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「俺が望むマブラヴ」〜私が渇望し、希求したマブラヴのかたち〜

第四章・後半

案の定俺達が『すかいてんぷる』を出ると外は逃げ惑う人々やら警察やら何やらの車で埋め尽くされていた。
「おい、こっからどうやって逃げるんだ?この間の<武御雷>でも呼ぶのか?」
「いや…あれはまだ整備中だ。腕部の接合にもう少し時間がかかる」
「でも、これじゃあ駅までも行けないよ?」
つーか、駅まで行っても逃げ惑う連中で鮨詰めになって身動きが取れなくなるだけだろ。
「つっても、ここにいるのが一番危険な訳だし…何かいい方法は……ん?」
くいくい。俺の袖を誰かが引っ張る。見ると黒い衣装の少女が上目遣いで俺の服の袖を引っ張っている。何かいい案でもあるんだろうか。あんな状況の『すかいてんぷる』に一人でいたくらいだしな。
「ん、何か逃げ道でもあるのか?」
こくこく。少女は無言で頷く。
「そうか、あー、えーと……」
そこで気づいた。俺達はまだ彼女の名前も聞いていない。
「そういや、名前何て言うんだ?名前わからないと、呼びにくいからな。よかったら教えてくれ。ああ、別 に本名じゃなくてもいいぞ。渾名でも二つ名でも源氏名でも」
「源氏名って、タケルちゃんそれ普通使わないよ…やらしー」
お前のツッコミはいちいち細かい。まあ、この非常事態だからスリッパ攻撃は勘弁してやろう。
「霞…」
下手すると消え入りそうな声で少女が呟く。こいつの名付け親には先見の明があったのだろうか。
「かすみ?」
「社…霞…」
「やしろ・かすみ、か。して社、そなたに案内を頼めるか?」
こくこく。頷いて霞は俺の袖を引き『すかいてんぷる』の店の裏側へと歩こうとする。つーか、何で冥夜が尋ねたのに俺の袖を引く?
「あはは、何だか可愛いね〜♪」
「じゃあ、お前が代わりに袖を引かれるか? というわけで霞、そこのアンパン顔のねーちゃんの袖を引いて案内してやってくれ」
言われるがままに霞は俺の袖から手を離し、純夏の袖を引っ張って歩き始める。くいくい。反応早いな、意外と。
「だ〜れがアン…って、可愛い〜♪」
「……そなた達、遊んでる場合ではないと思うんだが」
確かに。俺、今の状況を思いっきり忘れてたぞ。つーか俺達を置いて楽しそうに先々進んでるんじゃねーよ、 そこのアンパン娘。ったくよー、いい年してな〜にが、「可愛い〜♪」だよ、バッカじゃねーの?大体可愛いなんて感覚はどこをどう見繕ってもお前に足りない……っ!!

一撃。顔面に、グーで、手加減なし。相変わらず腰の入ったいい一撃だ。
「ほら、タケルちゃん、こんな所で延びてないでさっさと行くよ!」 ずるずるずる…こうして俺は暫くの間、純夏に引きずられて移動することとなった。
ってのは流石に冗談だが、腫れた頬をさすりながら霞の道案内に従うことになった。歯ぁ、折れたんじゃねぇのか、今の一撃は。くそー、ツッコミだったらちょっとは手加減しやがれっての。
「タケル、そなたのその、思ったことをすぐ口に出す癖は流石にどうかと…」
そんな筈はないんだけどなぁ…

