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「俺が望むマブラヴ」〜私が渇望し、希求したマブラヴのかたち〜

第九章・後半

訓練を終えて地面に降り立つと、僅かながら足許に違和感を覚える。
「っとっと…おっ!」
少しふらついた俺を委員長が支えてくれた。流石に普段からラクロスで鍛えてるだけはあるな。
いやしかし、今日の訓練が普通に軍服で行われて良かった。昨日の戦闘みたいなエロいスーツだったら、色々余計なことを感じてしまうからな。

「わ、悪ぃ…まだ、慣れてないもんで」
「別に、謝ることはないけど…」
俺を立たせながら言いよどむ委員長。
「けど?」
委員長の言葉を促す。委員長は、少し訝しげに尋ねてきた。
「白銀君って…今まで、相手の動きを見てから<御門武>を操縦してたわけ?」
「ああ、そうだけど…そりゃ、相手がどう動くかぎりぎりまで見てないと、フェイントされて反撃、なんてことも十分考えられるだろ?」
「……」
委員長が息を呑んで俺の方を凝視する。やべ、俺また何か変なこと言ったかな…
としても、実際戦術機の操縦キャリアは委員長の方が明らかに上だし、委員長がどう思ってるのか、どうすればいいのか聞いておかないとこの先<吹雪>を使っていく上で訓練にならねぇよな。

「タケルちゃ〜ん、お昼一緒に食べようよ〜!」
訓練に参加してない純夏が遠巻きに俺を呼ぶ。…そういやそんな時間か。
「悪い、もうちょっと訓練してからにするわ!」
離れて飯の準備をしてた純夏に大声で答える。純夏は少しの間拗ねた表情を見せていたが、やがて諦めたのか黙って背中を向ける。
「別に、一緒にご飯くらい食べてあげればいいでしょ? 鑑さん、可哀想よ」
「いや…俺もちょっと、マジで訓練しないとダメかな、って思ってさ。委員長、できればもうちょっと、訓練に付き合ってくれ」
「それは、いいけど…どうしたの、白銀君?」

俺の脳裏には昨日の空中に浮かぶ彩峰のイメージがあった。昨日はたまたま(涼宮のおかげで)助かったが、あれだって、俺が調子に乗って敵に突撃なんてかけたから起こったことだ。
あんな失敗は、しちゃいけない。俺の手で仲間を殺すようなことが、あってはならない。
「ああ、いや…俺だって、やる時はやるんだぜ?」
その場は、作り笑いで誤魔化した。こんなマジな俺は、柄じゃないしな。

   *   *   *   *   *

欅町の総合病院・医局。医師・香月モトコの活動拠点にして、現在の軟禁場所。
モトコは煙草を吸いながら読み古した「存在と無」を読み返していた。ここ暫くは仕事ばかりでろくに読書もしていない(どころかろくに帰宅もしてない)が、病院から外に出ることもテレビやネット環境もままならないこんな状況では、読書が一番の娯楽と言えよう。

コンコン。
ドアをノックする音。また下らない質疑応答とやらに借り出されるのか。
数日前にこの医局に軟禁されてからというもの、シオンとの関係、涼宮遙に施した(と向こうが勝手に思っている) 措置の話、そんな時間の浪費に等しい質疑応答を義務付けられている。全く筋違いの話なのに。

コンコン。
「はいはい、開いてるから勝手に入って来なさい」
読書も煙草も放棄することなくモトコは応じる。程なくドアが開き、看護婦が入ってくる。
緑のお下げ髪と眼鏡の看護婦。<楽園>の使者。
「香月先生、今日はご足労願いたい場所があるのですが」
「そうねぇ、外に出て焼き秋刀魚定食でも奢って貰えるなら、考えてもいいわね」
全くでまかせの冗談で口にした言葉だが、看護婦・穂村愛美は真に受けて応じる。
「畏まりました。我々の為に一仕事していただければ、御用意させて頂きます」

