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「俺が望むマブラヴ」〜私が渇望し、希求したマブラヴのかたち〜

第五章・後半

まりもと霞が洋館の地下に保管されている端末・シオンに到着した時、地下室の天井にまで到達していた <無花果>の触手は一瞬で消滅した。地上の作戦は成功したらしい。
「シオンの最終処理は、ぎりぎりで必要なくなった…か」
ふぅ、と大袈裟な溜息をつくまりも。霞の方は特に感情を見せずちょこんと可愛らしく立っている。ただ、 視線だけはシオンのコンソールに映し出されている情報を終始追いかけている。
「どう、社? …何かシオンに変わりでもある?」
これだけの緊急事態がシオン自体に迫ったので、万が一を考慮して尋ねる。不意に霞のウサ耳アクセサリー がぴょこん、と跳ね上がった。まるで本物の耳のようだ。
「なに、社?」
「……プリエのコード」
言われてまりもがコンソールに目を走らせると、夥しい文字と記号の羅列がコンソール上で踊っている。 これが何を意味するかまりもにも大雑把には分かるが、コードの意味を完全に解読できる存在は現在のとこ ろ霞以外にはいない。そのため、まりもも「最終処理」実行のためにこの危地に霞を連れて来ざるを得なかったのだが、まさかそれ以上に霞が必要な事態が発生するとは…
「社、データのバックアップは出来る?」
「……実行中です。でも、目で追える範囲だけ」
「そう。…続けて」
言いながらまりももコンソール上のコードを流し読みする。やがて彼女の中で流し読みしたコードの意味をつなげて解読していくにつれ、その意味が朧げながらも掴め始めてきた「プリエ」の「コード」とは…
(ちょっと、これって、もしかして!)
まりもがそのコードの大雑把な意味に気付いた瞬間、コンソールの画面にはいつも通りのステータス表示が表示されていた。どうやら考えているうちに後半のコードを読み漏らしていたらしい。しかしそれでも、 彼女の推測が正しければこれは今までシオンが彼女等に齎してきた情報のどれよりも重要なものかも知れない。
「社、バックアップは終わった?」
「……はい」
何時の間にか霞のウサ耳はいつもの少し垂れ下がっていた位置に戻っていた。
「とりあえず、夕呼に報告ね…これは」 まりもと霞は、シオンと呼んだコンピュータ様のオブジェクトに背を向けて洋館を出ることにした。


