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「俺が望むマブラヴ」〜私が渇望し、希求したマブラヴのかたち〜

第十章・後半

声の方を見る。廊下の奥からこちらに歩いてくる声の主は…純夏。しかし服装は漆黒の際どいボンテージ。どう見ても俺の知ってる「鑑純夏」の姿格好はしてない。てゆーか、後ろのリボンがなければ気づかない程別人。少なからず色気は感じるが、同時に大きな違和感も感じた。

「んふふ、タケルちゃん、どお? わたし、結構イケるでしょ?」
それを見透かしてか、純夏が艶っぽい笑みを俺に向ける。
「な……」
「そなた、純夏ではあるまい。…名を名乗るがよい」
言いながら冥夜は皆流神威を抜刀して俺の前に立つ。って、何処に持ってたんだよ、その刀? そういや、今、冥夜が純夏のことを『純夏』って呼ばなかったか? いや、それどころじゃない。
「フン、何言ってるのよ、冥夜? …わたし、純夏だよ?」
こんなのは純夏じゃない。少なくとも俺の知ってる純夏は、心の底から人を小馬鹿にした声色で、人を見下すような目つきで、人に接するやつじゃない。そしてそれを愉しむような奴でもない。

冥夜は浴衣姿のまま刀を構え、剣先を純夏に向ける。一方の純夏は両拳を胸の前に構えてじりじり と冥夜に迫っていく。
「ほら、どうしたのよ、さっさとかかってきなさいよ?」
冥夜は俺を庇おうと動いているせいか、相手の思う通りに詰め寄られて動きにくそうだ。
「冥夜、俺のことはいいから、お前、存分に戦え…」
「何を言う、私は、私は…そなたを守るために…」
「ちょっとちょっと〜、なに二人でいい雰囲気作ってるわけ? …ったく、じれったいわねぇ」
不満そうに呟くと純夏はガードを下ろして軽く俺達に向かって移動する。どこだ、姿が見えない。

   *   *   *   *   *

「がっ…ぐ、くぅ……」
次の瞬間、純夏の姿は冥夜の懐にあった。冥夜の腹部への容赦ないヘビーブロー。 攻撃を喰らっ て仰け反ったままの冥夜を、純夏が左手で払いのけるようにして軽く突き飛ばす。本当に「軽く」手を払っただけで、刀を持った冥夜の体が数メートルはゆうにノックバックした。しかも、冥夜が彫像か何かになったかのように立ち姿を変えることのないノックバック。常人の技じゃない。
(こいつ、遊んでやがる。戦うことを遊びにしてやがる。これが、あの、純夏か?)
「な、お前……」
同じ顔、同じ体の鑑純夏が、全く別人のように科を作って、俺の前で艶っぽく立っている。
「タケルちゃん、わたしね、ずぅ〜っと…」
甘く囁きながら純夏の右手が俺の顎を優しく捕らえる。微かに濡れる唇が、少しづつ近づいてくる。
俺は逃げることも求めることもできず、ただ相手の為すがままに身を任せて…

「待て! …それ以上、タケルの意思を無視して触れることは許さんぞ」
僅かながら苦痛に顔を歪めつつ、それでも冥夜は直立して剣の切っ先を純夏に向ける。有無を言わさ ない鋭い眼光と純夏に向けてしっかり突きつけられた刀だけが、情けないけども俺の最後の頼みの綱だった。何て弱いんだ、俺…生身じゃ冥夜を助けることも、純夏をどうにかすることも出来ないっていうのか…
「フン、何さ、あんたもタケルちゃんが欲しいわけ? …でもね、タケルちゃんは、」
更に純夏の顔をした『誰か』(俺も流石に、こんな言動をする奴が純夏だって思いたくない)の顔が俺に接近してくる。生ぬるい穏やかな息が俺の頬にかかる。正直、恥ずかしい話だが、俺はこの状況で目の前の生身に昂奮してる。純夏の吐息が、俺の唇に…

瞬間、鋭い風の音が響いた。俺のすぐ傍で。視線を純夏の顔から逸らし、音が聞こえた方に向ける。
「……あげないよ?」
純夏がにやりと笑う。左手の二本の指で冥夜の皆流神威が振り下ろせない状態に、しっかりと抑え付けられている。冥夜が必死に踏み込んで、腕に力を入れてももびくともしない。…こいつ、本当に純夏か? 違うよな、似た姿の別人だって言ってくれ。頼むから…
「…くっ! 何故…」
「簡単よ……冥夜は只の人間、わたしは<prier>だから。シオンが祈ることから生まれた、私…」
純夏のその台詞を唇の寸前で聞いたところで、遠くの空から光の柱が昇ったのが見えた。
「な、あれは……」

