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「俺が望むマブラヴ」〜私が渇望し、希求したマブラヴのかたち〜

第七章・後半

見渡す限りの砂の平原。空には雲ひとつない。不思議と暑さも寒さも感じない。
そんな無味乾燥に近い世界の中で、涼宮遙は白い飾り気のないブラウスだけを身に纏い立ち尽くしていた。
普段なら彼女が<祝福>と呼ばれる能力を使用し過ぎた場合に超現在的技術存在・シオンと同期を図り、この場所で様々な世界の中を言わば走馬灯のように垣間見るのだが、現在シオンとの同調は図れない為、ただ乾いた風景だけが彼女を包み込む。
(三年前の事故のときみたい…)
あの事故の時に見た風景はここまで明瞭ではなかったが、無味乾燥さ加減では今見ている景色と大差ない。

思えばあの時、交通事故に遭わなかったらこんな世界と接触することもなかっただろう。

初めて異世界を実体験のように触れることが出来てから、様々な世界を目にした。
或る時は自分が中世の王宮で家庭教師に対して我侭を言う王女であったり、或る時は小麦色の肌と純真な心を持つ遊牧民族の巫女であったり、そうかと思えば近未来の戦争の只中で機械を駆り足掻いている戦士であったり、故郷を離れ遠く母星を偲ぶ母親の姿であったり。

それらが自分自身と生命の連環を為すものなのかそうでないのか、彼女には判別がつかない。
ただ、目の前の世界と人々を感じ、慈しみ、受け入れてゆく。その繰り返しの中で彼女の中の<祝福>と彼女が本来生きている世界への愛情が膨らんでいくのは感じる。
今まで目にしてきたそんな風景も、今日は見えない。

…不意に風の音と薫りを感じた。懐かしい暑い日差し。海と風と、優しい思い出の薫り。
遙の素足を海水が浚い、海面に照り返す眩しさが目に差し込む。振り返ると同時の抱擁。視界の隅にはあの病院。温かくて大きくて、優しい『彼』の抱擁を感じて、遙は胸が一杯になる。
ほんの少し背伸びをして、甘く、優しく、唇を突き出す…


「ぁ……んっ!!」
遙の顔を覗き込むようにしてみていた水月は、自分の唇に遙のそれが触れてしまい数瞬の間硬直していたが、遙の舌が絡みつきそうになったところで漸く仰け反った。
「ん、は…ぁ、あ、み、水月!?」
切なげに薄目を開き、唇から離れていくものを見定めようと目を開いた途端、驚き慌てる遙。
「え、な、なんで水月なのぉ〜? ひどいよ、水月ぃ」
「なっ、なんでって……何馬鹿なこと言ってんのよ! あんたが勝手に近づいてきたんでしょーが!」

気の抜けそうな掛け合いを傍目に、猛は遙の手を握り倒れこんだ孝之の肩に手をかける。
「ま、とりあえずは『調律』成功ってとこか…
God's in his heaven,all's right with the world.//Log out」
抑揚をつけた猛の台詞によってか、猛が肩を持って抱えあげても微動だにしなかった孝之が意識を取り戻す。
「ん、ああ…悪いな、最後(ログアウト)を任せて」
「結果は、見ての通りだが…あれで成功、と捉えていいのか?(^^;」
猛が顎をしゃくった方向を孝之が見る、と…

「全く、あんたは肝心なとこでボケてるんだから!」
「ボケてないもん、水月が顔を出してるから、その、孝之くんと、間違えて…」
「あのねぇ…そういうのを『色ボケ』って言うのよ! ほんっと、遙は年中お惚気でいいわねぇ〜」
水月が軽くジト目で孝之を見やる。さっき再会した瞬間見せた重苦しい表情がなく、昔の気軽につるんで馬鹿やれそうな、あの頃の水月のジト目。
「孝之ぃ、遙とは随分お楽しみのようねぇ〜♪」
孝之は言葉に詰まってか、何も即答できずにいた。
「あー、ゴホン。……仲睦まじくお楽しみのところ悪いが、いい加減真面目な話をしてもいいか?」
猛の割り込みに一同注目する。先程の和やかな雰囲気を少し残しつつも、話を聞く態勢は整えようとしてる。 それを見取って猛は話を続けた。カーテンの隙間から夕日が射し込む。
「孝之さんよ、あんたが訊きたいのは『俺のあの世界での役割』か?…『オルタネイティブ4が失敗した世界の行く末』か? それとも…<楽園の蛇>と涼宮姉妹の関係か?」
彼の提示する質問に、孝之と遙は思わず息を呑んだ。