   *   *   *   *   *

武一行が丁度『すかいてんぷる』から逃げ道を探して歩き始めた頃、欅町の海岸沖に一体の戦術機が浮上した。 鎧武者を思わせるフォルムと、顔に浮かんでいるアルカイックスマイルのアンバランスさが何とも絶妙だ。
『あの〜〜、パパぁ? 本当にミキが、ここから矢でその<フィークス>っていうのを狙い撃つの?』
「勿論だたま。パパがたまに弓道を教え込んできたのは、今日この日のためだと言っても過言ではない。作戦 はさっき説明した通り、彩峰君が<ficus>に対し相手の有効射程範囲で戦闘に入る。相手が彩峰君に集中 し、必殺の一撃を繰り出そうとする時、その時だけを狙ってたまは『神の矢』を繰り出す。 おそらくチャンスは1回、あっても2回だろう。それ以上は彩峰君の機体でも危険すぎるし、何より相手にこちらの存在を気づかれてしまい、攻撃を防がれてしまう可能性が高い」
普段、弓道の指導でも行ってるかのように平然と話す父親の説明の内容を咀嚼していくうち、壬姫の中で不安と緊張が息づき始める。

『チャンスは1回、あって2回』
『成否以前に、慧ちゃんが危険な目にあう』
『何より、失敗すれば橘町そのものがどうなるか分かったものではない』

突然父親に呼び出されて御神体「武八幡(たけるのはちまん)」に乗せられて、アゲくのはてには操縦法も分からないのに敵を倒せ、と言われても「本番」という言葉に一番弱い壬姫には荷が重過ぎる。 そう考えるだけで操縦桿を握る手は震え始め、胸の鼓動は強く、不規則になる。
『ぱ、パパぁ……やっぱりミキには、無理だよぉ…その、わたしと慧ちゃんの役、代わって、貰えないの?』
半分くらい泣きそうな声で画面上の父親に訴える。しかし父親は即座に却下した。
「その御神体には我が家系の者しか『fade in』することはできんし、彩峰君の機体には遠距離に対応した武装がない。それに、これ以上作戦を遅らせると橘町への被害が増大する一方だ…頼む、たま」
『そんな……パパ、ミキが本番に弱いの、知ってるでしょ?』
「……」
通信終了。父親の画像がコクピット内から消失する。同時にコクピット内部には壬姫の落ち着かない息遣いと微かな衣擦れ音だけが響くようになった。
ひとり。ひとりで、失敗の許されない一発勝負。怖い。自分には勝負の世界は向いていない。弓道だって別に勝ちたいから続けている訳じゃない。しかし、家系からくる義務感だけで続けてるのでもない。しかし、今の自分にはどう考えても、負けの許されない勝負を背負うのは向いていない。無理だ。こ以上ここにいたくない。 やがて重苦しい静寂の中で、弱々しい呟きが漏れる。
『やっぱり、無理だよぉ……弓道の試合だって、1本2本だけで決まることなんてないのに』
怖い。失敗したとき、どれだけのものが、どれだけの人が危険に晒されるか。その責任を考えると、とても今ここで弓を引くなんてできそうにない。
『ミキ、そんな、急になんて……』
不意に通信音が割り込んでくる。この通信IDは、(なぜか識別できている)慧だ。
「……私が敵を足止めする」
『慧ちゃん…でも、』
慧の通信は壬姫にそれ以上不安を訴えさせようとしなかった。
「……誰も見てない。練習、だよ」
『練習?』
「そ。……試し撃ち」
『だって、そんな、一番危険な目にあうのは慧ちゃんだよ!? ミキが失敗したら…』
「現場に白銀達がいる。このままだと…」
『タケルさんが?……』
よりによって、そんな場所にそんな人達(下校時の様子からすると、おそらく純夏と冥夜も一緒だろう)がいるとは。
「……じゃ、作戦開始」
それだけ言って慧の通信は切れた。その口調は心なしかいつもより柔らかい響きが含まれていた。 再び御神体のコクピット内を静かな息遣いだけが支配した。

