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「俺が望むマブラヴ」〜私が渇望し、希求したマブラヴのかたち〜

第四章・前半

「この地上における我々の立場は旅人のようなものである。
人間は他の人間のためにこの地上に存在する」

アイザック・アインシュタイン

   *   *   *   *   *



『すかいてんぷる』店内で壮絶な戦いが展開されているその最中、テーブルの下に逃げ隠れた二人はと言うと、留まることの無い銃声と金属音(剣戟音だろうか)から身動きを取ることも出来ず向き合ってテーブルのの下に収まっているしかなかった。
(って、何でこんな向き合った体勢になるんだよ…)
いや、その、何だ。幾ら仮に例えもし目の前の相手が純夏のやつであってもだ(っつーか現実にそうだ)、俺の目の前に顔があってちょっと動けばちゅーしてしまうという体勢は妙に緊張する。この非常時にそんなことを考えてしまう俺もどうかと思うが、何もお互い顔を同じ向きにして潜り込むことはねーだろ。
「タケルちゃん…何でこんなことになってるんだろうね、わたし達」
それは俺が聞きたい。でも思い当たるところは冥夜と会ったかどうかぐらいだ。あいつと顔を合わせてからというもの、どうにも物騒な出来事にばかり出くわすようになった。だが狙われているのが冥夜で俺がそのとばっち り、なら分かる気もするが、常に狙われているのが俺と言うのがどうにも不可解だ。冥夜が現れる前に幾らでも 俺をどうにかするチャンスなんてあった筈なんだが。
「……タケルちゃん?」
「何だよ、そんな泣きそうな声出すなよ。俺まで泣きたくなる」
「そりゃ、泣きたくもなるよ。……だって、わたしじゃ駄目なんだもん」
「何の話だよ、一体…それだったら俺でも駄目だろうが。冥夜に任せて机の下でビビってるだけだぜ?」
「そういうんじゃ…ないよ」
何が言いたいのかわからんが、こういう追い込まれた状況だったら弱気にもなるか。いや、俺だって弱気と言えば弱気になってる(から戦おうともせず隠れてる)。けど、内心どっかで「冥夜がいるから大丈夫かな」とか妙に落ち着いてる自分がいたりもする。
「ねえ、タケルちゃん?『もう駄目だ』って思ったとき、最初に何が思い浮かぶ?」
「あのな、お前、不安なのは分かるけど、そういうのお前らしくないぞ」