   *   *   *   *   *

温泉旅館の玄関から外を見やる、軍服姿の夕呼とまりも。
「いよいよ目覚めたのね……<プリエ>が。よりによって最悪の方向に」
「あの方角、…東京ね。年下好みの女性カメラマンが、逃げ遅れてなけりゃいいけど」
「そんなことより夕…司令、あの光柱って、もしかして…」
うんざりした顔つきで夕呼がまりもを睨む。果たして何に対してうんざりしているのやら。
「そうね、連中がわざわざお江戸に眠らせてあった<殲術鬼>、でしょ…首都機能壊滅ね、こりゃ」
空恐ろしい台詞をさらりと言ってのける辺り、香月夕呼が夕呼たる所以なのであろう。

   *   *   *   *   *

結局、あの光の柱が天に向かって昇った途端、純夏の姿は忽然と消えた。その代わり、あいつが大事につけてた小汚いウサギのキーホルダーだけが縁側に落ちて転がっていた。そいつは今、俺の手(正確にはポケットの中)にある。
あの夜純夏が姿を消してから、冥夜は純夏の一撃の痕から体を蝕まれているらしく容態が悪くなるばかりで、殆どをベッドの上で過ごしている。幸い命の危機という状態には至っていないようだが、凡そ 健康とは言いがたい状態が続いている。

そんな状況になってから、幸か不幸か<楽園>の連中が戦闘を仕掛けることはなくなったらしい。
だが、<楽園>側の最終兵器と噂される<殲術鬼>が覚醒し東京の首都機能を著しく減退させたことが原因で、俺達のような衛士は訓練場から引き上げさせられ、白陵柊に戻って実戦配備を命じられた。
その人員には、怪我で療養中の彩峰や未だベッドで寝たままの冥夜まで含まれていた。
俺は流石に事態の異常さを司令や副司令に抗議したが、「戦時中にこの程度の人事は正常であり、俺達に出来ることは『戦術機による戦闘が発生しない』のを祈るのみ」と切り返された。
そう返答が来る事を半ば予想はしていたが、やはり現実として叩きつけられるとキツいものがある。

幸いあれから数日の間、日本では戦術機による戦闘が発生していないので彩峰や冥夜の療養のチャンスになると思っていたが…

   *   *   *   *   *

「冥夜…」
冥夜はあれから、日に日に目を覚ます時間が短くなっていた。今日に至っては一日全く目覚めている時間がなくなり、白陵柊の地下基地の病室から集中治療室へ部屋を移されるという始末だ。治療法がはっきりと分からないらしい。
だが、原因は間違いなくあの夜の、純夏の姿をした『何か』の攻撃によるものだろう。現に、主な患部 が「腹部」であるという話を看護婦達の治療中の会話から耳に挟んだことがあるからだ。
俺はというと、温泉旅館での中途なものとは比べ物にならないハードな戦術機訓練の合間を縫ってはこうして冥夜の見舞いに来てる。
今更だが、純夏がいないという現実の重さを思い知らされた格好だ。あいつの相手してバカやってる時や、寝る前にあいつに話を聞いてもらえた時とかのことが、不意に思い出される。

俺は滅菌された手袋越しに冥夜の不自然に白くなった手を握る。心なしか手が冷たい気がするが、計器に目をやると脈拍はいつも通り正常で乱れもない。
(一体、何がどうなってこんな事になっちまったんだろうな…半年くらいしたら卒業してた筈の、只の学生が、気が付いたら戦術機だの戦闘だのに巻き込まれて、おまけに幼馴染みは豹変してどっかに消えちまうし…)

そうしてここ数日の日課である冥夜との会話(但しここ集中治療室では心の中で話し掛けるだけに留めているんだが)を暫くしていると、白衣に身を包んだ月詠さんが入室してきた。月詠さんらしからぬ、心持ち急いているような足運び。
「武様、香月司令から基地関係者全員に対し召集命令が発せられております。お急ぎ下さい」
「え……あ、はい、すぐ行きます」
俺は慌てて移動を開始する。すれ違いざま月詠さんが、
「武様、いつも有り難うございます」
と一言囁いたのが、何気に心に響いた。彼女も主君が倒れたままで色々と心苦しいだろう。
「俺の、せいですから…」
振り返らずに俺は、自嘲気味に言葉を返して病室を後にした。

   *   *   *   *   *

ブリーフィングルームには既に殆どのスタッフが白陵柊の制服姿で、一部が夕呼先生やまりもちゃんの着用する黒い軍服で整列して待機しており、俺は入り口付近の連中に少し冷たい目で見咎められた。そこを更にまりもちゃんに見つかったが彼女は特に俺を咎めるでもなく、小声で俺に最前列に並ぶよう指示した。
(やっぱり、いつものところ?)
(はい……何か、落ち着かなくて)
(…そうね、でも、貴方が必要以上に責任を感じても、何も解決はしないでしょ?)
手短な会話の中にも俺への気遣いが篭っていたのは有り難くもあり、半面非常に申し訳なかった。
俺が定位置(霞と委員長の間)につくと、演壇に立つ夕呼先生が小さく頷いて言葉を発する。

