきた。何だろう、この胸の中でざわめくものは。
「………」
更に鈴の音が耳の奥で響き渡る。嫌な音。耳を塞ぐ壬姫。しかし、耳を塞ごうと音は耳の中で鳴っている…
『壬姫ちゃん、どうしたの?……怖いことでも、あった?』
嫣然と笑う愛美の顔とぬめぬめした声色が、壬姫の心の中に仕舞ってあった出来事を掘り起こす。
掘り起こされたことを自覚した時、壬姫の手足は竦んで動かなくなり、目の前には過去の思い出が浮かんで…
「あ……ああ……」

   *   *   *   *   *

「おい、こいつ、はかま着てるぞ?」
小さい頃のある日、ミキがたまたま弓道着を着たままでお使いに出かけたときのことです。近くの公園を通りかかった時、同い年くらいの男の子何人かに見つかって囲まれました。今思えば、ただ単に珍しがってからかわれていただけなんだと思いますが、その時のミキには辛い出来事でした。
「あー、ほんとだー、おまえんち、武士かなんかか?」
「ばか、んな訳ねーだろ。確かこいつんち、弓道おしえてるんだ」
ミキのパパはお髭に特徴があって、近所でも割と有名な人だったので、この子達が知っていても不思議はなかったと思います。
「きゅーどー?」
「ばーか、弓矢のことだよ」
「そういやお前知ってるか? はかまの下って、何もはかないんだぜ?」
男の子の一人がミキの袴を掴んで、少し引き上げるような動作を取りました。ミキは少し怖くなって袴を引き戻して、早くお家に帰ろうと思いました。
『いや…あ、あの、ミキ、帰らなきゃ、だめだから…』
「なーんだよ、ちょっとくらい見せてくれたっていいだろうが?」
ミキが拒否したせいか、男の子達は却って必死になってミキを取り囲み袴に手をかけ始めました。
『いや、いやです…やめてよぉ……』
それから先のことは、今でもあまり思い出したくありません。やっぱり、怖くて、悲しくて、恥かしくて…


壬姫の傍で落ちる葡萄が一房、二房……葡萄の果汁が<武八幡>の御神体を濡らし、体の曲線をスムーズに流れ落ち、その果汁の感触が壬姫の体に流れ伝わる。体が僅かに火照り、感覚が少し鋭敏になっていく。
しかし、当の壬姫自身は夢うつつの表情で、自分の周辺で何が起こっているのかまるで把握していない。
『あらあら…壬姫ちゃん、もうべそかいちゃって。怖いのね、でも大丈夫……』
毒と死の天使、サマエルが右手の剣の切っ先を真っ直ぐ<武八幡>の心臓部に向けてゆっくりと構える。
『マナマナが、もう壬姫ちゃんを泣かなくてもいいように、永遠に眠らせてあげますからね…』
右手に力が入る。剣が軽く金属音を鳴らし力強く真っ直ぐ向きを定められる。サマエルの12枚の翼が大きく開く。そして翼全てが大きく一度羽ばたき、サマエルの死の剣が<武八幡>に向かって突き進んでゆく…


『や、やめてよぉ……い、いやっ!』
ミキは公園のブランコに座らされて、男の子達に手足をつかまれて逃げられなくなりました。いくら何でもやり過ぎだとは思いましたが、何人もいる男の子の目が怖くて、押さえつけられた手足が痛くて、涙が止まらなくて、声が出せなくて…でも、こんな公園、ミキは行ったことないんだけど……
「お、おい、はかまってどうやって脱がせるんだよ?」
「別にぜんぶ脱がせなくても、どっかすきまからのぞけばいいだろ?」
「おまえ、ばかだなぁ〜。せっかく脱がしていいんだぜ? ぜんぶとらなきゃもったいないだろ?」
男の子達の目つきが変わり、誰かが帯を乱暴に引っ張り始めました。
『や、だめぇ、ミキ、おびのしめかた、わからないから、やめて、やめてよぉ…』
「うるさいな、だまってブランコにのってろ。落ちてけがしても知らねぇぞ」
「よしっ、帯とれたぞ。お前ら、はかまのさき引っぱって脱がせろ」
少しづつ袴の腰の辺りから空気の通りがよくなっていくのが分かりました。
(どうしよう、ミキのうさぎさんパンツ、見られちゃうよ…そしたらミキ、お嫁さんにいけなくなっちゃう…)
今でも恥かしいといえば恥かしいですが、子供の頃の恥かしさとは比べ物になりません。本当に死んじゃいそうなくらい恥かしかったんです。パンツを見られただけでも。
「お、おう…っ、これ、けっこう脱がすのむずかしいぞ」
「お前、力いれすぎるなって、こいつ落ちて頭打つだろ!」
「わ、おい、パンツみえた!」
男の子達が色めきたって歓声のようなざわめきをあげました。ミキはただ恥かしくて泣いていただけで、もう助けを呼ぼうとか、抵抗しようという意思は完全に無くしていました。