まりもと霞が洋館を出る頃。 武たち三人は非常通路奥のエレベーターに乗って起動スイッチを入れ、エレベーターの上昇を開始していた。
「ふぅ、今度のエレベーターは随分余裕があるよな…」
俺は少しばかり息を荒らげてエレベーターの床にへたり込んだ。流石に普段運動してないのに全力ダッシュはきついぜ。純夏も膝に手をついて立ってるのがやっとという様子で、息を切らせている。平然としているのは冥夜だけ。
「そなた達…あの程度の運動で息が切れるとは、鍛錬が足りぬぞ」
いや、確かに、ご尤も。俺も流石にこの程度で息が切れちまうなんて思ってなかったよ…
十回ほど大きな呼吸を繰り返した頃、エレベーターが停止した。どうやらここが目的地らしい。フロア表示はえーと…B1?何だ、地上近くまでもう上がったのか。このエレベーターは随分速いな。
「も、もう…着いたんだね…わたし、息が切れちゃったよ…」
「俺たち、マジで運動不足なのかもな…純夏?」
「そうだね…」
俺達が情けない会話を交わしているうちに、冥夜がエレベーターのドアを開く。微かな開閉音の後、自動ドアが開いて目の前に見慣れた通路が開けた。俺達はその見慣れた通路へ踏み出していった。
「なあ、この通路って、確か…」
「うん、ここって…学園の廊下、だよね?」
「…そうか、言われてみれば、確かに」
見慣れたリノリウムの廊下に、俺たちの声と足音が響き渡る。
「しかし、何で白陵柊と『すかいてんぷる』があんな洋館と地下通路で繋がってるんだ?」
「神宮司教諭の言っていた、シオンというものが何か関係あるのだろう。そのシオンが如何なるものかは分からぬが、重要なものなのだろう」
そこで俺は、違和感に気付いた。どうして今まで何も思わなかったのだろう。俺は今ここで、その違和感の正体について素直に尋ねることにした。
「……なあ、冥夜」
「なんだ、タケル?」
「…お前、まりもちゃんの正体とか、敵の正体とか、知ってそうな口ぶりだな。お前何で知ってるんだよ?」
「あ、ほんとだ。そう言えば御剣さん、『すかいてんぷる』でも…」
って純夏、まさかお前、今の今まで全く気付いてなかったんじゃねえだろうな。
「…タケルちゃん、今『わたしが今の今まで御剣さんの態度に疑問を抱かなかったのか』って思ってたでしょ。 失礼だなー、流石にわたしもうすうすは感づいてたよ」
一言も言ってないのにそこまで俺の考えを読めるとは、流石幼馴染み。流石に俺もその辺ははぐらかす。
「いや、何も言ってないだろ……で、どうなんだ、冥夜?」
「あ、ああ、その事か……それは、その…」
珍しく冥夜が口篭もる。いつでもはっきりものを言うやつだと思っていただけに、その仕草が妙に可愛らしく 見えた。まあ、口篭もるって時点で何か知ってることは明らかなんだが…
「何だ、どうしたんだ? 遠慮するな、俺とお前の仲だろ?」
ちょっと馴れ馴れしい感じで肩を組み、話の先を促す。すると冥夜は頬を赤らめ、軽くいやいやの仕草を見せて 返答に窮している。くー、何か可愛いぞ、こいつぅ。
「あ、いや、知らないとまでは言わないが…しかし、知ってるというよりは、その…」
「タケルちゃん、何かセクハラっぽいよ…」
純夏が後ろで呆れてるみたいだが、とりあえず俺は事実(あるいは真実)を知りたいんだよ。身柄を拘束されてみたり、綺麗な水月お姉さんに追い回されたり(少し嬉しいような…ってそうじゃない!)してるんだ、それ くらいは知る権利があるじゃろ? なあ、純夏君?
「な、な、教えてくれよ…そうか、冥夜は俺には何も教えられないのか……はぁ」
俺はわざと大袈裟に溜息をついて、がっくり跪いてみせる。冥夜は慌てて取り繕う。
「な!…そ、そのような、決して私がタケルを蔑ろにするなどという気持ちは全く無い!信じて欲しい…」
「タケルちゃん、もうやめなよ…御剣さん、困ってるじゃない」
「いや、俺は事実が聞きたいだけなんだが…」

「なーに、白銀? またあんた、女泣かせてるわけぇ〜?」

こ、この声は…声のした方、通路の先を見やる。白衣の女性、香月夕呼先生が悠然と立ち構えていた。
「白銀ぇ〜、な〜に御剣泣かせて遊んでるのよ、この女たらし」
心なしか、純夏と冥夜の俺を見る眼が険しくなってるような気がするんですが。いやだから、お前らが考えてるような事実はない。俺はいつだって悪者ですか、そうですか。じゃなくて…
「先生、違うって。俺は今起こってる事について、本当の事を知りたくて…」
「だからって、御剣にセクハラ紛いの質問はねぇ〜、鑑、どう思う〜?」
楽しそうに純夏に話を振る。ってだから、よりによって純夏を煽らないでくれ。後で痛い目にあうの俺なんだから…
「え、あ、わ、わたし!? タケルちゃんは好きなコには、いっつもやらしー感じだと思います。中学生の時の…」
「わー! お前も余計なこと言うな! じゃなくて先生、なんでこんな所に?」
危ない危ない。恥ずかしい若気の至りを純夏にぶちかまされるところだった。流石にアレをばらされるとマズい。 先生は相変わらず俺を値踏みするような視線で眺めて答える。
「それはあたしの台詞でしょうが……ふむ、まあいいわ。あんた達からも聞きたいことがあるし」
そこで背後のエレベーターのドアが開いて、まりもちゃんと霞が戻ってきた。随分速くないか、二人とも。
「あー、まりも、丁度いいとこに帰ってきたわね。このコ等と一緒に緊急会議開くわ。珠瀬チームにも連絡取って、 あそこの予約とってくんない?」
「夕呼…それどころじゃないわよ、さっき…」
慌てて夕呼先生に近づいて耳打ちするまりもちゃん。聞きつづける夕呼先生の目の色が段々と真剣みを帯びてくる。 耳打ちが終わったところで、二人は周りに聞こえないよう小声で相談を始める。