   *   *   *   *   *

地上に出た俺と<御門武>の視界に入ったのは、鎧武者を思わせる三機の戦術機。連中はあと十秒もあれば接敵するような距離にまで近づいていた。やべ、コーヒー牛乳で余裕かましてる場合じゃなかった。
『作戦を手短に説明するわ。
御剣、白銀両機は前進して近接戦。榊、彩峰両機は基地防衛しつつ射撃にて 前衛両機を援護。以後、戦況に応じて臨機応変に。但し伏兵の可能性もあるため本訓練場から離れないように。以上』
軍服の(立ち直った)まりもちゃんが毅然と命令を下す。失礼かもしんないけど、マジで軍人?
『タケル、私はこのまま左舷から敵に切り込む。そなたは右舷を』
…その通信と同時に開いた画面を見て俺は目を見張った。何だよそのエロいスーツは!どう見たって胴の前側透け透けじゃねぇかよ。わ、冥夜も結構でかいな…で、下の方も見えちゃったりして。

っと、今はそっちに心血注いでる場合じゃない。落ち着け、落ち着け…
『タケルちゃん、目がやらしーよ』
うっせー、的確なタイミングの通信入れてツッコむな。

っと、敵さんは…綺麗に三角陣形か。相手がどう出るか分からないけど、まずは先頭にいる一機に切り込むとすっか!
「そんじゃま、いっちょ行くか」
俺は操縦桿を握り締め力強く捌く。<御門武>は軽快な飛翔で右上弦(相手から見りゃ左上舷だが)に飛び上がり先頭の機影に肉薄していく。思ってるより移動が早い、この機体。剣を構えて…

『タケル、先行し過ぎだ! 地上からの足止めが来るぞ!』
いつの間にか随分下に待ち構える<武御雷>から通信。冥夜の通信と同時に何発かの対空射撃が俺の周囲 に遠慮なく降り注ぐ。っと、回避回避回避…弾と弾の間を擦り抜ける様に回転降下をし、冥夜が待つ高度辺りにまで素早く戻る。
『白銀君、敵が散開したわ、高度を上げて応戦して!』
『タケル、背後1機! …こちらにもか。武御雷、我ら演舞の時ぞ!』
おいおい、一度に言うな。とりあえず背後の一機に、一振りっ! 重い手応えに剣が止められる。
錫杖型の武器が<御門武>の剣を受け止めて、俺と相手の目の前で火花を散らしている。
「流石にアニメみたく一撃って訳にはいかないか…」

『お前が白銀武…神無木に仇為す愚か者。<蛇の尾>、行きます』
音声通信が入る。続いて画像。漆黒の操縦席の中に映える衛士の姿。長髪の女。しかし女の首に巻かれた 黒光りする円環、それが異様な存在感と威圧感を俺に与える。何考えてんだよ、こいつ?
錫杖が思い切り剣と<御門武>を押し返す。軽いノックバックを受けるが俺は怯まず踏み込み斬りかかる。
「つっ! 何だよ、お前…」
『……』
俺は構わず前進を続け相手に斬りかかる。右斬り、受け流し、左斬り、受け流し。
俺が想像してる以上の反応速度で攻撃しているにも関わらず相手は錫杖で何とか受け流してる。スピードではこっちが上らしい、なら…試してみるか。

『…ン?』
俺は手持ちの剣<チェンガン>に銃弾を篭める(って、こんなとこだけ手動かよ)。篭めた傍から速射。一秒で二、三発ってとこか。当たろうが当たるまいがこいつはどうでもいい。
『その程度の威力の射撃など…見え透いたことを』 止まってる、馬鹿め。少しブレたように左右に揺り動いてから…フットペダルを踏み加速。<御門武>の頭上に光輪が力強く瞬く。さらに踏み込んで加速。数瞬コクピット周囲の風景が消えた。
次の瞬間には相手の背後に到着。俺にはまるでワープしたような感じだ。弾を打ってそっちに注意を向けた上で回り込みをかけようとは思ったが、実際の<御門武>の動きが速過ぎて俺の視覚が移動に追い着けないような錯覚を覚えた。っと、まだ敵が動いてないうちにっ!
「どこ見てんだよ!」
叫びながら容赦なく敵の右腕を肩から斬り裂く。漸く敵機が振り返る。続いて頭も斬り落とす。
敵も錫杖で俺を殴ろうとするが、俺は操縦桿を力任せに振り動かし錫杖ごと敵機を足蹴にする。足蹴にした勢いで<御門武>を空中で宙返りさせる。一回転して敵を正面に捕らえなおした時には、敵は俺に背を向けて退避し始めていた。逃がすかよ!