『……もうすぐ天国に行けるわよ、壬姫ちゃん。武ちゃんは、貴方のものにならないものね』
眼鏡の奥の愛美の瞳が心持ち細められる。その瞳は笑っているものか、殺意の篭ったものなのか、単に相手を見下しているのか、或は歪んだ愛情の炎を映し出しているのか。彼女の目の色の意図は誰にも読めない。
しかし愛美には、彼女等の傍らを静かに疾走する長大なリムジンの姿に全く気付いていなかった。リムジンは素早 く影を取り奥へと進み愛美達の視界の外へと疾駆していった。リムジンが向かうは、更なる深み、最終階層…

   *   *   *   *   *

>>>ここ、Another01からの続き。

サマエルの死の剣が<武八幡>の胸板を刺し貫こうとした寸前。
<第三の月>表層部の方から横殴りの衝撃を受けてサマエルは派手に吹き飛ばされて転倒した。剣は<武八幡>の胸板を軽く掠め、そのフィードバックで壬姫の99式衛士強化装備の左胸の部分が少し破り取られる。柔らかい曲線の膨らみと、その上の薄桃色の小さい点が曝け出される。
倒れたまま怒りの形相を浮かべて衝撃の主を探そうと睨みを利かせる愛美。
『誰です、私のお遊びの邪魔をしようという、いけない子は…マナマナがお仕置きしてあげますから』
「ふん、白衣の天使が聞いて呆れるわね」
『そ、その声は……東方不敗!』
声の方向には神聖な黄金に身を包んだ<迦具土>、そして声の主はその左肩に直立していた。
気だるそうな表情、少しよれたくわえ煙草、鋭い視線を却って助長するかのような鋭角的な曲線の眼鏡、豊満な体のラインを際立たせる黄色のボディスーツ、上から羽織られた年季の入った白衣、そして白衣に突っ込まれた両手。
その姿こそが、長らくその正体が不明のままだった伝説の衛士、東方不敗=香月モトコの真の姿であった。余談だが、神宮司まりも副司令も伝説の衛士に名を連ねていたことがあるという。


「慧、あなたは榊さんの援護に回りなさい。あたしはこっちの穂村に用があるから」
<でも、先生…戦術機に乗ってません>
慧の平然とした問いかけをさらりと流してモトコは応じる。
「あなた、誰に向かって、そんな事言ってるの?」
口元でにやりと笑みを浮かべるモトコを見るや、慧と<迦具土>はすぐさま奥の階層に向かって神速で飛行していく。
『ま、待ちなさい……っっ!』
追いかけて剣を振りかざそうとするサマエルの右手に長い白布が巻き付き剣と動きを封じる。その布の先を辿っていくと、両手で力一杯白布を引っ張っているモトコの姿があった。白布はどうやら白衣の帯を外したものらしい。
「よそ見しないの……そんなだから、鳴海くんに相手にされないのよ。違う?」
『っ!! 貴方なんかに、彼の何が分かるって言うんですか!?』
激昂する愛美を鼻で笑いながらモトコは白布を持つ手を両手から左手一本に切り替えた。どう見ても巨大な殲術鬼が一人の生身の人間に遊ばれているようにしか見えない。愛美とサマエルが貧弱なのか、モトコ=東方不敗が超人的過ぎるのか、どちらとも言いがたいが少なくともモトコの戦闘能力は人間レベルの物差しでは計測不可能だろう。


