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「俺が望むマブラヴ」〜私が渇望し、希求したマブラヴのかたち〜

序章・前半

あなたがたがかつて、ある一度のことを二度あれと欲したことがあるなら、「これは気に入った。幸福よ!束の間よ!瞬間よ!」
と一度だけ言ったことがあるなら、あなたがたは一切がもどってくることを欲したのだ!

「ツァラストゥストラはかく語りき」フリードリヒ・ニーチェ

   *   *   *   *   *


どれだけの時間、この操縦席から外に出てないんだろうか。
寝ても覚めても操縦と戦闘が絶え間なく続いていて、目の前には果てしなく広がる人間文明の名残----廃墟だとは認めたくない、 俺達はまだこの星に残っている人たちを守って戦っている----と、俺達がBETAと呼んでいる敵だったものの残骸が積み重なっている。
「……はぁ…はぁ」
敵の反応は無い。これだけ意識がはっきりしない状態になるまで戦って俺がまだ操縦席で息をしているんだ、多分あらかた殺っちまった筈だ。そうでなきゃ操縦桿を持つ手の痺れも、苦しいんだか渇望していたものを必死で満たしているんだか分からない荒い呼吸も、目の前に広がる残骸と死骸の一帯も、今感じられるものではない。
目の前の像が形を成した時、武には自分の家が見えた。いや、今となっては家の形を残しているかどうかも怪しい瓦礫の塊でしかないが自分が記憶している限りでは自分の家があった場所だ。
「俺の家…? そういや俺、あの家から丘の上に登って学園があるって思い込んで、そしたら…」
彼の日常の認識のままであれば、そこには白陵大付属柊学園があった筈だった。それが実際到着してみれば米軍基地のような場所になっていて、 挙句の果てに捕虜同然に捕縛されてしまった。
その捕虜みたく投げ込まれた基地で俺は訓練を受けて…

「…ちゃん、タケルちゃん!」
「ん… あっ!」
咄嗟に跳ね起きたら、頭に何かをぶつけた。妙に柔らかい気がする。俺の操縦席にはこんな柔らかいものは置いてなかった筈なんだが。
「……あの、さ」
視界がやけに白いような気がする。戦闘続きで少し意識が飛んだのだろうか。
「……あの、タケルちゃん?」
いつか聴いたような声。何だか遠く懐かしい思い出から掘り起こしたような響き。いやでも、あいつは…
「……ちょっと、聞いてる?」
そうか、もしかして俺、戦死するのか…そうだよな、そうでなきゃ「世界に存在しない」純夏の怒った声なんて。怒ってる?純夏が?
「……もしもーし?」
慌てて顔を動かして見上げる。純夏の顔。怒りと羞恥の入り混じったような微妙な表情を浮かべてるようだが。
「え、えーと、ここは…」
「まだ寝ぼけてる?起こして欲しい?」
マズい。この声色は非常にマズい。俺はひとまず目の前の危機を回避するべく柔らかいものから顔を離し、急いでベッドから出た。
どうやら夢だとか死に際の走馬灯とかではないらしい。 勤めてクールに、さっきの戦場の風景を一旦忘れて目の前に立つ制服姿の幼馴染みに向き直る。
「お前の制服姿なんて、久しぶりに見るな」
「…タケルちゃん、今のをごまかすつもりだったら、答案0点だよ?」
ヤバい。純夏が拳を握って構えている。顔が微妙に笑ってるのが怖い。あの構えから俺が何度星になって飛ばされたことか。
「いや、悪い。跳ね起きて頭をぶつけたらちょっと痛くて、あまりの痛さに…」
「…それ、どういう意味?」
「いや、だからな、お前がもっとこう、豊かで包容力溢れる胸だったら、そいつがクッションになって俺が朝から痛い思いをしなくて済んだっつーか、もうちょっと女らしくなってくれりゃ、俺もいい目覚めが迎えられるっつーか…」
「いい目覚め?……それだったら、」
気づいた瞬間には、純夏の拳が俺の顎を的確に捉えていた。こうなる度に思うんだが、何でこいつはボクシング部に入らなかったんだろう。俺が知る限りでは、 ボクシングの世界タイトルマッチでもここまで見事なアッパーカットを繰り出す奴にはお目にかかれない。
「これでどうだ!?」
「うぐぅっ!!」

