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「俺が望むマブラヴ」〜私が渇望し、希求したマブラヴのかたち〜

第二章・前半

猫と女は呼ぶと逃げる。 そして、呼ばないときこそやってくる。

メリメ(「カルメン」劇中のホセの独白より)

   *   *   *   *   *


「これ以上……戦う必要、ないだろう?」
俺は半ば祈るように戦いの終了を促した。流石にこれ以上やられたら、俺の体が持たない。今になって体の あちこちが痛みと疲れで悲鳴をあげだしているし、腹も減っている。
あと、慣れない振動や衝撃で頭の中が少し揺れてるような感じがして動き回れそうに無い。
「私が…私が、負けたのか…? この武御雷で…」
どうやら相手に戦意はなさそうだ。何とか話し合いに応じてもらえそうだ。だが念のため剣は狙い済ましたまま動かさない。女は続けて口を開いた。
「私の負けのようだな…感服した。そなたのような乗り手に会うのは初めてだ。是非、名前を教えてもらいたい」
さっきから何気に思ってたが、こいつ何と言うかサムライっつーか武士道っつーか、そんな感じの喋り方するよな。いや、実際の侍とかに会った事は無いけど、 時代劇とかだとこんな感じだよな。何だか気持ちのいい奴だ。
「俺か?…俺は、白銀武」
「タケル?…本当に、タケルなのか…そなた、戦術機を使いこなせるとは、流石だ!私は感激したぞ」
「その声は…って、ちょっと待ってくれよ。そういや何で今朝、俺の布団で寝てたんだよ?」
「何を言う、私とそなたの仲ではないか」
って、俺はあんたのことなんて知らないっての!全然わけ分かんねーよ。
「御剣冥夜。御剣財閥の次期当主って言えば分かるだろ?」
いつの間にか何事も無かったかのようにグランドに立っている猛が説明した。ってあんた、あの状態でよく振り落とされなかったな。
「御剣……って、ええっ!?マジ?あの、御剣?」
幾らなんでもこの日本で御剣財閥を知らない人間はいないだろう。その財閥の、次期当主…様が、なんで俺と、一緒に添い寝なんだよ?あー、もう、やっぱり 分からん!全く全然これっぽっちも分からん!俺、そんな人と知り合う機会なんてあったのか?つーか、今ので怪我とかさせてたらヤバいんじゃねえの?うわ、何か冷や汗出てきた。
「えと、あの、御剣、さん?……怪我とか、してない?」
「冥夜だ」
「へ?」
「…私のことは冥夜でよい。どうしてそんな他人行儀なのだ?」
どうやら大丈夫らしいけど、いやだから、その、俺には貴方のような身分のお方とお近づきになれるような要素が記憶に無くて困ってるんですが。
「いや、だって…御剣さんは、御剣さんで…」
「冥夜だ…どうして私を冥夜と呼んでくれぬ?」
「え、えっと、そのぉ……」 そんな真剣に悲しそうな声を出されても、なぁ。

   *   *   *   *   *

結局あれから、俺達はコクピットを降ろされて、俺だけがまりもちゃんに呼び出されてこっぴどく叱られて----進路指導室とかに呼び出されなかったのが不思議だが----何とかホームルームにはクラスに戻ることが許された。気が付いて外を眺めても戦術機の影形は勿論のこと、俺を散々引っ張りまわしてたはずの猛まで姿を消していた。さっきの出来事が嘘だったかのようだが、俺が操縦中感じたあの感覚は嘘なんかじゃない。
「起立、礼」
「はい、さようなら」
HR終了と同時に俺の机の周りに駆け寄るのが一人、二人、…三人、四人、っておい。

「タケルちゃん!一緒に帰るよ!(怒」
「タケル、用事が無ければ一緒に帰ってはくれぬか?(喜」
「ちょっと、白銀君?…昼間のアレはどういうことなの!授業妨害じゃないの!(怒」
「タケルさーん、大人気ですねぇ〜(楽」