「…私はね、彼と涼宮さん、二人のことと『調律』の過程を三年間ずっと見守ってきてるのよ。あんたみたいな思い込みでしか他人との距離を取れない臆病者と一緒にしないでくれる?」
素早く白布を解いて巻き戻し、戻った布を一直線の突きでサマエルの腹部へ真っ直ぐ叩き込む。サマエルは不恰好に片膝を突いて倒れ、倒れざまコクピットの中から腹立ちと悔しさの入り混じった強い視線を向けて、愛美が地上のモトコを睨む。
『誰が、臆病者ですって…!』
(ちっ……慧には大見得切ったけど、流石にこの帯だけじゃ牽制するのが手一杯ね。珠瀬さんに何とか覚醒して貰わないと、あたしにも勝ち目はないわね)
全く動じた様子もなく、冷静に状況を判断し次の一手を思案し始めるモトコ。百戦錬磨の余裕といったところか。
対する愛美は完全に逆上して剣の矛先をモトコだけに絞り、心持ち揺らめいた足取りでモトコを狙い歩き始める。
「ふぅ……シオンに手を借りるしかないかしらね。」
モトコは気だるそうに白衣のポケットからケーブルの付属した半透明の緑色ゴーグルを取り出す。今回はシオンそのものではなく、手元の携帯端末に対して接続して音声で呼びかける。


「…涼宮さん? 聞こえる?」
《……はい、香月先生、お呼びですか?》
小声で遙が応じる。彼女が健やかで愛らしい女性になってくれたことを、何より喜ばしく思う。だがその感傷に浸るのはこの戦いが終わってから。モトコは自分らしくない感情を一旦片付け、普段通り平然と口を開く。
「緊急でシオンの力を借りたいんだけど、今何とかできる?」
少し間が空いて遙の返答が届く。やはり声を落としている。何か理由があるようだ。
《そうですね……「調律」のためですか?》
「ええ。珠瀬さんが危険な状態なのよ…天川さんの力を借りるわ」
心持ち、モトコの声が自信を含んだ響きになった。天川さん。一体いかなる存在なのか…
《分かりました…わたしが仲介しますけど、天川さんの降臨に力を割くのが精一杯だと思います》
「了解、早速始めてもらえる?」
《はい……先生、お気をつけて》
遙との通信は切れた。その瞬間サマエルの死の剣は容赦なくモトコに向かって振り下ろされていた。
彼女の頭上に 巨大な剣の切っ先が振り下ろされ、数メートル落ちればモトコが丸ごと一刀両断される距離まで下る!
『戦闘中に余所見をするなんて…大した余裕ですね、先生…覚悟っ!!』
しかしモトコにその剣は届かなかった。軽蔑した笑みを浮かべ佇むモトコ。
「だからあなたは、阿呆なのよ…」
左手に残していた布を素早く巻き戻し、棍を紡ぎ出す。そして片手で受け止め、渾身の力で払い返す。瞬間サマエルの握っていた死の剣の先端が粉々に砕け散った。余りの出来事に叫びだす愛美。
『いやーっ! こんなの、認めないわ!許せない…こうなったら、香月は諦めて、代わりにあの壬姫って小娘、寵落してしまうわ!』


「Cast in the name of God,ye not guilty......Login//新たなシオンを主とし、<天川蛍>、降臨!」
マンガの効果音のようなぴょこぴょこした足音をかき鳴らし、壬姫の傍に一人の小さな看護婦の姿が浮かび上がる。 彼女は、志半ばにして病に倒れた、小さな体の看護師・天川蛍であった。
<珠瀬さん、大丈夫ですよ。天川さんが助けてあげますからね!>

   *   *   *   *   *

「わ、おい、パンツみえた!」
男の子達が色めきたって歓声のようなざわめきをあげました。ミキはただ恥かしくて泣いていただけで、もう助けを呼ぼうとか、抵抗しようという意思は完全に無くしていました。
「そういや、女ってあそこに生えてるのか?」
「ばか、生えてるわけねーだろうが」
「じゃあ、どんなんなんだよ?」
「…脱がせりゃ分かるって。それよりお前ら、本当は盛ってるモノを鎮めたいんだろ?」
ミキを取り囲む男の子達の表情が、急激に下卑たものに変わり、皆が皆一様に腰の下の直立した存在を公開して私のうさぎさんパンツに手をかけ始めます。嫌だ、でも怖くて何もできない…どうしよう、このままじゃ…
『助けて、誰か、助けてください…助けてぇ……』
ミキは泣いて叫んで、必死に助けを求めました。お願いです、誰か、助けて…!
「誰も助けになんか…がっ!」