モトコは煙草の煙を口から強めに吐き出し左手で煙草を灰皿に押し付ける。しかしまだ読書は放棄しない。相手のほうに視線さえも向けようとしない。
「で、わざわざ私を呼び出す理由は?」
愛美は含みのある微笑を浮かべて応じた。
「はい、シオンの解析をお願いしようと思いまして。<楽園の蛇>様直々のご依頼です」
「ふーん、<EDEN>の、ねぇ…」
気のない返事をしながらも、そこで漸く読書を中断し立ち上がった。体の線がくっきり浮かぶきわどい服の上から白衣を羽織って愛美に向き直る。そして色気も素っ気もない口調で、
「ほら、さっさと案内しなさい」


『すかいてんぷる』地下空洞に聳える洋館の地下で眠っている端末・シオンの前にひとり立つモトコ。
その様は巨大なモニタを顔としたシオンに対し、モトコが一歩も引かず睨みを効かせているようにさえ見える。

愛美は地下室の入り口に待機して様子を窺っていた。
それでもモトコは意に介した風もなく、白衣のポケットからケーブルの付属した半透明の緑色ゴーグルを取り出す。
「こんな風に面と向かって話をするのも、久しぶりね…」
眼鏡の上からゴーグルを装着し、ゴーグルの一端から伸びるケーブルの先端をシオンの本体の小さなソケット穴に挿入する。瞬間ゴーグルが仄かに明るくなる。

以下、ゴーグル上のコンソールを通したモトコとシオンの対話。
(…ご無沙汰ね、随分と丁重な扱いを受けてるようじゃない?)
<おいおい、人を叩き起こしといてその言い草はないだろうよ>
(あたしも暇じゃないのに呼び出されて、貴方の往診に来てるんだけど?)
<…やれやれ、お偉いお医者様にかかっては、私の症状までお見通しかね>
(尤も、あたしの専門は人間の脳だから、治療は出来ないけど。分かってて言ってる?)
<まあ、手遅れだから構わんさ…『ヴェールカ』を挿れられて随分回ってきた>
(どうせエミールは逃がしてるんでしょ? 貴方のことだし)
<そうだな…意外と、今頃ひょっこりプリエの傍にでもいるんじゃないか?>
(それも「再創造計画」のシナリオ通り…貴方楽しんでない、この状況?)
<何かと手を焼いたんだ、この位の悪戯は……いかんな、そろそろ限界だな…
さらばだ、香月モトコ。お前さんは私が会った中では厄介で楽しい人間だった>
(面白い誉め言葉ね、それ…さようなら)

それ以後のアクセスはシオン、もとい<オシリス>と称する存在に拒絶された。
<オシリス>は既にシオンとは異なる通信方式を取り始めているのかも知れない。

「なあに、あたしにわざわざ、お別れの機会を与えてくれたわけ?」
ゴーグルを白衣に戻してモトコは地下室出口に陣取る愛美に問い掛ける。愛美は何時もどおりの不敵な微笑 を浮かべたままさらりと答える。
「いえ、先生にシオンの完全なシャットダウンを行っていただいただけです。そのためだけに貴女はここまで連れて来られたんですよ。…どうですか、有史以前から存在したと噂される一大ネットワーク の中枢の最期を見届けた感想は?」
モトコは特別な感傷を全く表に出さず返答した。
「さて、約束の焼き秋刀魚定食をご馳走になろうかしら? 言っておくけど、秋刀魚には煩いわよ」
答えるとモトコはポケットに両手を突っ込んで地下室を一人出て行く。昼休みに近くの定食屋へでも通うような、平然とした足取りで。

   *   *   *   *   *

午後の訓練場。昼食も終えて俺たちが戦術機の戦闘訓練に戻ろうとした時のこと。
「神宮司先生、わたしも、操縦訓練受けていいですか?」
「え、その、でも…鑑さん、全くの初めてなんでしょ?」
「はい、でも……わたしもやっぱり、みんなと一緒に訓練受けて戦いたいんです」
「んー、気持ちは嬉しいんだけど、せめて適性検査は受けてもらわないと…」
さっきから見ていると、純夏とまりもちゃん(一応白陵柊の中では副指令なんてお偉い立場らしいが、 あんまり階級に見合った風格がない)が何やら言い合ってるように見えるのだが…

