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「俺が望むマブラヴ」〜私が渇望し、希求したマブラヴのかたち〜

第一章・前半

もし人間が、創作者でもあり、謎の解明者でもあり、偶然の救済者でもあるのでなければ、どうしてわたしは人間であることに堪えられよう! 過ぎ去った人間たちを救済し、すべての『そうあった』を、『わたしがそのように欲した』につくりかえること----これこそわたしが救済と呼びたいものだ。

「ツァラストゥストラはかく語りき」フリードリヒ・ニーチェ

   *   *   *   *   *


「…で? さっきの女の人は誰なわけ?」
「気のせいだろ。もしくはお袋と見間違えた。お前もそそっかしいなぁ」
「…私が、どうやったら、おばさんと見知らぬ寝間着の女の人を見間違えるわけ?」
ここは機先を制してなかったことにしないと、いつまでも追求されそうだ。こんな時のためにわざわざ鞄にしまってあるスリッパで…パシーン!
「あいたっ!」
やはりここぞという時にはスリッパの一撃だな。なんといっても音の響きが違う。
「…まーったく、お前随分今日は絡むな?」
「な、なによー。わたしはおじさんもおばさんも出かけた家にタケルちゃんが女の人と二人だっていうことに問題を感じてるんだよ。女の人とくっついて一緒に寝てるなんて、不潔だよ。信じられないよ」
「はは〜ん、お前、俺にやきもち妬いてるな?…君も一人前の女の子に成長したじゃないか、純夏君」
「ち、ちがうもん!…そういうのじゃなくって、わたしは…」
って、何だよ?そんなしおらしい顔すんなよな?ドキドキしちまうだろうが。って、何で俺が純夏に胸を時めかせないといかんのだ。
などとほんのちょっと誤魔化してたつもりが、いつの間にか学園前の坂を登ってるぞ俺。
まあ、ここまでくれば安全圏だろう。足を止めて、ひとまず一撃。
「はぶっっっ!」
「お前なぁ、そんな不慣れな仕草を見せるな。心臓が止まりそうになっただろうが」
どういう意味かは敢えて言わんが。
「え、なになに?…タケルちゃん、わたしの魅力に今更気づいた?」
「バカ。んな訳あるか」
「あー、バカって言ったー!バカって言った人がバカなんだよ、知ってた?」
妙に楽しそうだな、純夏のやつ。何がどうなったかよくわからんが、どうやら危機的状況は回避できたらしい。
「言ってろ」
「ふっふーん。そうなんだぁ〜。…じゃ、明日からもしっかり起こしに行ってあげるよ♪」
俺が嫌だって言ったって、お前は起こしに来るんだろ。まあ、嫌って訳ではないが、こいつにはもっとちゃんと、幼馴染みの起こし方というやつを仕込んでおかないといけないだろうな。俺の安眠と平穏のためにも。
「…あ、危ないよ!」
「え、お前また適当なことを…んがっ!!」
誰かが、いや何かが俺を跳ね飛ばして駆け抜けていった
この感触は、交通事故ってやつだろうか。宙を舞っている瞬間まるでスローモーションのように、駆け抜けていった車のフォルムが見えた…
って、冗談じゃねえぞおい、一歩間違ったら今この瞬間に俺は死んでるだろうが。…今、すごい長さの車が俺を撥ね飛ばして走っていく のを見てる錯覚を覚えたが、気のせいだ、ああ、気のせいに違いない。
この世に60メートルもある車が走ってるわけないだろう。仮にあったとしてもそんな車で通学するような奴を俺は知らんぞ。いてて…流石にちょっと痛いかも。
「……おーい」
「……」
「おーい、生きてる〜?…タケルちゃーん?」
正直言って痛いんだが、この程度では遅刻を許してもらえそうにない。起きるとするか。
「…車に撥ねられて五体満足だったら、そもそもこんな風に地面に倒れないと思うんだが?」
「…普通は死ぬと思うよ」
「いや、冗談抜きで死にかけた。花畑が見えた」
「まあ、遅刻はしなくて済みそうだから良かったじゃない」
よくねーって。何だよ、そのにこやかな表情は?お前は俺が車に轢かれて意識不明になって、そのまま3年寝たきりになってて急に目覚めてみたりしても構わないっていうのかおい?
ってゆーかこんなことしてたら遅刻する!俺は慌てて起き上がって校門に向かってダッシュする。
「ちょ、ちょっと待ってよ〜!」
「早くしろって。もうすぐ予鈴鳴るぞ」
「待って…って、あ”」
どどどどどど…何か、物凄い足音が近づいて来るんだが。って待て、俺の方か?また俺なのか?ってもう間に合わない!
次の瞬間、柔らかい小さなやつが俺に向かって激突してきた。流石にさっきの鉄の塊に比べたら危険ではないが、それでも十分痛い。いや本当に痛いんだって。信じろよ。
「お”お”お”お”お”…」
「いたっ!いたっ!」
これがごくごくありがちな恋愛ものとかだと、ここでぶつかった俺と見知らぬ美少女が派手に喧嘩して、実はそいつが転校生だったりして、教室で大騒ぎやらかして幼馴染みを巻き込んで 三角関係に(いや、別に純夏がどうって訳じゃなくてだな)なったりならなかったりするんだよな。あー、しまった。俺パン咥えて走ってねぇや。いや、そんなバカなこと言ってないで。俺にぶつかってきたのはどんな…
「って、たまかよ…期待して損したぜ」
「…この状況に何を期待してるんだか」
「あうぅぅぅ…はうぅぅ…」
うわ、すげえ涙目。そりゃ確かに痛かっただろうな。つーか俺も痛いんですが
「おい、大丈夫か?傷は深くない。しっかりしろ。もうすぐ衛生兵が来るからな!」
「いたっ!いたっ!」
「大丈夫、壬姫ちゃん?頭をぶつけたの?」
「いたたた……あー、純夏ちゃん。おはよー♪」
…何で俺の励ましには何も返してくれませんか。
「うん、おはよー♪早く行かないと遅刻しちゃうから、大丈夫なら行こっ」
くそ、純夏のやつ、さっき俺が車に撥ね飛ばされたときには何もしてくれなかったくせに、ぶつかったたまには頭撫で撫でかよ。随分な扱いの差じゃないか?普通車に轢かれたばっかりの俺を心配するもんじゃないのか?俺だって、痛いの我慢して励ましたんだぜ。ああ、今更のように腰が痛くなってきたよ。やばい。ってててて…マジで泣き叫びたいくらいだぜ。
「うんー。あ、タケルさんもおはよー♪」
「…って、タケルちゃん?早くしないと置いてくよ?いつまで痛がってるのよー」
酷い、あんまりだ。
「わ”、わがったよ…」
この世には神も仏もいないっていうのか。…自分で救急車呼ぼうかな。