ミキは見ていました。男の子の一人が遠くから飛んできた石を頭に受けて、大事なものを出したまま倒れて気絶しました。誰か分からないけど、助けが来たみたいです。さっきよりも余計に涙が溢れてきました。もう落ち着いて前を見ることが出来ません。助かるかもしれない、でもさっきよりもっと怖い。だって、もしここから結局最後に助からなかったら……! 目の前が溢れる涙で曇って見えなくなっていきました。
「誰だよ、石投げたやつは!」
「てめーら、ガキの分際でマセたことしてんじゃねーよ。俺だってまだなんだからな」
「こらっ! 女の子に何してるんだよっ! 乱暴なことしたら、わたしが許さないからねっ!」
誰だろう、この二人の人。男の人も、女の人も、見覚えがある。とっても大切な人、とっても楽しい人、とっても仲のいい二人…でも、子供の頃に出会った人だったかな? きっと、同い年の男の子と、女の子だったかも。


ミキは泣きじゃくったせいで曇った両目を、何度もごしごし擦ってぼんやりだけど何とか前が見えるようにしました。
「なあ、だいじょうぶか?……いて、いてっ!耳つかむなって、おい!」
「タケルちゃんは、だまってあっち向いてる! 女の子あいてに、何してるかなぁ…」
ああ、思い出しました。ミキはこの時、初めてタケルさんと純夏ちゃんに出会いました。タケルさんは男の子だけど喧嘩はそんなに強いわけじゃなくて、乱暴な男の子達の半分以上は純夏ちゃんのパンチでやっつけられてた記憶があります。でも純夏ちゃんはあの時から喧嘩が強かった…じゃなくて、とっても優しい子でした。
「えっと、だいじょうぶ?いたいところ、ない?あの子たちに、変なこと、されてない?」
「えっ、……うっく…うわぁぁぁ〜〜ん!!」
怖くて泣いて動けなかったミキのことを同い年の女の子とは思えないくらい丁寧に面倒を見てくれました。ずっと泣いて叫んでたミキの事も、優しく頭を抱いてあやしてくれました。
…タケルさん、純夏ちゃんのそういう優しいとことか可愛いとこ、結構見落としてたんだね、昔から。ちゃんと見てれば、絶対純夏ちゃんのこと、離さない筈だしね。駄目だよ、タケルさん。
…流石に帯の締め方は純夏ちゃんも知らなくて、適当に誤魔化してましたけど。
「なあ、ウサギさんぱんつ、はきおわったか?」
ごっ。…純夏ちゃんの豪快なパンチが後ろを向いたままのタケルさんの頭に直撃しました。
「何をきいてるかーっ! かわいい女の子にっ」
「ま、すみかはかわいくねーもんな。『おんなさつじんけん・すみか』だし」
「タケルちゃん、なんかあったらすぐそれだよ…べつにいいもん」


そんな二人のやり取りが可笑しくて、ミキは泣きながら笑いを漏らしてしまいました。
「あ、笑ったー。かわいいーっ。ねえ、おなまえ、きいてもいいかな? わたし、すみか。かがみ、すみか」
「すみか?…すみかちゃん、っていうの?」
「うん」
「あ、おれはたける。しろがね、たける」
タケルさんが前を向いてミキの方を見ました。あの時何故か、すっごく胸がどきどきしたのを覚えています。男の子を見て怖い経験を思い返したとか、そういうのじゃなくて、幼心に恋をしてた、のかな?
「たける、くん?」
「ああ。おれのことは、しろがねさまでも、たけるさまでもいいぞ」
「タ〜ケ〜ル〜ちゃ〜ん?」
こういう所、今も昔も純夏ちゃんは変わっていません。あはは、面白いよね、二人一緒だと。
「…って、じょうだんだ。よかったら、なまえおしえてくれよ。はかまっことかだと、よびにくいだろ?」
「……みき。たませ、みき」
「へぇー、みきちゃんっていうんだ!やっぱり、かわいい名前だねっ!」
「たませ、みき、かぁ……じゃあ、おまえ、『たま』なっ! あたま、猫みたいだし」
「ほんとだー。猫さんみたいで、かわいいね。いいなぁ〜、わたしもみきちゃんみたいなのがいい」
あはは…純夏ちゃん、純夏ちゃんはあとでずっとずっと、ミキより可愛くなるよ?