「我々、極論するならば文化的生活を営む全人類に対して、本日1600、<EDEN>と称する機関から全人類に対して声明を発すると通達があった」

その発言だけで、集められたスタッフ一同の間にはどよめきが走る。演壇からはその声を無視して言葉が続けられる。
「恐らく、彼らが我々から簒奪し掌握した<ZION(シオン)>を利用し、全世界的ネットワーク経由で我々に宣戦布告するものと思われる。戦争開始、下手をすれば…<Armageddon>かも知れん」
演壇の夕呼先生は表情こそ不敵な笑みを浮かべているが、声色に軽い冗談やからかいの調子は全くない。
「そろそろ、時間だわ……楽園の使者のお出ましね」


演壇の背後の巨大モニタに一番に映し出された顔は、俺が一番よく知っていて、俺が全く知らない鑑純夏のものだった。事情を知らない連中は派手に驚いている(実は、俺と霞以外ほぼ全員事情を知らされていない)が、今が非常時であると知らされた以上この部屋の連中は私語を漏らさない。大したものだ。

彼女の衣装は以前のボンテージではなく、黒一色の貴族令嬢を思わせるような優美なドレス姿だった。肩や鎖骨が妙に色っぽく見えるのは、ドレスのせいなのか、俺が純夏のそれを見慣れないせいか。
いつもの純夏の顔をしてくれてれば「似合わねぇな」なんて軽口も叩けるんだけどな…

『古き教えを守り、自らを律しようとして足掻いている人類諸君、ごきげんよう。私は<EDEN>の執行者、 仮にエヴァとでも名乗っておこうかしら? …ふふふ、冗談よ。私は<スミカ>』
純夏の姿をした存在=スミカが冷酷に、嘲笑的に言葉を吐く様が本当に気に入らない。許せない。…でも、この状況を生み出したのはきっと、俺自身なんだ。たぶん、あれは純夏のせいなんかじゃない。

漆黒のドレスに身を包んだ優雅な姿のスミカは、どこだか知れない宇宙ステーションのような場所に立っており、そこから地球を見下ろしているようだ。しかし、宇宙服は着用していない。合成映像か?

『我々<EDEN>が諸君に提示するのは、己を知り、究極的に自身を解放することによって、万物を認識し、疲弊した世界から脱却し、新たな楽園をこの地球という星に生み出すためのプロセスである』

スミカの声色には少しまだ嘲笑的な含みが残っているが、表情は至って真剣そのものだ

『人類は文明という皮を被り、産業を発展させ、科学技術を進化させ、現在まで成長を遂げてきた。
…というのは、飽くまでも君たちが自分自身の所産をその代償から肯定するための詭弁に過ぎない。真に人類が理性的に成長を遂げたというなら、何故、地球の環境がこれほどまでに破壊される? 何故、戦争 によって勝者と敗者を作る必要がある? 何故、人間が過度に金銭や物品に執着して生きねばならぬ?』

正直、俺もスミカの演説に少しばかり引き込まれそうな感じを覚えている。

『それは、人間が自らの中に眠る究極的存在に気付いていないからだ。人間が、自身の中に神ともいえる存在を内包している事実を自覚し、知ろうとしないからだ。古き神にすがり、古き神の教えを未だ盲信し、その結果滅びと偽善を振りまいているのが、その証左であろう?

…そこで我々は、新しい人類、新しい世界の創設を行う。ここ、<第三の月(the third moon)>より。 我々こそが、自らの内面に究極的存在を見出した神なのだ。諸君が<シオン>と呼んでいたものが汎宇宙的ネットワークを通じて諸々の並行世界と交信して選び出し、人類かくあれと祈った存在、それが私なのだ。
そうだな、この場を借りて私の母体となった女(ひと)、ハルカには例を言っておこうか』

そこまで言い終えて、スミカは不敵な笑みを漏らした。

『我々はこれより、諸君が地球と称しているメギドの丘に対して、新しい人類たる私の子供達を使わす。子供達は古き秩序に縛られた、地球上の生物を全て殲滅することであろう。そして我々が生み出す新たな生命によって、この地球は覆われ、再び<EDEN>という名の楽園が築き上げられるのだ』

映像では、宇宙ステーションのような場所から夥しい数の点が地球に向けて放出されているのが分かる。 あれがもしかして、スミカの言っている『私の子供達』なのだろうか…
そしてスミカが、そんな映像に不安を覚え始めた俺たちに対し最後に口走った言葉。

『滅びるが良い。古き神の子ども!!』

そう叫ぶスミカの映像の背景で、地球に向けて咆哮を上げる巨大な甲殻を持つ鬼の姿が見えた。

(第十章・おわり)
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