   *   *   *   *   *

宙を舞っている時一瞬花畑が見えたが、あれから何とか無事に服を着替えて純夏と一緒に登校できる状態に戻った。 毎度毎度思うんだが、俺って何気に生命力高い?ふつー、あの一撃で死ぬぞ?顎にクリーンヒットですよ?
「……」
「…なによー、タケルちゃんがわたしの胸に顔を埋めて擦り擦りしてたくせに、硬いなんて言うからだよ」
「いや、それは悪かったって謝ったろ?」
「わたしが起こしてからね」
ジャック・ハンマー級のアッパーを浴びせておいて「起こした」で済ませるか、このバカ純夏は?
「だーかーらー、そうじゃなくてさ!何で俺達、学校に向かってるんだ?誰も登校してねぇだろ?」
朝がアレだったとは言え、流石に俺も周囲の風景くらいは気になってた。誰も、正確に言えば数えるほどの人間しか制服姿の学生を目にしていない。俺らが登校する時間にこんだけしか 人間が登校してないなんてあり得ないし、朝練なんて時間でもない。そもそも俺も純夏も部活だとか何とかいうものとは関わりが無い。
「はぁ?……タケルちゃん、頭大丈夫?」
「すみかになぐられたからおれのあたまはもうだめだ」
「ふぅ〜ん……じゃあ、全く逆の方向から全く同じダメージを与えてあげれば直るんだね?」
神様。俺の幼馴染みは何でこうも武闘派なんでしょうか。普通幼馴染みっつーと犬ちっくに尻尾なんか振る感じで「何々ちゃーん、待ってよぉ〜」なんて大人しく俺についてくるもんじゃないのですか?いわゆる「お約束の萌えキャラ」ってやつじゃないんですか?……理想と現実の乖離を激しく感じるぞ、俺は。
「スイマセン、オレガワルカッタデス」
「ふぅ……タケルちゃんといると、時々自分が何をしたかったのか分からなくなるよ」
不意に純夏の横顔が視界に入る。困ったような嬉しそうな、妙に安心感を覚える顔立ち。まぁ、身内の贔屓目を抜きにしてもこいつの顔は平均以上ではないかと思うが、しかしそれが安心感 と関係がある訳ではないだろう。だいたい顔がいくら可愛くても(いや待て、純夏が可愛いって言ってるわけじゃないからな)、このざまだぞ?殴られて見当違いの言葉のやり取りを繰り返してて、 それにこんなにも安心してるのか?マゾか俺は。いや俺にそんな気は…
「……タケルちゃん?」
「あ、いや、悪い。マジで俺ら、何しに学校行くんだっけ?」
「はぁ〜…これだよ。自分から誘っといてよく言うよ」
「俺が?」
「そうだよ。夕呼先生に名指しで休みに呼び出されて、寝坊すると怖いから起こしてくれ〜、とか言って頼んできたくせに」
「夕呼…せん、せい?」 何故か、俺はその名前の響きに不安というか、焦燥感というか、そんな感じのもやもやしたものを覚えた。 いやまあ、確かにどう転んでも香月夕呼って人が俺に平穏をもたらさないのは確かなんだが…わざわざ休みに呼び出すって辺りが特に不安だ。あの先生のことだからてっきり夜寝る前… って、何で学生の俺が教師に、夜寝る前にわざわざ学校に呼び出されるんだ?
「……どうしたの?今朝のタケルちゃん、変だよ?」
「ああ、何でもない。つーか嫌な予感がしただけだ」
「それはタケルちゃんの日ごろの行いのせいじゃないの?」
「お前な、何気に失礼なこと言ってくれるな」
「いつものタケルちゃんとは比較にならないよ」
いやまあ、そう言われてみれば確かにそうかも知れないけどな。
「っておい、もう校門前じゃないかよ」
「着いたね」