それが、二人の覚えていない、ミキとタケルさん達の初対面でした。 それから二人とは白陵柊で再会したんですけど、タケルさんは当然さっぱり覚えてなくて、純夏ちゃんもよく考えた後に「ごめんね、思い出せなくて」って言ってました。多分それは本当の事かもしれません。 でも、ミキはそれでもいいんです。タケルさんのことも、純夏ちゃんのことも、あの初対面がなくっても大好きなことに変わりありませんから…


<香月先生、天川さん、珠瀬さんのサルベージに成功です!>
「…ちょっと痕が残っちゃったみたいね。まあいいわ、上出来よ。悪いけど、もう少しだけ、その子のこと、見守ってあげてくれるかしら?」
<了解しました、天川さん、任務を続行します!>

   *   *   *   *   *

「…はっ!」 壬姫が我に返ると、視界の隅に剣を折られて崩折れたままのサマエルと、その前に堂々と立っている白衣の 女性が見えた。そして今まで起こっていた出来事を反芻し、何をされていたかに気付くと、
「……タケルさん、純夏ちゃん、ありがとう。ミキ、諦めちゃいけないんだよね。ここで、ミキが頑張って勝負を決めないと二人が一緒に笑えないんだよね? だったら、ミキ…二人の為に頑張ります」
右手から光の矢を作り出し、素早く足踏み、胴造りを済ませる。長年の習慣、体に馴染んだ動作。素人には分からないが、壬姫の構えは一般的な弓道の動作と体の位置や構え方が若干異なる。
「あの人は、悪い人です…人の心は何があっても弄んじゃ、いけないんです!」


珠瀬の家の流儀、斜面の弓構えから左斜面に打起こし、斜面打起し完了。ゆったりと伸びやかに、平常心で。
何度も父親に教わった基本を胸の中で反芻しながら、落ち着いて一つ一つの動作を進めていく。
(気息を整え「胴造り」のくずれぬように、拳に無用な力を入れぬように、矢は常にほぼ水平に且つ体と平 行に、それから……)
愛美が壬姫の番える矢に気付き、慌てて剣を再生して投擲の体勢に入る。どうやら切りかかるのは無理と判断したようだ。
『うふふ……ただで私の命は差し上げないわよ。あなたも一緒に、そう、道連れにしてあげるわっ!』
壬姫の射法八節が「会」に至り、弓から矢が放たれる。
最大限に意識を集中して放たれた矢は狙い違わず<殲術鬼>の心臓部に疾風の速さで向かっていく。一方、自分の最期を悟った愛美は全ての力と仄暗い呪怨の念を手にした剣に篭め、投擲。黒い剣がこれまた狙い違わず壬姫=<武八幡>の心臓部へ真っ直ぐに突き進む。


「天川さん!」
<天川さん了解です、珠瀬さんを解放します!>
矢を放ち終えて残心の状態にある壬姫をコクピットから安全な場所へ転移させ、天川蛍が代わりコクピットにに搭乗した。
最早<武八幡>のコクピットに飛来する投擲物を回避する余裕はない。直撃。
同時に、壬姫が放った渾身の一矢も愛美のコクピットを直撃し、彼女を通してサマエルの胴体を貫通した。 愛美は断末魔の叫びを上げるまでもなく絶命し、その死面を確認することも出来ない有様だった。
天川蛍、彼女は今一度与えられた命の炎を、穂村愛美の呪怨の剣に奪われてしまった。<武八幡>の胸を貫く悲痛な長剣。それは同時に天川蛍の仮初の肉体にも痛々しく突き刺さる。貫通した傷口から燃え盛る暗黒の炎。戦術機も、中の衛士も、絶対に助からない。
この光景には流石の香月モトコも少なからず心を痛めたが、蛍の最期の一声はそのモトコの感傷を否定するかのように穏やかで優しいものだった。人間には、こんなに澄んだ声が出せるのか。
<香月先生…ありがとうございました。天川さん、また一人、人の心と命を助けることが出来ました。流石に死ぬのも二回目だと、怖くないですね。あはは…>
「もう、お礼を言うのは、私の方よ…」
両手に意識を失った壬姫を抱きかかえながら、モトコは白衣の天使に深く感謝した。


その瞬間、サマエル、<武八幡>共々爆発を起こし全身見事なまでに粉砕した。残ったのはせいぜい両者共地面に接地した脚部のごく一部だけであった。生存はおろか、遺体の回収さえもままならないだろう。

「こうしちゃいられないわ…慧と榊さんのところに向かわなきゃ」
一時的に覚えた感傷を何とか振り払い、壬姫を抱きかかえたままモトコは<第三の月>の更に奥の階層へと全力疾走していた。 彼女の目の隅には、小さな光る水の粒が浮かんでいたように見えたが、これは光の加減のせいか。


>>>Another03のどっかと繋がる。
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