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「俺が望むマブラヴ」〜私が渇望し、希求したマブラヴのかたち〜

第一章・後半

「ふ、白銀武ならもう捕まえたよ。どっちもな。ましてやここは病院だ、拘束の口実は何とでもなる」
その若さに不似合いな広めの個室のゆったりした椅子に堂々腰掛けた眼鏡の医師は、ノートパソコンの画面に向かって幾分勝ち誇ったかのように語っていた。
ノートパソコンの画面に映っている人間の姿はこの角度からでは詳しく窺い知れない。
『貴方の言っていることは理解できないが、私が捕まえるように言ったのは黒鉄猛のことです。聞いたことは有るでしょう、「黒い逆十字」という渾名くらいは…』
「な、『黒い逆十字』……!?」
『黒い逆十字のことです、こちらの行動を既に読んでわざと捕まった可能性が……』
既に男はノートパソコンの画面を正視せず正面の扉に向かって立ち上がっていた。
「まずい、穂村君を行かせないと」
彼が扉に到着するより早く目の前の扉が開いて看護婦が入ってくる。緑のお下げが毒々しい、鋭い眼光の看護婦
「呼びましたか、若先生。『黒い逆十字』、噂通りなら『出埃及』の請負人で衛士の名手とか…これはやられたかも知れません」
彼女が迅速に踵を返したのは拳銃の音が病院の階下で鳴り響いた直後の事であった。

   *   *   *   *   *

それから俺と猛は何とか病院を脱出し、急いでタクシーを捕まえて猛が言うまま橘町の方へと逃げた。何でも、確保したいものがあるという話だ。
何だか面白くなってきた、これから 学園に戻るなんてバカらしい。どうせ後でしこたま叱られるんだ、今くらい好きにやったって罰は当たらないだろう。しかしそれにしても制服の俺と薄汚れたコートの男が一緒に橘町の繁華街を歩いているせいか周囲の人間の注目を集めつづけている。正直気恥ずかしいものがある。
「…で、何なんです?その確保したいものっていうのは」
「そうだな…戦術機、っつーか、平たく言えばロボットってやつか」
「ロボット!?…それって、人間が乗って操縦したりするんですか?」
「まあな。そんな珍しい…って、そうか、こっちじゃあ珍しいんだよな」
人差し指で軽く鼻を掻く猛。こっちじゃ…ってもしかして異世界の戦士とかなのか、この人?
「貴方は…この世界の人じゃないんですね?」
「流石に察しがいいな。まあ、そういうことだ。細かいことは、また落ち着いたら話す。それまで暫く付き合ってもらうぞ」
「はい!面白そうだから是非!」
もしかすると俺がそのロボットってやつを操縦できるかも知れない。バルジャーノンどころの騒ぎじゃないぜ、これが本当なら。ネタとして担がれてるにしても、ここまできたんだから とことん乗ってやろうじゃねえか。(つーか、逆らってあの拳銃で撃たれでもしたら死ぬしな。相手の意図がわかるまでは大人しくしてよう)
「……っと、こっちだ」
不意に繁華街の中の雑居ビルの中に入っていく。ふぅ、ちょっとは人の目を避けられるか。流石に昼間っから制服のままうろうろし続けるのもあれだしな。
ここは見たところ、随分小奇麗なビルだ。まるで最近建ったばかりのような感じがする。雑居ビルが最近建つってのも変な話だけど。 猛は黙ってそのまま突き当たりのエレベーターに乗って待っている。
「早くしろ、乗るぞ」
「あ、はい!」
小走りでエレベーターに乗ると扉が静かに閉まる。3Fで停止し、猛は降りる。俺も一緒に降りた。雑居ビルにロボットなんていないだろ、幾ら何でも…
「ほら、あれだ」
って、ええ!ビルの中央部の吹き抜けにロボットが立ってるじゃないか。これって、俺が知ってるロボットとは違って何だか丸っこい感じだなぁ。頭から生えてる丸い触手みたいなのは、あれって髪の毛か何かか。宇宙服を来た人間のような不思議な姿だ。正直、あんまし格好いいとは思わない。
「…本当に、あれが動くんですか?ただの飾りとかじゃないでしょうね?」
「そんなに疑うんなら、お前が動かせ。……そこの足場を真っ直ぐ歩いていくとコクピットが開く」
丁度ロボットの腹の部分に向かって、回廊上のフロアからコンクリートの足場が延びている。まるでどうぞ乗ってくださいと言わんばかりだ
正直できすぎてる気もするんだが、 ここで黙って引き下がるともしも本当に操縦できた時に悔しい。騙されたと思ってやってやろうじゃないか。
俺はロボットのコクピットと言われた場所に向かって歩き出した。 コクピットに近づいて触ってみる。…って、何だか人間の体に触ってるような感じだ。筋肉があるのか、このロボットには?
「どうした?早く乗ってみろ」
「……っと、え、あれ、これか?」
丁度人間で言うと腹筋の真ん中の縦の割れ目(なんて呼ぶのか俺は知らんけど)の辺りを触ってると、急に胸当てのような部分が上にスライドし、目の前の機体の胸襟が開かれた。次いで、開いた胸襟から操縦席と2本のレバーが延びだしてきた。
何だかそれらしくなってきた。俺は深く考えもせずそいつの操縦席に飛び乗り、レバーを握った。俺が乗ったのを見て取ったかのように操縦席は体の中に格納され、胸が閉まっていく。閉まった途端コクピット内部に外の映像が表示される。うひゃー、これだよこれ、ロボットのコクピットってなぁこうでなくちゃな!
「…ん?『汝が称号と名を我に刻め』って画面に出てるけど?」
「そいつはなぁ、お前が誰かってのを登録しないと動かないんだよ!」
お、外からの声もちゃんとロボットアニメみたいに聞き取れるのか。本物っぽいな(いや、アニメが本物っていうのも変だけど)。 ふぅーん。バルジャーノンの登録みたいだな。まあいいや。
俺の名前で「Takeru」っと…お、画面が変わった。「認証完了。吾『御門武(MikadoTakeru)』也」
操作パネルっぽいボタンやらレバー周りが急に光りだした。これで動くのか、よく分からないけど?
「よぉし、御門武、行くぜ!」
レバーを倒し、御門武が踊らんばかりに動き始めた。猛は器用に御門武の掌に飛び乗り俺たちの上昇に乗り遅れない。