「……わたしらしくない、って何よそれ?
不安なのは分かる?分かってないよ、絶対」


って、何でそこで逆ギレ起こすんだよ、そこで〜。言い争ってる場合じゃねえだろ。
今気付いたが、純夏のやつ震えてる。少し泣きそうになってる。言い返そうとしたがそれよりも早く純夏が言葉を続けた。
「タケルちゃんはいつだってそう、『どうにかなる』って感じで何でもどうにかしちゃうよね。でも、わたしは『いつでも』そんなこと出来るわけじゃないよ。だって…」
「待てよ、俺の言い方が悪かったんなら謝るって。……俺が言いたかったのは、『助からない』って思っ たら本当に助からなくなる、ってことだ。お前傍から見ててどう考えても駄目だって時でも、お前だけは 諦めずにやってるだろ?俺さ、正直こんな時だから言うけど、お前のああいう処、すっげー羨ましい」
「……」
とりあえず俺の話を聴こうという態度にはなってくれたらしい。少し不満げな顔つきながらも俺の方を 見据えて暗に俺の言葉の続きを促す。
俺に向けられた、微妙に潤んだ瞳とそこから来る真っ直ぐな視線が 俺には少し気恥ずかしい。その間の数瞬、俺の中では銃声や剣戟音なんかよりも寧ろ、自分達の息遣いや 視線、微妙な空気の温かさなんかの方が重く切実に感じられたような気がする。
そんな状況で言葉なんて纏まらないが、思いつくまま口にしてみた。
「俺が知ってるお前は、何かこれってものを持った、分かりやすい特技とか特長が見える奴じゃないかも知れない。でもな、俺はお前の口から『もう駄目だ』って言葉を聞いたこと無いし、聞きたくない。まあ、 俺が勝手に思ってるだけだけど、いつもの、ちょっと暴力的なとこのある、向かってくるとこのあるお前だから、無駄に張り切ってくれるくらいの方がいいんだよ。つーかそうしてくれ!」
やべ、俺、何か妙なこと力説しちゃったんじゃないか。
「……」
目の前では純夏が神妙な面立ちで俺の方をじっと見ている。俺を値踏みするような感じで。
もう少し何か言わなきゃならない、何となくそう思う。けど、肝心の言葉が、今のこいつに差し出してや るべき言葉がうまく見つけられなかった。そういう雰囲気を察したのか、向こうから口を開いてくれた。
「それ、褒め言葉じゃないよ…たぶん」
そう言いながらも、さっきのよく分からない怒った感じは大分和らいでるようだ。
「そうか? 俺は珍しく純夏を褒めてるつもりなんだけどなぁ…」
「まあ、タケルちゃんの言葉遣いが変なのは今に始まったことじゃないけどね」
口では随分言ってくれてるが、顔を見るとまんざらでもなさそうだ。内心俺は安心した。
「ったく、人が珍しく素直に褒めてるのによぉ…」
「はぁ…タケルちゃんの彼女になる人は可哀想だね。あんな意味不明な告白聞かされるんじゃあ…」
随分な言い草だが、さっきの意味不明な逆ギレのような感じはなくなってた。一体あいつ、何に怒ってたんだろうな。付き合い長いけど、たまにこいつのことが分からなくなる。
「何だよそれ、ひっでーなぁ」
「あははっ…でも、あの慌てたタケルちゃんは見物だったなぁ〜」
こんな緊迫(してる筈の)状態で、よく笑ってられるなぁ。いやしかし、純夏でも笑うといいもんだな。いやだから、変な意味じゃねぇぞ。いや待て、そもそも変な意味って何だよ?
なんて俺が一人問答を始めたところで、冥夜の叫び声が耳に届いた。

   *   *   *   *   *

丁度その頃、橘町近辺のビルの屋上を軽々と跳び駆ける二足歩行型の機体、識別名<武神>の姿が 『すかいてんぷる』方向に向かっていた。衛士は彩峰慧。
「……こっちに、向かってる筈」
座席も操縦桿も無いコクピットに、体に密着した黒のボディスーツ着用の慧が立ち、モニタされてい る橘町上空に視線を凝らす。いた。鏡面の八面体様の巨大な物体が飛来してきている。あと1分もあれば『すかいてんぷる』上空に到着するだろう。こちらからは10秒も有れば接敵可能な距離、か。
「……あそこに着かれるのは、まずいね」
言うが早く戦闘の構えを取り、自身と<武神>の右手を眼前で半開きのまま握りつぶすように力を篭める。 力を篭めるに連れて慧と<武神>の右手が白熱し、光を帯び始める。
「私のこの手が輝き叫ぶ……」
台詞とは裏腹に、口調はいたって平坦。しかしその台詞と共に<武神>はとあるビルの屋上大きく跳躍し、 物体の上空まで跳び上がるとそのまま一直線に物体めがけて降下する。降下しながら白熱した右手を振り かぶり、物体を握りつぶさんばかりに勢い良く突き出す。
「お前を倒せと……!?」
<武神>の右手と物体の距離がちょうど<武神>の腕一本分くらいの位置まで迫ったところで静止し、空中に電光を走らせる。右手が空中の見えない何かを掴んでいるような、そんな状態だ。静止した瞬間、物体の一頂点から直線状の閃光が走り、<武神>の胸に直撃する。閃光によって<武神>そのものが空中へ打ち上げられ、大きく体制を崩す。それでもそこから放り投げられる格好で地上に落下せず、空中で姿勢を制御してビルの屋上へ着地したのは慧の身体能力の賜物か。
「……掴ませない?」
何度か軽く右手を振りながら慧は呟く。しかし物体の閃光はそんな慧の方向に容赦なく射線を向ける。止むを得ず物体との距離を離しながら、ジグザグに跳躍回避して閃光の直撃を避ける。四、五回閃光を回避したとこ ろで、慧は閃光がレーザー光線様の射撃ではなく、一定距離までの物理攻撃であることに気付いた。 その「一定距離」を越えると物体は何事も無かったかのように『すかいてんぷる』への悠長な、しかし確実な飛来を再開した。
「……近接戦が嫌い、みたいだね」
どうやら敵の反応としては、一旦「敵」と見なした相手は自分の迎撃可能範囲から意地でも追い出そうという魂胆らしい。迎撃以外の意思表示がないのでそれが何を意図しているのかまでは分からないが。
「あの距離じゃ、攻撃が届かない」
<武神>は慧の身体能力に合わせて特化された近接戦闘用の武装しか施されていない。正確に言えば格闘戦専用の戦術機である。一旦近づいてしまえば<武神>の打撃力と防御力で相手を凌駕し、打ち勝てる。ただそれだけを純粋に研ぎ澄まして設計された機体だ。それゆえ遠距離での戦闘ではなす術が無い。
「……ちっ」
思わず舌打ちし、物体の行く先を黙って見守る。分かっていても、手を出せないもどかしさ。 そこに通信が入る。この通信コードは…United Nations。何故、独立行動のこの機体に対して…?
「……誰?」
「あー、彩峰君だね、その機体は? 私は…」
画面には見覚えのある勇ましい髭の持ち主が映っていた。