こんなたわいも無いやり取りを繰り返しているうちに校門が見えてた。 校門の前に見慣れない短髪の美人が立ってる。遠巻きに学園の中を覗こうとしてるように見える。学校の先生…だったら幾ら何でも見覚えはある筈だし、少なくとも俺の知り合いって訳では なさそうだ。にしても、わざわざ休みにここまで来て中に入らないってのも変な話だ。
「ここに、何か用っすか?」
「えっ?」
女性が俺のほうに向き直った。うわ、マジで美人だわ。少し切れ長な感じの目が俺を見据えてる。
「……あ、君達、白陵の学生?部活か何か?」
「え〜、まあ…そんなとこです。お姉さんは休みにこんな所で何してるんです?」
「あー…私?私は、ここの……卒業生、なんだ」
昔を懐かしむような、昔の何かを噛み締めるような微妙な間を置きながら彼女は一言一言を答えた。
「ああ、OGなんですか?それなら、こんなとこで眺めてないで校内観て回ればいいのに」
「…ん、そうだね。……貴方達、付き合ってるの?」
「え”?」
「!!」
二人が同時に驚く。いやそりゃ、貴方のような美人で胸もおっきくてスタイルいいお姉さん相手ならそういうコトも考えさせてもらいたい、つーかむしろこんなバカ純夏と「付き合う」って表現を されることが俺としては遺憾であり、俺にも相手を選ぶ権利というものがあっていいのではないかと…
「ど〜〜して、わたしをそういう哀れむような目で見てるわけ、タケルちゃん?」
「それは君の気のせいだよ、純夏君」
「ぷっ、あははははっ!…貴方達、お似合いじゃない」
なかなか豪快に笑う人だな。
「いや違いますって!こいつとはただの幼馴染みで、別に、そんな…」
「あー、はいはい。そういうことにしとくわ。…そういえば、あの建物は何なの?」
何か俺、さっきからこのお姉さんにいいように遊ばれてる気がするんだが。だが、不思議と悪い気はしなかった。
「あれは、何年か前に水泳部で活躍していた、すごい先輩の功績を称えて作った室内プールなんです」
「ふーん…水泳部の、すごい先輩、か」
何故だろう。この人はなぜか時々遠くを見るような目をして言葉を泳がせている。OGがただ懐かしくて遊びに来たっていうのとはちょっと違う雰囲気を感じた。だからと言って、別段 彼女が嫌々来ているような雰囲気は感じられない。自分の中で不確かなままの何かをひとつひとつ確認してるような、そんな感じがする。
「タケルちゃん、時間…いいの?」
「え?…あ、やべっ! すいません、俺、先生に呼び出されてるんでそろそろっ」
俺は名残惜しく思いながらも、差し迫った不可避の危機に足を向けることにした。
「うん、それじゃあね、タケル君」
女性は何かを見守るような微笑を俺達に返してくれた。
「……あたしにも、あんな頃あったかな」
最後に彼女が呟いた言葉は、俺の耳には届かなかった。

   *   *   *   *   *

「な〜によ、ちょっと美人に会ったからって」
「何だよ、やきもちか?」
「……そういうんじゃ、ないよ」
恐怖の物理実験室へ向かう途中、妙に純夏は絡んできた。そりゃまあ、滅多にお目にかかれない美人相手に多少舞い上がってたところはあった。それは認めよう。 だからって純夏がそんなに落ち込むことはないだろ。まさか、今更お姉さんの「お似合い」に照れたりむきになって否定したりする年頃じゃないだろう。大体そんなのは小学生の頃とかに 散々言われていい加減慣れただろうが。
「あ、いや、お前な、そんな落ち込まなくても…」
「あー、もう、うるさい!廊下くらい静かに歩きなさいよ!」
突然左手の戸が開いて怒鳴りつけられた。って、怒鳴られてるの俺かよ!
「先生…なんでそんな不機嫌なんすか?」
「わざわざ休みに学校に来てご機嫌な教師がいると思うか、白銀?」
夕呼先生の視線はいつになく険しい。つーか、俺はいつでも先生には厳しい教育を受けているような気がする。そういや、今日は何をやらされるんだろうか。純夏が一緒だからまぁ流石に 殺人的な雑用の処理とか実験体とかそういうご無体な扱いは避けられそうな気がするが…
「なんだ、鑑も連れてきたのか?制服で学校に連れ込むなんて、マニアックな趣味だな」
「…タケルちゃんって、オヤジっぽい趣味だね」
「あのな、お前まで先生に合わせるなよ。只でさえ厄介なのに」
「そうか、白銀は私のことを『厄介』だといつも思っていたのか。…今度の試験の物理と英語の点数がどうなってもいいらしいな」
「いや、そうじゃなくてですね…その、今回俺をお招きいただいたのは、どのような…?」
このままではいつものいぢめられ役だと思って何とか本題に話を戻そうとしたのだが、先生はいつもの調子では乗ってこなかった。
「鑑、悪いが白銀と二人きりで話をしたいんだが」
「あ…はい。それじゃあタケルちゃん、校門で待ってるから」
「おう、分かった」
純夏が俺達に背を向けて立ち去っていくと同時に、先生はいつになく有無を言わせない態度で俺を物理準備室に押し込んだ。いつもだったらここまで俺に対しても、純夏に対しても強硬では なかったと思うんだが。