   *   *   *   *   *

時間は武たちの脱走劇から少し遡る。
白陵柊ではいつも通りの昼休みの時間であった。
「ねーねー、冥夜ちゃんはお昼、どうするんですかぁー?」
「そういえば御剣さんって、タケルちゃんとは…」
昼食を待つ冥夜に壬姫と純夏が同時に駆け寄る。他にも冥夜に声をかける学生は数多くいるわけだが、両者ともどうやら武とは近しい仲のようなので、一緒に昼食を摂りながら彼の行方でも尋ねようと考えて二人に応じることにした。
一緒に教室で食べることになりそうだが当然冥夜には初めてといっていい経験だ。武こそいないもののこれはこれで楽しみである。
「私か?…私の弁当はもうじき届くはずであるが…」
ツーツー……不意に通信音が鳴る。どうやら冥夜の漆黒の腕時計からの呼び出し音らしい。
「冥夜様」
「月詠か、どうした?」
腕時計には険しい目つきの女性が映っていた。口調からして冥夜の侍従か誰かだろう。どうやら腕時計を使うと映像と音声で通信できるらしい。壬姫も純夏もその様子を(失礼とは知りつつ)興味深く眺めていた。
「…はい、橘町方面で戦術機が出没し、現在柊町方面に向かっております。いかが致しましょう?」
「うむ、それは捨て置けぬ。武御雷をこちらに回せ」
「畏まりました…折角のお昼時に申し訳ありません。して、夕食はいかが致しましょう?」
「夕食までには戻る。いつものように期待しているぞ、月詠」
「勿体無きお言葉…今日は月詠手製のものをご用意させて頂きます」
「……っ!!」
通信を終えた瞬間、冥夜は周囲の視線に気付いた。
「そ、そなたら、今のを…」
「うん、観てたよ〜。すごいね、冥夜ちゃん。そんな時計持ってるんだねー」
「あ、ごめん…やっぱり、まずかったかな?」
「そのことは良い。…済まないが、急用が出来てしまった。一緒の昼食はまたの機会になる、許すがよい」
「え?そ、そんな、わたし達の事は気にしないで」
「うんー、残念だけど大変な用事なんだよね?」
「そなたらの寛大さに感謝を。では御免」
冥夜は愛刀・皆流神威を手に賑やかな昼食時の教室を駆け出していった。常人以上の駆け足(と軽快で巧みなフットワーク)で校舎を抜け出し、人気のない丘の上手に向かっていく。 校舎を出た辺りで腕時計を袖から覗かせ、駆けざまに叫ぶ。
「武御雷、今こそ柿落しの時ぞ!」
彼女には、後ろから必死に追いかけてくる二人の姿は見えていなかった。

