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「俺が望むマブラヴ」〜私が渇望し、希求したマブラヴのかたち〜

第五章・前半

「どうしたんだ?もっと速い筈だぞ。 頭で考えるんじゃない…知るんだ」

『マトリックス』モーフィアスの台詞(吹替)

   *   *   *   *   *


暫くの間暗闇の中を滑り降りていた4人乗りの窮屈なエレベーターだが、漸く光のある広い場所へと降り立った。
「ふぅ〜、やっと着いたな…」
俺は開放された空間に出られた拍子に、首を左右に捻ったり背伸びをしたりした。そして目の前に浮かび上がったものに思わず口笛を吹いてしまう。おいおいおいおい、深い地下に照らし出される洋館だなんて冗談にも程があるぞ。
どこぞのホラーゲームの南極でないと拝めないような光景だぞ、これ。
「何でこんなものが『すかいてんぷる』の地下に建ってるのかなぁ?」
「分からぬ…少なくともファミレスの施設とは関係ないように見えるが…」
「なあ、霞……これって何なんだ?」
答えはない。ただ、洋館を遠巻きに見つめて立っている。
「あそこに逃げろってことなのか、俺たちを此処に連れてきたのは?」
ふるふる。洋館を見つめたまま霞は首を横に振る。ってことは、まだどっかに移動するってことか。
「じゃあ、こっからどこかに逃げないマズいってことか?」

「そこから先は私が答えるわ」

館の方から人影がこっちに向かってくる。この声は確か…
「って、何でここにまりもちゃんがいるんだよ?」
証明ではっきり相手が確認できる位置で見えたのは、見慣れない濃紺の制服に身を包んだ俺たちの担任、 神宮司まりもその人だった。いや、確かにコスプレ趣味みたいなとこはあったと記憶してるが、この状況であの格好ってことは、どっかの軍服か何かだろうか。
「ふぅ…よりによって、ここに社と白銀君達が一緒にいるなんてね。まあ、いいわ。兎に角現状のままだと、ここは長く持たないわ。みんな、館正面向かって左奥に非常通路があるから、そこから逃げなさい。 私は社とあの館の最終処理を実行します」
そう言い切る彼女に普段の気さくな感じは微塵も感じられず、平然と任務をこなす軍人のような表情が浮かんでいた。まさか、本当に軍人なのか?
「って、自分で危険な場所と言っといて、何で自分は霞とそこに行くんだよ? ヤバいんだろ?」
「確かに、私たちだけ逃げて神宮司教諭を危険な目に遭わせるというのは合点が行かぬ」
俺達がそう言っても、まりもちゃんには動揺した様子も決意を翻す様子も無い。ただ静かに言葉を返す。
「貴方達の無事が最優先です。早く、逃げなさい」
「でも、そしたらまりもちゃんが…!」
俺は彼女の手を引いて一緒に逃げようとした。だがまりもちゃんは俺の手を跳ね除けて拒絶した。
「私がどうなるか、より貴方達がどうなるか、の方が重要なのよ。今、この世界ではね。 これ以上は私の口からでも言えることじゃないし、今貴方達が知るべきことでもないわ。
分かったら早く逃げなさい、これは命令よ」
「何だよそれ、全然訳分かんねぇよ!」
俺の絶叫に対しても返答は無い。ったく、訳も分からずに命令に従えってのかよ…
地下空洞が地響きを立て揺れて、小さな石ころが幾つか天井から降ってくる。時間が無い…

   *   *   *   *   *

(以下、暗号化通信を傍受した記録のため、一部音声が途切れている)

「はい、速瀬…」
『彼らのエスコートには失敗したようですね、水月さん…?』
「…申し訳ありません、**様」
『その名前は、……約束ですよ? ふふふ…まあ、いいでしょう。今般の「すかいてんぷる」 襲撃で、色々と興味深い情報が手に入りました』
「と、言いますと?」
『あなた、***さん…(ノイズにより判読不可)』
「ええ、確かに…」
『白銀武君のことよりも***の存在の方が計画に重大な影響を及ぼすことが判明しました。水月さん、 貴女は**をマークして下さい。必要であれば……「堕としても」構いません』
「………」