   *   *   *   *   *

「あら、白銀君が静かに着席してるなんて、珍しいこともあるのね」
這う這うの体で教室のマイシートに崩れ落ちていたところに、委員長の一言。くそ、いつもなら反撃してやるんだが今日は流石にヘビーだ。言葉も仕草も返せそうにない。
「……」
意地でも反応を返さないつもりで沈黙していたんだが、次の瞬間委員長以外の声が俺の方に届いた。
「白銀武さんは、こちらにおられるんでしょう?」
落ち着いた感じの女性の声だ。でも、声に聞き覚えが無いしこんな丁寧な口調で声をかけてくれるような知り合いはいない(って自分で言ってる辺り悲しいものが あるけど)。んーと、誰だ?
「……はい?」
何とか顔だけ上げて声のした方をみやる。ん、お下げでメガネ…でも委員長じゃないらしい。看護婦の格好をしているようだが、助けにきてくれたのだろうか。優しい眼差しと大きな胸が何とも言えず慈愛に満ちた印象を与える。絵に描いたような看護婦ってやつだろうか。
「『出埃及』の容疑で当局から手配が来ております。詳しいお話は追って伺いますので…」
落ち着いて丁寧な物言いだが、女性の顔に浮かぶ笑顔有無を言わせない雰囲気が感じられ、すぐさま俺をヘッドロックして捕まえやがった。突然の捕縛に教室中が騒然となり始めるが、 誰も止めようとはしない。
「…ってぇって!俺、怪我人なんだぞ!」
「怪我してる人が乱暴しちゃ駄目でしょ?そこで大人しくしていなさい」
俺を連行した女性は見た目に反してかなりの力持ちらしく、俺を抱えたままどこかの病院らしき場所に俺を運び込み、ろくに手当てもしないまま病院には相応しくない牢屋の ような部屋(っつーか牢屋そのものなんだが)に放り込んだ。メガネをかけて大人しそうな顔をしているが、視線は真剣だし口調は俺の反論を許さない。感情的になって俺を押さえ込もうと言うのなら分かるんだが、こうも事務的に、かつ落ち着いた応対を見せられると相手が何を考えてるのか分かりづらい。
「ちょっと待てよ、俺は怪我人だけどこんな場所に閉じ込められる覚えは無いぞ!」
「……」
「おい、聞いてるのか?ここから出せよ!いつになったら出られるんだよ?」
叫んだ瞬間に女の平手が容赦なく飛んできた。全く手加減がない。思わずのけぞったが叩かれた時に口の中が切れちまったようだ、急に口内に激痛が走った。
「どうして貴方はそう、聞き分けが無いの!」
怒鳴ったかと思えば女は泣きながら俺を抱き締める。かと思えば笑っていない目を向けて顔だけ笑わせながら俺を諭すように言葉を投げる。 ここまで表情と声色がずれているような人間を俺は初めて見たかもしれない。何だか抱擁が気味悪くなってきた。
「私が戻ってくるまで、大人しくしていてね……いい子だから、ね?」
いや、彼女は落ち着いてなんかいない。視線こそ俺のほうを向いてはいるが俺のことなんか最初から見ちゃいない。遠い目をして全く別の何か、或いは俺以外の誰かを想って俺に投影している。そんな感覚だ。
彼女は楽しげな笑みを浮かべて俺に一瞥を向け、抱擁を解いて部屋の扉を閉じた。重い鉄扉の絶望的な閉鎖音が耳に痛い。暗い。やけに広い。 どれだけ目を凝らしても何も見えない部屋の中を手探りで調べていく。くそ、こんな場所であんな気味の悪い女の帰りなんて待ってられるかよ!逃げなきゃ、逃げなきゃ次に何をされるか分かりゃしない。だが一条の光さえも差してこない。闇。暗闇。静寂。埃っぽい空気。全てが不安と焦燥を焚き付けるように俺を包んでいる。 どれくらいの時間そうしていたかわからないが床に這わせていた手が人肌の感触を覚えた。俺以外にも、人がいるのか?

