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「俺が望むマブラヴ」〜私が渇望し、希求したマブラヴのかたち〜

第九章・前半

「恋はうぬぼれと希望との闘争だ」

スタンダール

   *   *   *   *   *


戦闘も終わり夜も更け、静まり返った山中で対峙する二人の姿があった。一方は制服姿の涼宮茜。
もう一方は眼鏡にお下げ、だが榊千鶴ではない。小脇にサブマシンガンを抱えて茜を威嚇している。だが 茜はそれに怯えた風もなく平然と立ちはだかる。

「…よくも、あたしの親友に化けて、くだらない工作しでかしてくれたわね。…矢川、睦月さん?」
「生きては返さない、とでも?…ならば涼宮茜、貴様だけでも、道連れにっ!!」
構えてマシンガンを乱射。射撃の精度、射撃範囲ともに常人であれば蜂の巣になってる筈…だった。
しかし茜の姿は既に射撃範囲にはなく、矢川は茜を完全に見失った。息を殺し薄闇の中目を凝らす矢川。

しゅぴん。
俊敏な刺突音が静かに響いたと思えば、矢川はゆっくりとその場に崩れ倒れる。次の瞬間倒れた矢川の足許真正面に茜が舞い降りる。触手にも似た動きを見せるアホ毛を揺らして。
「さて、と…そろそろ姉さんのところに戻らなきゃ」
静かに、迅速に。涼宮茜は超人的な動きで山中の木々の大枝を飛び移り、柊町の方角へと身を躍らせる。

   *   *   *   *   *

昂奮して眠れないかと心配したが、戦闘の疲れがあったのか横になったらいつの間にか眠ってた。


夢に出たのは、近所の公園。何てことない砂場、何てことない滑り台、何てことないブランコ。
気が付くと、砂場で立ってる女の子がいた。純夏じゃない。棒みたいな細長い袋を手にして、寂しそうに突っ立っていた。
「お前、何やってんだ? 一人か?」
半べそかいたその子は、黙ってこくりと頷いた。後ろで結われた長髪も、こくりと頷く。

思えば、俺はその時から髪の長い女の子が好きになったんじゃないだろうか。懐かしく、恥ずかしい思い出。でも、とても大切な思い出。
「それじゃ、…お、おれと、いっしょにあそぶか?」
「ぇ?……うん!」
今泣いた鴉が何とやら、だ。女の子は満面に笑みを浮かべて俺の方に駆け寄ってくる。今思い出しても、 どきどきするくらい可愛かった。その子は。楽しかった。一緒に遊んでて、本当に楽しかった。

たまにしか遊んでなかったんだろうと思う。それでも、その時は、すっげえ楽しかった…
「なまえは?」
「………」
なのに、その子の名前が、夢では聞こえない…

その子から、『もう会えない』と聞かされた。嫌だった。何かが爆発しそうだった。
その時の俺はガキだったから、「悲しい」とか「寂しい」とか、語彙がなくてそこまでさえも感じられなかったんだろうけど、今思い返せば、初恋の終わりみたいな、そんな辛さもあったんじゃないかと思う。

唐突に、俺は目の前のその子に叫んでた。
「おまえ、おれとけっこんしろ!」
「えっ?……」
俺は、昔から突拍子もない言動が多かったと思う。傍から見て、意味不明なことも多かっただろう。
でも、その時の俺は、「一緒にいたい」という言葉より先に、その子にプロポーズしてた。マセてたとかいう以前に、「好き=結婚」という子供じみた短絡的な思考をストレートに表現したんだろう。
ほら、誰でも小学生とかの頃って、好きなやつ同士いたら「夫婦」だとか「結婚」だとか言ったろ?

…だけど、その子がどう返答したのか、何故か夢では、見えなくて…


「……!!」
夜中、ひとり目が覚めた。この一行の中で唯一の男である俺は離れの個室を宛がわれて眠っていたから、起き上がって辺りを見回しても誰もいない。がらんどうとした和室。静かな和室。
「ふぅ…懐かしい夢だな」
このところ、世界の終わりみたいな夢とか、知り合ってもない頃に霞に起こされる夢とか、乾いた現実味の夢が多かったが、こういう昔の夢はここ暫く見なかったと思う。まあ、純夏とナニしちまうような生っぽい夢よりは、まだ…
(って、それ思い出すのはやめだ! ったく…)
俺の息子は、俺以上に正直な奴だ。全く…このままじゃ寝苦しいだろうし、ちょっと部屋が暑い気がするんで体を涼めに部屋の外へ出ることにした。
「うー、寒みぃ…流石に浴衣と上着だけじゃ、夜は寒い季節かもな」
涼むどころか冷え切りそうな夜気の中、俺は木造の廊下をゆっくり歩いていく。暗い中に朧げに浮かぶ山肌や木々を眺めながら、上空の月を眺める。ちょっと山を越えただけなのに、柊町で見る月より ずっと綺麗に見える。不思議なもんだ。日本人の風雅を愛でる心ってやつか。

