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「俺が望むマブラヴ」〜私が渇望し、希求したマブラヴのかたち〜

第三章・前半

「この世界は美しいところであり、そのために戦うに値するものであり、そして俺は、この世界を去ることを心からいやだと思う」

アーネスト・ヘミングウェイ『誰がために鐘は鳴る』

   *   *   *   *   *


「それで……逃したまま見つからない、と仰るのですか?」
「申し訳ありません、然し、顔と所在地は割れています。近々必ず、御許に彼奴を…」
病院の院長室と思しき場所で、贅沢な椅子に座した眼鏡の青年が女性の声に叱責を受けている。
肝心の女性の姿はベランダにある。天候にそぐわない、いやに白い日傘だけが室内から窺い知れる。
「何度も申しますが、時間があまり残っておりませんわ。…早急に、行動を」
「はっ…今度こそ、必ず」
礼を返すが、既に女性の姿はなかった。
重苦しい溜息をついて男は眼鏡を直す。『彼女』の声を聞くだけでも相当な緊張感に見舞われるが、こうして直に会うと----そんな機会が生じるのは、大抵最悪の事態が既に進んでいるような状況だ----胸から腹にかけて言い知れぬ重圧がのしかかってくる。
それはある種 嘔吐感にも似た緊迫とでも言うのだろうか。
「ふぅ……地位も、家庭もある人間のする事じゃないだろ、こんなの…」
ぼやきながら机の上の写真立てを見つめる。
昔日の優しい思い出。母のように慕った女性。そして、もう一人映っているのは妹と言うべき年齢の差の少女。今では失われた、心からの笑みが写真の彼女には浮かんでいる。
「君が欲しいだけなのに、どうして君と戦うんだろうね……僕は?」
答えるものもない問いが、夕方近い病院の個室に響く。

   *   *   *   *   *

CD屋を出て繁華街の方に歩き始めると、不意に空に薄闇がさす始め、遠くから雷鳴が聞こえ始めた。CD屋に入 ってからは流石に腕組みはされなくなった(店の中を歩けないからな、腕組みした状態じゃ)。しかし離されてみると、それはそれで妙に寂しい気がする。腕に残ったぬくもりのせいだろうか。
「何か、急に天気が崩れてきたね。今日、天気予報では雨って言ってなかったと思うんだけど…」
「私は雨だけではなく、不穏な気を感じるが…」
「いや、気にしすぎだろ。……って、おいおい!」
言ってる傍から雨が降り始めた。しかも結構強い雨脚だ。このままだとずぶ濡れになっちまうので、どっかで 雨宿りするしかないか。
「ちょっと、雨宿りしてくか?ここからだと『すかいてんぷる』が近いから、入って様子見ようぜ」
「でも、雨が止まなかったらどうするの? わたし、傘持ってきてないよ…」
「どうしても止みそうになければ、私が手配しよう。して、その『すかいてんぷる』というのは何なのだ?」
どうやら本物のお嬢様にはファミレスなんて縁がないらしい。
俺らでも確かに頻繁に利用してるとは言えない けど、結構有名なファミレスチェーンのはずだから名前くらいは知ってると思うんだが。
「ああ、ファミリーレストランって分かるか?」
「聞いたことは有るが…利用した経験はない」
「よし、なら折角だ、雨宿りついでに行くか」
「わーい、タケルちゃんのおっごりぃ〜♪」
ちょっとこいつだけはシメとかなきゃならんな。どれ、久し振りのスリッパ攻撃で…

ばしっ!な、何だと?鞄で 受け止めた?純夏のくせに!

「ふっふーんだ。タケルちゃんの攻撃は見切った!もうツッコみスリッパ攻撃は通用しないよ!」
「なっ、純夏のくせに生意気だぞ!」
「……タケル、昨日から気になっていたんだが、その、鑑に対するそなたの乱暴な態度は、正直どうかと思うぞ」
「そうだそうだ〜、女の子に暴力なんて、最低だよ〜」
まあ、確かに冥夜の言う事にも一理はあるだろう。つっても、完全に納得したとか、今後は絶対にやらないとかそういうんじゃないが。
「あー、わーったよ。気をつけるよ…そん代わり、純夏、お前は自分で払え。冥夜は奢る」
「何よそれ〜!それって八つ当たりだよ、酷いよ、差別だよ」
本当は(さっきの腕組みの礼みたいなもんで)二人ともちょっとくらいなら奢ろうと思ってたんだが、面白いから暫く黙っていよう。
そんな何気ないやり取りをしつつ、俺たちは駆け足で『すかいてんぷる』に駆け込んだ。