二呼吸ほどの間を置いて。
『水月さん、早速現地に向かってください。帰還する必要はありません』
「……はい、了解しました」
『それでは。……真実のままに…』
「……」
通信の最後には、水月と呼ばれた女性の深い溜息が記録されて終わっている。

   *   *   *   *   *

「何だよそれ、全然訳分かんねぇよ!」
地下の広い空洞に、俺の叫びが木霊する。それでもまりもちゃんは動じた様子も無く平然と繰り返す。 地下空洞全体が揺れ始めている。このままだと崩落を始めるのかも知れない。

「じゃあ聞くわ、白銀君。 あなたが仮にこの世界で起こっている全ての出来事を『知って』いたとして、そこで生じる問題を全てあなた自身の手で対処できると思う?」

「……」
普段では見ることの出来ないまりもちゃんの、有無を言わさない質問に俺は即答できなかった。いや、 その質問の答えが仮にわかっていたとしても、音にして口から出ることは無かっただろう。
「あなたには選ぶ義務があるわ。一度だけではなく、何度も、重要な、後戻りの許されない選択を。
その度に目の前で起こる出来事にいちいち感情的になって、後で待っているかも知れない大切なもの を見落とすつもり?」
「……」
「私の言っていることが少しでも分かるのなら、今は逃げなさい。いずれ真実の方からあなたに会い に来るわ…」
俺には分からなかった。まりもちゃんが何を言っているかが、じゃない。何となく言いたい事は分かるような気がする。でも、今俺がどうすればいいのかが分からない。選べない。逃げるか、彼女を説得するか…理屈ではたぶん、説得は無意味だと分かってる。いや、うすうす直感的に感じていると言った方が正しいかも知れない。言葉の定義は俺にはよく分からないんだ。
でも、「逃げるべき」だと分かったからと言って、『まりもちゃんを見捨てる』のが正しいのか? 自分が助かるために誰かを犠牲にしないとどうにもならないのか、本当にそれが唯一の道なのか? 俺が考えをめぐらしている間にも、足元の揺れと落石は容赦なく強まっていく。このままでは…
「……」
動きを取れない俺の腕を取る掌。冥夜の手だ。力強さと優しさの篭った掌。彼女の瞳には真っ直ぐな 揺らぎの無い光が見えている。
「タケル、行こう。神宮司教諭にも、私たちにも為すべき事がある。今ここで、共倒れする訳にはいかないのだ」 冥夜の傍からは不安げに純夏が俺を窺う。
「タケルちゃん…わたし達がここにいたって、たぶん何も出来ないよ。神宮司先生の邪魔にならないように、今は逃げた方がいいと思うよ…わたしだって、先生を置いて逃げるのは嫌だよ?」
「ああ、そうだ、でも……」
「迷うなタケル。迷っていたら何も選ばないことになるし、何も進んではくれぬ」
二人の言い分は尤もだ。でも、俺の足は動いてくれない。どうすれば…
「っ!!」
その時、巨大な揺れが数瞬起こり、天井から大きな岩盤が俺たちの上から落ちてくる。 もうすぐ俺は死ぬかもしれない。そう知覚してても、俺の足は一歩も前に踏み出そうとしなかった。

   *   *   *   *   *

慧が<無花果>に対して放った光輝の掌は、壬姫の放った「神の矢」よりも速く届こうとした。
しかし、やはり前回の攻撃同様<無花果>本体に触れる直前のところで見えない障壁に抑えられた。 障壁と掌の白熱する攻撃のエネルギーが呼応して、激しい衝撃と閃光が辺りに迸る。
「…つっ…無理か……」
ひと呼吸の間膠着していた障壁と掌が、接点から暴発して機体丸ごと<無花果>から引き離される。その浮き上がった一瞬を突いて、<無花果>の光線は迅速に狙いを<武神>の掌から胸の中心に変え、力強く連続で叩き込む。
「っぐあっ…!」
間違いの無い直撃。容赦なく胸部隔壁を穿ち突き進む。そのまま光線が慧自身をも蝕む。コクピットで豊かな胸を押さえ込み苦悶の表情を浮かべる慧。それでも膝を突かず倒れない。
「……あと、少し…」