…はぁ。足りない「哀」は俺で埋まるな。いやそういうことじゃなくて。
「あー、もう、一度に話し掛けるな!順番に一人づつ。はい、俺の右から逆時計回り!」
因みにさっき俺に話し掛けてきた順番のままである。
「タケルちゃん?一緒に、帰って、くれるよね?」
こいつの口調を最も正確に表現すると「脅迫」になるんじゃないだろうか。こいつらしくない、引きつった笑顔が 余計に怖い。
「タケル、この後用事が無ければ、一緒に帰ってもらえぬか?」
…純夏君、黙って俺の足を踏むのはやめてくれたまえ。痛いんだよ、と目で訴えるが(ふっふーん、タケルちゃんの自業自得だね)って涼しい顔で返された。くそ、 純夏のくせに、覚えてやがれ。はい次、委員長。
「…はぁ、あなたの面倒に付き合ってる時間無いわ。私、部活に行くから」
なら最初から文句をいわないでくれ。てゆーか、雰囲気を察して逃げないでくれ。
「あ、あははは…みんなで一緒に帰ったら、どうかなぁ〜?」
それは問題の根本的解決にはならないんじゃないだろうか、たま?まあ、どっちを選ぶかで大岡裁き(母親を名乗る女二人が子供を引っ張り合ってどっちが本当の親かってのを決めるやつな)を再現されても俺が痛いだけだし、今この状況を回避するためであれば有効かもしれない。
「そ、そうだな、そうしようか?…で、お前も一緒にきてくれるよな、たま?」
襟元を掴みながら出来るだけにこやかに頼んでみる。ちょっと驚いた顔をしてる。この様子だと、どうしようか考えてる可能性があるな。たまの性格を考えればもう一押し…
「あ、そうだ!どうせなら、どっかで御剣…」
「冥夜だ。そなたも何度言えば分かってくれるのだ?」
だから、名前の呼び方ひとつでそんな捨て犬のような目線と言葉を俺に向けないでくれ〜。
「あ、そう、そうだ、め、冥夜…の、歓迎会?なんかしちゃったりしてみては、どうだろうか、珠瀬君?」
「え?え、えっ?」
「……白銀のおごりなら行く」
「彩峰、お前突然現れて言うことそれかよ」
「…ごち」
そこで合掌して俺を拝むな。
「いや、誰も奢るなんつってねーよ!」
「そだね、タケルちゃんの奢りで御剣さんの歓迎会、それいいよね〜、今日はタケルちゃんのおかげで、わたしも朝からめちゃくちゃだし」
「ま、まあ、タケルさんの奢りかどうかは別として〜、歓迎会を開くのはいいと思うよ〜」
「タケル、心配には及ばぬ。今宵の宴、我が御剣の名で供させて貰うゆえ」

   *   *   *   *   *

俺には拒否権などないままに、この騒々しい状態のまま一同俺の家へ向かうことになった。柊町の住宅街を歩いていると夕暮れの公園に差し掛かった。普段なら「ああ、ガキの頃よく遊んでな」とか純夏と軽く話す懐かしい場所のひとつでしかないんだが、今日は見かけない少女の後ろ姿(俺が知ってる奴って訳じゃないが)があったので、思わず足を止めて眺めてしまった。
「タケルちゃん、どうかしたの?」
「あー、いや、ちょっと、あれ…」
公園の真ん中に立ち尽くす、黒い服の少女。服はドレスのようにも見えるし、肩口にエンブレムのようなものがついてるから、どこかの制服なのかも知れない。それにあの耳飾のようなもの…ウサ耳か?どこか所在なさげにも見えるし、何か懐かしげに辺りを見回してるようにも見える。この辺りに住んでる娘じゃないと思うんだが…案の定純夏も 「?」って顔してる。この辺の子供じゃないよな、あれ。
「どうしたタケル?あの娘に何かあるのか?」
「あー、いや、そういう訳じゃねえんだけど、見かけない娘だなって…」
「そうだね、わたしもあんな娘、見たことないよ。この辺の子だったら、大体いつもいるから分かるよ」
「……少女趣味?」
「いや、そういう趣味はないから安心しろ」
お約束のコメント、どうも。って、流石にこれだけ騒々しくしてると少女の方も俺たちに気付いて向き直る。不自然に白い肌、彩峰とはまた違った感じの表情が窺えない顔。それらは何故か、俺に不思議な魅力を感じさせた。魅力、と言うよりは、何か頭の片隅に引っかかるものを感じるんだが…
あー、くれぐれも言うけど、そっちの趣味はないからな、俺には。 どっかで会ったような気がするんだけどなぁ。
「んー…」
「タケルちゃん?あ〜んまりじっと見てると、変に思われるよ?」
何か言い方に引っかかるものを感じるが、まあそれも確かに正論なのでこのくらいにしておこうか。頭の中で記憶を掘り返しながら、俺は公園と少女をあとにした。