『白銀機、深追いはするな。目的は飽くまでも撃退だ』
追撃に逸る俺をまりもちゃんからの音声通話が制止する。しっかし別人みたいだな、音声だけだと。
「他の連中はどうなってるんだ?」
『…だからぁ、私は貴方の上官であって…ぶつぶつ』
「いやだから、そこでしょ気られても…何と呼べば良いのでしょう、神宮司指揮官殿?」
これ以上機嫌を損ねられると敵わん。実戦の真っ最中なんだしな。
『え、なあに、白銀くん!』
つーかあんたも呼び方一つで露骨に元気になるな。まあ、いっか。
「俺はどの敵に向かえばいいんスか?」
『そうね、地上の榊・彩峰両機のフォローに回って…御剣機は現状五分ってところ』
「了解!」
俺はフットペダルを思い切り踏んで<御門武>を地上へ駆り立てる。…面白くなってきたぜ。

   *   *   *   *   *

温泉旅館・宴会場に設置された司令室の投影モニタでは、各機の状況が画面分割によって表示されている。
次々と切り替わる画面と、膝元のノートPCに展開したコンソール画面の両方に忙しなく目を走らせながら神宮司まりもはてきぱきと各機に指示を出す。霞は横に直立してまりもをサポートしている。
ただ、白銀機<御門武>に対してのみ指示は出さず動向を観察するに留めていた。

(何、この動き…!? これで、本当に2回目の操縦だっていうわけ?)
彼女の情報網では<御門武>が未確認戦術機であったため、機体の性能は未知数。しかし未知数の機体であれ数少ない操縦機会で十分それを使いこなすに至っている武の手腕には驚嘆せざるを得ない。
しかし見蕩れている訳にもいかない。
「榊、彩峰両機、もっと位置合わせて!お互い歩調がズレて敵に付け入られてる!」
指示しながら手元のコンソールの操作が忙しくなる。それでいて画面にも目を流す。
「御剣機、できればもう少し高度を上げて戦闘に持ち込んで」
「彩峰機、間合いを詰めるな!<吹雪>は近接戦専用機ではない!」
「榊機! 彩峰機のフォロー! ちゃんと歩調を合わせて」
時折霞が画面を指指したりしてフォローする。慌しさの中でもまりもは霞のフォローサインを見落とさな い。見事な連携。一朝一夕のコンビネーションではないようだ。
後方で控える純夏と壬姫は、ただ魅入っているだけしかできない。
「……すごいね、先生」
「まりも先生もすごいけど、タケルさんもすごいよ…」

そう、他の三機と違って武の<御門武>は明らかに敵を圧倒している。
斬撃に次ぐ斬撃。敵は防戦一方。 <御門武>だけがまるで熟練兵の如き振る舞いだった。まりもの指示の必要は現状ないだろう。
画面が切り替わると<御門武>の機影が消える。次の瞬間敵機(通称<百人隊>)の背後から果敢に斬りかかる <御門武>。シーンの断片断片を切り出して編集したかのような光景。次に映し出された場面では敵機の右腕と頭 部が切り落とされている。
他の戦闘場面が比較的滑らかな映像として投影されているので、同様のフレーム速度でのこととすれば尋常でない速度の出来事だ。
(これ、本当にタケルちゃんなの…?)

とくん。
たった一回の強い鼓動。浮かび上がる不気味な満月。夕暮れの瓦屋根。その中央に立つ姿。
不意の鼓動と浮かんだ映像に純夏は寒気を感じた。壬姫が横から覗き込むように様子を窺う。
「どうしたの、純夏ちゃん? 寒い?」
「え、あ、うん…寒い、の、かな?」
正直よく分からない。咄嗟に純夏はそう答えていた。
「えーと、ちょっと待ってて。掛けるもの、取ってくるよ」
「ごめん、壬姫ちゃん」
壬姫は耳と尻尾を振り振り部屋の隅の押入れへ歩いていく。時々本当に生えてるかの様な動きをする耳と尻尾。 少し溜息をついてその姿を見送る純夏。今の妙な鼓動は、ただの湯冷めだろうか。

どくん。
不快感を伴う強い鼓動。満月を背にした白い姿、漆黒の長髪、それを束ねる、黄色い…
唇が動く。何か囁く。聞こえない声、感じる声。呼んでいる。ワタシが。わたしを。
「!!」
(初めまして…かしら? やーっと会えた)
宴会場を見回す。小さな体で頑張って毛布を引き出そうとして奮闘してる壬姫。慌しくコンソールと映写モニタ を見回して細かく指示を叫ぶまりもと横に立って彼女の補佐を勤める霞。他には、誰もいない。
(あっはははっ…いないいない、流石に『そこまで』入らせて貰えないわよ)
自分のものではない、自分の声。微妙に低いその声が純夏の耳には嫌な響きを含んで聞こえる。自然と顔が険しく なる。すると見透かしたように声が返ってくる。嘲い声交じりの、いちばん耳にしたくない声。
(ふふふ…そんな毛嫌いすることもないでしょ? ワタシはあなた、『鏡のなかの鑑純夏』、だもの)

黒髪の純夏が冷たく笑う。夕暮れの空の下、山間の温泉旅館を足元に臨んで。

(第七章・おわり)
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