縁側に行くと先客がいた。いつもの白い寝巻着姿の冥夜。縁側に出て、立ったまま月を見上げていた。 俺に気づくと、見上げていた月の方から俺に向き直って微笑みかける。こいつ、美人だったんだな。
「どうした、タケル…? 眠れないのか?」
俺は突っ掛けに足を入れて、冥夜の方に歩み寄っていく。忘れて久しい足触り。
「ああ、いや、ちょっと…夢を見てて、目が覚めた」
「な!…怖い夢でも見たか? それなら私が添い寝して、朝までそなたの安眠を見守ろうぞ」
大真面目な顔して力強く応じる冥夜が、なぜか妙に可愛く見えた。
「あ、いや…そういうんじゃなくて、昔の懐かしい夢だ」
「懐かしい夢、か?……それで目が醒める、というのはよく分からぬ」
「んー、そうだな…多分、ガキの頃に好きだった女の子が出てきて、その子に俺、プロポーズなんか、 しちまって…柄にもなく、どきどきしたりしたんだろうな。多分」
「・……」

俺の言葉に耳を傾ける冥夜の顔は、穏やかだけど微笑んでいるようにも、悲しみとか寂しさを抑えているようにも見えた。思えば、彼女はいつだって俺には真剣に接してくれてる気がする。理由はよく分からないけど、俺を守ろうと奮闘しているらしい。しかし、何でそこまで俺に?
俺は頭に浮かんだ疑問をそのまま口にした。
「そういや…冥夜は、何で俺の家に押しかけて来たんだ?」
「あ、いや、それは……」
冥夜はもじもじして口篭り、俺と目を合わせようとしなくなった。何か言えない事があるんだな。
冥夜は正直な性格だな、ほんと。そこがまた、可愛いとこなんだけどな。
「何で、あんな物騒な戦術機やら月詠さんやらまで使って、俺を助けてくれるんだ?」
「あ、その、今は…今は、どうしても、言えぬ。すまない」

本当のことが知りたい俺は、ちょっと意地悪をすることにした。冥夜には悪いが。
「そっ、か…俺には、言えないか……俺って、そういう存在なんだな」
自嘲気味に呟いて踵を返そうとすると、冥夜は慌てて俺を呼び止める。
「ち、違う!……そなたを疎かにするなど、断じて! 寧ろ、そなたを…その……」
ほんと、正直者だな。すまん、冥夜。でも、そんなお前の反応はやっぱり嬉しい。俺は素直に足を止める。だが背中を向けたまま、冥夜の声を聞く。
「……」

不意に冥夜の声が真剣みを帯びる。覚悟を決めたのかもしれない。
「何と言えば…そなたは、私を信じてくれる?」
「え?」
俺は思わず振り返っていた。振り返って目にした冥夜は、穏やかで決然とした顔をしていた。
「タケル、もし、私とそなたが前世で夫婦だったと言えば…信じるか?」
「……?」
理屈の上で言えば「何言ってるんだよお前?」と言いたいところだが、この状況であれだけ決然として冗談を言う性格の冥夜ではない。多分、あいつだって、俺に冗談と思われる可能性を分かってて告白してるんだ。 そう俺には感じ取れた。
それに、冥夜といても不思議と不快な感じはない。大体俺は、自分と合わない人間を適当にあしらえる程大人じゃない。嫌な奴は嫌と言うし、会って数日で誰とでも馴染むほどの外交家でもない。そんな俺でも自然と冥夜のことが分かる。理屈じゃなくて分かるんだ。
…案外、冥夜が言ってることは本当じゃないのか?
「冥夜、それって……」

「冥夜様、それ以上は口の端に上げてはなりませぬ」
旅館の建物の陰から声がする。月詠さんだ。聞いていたのだろうか、或いは冥夜を見守っていたのか。全然気づかなかった…
「しかし、月詠、私は……」
俺には、この時の冥夜の表情がひどく痛切なものに思えた。無理をしている。言いたいことを我慢している。そんな顔だ。何故か、冥夜のことが自分の思っている以上に分かる気がしてきた。さっきの一言のせいだろうか。しかし、思考状態の俺は月詠さんの一喝で現実に戻された。
「冥夜様」
冥夜はあらゆるものを押し殺して、つとめて平然に言葉を返した。
「……分かった。タケル、すまない。私の戯言に付き合わせて。…私は先に休む。お休み」
冥夜は俺と目を合わせないようにしてその場を立ち去っていく。

追いかけようとする俺の前に月詠さんが立ちはだかる。その直立した姿には一分の隙もない。
「武様…貴方が冥夜様のことを少しでもお思いでしたら、どうか今はお留まり下さい」
「でも、それじゃあ、冥夜が…!」
俺が前に進もうとすると、その細身からは想像できない力強さで俺を抱きとめ、押し留める。
「冥夜様は御剣の全て、しいては人類の全てを背負っておいでの方。ご自分のエゴだけで行動する事は許されない立場なのです。今の私にはこれ以上は申せません。何卒、ご理解下さい」
あれだけの力を出しながらも、口調は勤めて冷静。月詠さんは俺が前に進もうとしても、怯まずその場に踏み止まり俺を捕らえて先に進ませない。本当、月詠さんは力が強い…