一同の去り際を見送ってから、少女は誰もいなくなった公園の出口に軽く手を振った。
「……ばいばい」


「本日は皆、私のために集まってくれて有り難う。これは、細やかだが、私からの挨拶代わりの持成しだ。遠慮せず食すがよい」
何で俺の家で冥夜が仕切ってるわけ?つーか、俺の家のダイニングに何故あんな山のような料理が用意されてるわけ?
「…でさ、タケルちゃんと御剣さんって、どういう関係?」
「どういう関係なんですかー?」
「……酸いも甘いも、知り尽くした?」
「貴方達、学校でくっつくのもどうかと思うけど、未成年で同居なんて不謹慎だわ」
てゆーかいつの間にここに来たんだ、委員長?いやそれより、お前ら何も疑いもせずに食卓の上に並んでいるものを食って飲んで騒ぐな!俺達が帰ったら何事もなかったかのように置いてあった料理(和洋中何でも有り、大半は見たことも聞いたこともない 料理だ)なんだぞ、ちょっとは不思議に思ったり訝しんでみたりとかしろよな…と言いつつ俺も腹が減ったので手近な中華?なのか?を皿に持って食べ始めることにした。ん、これはいける。材料はさっぱり分からんけど。
「はぐはぐ…いや、俺は何も知らん!…んぐっ、つーか、何でお前が俺の家で私服に着替えてるんだよ!大体、お前の家って…」
そういや、気が付いたら私服に着替えてた。こいつの家ってどこなんだ?隣ん家の純夏でさえ制服のままだつーのに。
「!!おまえ……おまえ……おまえ……」
そんな呆けて頬を赤らめるような台詞か、今のが。こいつもこいつでよく分からん。まあいい、暫く放っておこう。ん、この飯も甘辛さが絶妙で美味いな。っと、おかずは…
「あのなぁ、事情を聞きたいのは俺のほうだぞ?…大体、朝起きたら同じ布団で見知らぬ女が寝ててだな…」
周囲一同軽蔑の目。…誰も俺の言う事を信じてる様子はない。
「タケルさん、自爆してますねー」
「男のくせに、自分の責任も認めず御剣さんのせいにして逃げようっていうわけ?最低ね」
「タケルちゃん、信じられないよ、不潔だよ…」
「……やるね、白銀」
「いや、違うんだって!なぁ、冥夜、お前からも何か言って…」
「……おまえ……おまえ……おまえ」
はぁ、駄目だこりゃ。完全に自分の世界に入ってやがる。とは言え、俺の預かり知らぬところに問題の根っこがあるんで、俺だけじゃどうにも説明がつかないんで、冥夜に何とか言って貰わないと、俺が悪者のままで片付けられてしまうし。うーむ。何とかならんのか。