「ちょっと、それ…最高機密レベルの内容よ、下手すると」
「分かってるわよ、私だって……こんな話、この子達に伝えていいの?」
「私でも判断する権限なんて無いわよ、そんなの。とりあえず、それは抜きにしても今後はあの子達に説明なしで作戦を続行する訳にもいかないでしょ…場所の予約、取っといて」
「ええ…今回の件の報告は後でメールするわ」
「じゃ、よろしく、まりも」
二人の密談が終わると、まりもちゃんは一人で足早に階上へと上がっていった。何だか気が重そうな足取り…
うわー、中間管理職の哀愁が漂ってきそうな感じ。実はまりもちゃんって、夕呼先生のパシリ?

「白銀…そんな、思いっきり可哀想なものを見る目つきでまりもを見てやるな」
いや、そんなつもりはないんですけどね…本当に。
「まあ、お前の聞きたいことは大体分かってるつもりだ。それについてはこの後、場所を変えてゆっくりと説明 する、それで構わんだろう?」
そんな堂々とした態度で尋ねられたら、俺には嫌といえないじゃないですか、先生…
「って、この場ですぐに教えてもらうって訳には、いかないんですか?」
「お前に事情を説明するだけのために、わざわざ私を拘束するつもりか?白銀ぇ〜、偉くなったな、お前も」
怖っ!めちゃくちゃ俺、睨まれてますよ?いや、俺はただ、この場で口頭で言えるようなことがあったら教えて欲しいな〜、って思って聞いただけですよ?
「い、いや、そんなつもりは…」
「よろしい。んじゃ、明日朝に迎えを寄越すから、2、3泊する準備して待ってるように。あー、鑑と御剣も一緒に」
「はぁ? 何すかそりゃ?」
「……うるさい。黙って言われたとおりにする!」
「はい…」
蛇に睨まれた蛙。今の俺の立場を一言で的確に表現するならこれに尽きる。って、泊まりじゃないと聞けないほどたんまり話を聞かされる訳ですか…とほほ。つーか何処に泊まるんだよ、そもそも。
「あー、そうそう。御剣の侍従の…月詠、だったかしら? 彼女にもこの件、連絡しといたから」
はやっ! いつの間に…つーか最初からそのつもりで、俺たちをここに来れるよう誘導してたんじゃないのか、実は。 あ、今、「ふっ…」って感じで笑った。図星ですか、図星なんですね、先生?

   *   *   *   *   *

その日の宵、涼宮邸。不意に玄関のチャイムが鳴り響く。
「お姉ちゃ〜ん、出てきてよ〜。今手が離せないからー」
「はーい。…茜ったら、どうせゲームの途中なんだよね。仕方ないなぁ。えっと、どなた…! 孝之くん?」
姉・遙が玄関で見つけた来客は彼女が一番良く知っている人、鳴海孝之であった。バイト先の制服に身を包んではいるが、その服は煤や血や塵に塗れてひどく汚れていた。そういえば、昼間見かけた<無花果>が向かっていた先は 彼のバイト先=『すかいてんぷる』。まさか、あれと水月に関連が…
「孝之くん、大丈夫!?」
遙は自分の服が汚れることも構わず襤褸切れのようになった孝之を抱き起こした。彼女の髪から昼間見たような燐光が放たれる。その光が数秒の間明滅していたかと思えば、襤褸切れ状態の孝之が何とか目を開いて遙の顔を見上げる。
「あ、ああ……遙、ただいま」
搾り出すようにして出された返答は弱々しく頼りない。顔を見ても無理して笑っているのが見え見えだ。それでも遙 は普段通りのおっとり口調で尋ねる。煤や血や塵が彼に刻み込んだ出来事を、子供の寝物語に置き換えるように。
「孝之くん、何かあったの?」
「いや…バイト先にさ、その……水月と、よく分からん取り巻きのような連中が来て、俺を拉致るとか何とか、物騒 な話になったんで、必死に逃げてきた。こういうの、職場放棄っつーのかな……ははは」
遙は孝之を胸に抱く状態から膝枕に移し変え、掌でゆっくりと頭を撫でてやる。
「もう、大丈夫だよ…大丈夫だから、孝之くんは、ゆっくり休んで……」
孝之は言われるがままに目を閉じ、すぐに眠りに落ちていった。その時丁度茜が玄関に下りてくる。
「…お姉ちゃん! お兄ちゃん、大丈夫なの!?」
孝之を起こさないように抱き上げ、優しく茜に譲り渡す。茜は軽々と孝之を両手に抱きかかえて涼宮邸へと運び込んで いく。遙も後ろから孝之を見守るように茜に付き添う。
「うん……でも、水月がここに来るよ。多分、わたしに用だと思う」
「姉さんに用って…どうして!? お兄ちゃんを取り返すため?」
思わず茜は立ち止まって声を荒らげてしまう。遙はそっと人差し指を唇に添えて静かにするよう促し、小さな声で答える。
「ううん…きっと、わたしが邪魔なんだよ。水月にとっても、<anguis>にとっても」
「そんな! お姉ちゃん、だって…」
遙は静かに軽く首を横に何度か振り、茜の言葉を静かに遮る。
「今はそれより……孝之くん運ぶの、手伝って?」