   *   *   *   *   *

一歩、また一歩。冥夜は銃弾の雨に向かって自身の剣と剣技の傘を翳して進んでいく。足取りには揺らぎがなく、着実に水月との間合いを詰めている。一歩、また一歩。
「いつまでもこのような児戯を続けるつもりだ?」
「児戯…随分言ってくれるわね。『御剣』、さん?」
含みのある台詞を吐き捨てるが早く、水月は今着ている『すかいてんぷる』の制服を華麗に脱ぎ捨てて、彼女本来の戦闘服とでも形容すべき競泳用水着の姿に変わった。右手には、冷たい輝きを放つレイピア。
「さあ、いらっしゃい。……言っとくけど、本気のあたしは『速い』わよ? あたしが『速瀬』の名を持つ意味を、自分の身を以て知るといいわ」
軽く微笑みながら左手で挑発する。当然その挑発に簡単に乗る冥夜ではない。静かに刀を右手片方に持ち直し、ゆっく り余裕を持って歩を進める。お互いの距離が三歩となったところで冥夜は足を止め、刀の切っ先を地に下ろす。
「そなた、どうあってもそこを動くつもりはないのか?」
「あら、貴方の思惑通り武君や純夏ちゃんを逃がされたら困るでしょ?」
お互い不適な表情で睨みを利かせ牽制し合う。しかしどちらも今以上間合いを詰めることはない。
その睨み合いが数秒続いたところで、お互いの持つ通信機の呼び出し音が鳴り響く。

「はい、速瀬……そう、時間? 分かったわ。それで、孝之は?…仕方ないわね、戻るわ」
「月詠か?どうした?…ここに敵? して、武御雷は? そうか、分かった。一旦戻るとする」

通話を終えて二人が同時に視線を交わす。
「残念ね、時間みたい。…私は帰るわ。本当に残念だけど、武君を連れて帰るのはまた今度」
言うが早く水月は競泳用水着のまま『すかいてんぷる』のガラス壁に身を躍らせ、消えた。
「逃げられたか。…タケル、鑑、ここに敵が向かってるそうだ、逃げるぞ!」
彼女の主義ではないが、武御雷が出撃できないとあれば一旦退くしかあるまい。