「何だ、随分困ってるようじゃねえか、武」
「って、あんた、猛さん!あんたはあんたで、何でこの家に上がり込んでんだよ?」
今回は昼間病院で捕まってた時のような格好ではなく、濃紺の軍服のような制服を着用していた。
「おいおい、俺は、そこのお嬢さんに用があって来たんだ。…折角お前を助けてやろうと思ったんだが、さっさと用件片付けて帰るとするか」
「あー、すいませんすいません!そんなつもりじゃないです、お願いします、助けて!」
慌てて、踵を返そうとする猛を止めに入る。この状況から逃れられるなら、俺は悪魔と取引することも考えるぞ。いや、ちょっと大袈裟かも知れんが。
「… … 白 銀 、 必 死 だ ね」
「はぁ…鑑さん、いつも思うけどよくあの白銀君の相手が続けられるわね。同情するわ」
「んー、まぁ…幼馴染みだし、ね(^^;;」
「……おまえ……おまえ……おまえ」
この騒々しい状況でも、猛は余裕でテーブルの料理を平らげはじめる。関とスペースがないので着席はしない。
「…お前、なかなかモテてるじゃないか。案外、隅に置けない奴だな」
「冷やかしてないで、早いとこ説明して下さいよ!…俺だって、何が何だか分かってないのに」

猛は立ったままちょっとした講釈を始めた。
「本来、この世界に戦術機なんてものは存在しないし、必要でもない。二足歩行型のロボットを人間が操縦できるなんて、昨日まで だったら信じないだろ?」
周囲を見回しながら尋ねる。しかし誰からの返答も待たずに猛は続けた。
「ところが、何故かこの世界にも戦術機が存在している。誰が生み出したかもよく分からん代物が。正確なところは俺もよく理解 していないが、別の世界から紛れ込んできたってことらしい。 こいつでドンパチやらざるを得ない世界ってのも、どっかに存在してるみたいでな。並行世界ってやつかな、そっからこの世界に戦術機なんかが流れてきてるらしい」
「そのひとつが冥夜の動かしてた『武御雷』で、もうひとつが俺の動かしてた『御門武』、か…そういや、何であんなビルに綺麗 に埋め込んであったんだろう?」
「さあ。あの辺で何かやらかすつもりだったんだろうな、持ち込んだ連中が。よく分からん、俺が知ってたのはあそこに戦術機があったって事実だけだ」
あんな繁華街の真ん中であんなものが動いたら、普通はヤバいことになるだろう。よく大した混乱もなくあの機体を上空まで飛ばせたな、俺…
「で、お前さんがあの病院に捕まったのは、お前さんが邪魔だって連中が何らかの形でお前さんを見つけ出して、始末しようとしてたんだ。それを助けようとしたのが冥夜だった…はずだな?」
「おまえ……おま…え?、ああ、タケ…猛か。まあ、そういうことだ。タケル、そなたの傍にはいつでも私と『武御雷』がついている、安心するがよい」
冥夜のやつ、何かちゃんと聞いてたように見えないんだが。まあいい。俺と冥夜とは別に、俺に悪気があったとか、俺が悪いことからきた関係ではなさそうだし。
「よく分からないけど、それってタケルちゃんと御剣さんが同居する理由になるわけ?」
「まあ、連中が今日みたいな強硬手段に出る場合もある。そうならないように警護できる人間が一緒にいれば問題ないだろ?」
「う、それはそうなんだけど…」
純夏のやつ、何でああもごねてるんだ?今朝、俺があっという間に連れ去られたのを見てただろう?あんなの、俺たちの日常的な 感覚じゃあ対応できるわけないんだから、警護してくれるっつーやつに任せておけばいいのに。
「ならば、私と鑑が一緒にタケルの傍にいればよいではないか。それなら問題なかろう?」
「うん、でも、そういうことじゃ…でも、まあ、それなら…」
「って、俺の意思は無視ですか」
「何を言ってる、両手に花でいいじゃねぇか」
つーか、それ、何も問題解決してないんだけど。そもそもこんなわけの分からん説明を信じてる時点でどうかと思うが、信じるしかないんだろうな。昼間あんなに暴れまわっちまった時点で。


>>つづく
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