「神の矢」第一矢が到達するまであと3秒。
<胸部隔壁損壊、レベル3。危険域に到達。早急に離脱するべし>
コクピットに赤い文字の警告が 走る。更に光線の攻撃は進む。強く輝かしく。

「神の矢」第一矢が到達するまであと2秒。
<戦術機・破壊警告レベル到達。緊急避難プログラム起動を推奨>
それでも慧は踏みとどまり、両手で<無花果>の光線を握り離さない。<武神>は攻撃を受け続け る余り激しい振動を機体全体に響かせ始める。傍目にも危険な状態が分かる。

「神の矢」第一矢が到達するまであと1秒。
<system shutdown……>
コクピットの明滅するランプ・警告表示・周囲のモニタ全てが消える。同時に活力を失った<武神>は立ち続けることを放棄し、攻撃の勢いに押されて跪かされ押し倒される。このままでは光線が <武神>胸部を貫通し、間違いなく慧自身もその犠牲になるだろう。文字通りの危機一髪。

   *   *   *   *   *

「神の矢」第一矢が到達するまであと1秒、同じ瞬間。
俺は目を閉じて立ち尽くしていた。もう駄目だ、潰される…

果たして、岩盤は俺の頭上から降り注いでこなかった。何故だ…目を開く。岩盤は俺たちの頭上で静止している。見たことの無い戦術機に支えられて。機体から声が出る。
『全く、放課後にまで世話焼かせないでよね』
「って、その声は…委員長か?」
『そうよ、全く、貴方のおかげでラクロス部の練習が台無しよ…全く、もう』
俺に悪態をついてくれる、いつもの委員長だ。何故か俺は安心した。
『神宮司先生、今のうちに社を連れて、シオンに最終処理を…』
頷いて、まりもちゃんと霞は洋館へと駆け出す。それから委員長の戦術機は俺達に向き直った。
『それから白銀君!』
「な、何だよ委員長…?」
『鑑さんと御剣さんを連れて、早く逃げなさい。ここは私に任せて』
俺の足が自然と非常通路に向かって歩みを始めた。ゆっくりと、しかし今までとは違い確実に。
「何だかよく分からんが、任せたぞ、委員長」
気がつくと俺一人だけが逃げようとして駆け出そうとしていた。そんな俺を呆気に取られたかのよう に見つめて立ち尽くしている純夏と冥夜。俺は手を叩いて二人に脱出を促す。
「ほら、行くぞ二人とも!」
「って、タケルちゃん!?……え、えーっと、榊さん、わたし達…逃げるね?」
「済まぬが榊、この場は任せた!」
千鶴と戦術機は二人の声に片手を軽く挙げて応じる。三人の姿が見えなくなってからの千鶴の一言。
『二人とも、大変よね…白銀君のお守り』

   *   *   *   *   *

「神の矢」到達。

果たして矢は正確無比に<無花果>の中心部を捕らえた。
その瞬間矢も、<無花果>本体そのものも この空間から消失した。塵芥に帰す、というのが現象として一番正確な表現と言えよう。

『目標消失……パターン消去を確認』
壬姫の耳にもこの通信は入ったが、矢を放ってからの彼女は放心状態に陥っていて何が起こったのかを把握できていない。あらゆる緊張から開放されて、ぼんやりと眼前で「見ていたもの」が消失した ことは知覚していたが。
『……たま、たま!聞こえているか?』
「…あ、は、はい、パパ!え、えっと、ミキ、第二射を用意して…」
『あー、いや、目標は消失した。作戦は成功だ』
「え、そ、それじゃ!」
『彩峰君も負傷はしたものの、無事だ。現在彼女の収容作業を進めている、問題ないだろう』
壬姫はその知らせを耳にして、安堵の余りコクピットの床にへたり込んでしまった。
「は、はふぅぅぅ〜〜〜」
出来る事なら、こんなプレッシャーだらけの任務に放り込まれたくない。それが正直な感想だった。

>>つづく
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