   *   *   *   *   *

壬姫が沈思黙考し始めたその時。『すかいてんぷる』近辺では…
「って、何でこんな場所にエレベーターなんてもんがあんだよ?」
『すかいてんぷる』の駐車場の一角で霞が手をかざすと、突然アスファルトの地面からエレベーターがせり上がって来た。しかもこれ、どう見たって宙に浮いてるぞ?それに確か、エレベーターってのはワイヤーとかで上下動させてるんだよな?そんなもん、どこにも見えないんだけど…
くいくい。霞が俺の制服の袖を遠慮がちに引っ張る。
「ん、これに乗れってか?」
こくり。今まで見た頷きより深めで断定的な頷きだ。どうやらこれで間違いないらしい。
「でも何か、映画とかに出てきそうなエレベーターだよね」
「うむ、確かに興味深い仕組みではあるが、今はこの場を離れるが先だ。急ごう」
「お、おう。って、4人乗れるかこれ?」
そう。今気づいたが問題はこいつがどう見ても大人2人くらいが限界だ。今いる人数は4人、霞は体格的に子供として扱えるだろうが、それでも大人3人+子供1人だ。どう考えても… っと、考えていたら俺は、既にエレベーターに乗り込んだ純夏&冥夜に中へと引っ張り込まれた。
わ、 ちょっとキツい、っつーか胸、胸!(まあ、押し競饅頭状態になるよりは、いいよな?)

「もう少し詰めないと、入りきらないか」むぎゅっ。
「御剣さん、ちょっとこっちキツイよ〜」むぎゅっ。
「……」ふにっ、ぺとっ。(これは俺にしがみつくような形で乗ってる霞だ)

流石にこの状況は、健全な成年男子には色々と刺激の強いものがある。
つっても我慢のしようがないしな。 そんな狭苦しく嬉しくもある状況で、エレベーターは地下へと吸い込まれていった。
願わくは、俺にくっついてる霞に俺の変化が悟られませんように…(焦


「そういやぁ、武達、遅くないか?」
白銀邸のダイニングで優雅におやつのケーキを頬張りながら、猛は目の前の月詠に尋ねた。
「ええ、先程冥夜様と連絡が取れまして、お夕飯までには戻る、とのことです」
平然と応えながら、立ち上がって台所で夕飯の準備を始める。見ようによっては猛の相手をしないように忙しく立ち回り始めたようにも見えるが、それでも忙殺されるほどの作業には見えない。
猛はティーカップに手を伸ばしな がらテーブルの上に置かれたリモコンに目をやる。
「ほう、そういやさっきテレビで臨時ニュースが…」
猛はティーカップを片手にテレビのリモコンに手を伸ばそうとするが、すんでのところで月詠にリモコンを奪われる。俊敏でありながら失礼の無い動作。侍従の鑑とでも評すべき隙の無い態度だ。
「ああ、それでしたら…私、見たい番組がありまして、失礼致しますわ」
「って、何でテレビトンキンのアニメなんて見なきゃならんのだ、俺が…」
(あの局って「氷の運行部長」がテレビ放送プログラムを死守してるって噂の局だろうが。まさか、わざと…)
「どういうつもりなんだ、月詠さん? あんた、わざと俺の邪魔をしてないか?」
立ち上がって問い質そうとする猛を月詠は視線だけで制する。
「お言葉ですが猛様、仮に貴方の予想されているような事態が発生していたら、貴方はどうなさるおつもり なのですか?」
「おいおい、キツいなぁ…『あっちの』月詠さんみたいだ。そう怒りなさんな、折角の美人が台無しだろ?」
「私の容姿などお褒め頂かなくて結構です」
どうやら、この手の軽口は彼女には逆効果らしい。或はこれも彼女の手の内なのかも知れない。しかし猛はさほど焦りもせず話を続けた。
「連中が動き出した……ってとこだな?その様子だと。しかも俺や<御門武>には動いて欲しくない。それ で俺の足止めをしてるって訳か」
「猛様は幾つか誤解をされております。まず一点。私たちは現在、冥夜様の位置情報をロストしております」
「なら、こうしてる場合じゃっ…!!」
猛が一歩を踏み出そうとした途端、月詠が立ちはだかって制止する。
「お待ち下さい。まだ話は終わっておりません。
確かに冥夜様の位置情報は現在ロストされたままですが、冥夜様から緊急信号は送信されておりません。故に冥夜様のロストは一時的なもの、冥夜様の自発的意思の伴うものと判断できます。従って我々は冥夜様個人の捜索ではなく、楽園の者共の動向を監視する必要があります」
猛は頷いて先を促した。
「もう一点、現在『すかいてんぷる』に出現している識別名<無花果>は、彩峰・珠瀬両機が交戦中です。我々は待機し、次の局面に備えるべきかと存じます」
それを聞いて猛は肩をすくめ、余裕を取り戻した態度で着席した。
「ま、そういうことなら俺たちの出番がないことを祈ろうか」
「そうですわね…ケーキのお代わりなどは、いかがでしょう?」
お代わりを勧める月詠の顔には、先程の殺気だった真剣さは既になく、穏やかな昼下がりの侍従のそれであった。