   *   *   *   *   *

『すかいてんぷる』周辺の戦闘行為が原因で未だ騒乱の最中にある橘町をあるビルの一角から悠然と見守る姿があった。 夜の帳が町を包まんとするその中で彼女が纏う純白のゴシックなドレスは、歪な優雅さを体現している。おまけに夜だと言うの純白の日傘をわざわざ差している。
不意に彼女の背後へお下げの娘が歩み寄ってくる。眼鏡の奥の瞳にゴシックのドレス姿はどう映っているのだろうか。
「…随分時間がかかりましたのね。私、待たされるのはあまり好みではありませんの」
「申し訳ありません……ザイオンへの入り口が幾重にも閉ざされておりました」
「それは折込済みとして、貴方にお願いしましたわよね」
穏やかな口調ながらも、それを口にする人物の仕草や微妙なイントネーションに含まれる有形無形の刺がお下げの娘には感じられた。それでも自分の首に下げられた頑丈なチョーカーに誓って娘は反駁を抑えた。容赦なく冷ややかな笑みが白いドレスから漏れる。
「ふふふ……まあ、それはいいでしょう。ここに戻ってきたのだから、私にお土産があると期待してよろしいのね?」
「はい、これ以上ないお土産かと……」
ここで漸く娘は運んできた漆黒の棺に手をかけた。重く冷たい棺の蓋を娘が一人で力一杯開く。数寸、また数寸と蓋が開き 中に横たわる亡骸----だろうか、或は生きたまま棺に納められているのか----の姿が宵闇の中に晒されていく。
「…哀れなエミールの伴侶の姿、是非ともこの目で直に」
純白の女性は冷たい微笑を浮かべて棺の中を眺める。優雅な物腰は崩していないながらも瞳の奥には底知れぬ輝きが潜む。 数刻の後棺の蓋が完全に取り除かれると、純白に身を包んだ女性からは「まあ」という短い感嘆の台詞が、お下げの娘の口 からは声にならない驚きと呻きが漏れつづけていた。
「…え、あ……か…」
棺から見えたその姿は、漆黒の棺に溶け込んだ、漆黒の長髪を持つ全裸の少女であった。娘には見覚えのある少女。 いや、他人の空似ではないだろうか。何故ならその少女の顔は、余りにも娘が知る少女とは懸け離れた生気の失われた顔で あったから。
先刻目にしたばかりの『彼女』が棺の中で黒髪を抱いて横たわっているはずがない。有り得ない。そんな筈は…
「これが、シオンの描きしプリエの姿ですのね……ねえ?」
幾重にもフリルを備えた純白の日傘が女性の手から風に奪われる。その白さの流れ落ちる先には半ば廃墟と化した『すかいてんぷる』の残骸が無残にも浮かび上がっていた。

(第五章・おわり)
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