何も俺だって、月詠さんを足蹴にしてでも冥夜に真実を聞き出したい訳じゃない。俺は力を抜いてその場で立ち止まった。
「……すみません。俺、ちょっと、昂奮して…」
「私こそつい、ご無礼を。お許し下さい。それにしても、武様にもかような荒々しさが備わっておいでだとは…」
「あ、いや、ほんとすいません! 俺、昂奮しちまうと、見境なくなっちまって…」
大仰に頭を下げて詫びる俺に、月詠さんは笑顔で言葉を返す。
「うふふ、殿方はその位でないといけませんわ。……ましてや、冥夜様が御自らお守りになられると誓われた殿方ですもの」
「その辺の本当のこと…今は無理なんでしょうけど、いつか、教えてくれますか?」
「そうですわね…これからが大変な時期ですので確約は難しいですが、私個人の気持ちとしては然るべき時期にお教えできればと存じます」
「わかりました。有り難うございます。…俺も、もう寝ます。おやすみなさい」
「はい、お休みなさいませ」
縁側を離れる頃には、体も心も随分と落ち着いていた。
それから一眠りしたが、その時には 夢など見ることなくぐっすりと眠れた。

   *   *   *   *   *

西洋の豪奢なダンスホールを思わせる謁見の間で、漆黒のゴシックドレスと黒の華美な仮面に身を包んだ女性が足許に跪く二人の女性を見下ろし軽やかな口調で詰問する。
「…私、不恰好なものは好きではありませんの。それは重々ご存知ですわよね?」
跪く二人の女性は頭を上げることなく返答する。
「…はい。<御門武>なる戦術機の戦力、過小評価しておりました」
「…<獅子の頭>喪失、私達の不手際でございました。申し訳ございません、頼子様」
「それでも、結果として私がプリエとのコンタクトに成功したのですから、上出来でしょう」

涼しげな笑みを浮かべながら、頼子と呼ばれた女性は凛とした声で命じる。
「有紗さん……プリエの回収を最優先事項として継続進行願いますわ」
「はい、仰せのままに」
有紗と呼ばれた女性が頭を下げる。衣装の凝らされた絨毯に綺麗な黒の長髪が広がる。
「それから…葵さん」
「はい、頼子様」
「プリエ回収完了後、時が満ちます。我々はこの<第三の月(the third moon)>を天空へ打ち上げ、あれの力で地上で偽りに身を任せるものどもを全て焼き殺します。
…貴方は<the third moon>の起動に着手して下さいな」

思わず有紗が頭を上げ、頼子に対し進言する。
「!…ですが、<涼宮遙>はよろしいのですか?」
普段であれば不躾な反論としてお仕置き必至の状況であるが、頼子は手を上げることなく質問に答えた。口許に浮かべた薄笑いに、何処か恍惚としたものが感じられる。
「シオンがこちらの掌中にある現在、我々は世界の全てを掌握したも同然ですわ。涼宮遙の持つ<祝福>など、その上ではごくごく瑣末なもの…そうではありませんこと、有紗さん?」
その発言は、ある意味彼女にとって勝利宣言にも似た含みを持っていた。

   *   *   *   *   *

翌朝から、俺達はこの温泉旅館で戦術機の操縦・戦闘訓練をみっちり仕込まれることとなった。
「授業はどうするんスか?」という俺の質問は夕呼指令殿の「あんた、地球の一大事と自分の勉強を秤にかけるなんて、いい度胸ね」という回答により一蹴された。逃げ道なし、って訳だ。

そうなったら訓練に専念した方が何かといいだろう。
『白銀君、踏み込みが浅いわよ! この間の戦闘、もしかしてまぐれ?』
「ちっ、言わせとけば!」

ダムの建設予定地(のまま放置)である谷を利用して、俺たちの戦闘訓練が開始された。
今回は訓練なので、全員が練習機の<吹雪>2機を使ってペアで戦闘訓練に取り組んでいる。今、俺の相手をしているのは委員長。他の連中のような派手な特技・テクニックは見られないがどんな局面においても堅実かつ安定した技量で対処してくる。
コクピット形状自体は<吹雪>も<御門武>も大して変わらないが、操作入力してからのレスポンスは天と地ほど違う。何でこんなに重たいんだ?
『ほら、見て回避できるわよ。…もっと相手の動きを読んで!』
俺が懸命に操作して振るったブレードも、完全に見切られて紙一重で回避される。
『隙あり』
前に重心が移った俺の<吹雪>に対して委員長機の白虎双掌打が命中。って、回避しようにも入力を受け付けないんだよ! 俺が反応遅いのか、それとも<吹雪>が…?

>>つづく
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