一方、欅町沿岸で<武八幡>が弓を構え始めた頃。
慧は<武神>を駆って再び<無花果>に跳躍して突っ込んでいた。無慈悲で直線的な光線は近づく慧を狙うが、<無花果>下方から伸びるドリル様の触手が『すかいてんぷる』を掘り進んでいるせいか光線の威力は弱い。
慧の繰り出す連撃乱舞と<無花果>の光線は膠着状態。
慧の一撃が光線を弾き返せば、<無花果>は光線の威力を強めて慧に対しそれ以上の突入を許さない。しかし慧も続けて百烈の拳で光線を押し返し、<無花果>との距離を少しづつ詰めようと踏み止まる。その繰り返し。
壬姫は敢えて慧の戦況には目をやらず、可能な限り御神体の目を凝らし矢が徹りそうな場所を見定める。
(祈り…)
静かに息を吐き、数瞬目を閉じる。聴覚から、心から、雑音を取り払う。
今彼女の耳に入るのは、微かな風の囁き。刻と共に言葉を変え向きを変える、気紛れな精霊の囁き。
(囁き…)
御神体を通し風の囁きを感じ、風の流れを掴んで標的までの間合いを再度確認する。
風の囁きは言葉で伝わるものではない。自らの体で、肌で、直接感じ取って聞き取れるものである。
(詠唱…)
(私はこの矢を必ず命中させます。私はこの矢を必ず命中させます。私はこの矢を必ず命中させます…)
一種のおまじないだろうか。壬姫は心に矢が貫通した<無花果>を描き、小さく漏れ聞こえる声の中には命中の暗示にも似た願いを乗せ、心静かに操縦桿を握り、徐々に力を篭め始める。
(念じろ!)
「与一が矢、背には百番!」
意味は全く分からないが、父から伝えられた『神の矢』開放の合言葉。
合言葉の発令と共に生み出された『神の矢』は矢を待つ右手に光り輝いて収まり、そのまま静かに弓に番えられる。
弓に『神の矢』が番えられた瞬間には慧と<無花果>の間合いは<武神>一機分で収まろうかという近距離にまで 詰められていた。光輝に包まれた左手で光線を受け止めながら、<武神>はなおも右手に力を篭めて突き進もうと している。
「……あと、少し。私が、やれる…『私のこの手が光って唸る…』」
慧はコクピット内部で屈みがちになりながら思い切り床を踏みしめ、次の一撃に備えて力を篭める。
同じ瞬間壬姫は<無花果>の中心を見据え、その一点に絞って弓を絞り狙いを定める。 (見えた!) 迷う必要は無い。矢の放つ先が自分で見えた瞬間、既に矢は放たれているのだ。

慧が右手の光撃を全力で突き出し跳びかかったのと、壬姫が『神の矢』を放ったのは同時であった。

(第四章・おわり)
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