Sous nos drapeaux, que la victoire
Accoure a tes males accents


「…タケル、鑑、ここに敵が向かってるそうだ、逃げるぞ!」
っと。どうやらあっちは片付いたらしい。
「タケルちゃん、何やってんの?早く逃げるよ!」
……って、純夏のやつ、いつの間に机の下から抜け出したんだよ。切り替わりの早いやつだ。ま、こうしててもあれだ、まずはテーブルの下から抜け出して、と。
少し窮屈だったテーブル下から抜け出して店内を見回すと、あちこちが水浸しになってる。まるで俺達が隠れていたテーブルの辺りからホースで水でも撒いたような感じだ。一体あいつら、どういう戦いをやってたんだ?
「あのさ……お前ら、何やってたんだ?」
「私にも分からん…何だか狐につままれたような気分だ。それは兎も角、早く逃げよう」
「あ、…」
返事をしようとしながら一瞬純夏の方を見る。さっきの妙な深刻さというか不安げな感じは全くない。…こっ ちも何だか狐につままれたような感じだ。よく分からん。まあいいや、普段通りに戻ったなら。
「ああ」
少し駆け足で出口へ向かう。と、そこで一瞬俺の視界の隅に黒い何かが見えた。確かあっちは厨房の方だっけ。 気がつくと俺は厨房の方に向かって駆け出していた。
「…タケルちゃん!どこ行くの、そっち出口じゃないよ?」
「今、人影が見えた! 逃げ遅れかも知れない」
厨房の方に駆け込んでいくと、いつか近所の公園で見たウサ耳の黒ドレス少女が佇んでいた。
「?……!!」
俺が駆け込んできたのに驚いたのか、ウサ耳の部分がぴょこっと跳ね上がった。次の瞬間には少女は俺の方を向いてじっと俺を見る。何つーか、表情が殆どないから何考えてるかよく分かんないんだよな、この子。
「おい、ここは危ないぞ、一緒に逃げるぞ!」
俺は有無を言わさず少女の手を取って逃げ…ようとした。しかし、少女は足を止めたまま動こうとしない。
「どうしたんだよ?危ないんだぞ?……って!」
言ってる傍から、柱のようなものが『すかいてんぷる』店内フロアの一角を天井から力強く貫通した。衝撃で足元がぐらついて揺らぎふらつき、俺は見事に転んでしまう。手を取ってたせいで少女も転び、俺の上に降ってくる。
少女が床で頭とかをぶつけないように、咄嗟に抱きとめる格好になってしまう。
「…っってて。おーい、大丈夫か?」
こくこく。俺の胸の中で少女が頷く。いやしかし、やけに軽いなこの娘。
「タケルちゃん、大丈夫……って、何してるのさ?」
「タケル、この非常時にそなたは何を…(--;」
少し遅れて駆け込んできた二人が、俺(と偶然抱き止めた格好の少女)を見つけて呆れるやら怒るやら。
「い、いや、違うんだって!」
少女はこの状況でも俺の胸の中から動かなかった。頼むから、何とか言って弁護してくれよ…


「…はい、香月。なに、『すかいてんぷる』に敵襲?ちょっとそれ、どういうことよ!」
白陵柊学園・物理実験室で夕呼は手にした内線に怒鳴る。部屋中に山と詰まれた意味不明な物品(その意味を考えること自体ゾッとするようなものも少なくない)、机の上は書類やメモの束で埋もれており、辛うじてその上にPCのキーボードとワイヤレスマウスが顔を覗かせている状態だ。今も内線を取りながらメモにペンを走らせている。意味不明な記号の羅列。これは物理、なのだろうか。
「ふん…ふんふん、それで!……え、何、白銀達がそっちにいるって!? 急いで回収しないと!早く迎えを回して」
早口でまくし立てるように受話器に命令すると、雑な動作で受話器を戻す。軽く溜息をつき、机の上に置 いた液体入りビーカーを手に取り中身を飲む。見たところ緑色の液体だったようだが、…緑茶? ビーカーを手にしたまま空いた手で軽く頭を掻きつつぼそぼそと口にする。

「あそこ、まだ回収できてないのよね…それを狙って?」

>>つづく
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