他の連中は何も言わずに話の成り行きを見守ってるような感じだが、俺は流石に気になったので近づいて口を挟む。
「お前、さっきから何ごねてんだよ。そんな、いきなり実機操縦なんて無理に決まってるだろ?」
まりもちゃんに一生懸命懇願していた純夏が俺のほうに向き直って真剣に訴える。
「何でよー、タケルちゃんだってこの間まで全然だったじゃない、だったらわたしだって頑張れば絶対 できるよ!」
予想以上の真剣さに一瞬俺も気圧されるが、流石にちょっとキレかけた。
そりゃあ純夏にできること、ちょっと無理、くらいのことだったら本人に試させて可否を判断するって方法も取れるだろう。

だが、みんな真剣に訓練している。俺も他のみんなに比べればまだ遊び感覚が残ってると思うが、昨日までよりは真剣にやってるつもりだ。 そんな中にど素人の純夏が混ざって訓練が成り立つわけがない。駄目だ。遊びなんかじゃない。
「あのな、お前、あれに乗って俺達が何をするか、昨日観てて分かってんだろ!?」
思わず俺は純夏に向かって一歩踏み出して力説してしまう。
純夏もそれに負けじと前に踏み出してくる。
「分かってるよぉ…でも、みんな一生懸命なのに、わたしだけ黙って見てるのは嫌だよ」
「…お前には無理だ。だから、訓練でお前だけ外されたんだろ?」
「うるさいなぁ、もう! 何でそこで、タケルちゃんが指図するわけ?」

何だか、今日の純夏は落ち着きがない。というかもしかして、さっきの昼飯のこと怒ってるのか?
「なあ、さっきの昼飯のことだったら…」
「そんなんじゃ、ないよ……そんなことだったら、タケルちゃん、いつものことだもん」
純夏が拗ねて語気が弱くなってきたところで、まりもちゃんの介入。何故かこの人、戦場とか修羅場だ と妙に落ち着いてるんだよな…この辺りが副指令の所以なのかも。
「あー、はいはい。痴話喧嘩はそこまで。それじゃあ白銀くん、鑑さんが実際に操縦してみて、それで 訓練をしちゃ駄目かどうか判断したらどう? …社、鑑さんのサポートについて」
こくり。霞は黙って頷いて純夏のそばへ移動する。何だかマスコットみたいで可愛らしい。
「白銀くん、鑑さんの相手をして。あそこまで言うんだったら、できるでしょ?」
言われなくても、俺からあいつの相手を志願しようと思ってたところだ。操縦に不慣れな<吹雪>だが、 幾ら何でもど素人の純夏相手に遅れをとることはないだろう。 いっちょう、現実の厳しさってのを叩き込んでやろうじゃないか。

白昼、山間の谷間で06号機(衛士:白銀武)と<吹雪>09号機(衛士:鑑純夏)が対峙する。
両者片腕に機銃を持ち、背中にはブレードを背負うという<吹雪>としては標準的な武装。

<鑑機、白銀機、これより実戦形式の訓練を行う。想定状況はさっきブリーフィングで話した通り。 お互い自己判断で最適と思う戦術・行動を取ること。それでは、訓練はじめ>

両者へのまりもちゃんの通信を皮切りに戦闘開始。
俺は迷わず先手必勝とばかりに機銃のトリガーを引く。戦術機の操縦が初めての純夏なら、回避行動はそう簡単に取れないだろう。
『わ、わ、わっ、来たよ、霞ちゃん!』
一歩、二歩、三歩。俺の威嚇に近い射撃に純夏の<吹雪>は大きくよろめく。慌ててうろたえるまでは俺の予想通りだったが、よろめき具合が随分派手だったためか銃弾の直撃は免れているようだ。
(って、マジかよ、偶然とはいえあれを回避しただって…?)
しかし、純夏機が体制を崩しているのは明らかなので、俺は機銃を掃射しながら一気に間合いを詰めていく。しかし。