   *   *   *   *   *

「こんな派手なので柊町まで飛んでいって大丈夫なんですか?」
「心配するな、すぐ着くから気づかれやしない」
青い体に白い鎧を纏ったような機体の御門武がこんな晴れ空の中を(幾ら高度を高めに取っているとは言え)飛び回っていたら騒動になると思うのだが、折角操縦に慣れてきたところでこんな面白い玩具を取り上げられるのはたまったものじゃない。どうせ夢かも知れないんだし。夢だったときは起こした純夏に文句のひとつでも言えばいいだろう。そう思って武は自分を操縦の継続へと促した。
「よし、あそこだ」
「あそこ……って、ええ!?」
武の目には猛が指差した目的地がどう見ても白陵柊学園にしか見えなかった。


丁度その頃、気づかないと思われていた機影に気づいた人間がいた。彩峰慧。今日も屋上のフェンスに腰掛けて購買限定の焼きそばパンを表向き特に喜んだ様子もなく頬張っていた。しかしその位置にいたからと言って誰もが御門武の機影を視認できたかどうかは難しいところだったろう。
「……ん」
慧の口が数瞬止まり、再び動き出した。心持ち急いているような感じで。
「…来る。行かなきゃ」
フェンスから華麗に舞い降り、傍目には気だるげに移る動作で右手を天に翳し指を鳴らす。
「がんだーむ…」
その声に呼応したのか天上から二足歩行型と思しきロボットが飛来してくる。尋常でない速度で飛来してきたように見えたが、着地は静かで緩やかだった。
慧は着地を待たずに開いた胸のコクピットに飛び込み、コクピットの中心に立った。どうやらこの機体には御門武のようなレバーはないらしい。
「…お約束、だね」
どこの誰に向かっていってるのか分からないが、振り返りざまに慧は囁いた。


そしてまた同じ頃、白陵柊の丘の木の傍で佇む御剣冥夜にも二足歩行型ロボットの迎えが来た。但しこちらは地下から。
「よし、往くぞ、武御雷!」
彼女が叫んだ次の瞬間、冥夜の姿はコクピットの中にあった。
上から降りてくる円環状のレールと、レールに乗った操縦桿が主人を迎え入れる。一方主人たる冥夜は胸の前で両の二の腕を交差させその準備を座して待つ。その間座席の前方腰の辺りのモニタ画面には以下のような文字が流れていた。