「……はい」
『すかいてんぷる』に着席している女性が電話を取る。短髪が微かに揺れる。
「ええ、確認したわ。…そう、いいのね。わかったわ」
電話を切り、折り畳んで仕舞う。女性は軽く息を吐いて店内を見回す。少し切れ長の瞳の美人だ。
彼女は決然と、 しかしかなりの小声で呟いた。店内の喧騒とBGMの中でそれを全て聞き取るのは難しい。
「まさか、貴方が…………なんてね。……わないでね」


「…っと。ここに来るのも久し振りだよなぁ。何にしようかなっと」
俺は徐にメニューを広げる。今日は女の子連れってことになるから、普段ならちょっと手が出せない(けど実は食べてみたいと思ってる)デザートの類も気兼ねなくオーダーできるいい機会だ。 「メニューはこれか、ふむ…何でも食べられるのだな、ファミレスというのは」
「うん、でも、何にしようかな〜?んー…」
「いらっしゃいませ。ご注文は何に致しましょうか?」
小柄な----ちんまいと言いそうになるのをぐっと堪る----ウェイトレスさんが水を持ってオーダーに来る。絵に描いたような金髪と猫っぽく釣りあがった目が特徴的だ。何故かこの店のウェイトレスは物差しで計ったかのように一定ライン以下の身長の娘しかいない。店長の趣味なのか、これって?
あ、断っておくけど、俺にそういう趣味はないからな?
「あー、こっちは決まったけど…そっちは?」
「んー、わたしもいいけど、御剣さん、注文いいかな?」
今、『御剣』って聞いてウェイトレスさんが少し反応した。知り合いに『御剣』ってやつがいるんだろうか。そうそう出くわす苗字じゃないから、それで驚いてるだけかもな。
「……これだけあると迷うな、うむ、悪いがもう少し待ってもらえないか?」
「すいません、また後でお願いします」
「かしこまりました、ご注文がお決まりになりましたらお呼び下さい」
特に気にした風も無くウェイトレスさんは俺達の席を後にし、慌しく、しかし失礼の無い歩調で巡回を再開した。
「タケルちゃん、何注文するの?」
「ん、ああ、折角だからパフェでも食うかと思って。お前は何頼むんだよ?」
「わたしはね、ケーキセットにしようかな。…あ、でも、あげないからね?」
ったく、何だよ。人の顔見てから言い足すなよ。幾らなんでも夕飯前にパフェとケーキ両方食うほど甘党じゃないぞ、俺も。
冥夜はさっきからずーっとメニューに釘付けみたいなんだが、ページをめくってる様子が無い。
「そういや、冥夜は、何を…」
「……ふむ、これと…これと…どちらがいいか、なかなか興味深いメニューだな。頼みたいものが二つほどある のだが、流石に両方は私に食べられそうにない。どうしたものか」
「何と何で迷ってるの?…う〜ん、確かに二つ一緒は、無理かなぁ…(^^;」
「何と何なんだよ、結局?」 「…チョコレートパフェと、レアチーズケーキのセット」
そりゃ二つ同時は無理だな。しかも俺たちと微妙に近いものを頼もうとしてないか、それって。
「何だよ、奢るつったから遠慮してるのか?…別にそんくらいでどっちか選ばなきゃなんねーって思ってるなら、気にすんなよ。マジで奢るから。 格好いい話じゃないけど、俺が奢るなんてめったに無いから遠慮したら損だぞ」
「そうだよねー、タケルちゃん、『奢れ』とは言っても『奢る』なんて自分から絶対言わないもんね」
「うっせー!…って、ん?」
急に店内のBGMが変わった。今まではどこにでも流れてそうな有線とかラジオとかのPOPSだったのに、急に勇ましい調子の曲が流れ始めて、徐々に歌声が聞こえ始めた。

Allons enfants de la Patrie,
Le jour de gloire est arrive !


「この歌は…!」

>>つづく
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