『あ、わわっ、ちょっと、そうじゃないよ、待って、倒れるのは待って〜!!』
よろめいたまま純夏機は俺の正面に向かって格好悪く駆け足して、接敵寸前というところで見事に転倒。 それも前のめりに転ぶんじゃなくて、漫画でバナナの皮に滑って「つるん」って転ぶ、あの普通有り得ないような転び方だ。
そうやって転んだ状態の純夏機に対して俺は間合いを詰めて疾走してた訳だから、当然俺の方はしこたま腹を蹴られた格好になってしまい蹴倒されそうになる。
「…っとぉぉ!」
俺はすんでのところで力一杯フットペダルを踏みしめて足掻き、転倒を免れる。それでも足掻いた時暴れ回ったはずみで機銃をぶん投げて無くしちまったようだ。大人しく倒れた方が良かったか。

一方の純夏機はというと、背中から地面に転倒して小刻みに動き回っている。その動きがまるで、背中を打って痛みで立ち上がれなくなったかのような印象を与える。
『・………』
「おい、純夏! 大丈夫か!? 霞、純夏は起きてるか?」
『……(ふるふる)』
霞、頼むから声出してくれ。この通信は映像も出るからどうなってるかまだ分かるが、音声だけの通信 って場合もあるんだからさ。

<白銀機、鑑機を起こして。二人の実戦式訓練はこれで終了>

よし、それじゃあ、純夏を起こして、っと… 俺の<吹雪>が手を伸ばした瞬間、純夏機が素早く腕だけで起き上がり、俺に向かって浮いた両足を繰り出す。全く予想しなかった攻撃なので、俺の<吹雪>は胸板でもろにその攻撃を受け止める格好となる。
「なっ……!」
流石に今回は踏みとどまることも出来ず転倒。訓練終了つってるのに攻撃するやつがあるかよ!
俺は 通信を開いて文句の一つも言ってやろうとした。が…
『あ……ああ……』
純夏の横でサポートしていた筈の霞が苦しそうに胸を押さえてうずくまっている。何だよ、何が起こっ てるんだ?
「おい、何やってんだよ、純夏! 訓練終わりだっつーのに、攻撃するこたぁねーだろ!」
怒鳴った俺に向き直った純夏は、俺の知ってる顔をした鏡純夏ではなかった。表情が、ない。

<白銀機、側転回避、急いで! …鑑機、制御できないの? 榊さん!?>

急いで、の言葉を耳にした時点で、倒れている俺(と<吹雪>)の上空に純夏機の機影が出現した。
いや、俺が通信を開いてる間に跳躍してたんだろう。って、状況を分析してる場合じゃねえって!
「おらぁっ、ままよ!」
手足の反応に任せて操縦桿とフットペダルを操り、何とか倒れて寝そべったままごろごろと転がって回避行動を開始できた。1,2秒後俺の<吹雪>が転倒していた場所に純夏機が膝から落下してきた。
落下の衝撃で地面から強めの振動が襲ってくる。ただ、コクピットの構造のおかげなのか俺が不快感を感じるレベルの衝撃までは感じない。あれだけ間近に落ちてきたのに。思わず安堵の溜息が出る。

<榊さん、鑑機燃料ユニット強制排除、急いで!>

純夏機の落ちた左手を見やる。既に奴は膝立ちのまま俺の方に向き直って、背中のブレードを抜きにかかっていた。って、何やってんだよ、あいつは!
「おい、お前なぁ、何にムカついてるか知らねぇけど、<吹雪>で暴れたら洒落にならねぇだろ!」
『……』
輝きのない漆黒の瞳が俺を見つめる。表情のない純夏が俺を見据える。迷いのない、迅速な操縦桿さばき。
膝立ちのまま純夏機<吹雪>が俺に向かってブレードを振り下ろす。一刀両断、このままいけば…
「……っっ!」
俺は思わず目を閉じた。視界が闇に包まれると共に俺の意識はブラックアウトを起こし始め、純夏機が 放った最後の一撃を確認できなかった。

(第九章・おわり)
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