<八百万の神々の名に於いて是を鋳造せり。汝らに咎無し>

操縦桿が固定された瞬間冥夜は桿を握り、足元のペダルを踏み始める。
「武御雷、我ら演舞の時ぞ!」
戦国の鎧武者を思わせる精悍なフォルムの機体は地面をひと蹴りするだけで軽々と舞い上がり、敵に臨まんと飛翔する。
「もうすぐこちらに到着するはずだが…来るか?」
策敵。上空に光るものを認めた。確実に、そして予想以上の速度で白陵柊向かって飛来してくる。しかし。
「そなたのような不埒者が、この学び舎に近づく事は断じてまかりならん!」
宙を蹴って更なる加速を生み出し、向かってくるそれに突撃するかの勢いで飛翔する武御雷。対して…
「あ、あれって…うわぁぁぁ!!」
飛上してきた黒紫の機体が眼前に迫る。神速の抜刀。速い。回避は無理だ。どうする、こいつに武器はあるのか?鼓動の一つ一つがけたたましく感じる。俺はもう駄目なのか? 無我夢中で操縦桿を動かす。目を閉じる。コクピット全体に激しい衝撃が走る。このまま、俺は…俺は……
「……え?」
揺れは収まってない。俺は目を開けた。相手の機体が眼前に迫っている。刀と……剣?俺が、抜いたのか?そういえば背中にそんな武器があったっけ。咄嗟の事でよく分からない。 え、それじゃあ猛は?
「お前なぁ!…動くのが速すぎるんだよ!!もうちょっとで振り下ろされて死ぬところだったろうが!」
彼は何とか腰のベルトにワイヤーを引っ掛けて踏み止まっていた。
「だが、長くは持たない!何とか逃げろ!」
「逃げろったって、相手は…」
今も喋りながら必死に操縦桿を握り、敵の刀を押し返すので精一杯の状態だ。これ以上の隙をどうやって作れと言う?鍔迫り合いが更に激しくなる。画面が火花で埋まりそうだ。 操縦桿の抵抗も俺の腕力では押し返すまでは、無理だ…なら、どうすりゃあいいよ?分かるかよ!
「!?…うわっ」
相手が俺の剣を押し返した。体勢が崩れる。まずい。続けざまに奴は刀を振りかざしてくる。
「どうした?…かかって来ぬならこちらから参るぞ!」
この声、どこかで聞いたような声なんだが…布団。朝。目覚めた時。添い寝…って!何でなんだ!
「ま、待てよ!」
「待たぬ!我らが学び舎に攻入る賊に情けなど無用!泣き言は閻魔の裁きで申せ!」
って、あの女えれえ物騒なこと口走ってるぞおい。言葉どおり容赦ない斬撃。一撃、二撃、三撃!受け流すのがやっとだ。腕が痺れる。…っと、正面にいると切りが無い。相手の視界の外に回りこまないと!って、相手は俺の動きを押さえ込むかのように的確に刀を振りかざす。斬、斬、斬、斬。相手は気軽に踊りでも舞ってるかのように迅速に澱みない刀を走らせるのに対し、俺は辛うじて刀を受け流して逃げ回るのが精一杯だ。反撃 どころじゃねえ。猛のことを考える余裕もない。落ちてなけりゃいいが…って、まずい、回り込まれた!
「はぁぁぁぁぁっっ!」
御門武の左脇腹に敵打撃。峰打ちか?だらしなく吹っ飛ばされて落下していく。やばい、操縦桿に応答が無い。ダウンか、こんな時に!思わずいつもの癖で操縦桿を激しく動かし回る。動け、動いてくれ…って、奴も加速をつけて降下してくる、マジかよ!?動けよ!
「次で決めるぞ、武御雷!」
「……おいおいおいおい、冗談じゃねぇよ!こんな死に方してたまるかよ!おら、動けって!」
俺がどうにか足掻いている間に御門武の頭部の触手のような髪が広がり光を放ち始める。そして光の粒が徐々に形を纏めて光の輪を頭上に描くようになり、輪の完成とともに操縦桿が軽くなって…
「なにっ!」
「さっきは派手にやってくれたな!今度はこっちの番だぜ!!」
気が付いたら相手の背中に回りこんでいた。何だかわからないが、勢いに任せて相手の懐まで入り込み、御門で肩から相手に突っ込んだ。格好は悪いが効果はあるはず。ぐっっ!衝突の反動で しこたま背中を座席に打ちつけた。だが奇妙なほど高揚してて痛みもろくに感じない。そのまま勢いに任せて剣を振りかぶる。
「当たれぇぇぇぇぇ!!」
「なっっ!!」
思い切って振りかざした剣は偶然にも相手の利き腕を捕らえ重く食い込んでいた。そのまま…一気に…
「おおらぁぁぁ!」
斬り落とす!機体ごと剣を一回転させて刀を握る手を奴から吹き飛ばす!いけるぜ、これなら、いける!そのまま俺達の二機は学園のグランドへ急降下していく。お互い何とか着地 するが、相手は武器と利き腕を一緒に失った。力なく跪き失った利き腕の付け根を痛々しく左手で押さえ込んでいる。俺の、勝ちか?…流石に武器を持たない相手に追撃をする気には なれない。甘いかもしれないが、降伏してくれるだろうか。油断しないよう相手の頭部に剣の切っ先を向けて相手に話し掛けてみる。
「これ以上……戦う必要、ないだろう?」


その時、校舎の屋上で寂しそうに佇む慧と彼女の戦術機。
「……出番、もらえなかった。残念」

(第一章・おわり)
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