   *   *   *   *   *

「……誰か、いるのか?」
「……」
男の息遣いが聞こえた。暗闇の中死体と同室なんていう薄ら寒い状況にはならずに済んだようだ。
しかしどうして、彼はさっき俺が入ってきた時に何も反応を示さなかったのだろう?
そう思い返すとまた少し怖いものが背中を走っていく。まさか、彼は既に…
「…落ち着け。俺は生きてる」
静かに、しかしはっきり聞こえるように男は呟いた。声色からすると俺より年上のようだ。
「じゃあ、何でさっき助けてくれなかったんですか!」
「……腹が減った。もうじき飯が来る。話はそれまで待て」
それだけ言うと倒れている(寝ているのか?)男は沈黙した。
またさっきまでの居心地の悪い闇と空気が気になり始めた。正直言うと一人では不安で仕方ないが、ここでこの男に声をかけても返事はもらえなさそうだし、何より俺が格好悪い。飯が来るっていうんだ、それまで待って飯を食いながら話しでもすればいいだろう。

俺は仕方なくその場に三角座りをして飯のの時間を待った。
重い鉄の扉が嫌な軋りと共に開き、僅かながらこの部屋に光が差した。何もない部屋。その中で寝っ転がってる男はだぼついた感じのズボンと、襟にファーの付いたハーフコートを身に纏っている、少しみすぼらしい感じの男だった。みすぼらしいのはこの部屋に長い間いたせいかもしれない。
「おら、飯の時間……っっ!!」
一瞬、何が起こったのか理解できなかった。さっきまで起き上がる気力も失せたかのような呟きしか返してくれなかった男が、食事を運んできた緑の軍服の男をほんの一瞬の華麗なアッパーカットで卒倒させてしまっていた。
彼はいつ起き上がったんだ?
そうこうしている間に男は軍服男の服を探り、鍵束を探し当てるとそれを持って扉の向こうに半身を乗り出した。
「俺は出て行くが、来るかい?」
こちらを振り返らずに扉から半身を出したまま尋ねてくる。俺は黙って出口にいる男の方に近づいた。
「いいのかい?」
「…俺は、ここにいる人間じゃないから」
「よし……俺は黒鉄猛(くろがね・たけし)」
言いながら男、猛は外に向かって静かに駆け出した。
「俺は、武…白銀、武」
「タケル、か…」
男が一瞬、妙に親しげな笑みを見せたような気がした。もしかすると俺の見間違いかもしれないが。

俺たちは静かに、迅速に暗がりの病棟を疾駆する。
男の動きには無駄がない。勝手な憶測だが、彼は軍人だか何かの訓練をつんでいるのだろう。
「ここが何処か分かってるんですか?」
「ああ、ここは欅町の病院の隔離病棟さ」
「病院、って、俺は病院に連行されるような覚えは…」
ここは男に従って進む方が賢明だろう。 話しながらもどんどん階段を下りていく。 男の様子だとどうやら周囲に見張りとか敵はいないらしい。だが余計な騒音で気付かれたりしたら、多勢に無勢って可能性もある。慎重に進んでいこう。
「…まあ、今は細かい紹介は抜きだ。…っと、こっちだ、この扉を開けてくれ」
さっきの笑みは俺と名前が似てるせいか。俺は促されるままにドアのノブを捻った。開かない。鍵がかかっているようだ。
「鍵がかかってるよ…どうする?」
「こういう時にはな…こうするんだよ」
猛は懐から拳銃を取り出し、何の躊躇もなく引き金を引く。大きな紙鉄砲の音にも似た凄まじい音が木霊すると共にドアがだらしなく開く。すぐさま猛は俺を引っ張り込んで ドアの奥に進んでいった。下り階段、それも随分長いようだが。
「急げ、もたもたしてると病院で三年は寝たきりだぜ」
冗談じゃない、俺は恋人を待ってて交通事故に遭ったわけじゃないのに。

>>つづく
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