   *   *   *   *   *

「…白銀、これに見覚えはないか?」
物理準備室に入るなり、先生は突然サンタ帽をかぶりヒゲ眼鏡を着けた。
「ぶっ、わはははははっ!!」
まさか、こんな冗談を俺にかますために人気の無い休日に俺を呼び出したと言うわけではないだろうが、流石にそのリアクションは不意打ち過ぎて俺のツボを直撃した。 いや確かに面白い人なのは認めるんだが、こういう自分をネタにした分かりやすいギャグはかまさない人だったと思う。
「…そんなに面白いか?」
やばい、先生の声に重い圧力がかかってる。これ以上笑うのは生命の危機だ。
「あ、いえ…ぷっ。……ち、違いますよ!先生が、突然そんな格好するから…」
「それはそれとしてだ……他に何か思うことはないか?」
「他に、ですか…?」
笑いを噴き出さないようにまじまじとお笑い系の夕呼先生を眺める。少なくとも滑稽さ以外には感じることは無い。また新手の実験なのか、こう見せといて?全く天才様の 考えることは全く分かりゃしない。分かりたくも無いんだが。
「先生、これって何かの実験なんですか?」
「お前がそれを知る必要はない。…そうだ白銀、お前、夢はよく見る方か?」
「夢、ですか…?ええ、まあ、それなりに」
またいつもの天才様独特の飛躍的な質疑応答だ。まあ、こいつはいい加減俺も慣れてきたので今更反駁したり考え込んだりすることはない。聞かれたことに答える、それ以上の 行動はこの先生の前では通用しないってことも。
「それなり、か。では、大体どんな夢を見る?」
夢の内容なんて普通覚えてはいないんだが、今朝のアレは断片的ながら流石に頭の中に残っている。ただ、普段からああいう夢を見るって訳じゃないんだが。
「普段よく見るのは、昔の夢とかですね」
「鑑が出てくるのか?」
今更な詮索含みなので軽く流す。
「まあ、出てくることもありますね。…ただ、今朝の夢はちょっと毛色が違ったって言うか何と言うか…俺が戦争の中にいたんです」
ほんの一瞬、先生の目の色が変わったような気もするが特に言葉や仕草に変わったものは見せない。先を促されていると判断して俺は続けた。
「 ロボットに搭乗して戦って、戦って、ひたすら戦って…戦い疲れたっていうんですか、そんな状態だったような気がします。まあ、つってもこれは多分夜中までゲームしすぎて夢に見たとかだと 思いますけどね」
「白銀…お前、『そこで』鑑に会ったのか?」
「いえ、人と会ったとか、話したって記憶は無いですね」
「そうか…それも案外現実なのかもな」
先生は誰に言うとも無く呟いて、ひとり納得したような顔をする。今更ながら気づいたが、物理実験室で夢がどうのこうのと話すのも何だか変な感じがする。大体、物理で夢判断 なんてするのか?…まぁ、目の前の人は良くも悪くも天才なんだからその程度のことならやってのけそうな気もするが。
「まあ、こんなもんかな…今日は帰ってよし」
「へ?もう終わりなんですか?」
「あたしも暇じゃないのよ、用が済んだらとっとと帰る」
俺に手で追い払う仕草を向けて気だるそうに怒鳴る。何なんだよ、俺がわざわざ早起きして休みに学校に来たっつーのに。なんて先生に文句を言うと命が幾つ あっても足りないので、不承不承ながらも大人しく物理実験室を退散することにした。さっきもえらく不機嫌そうだったしな。君子危うきに近寄らずってね。
「それじゃ、失礼します」
主人しかいない物理実験室に落とされた呟きを、彼は耳に入れたであろうか。
「そろそろか…しかし、お前は誰を選ぶんだろうな」

>>後半につづく
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