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● 俺が望むSS(駄文、SSの書庫) --- '04年 珠瀬壬姫・誕生祝 「a place in the sun」 ●

とある週末の夜。不意に鑑純夏の部屋のドアが開いた。
机に向かって雑誌を読んでいた純夏は振り返ってドアの方を見る。そして立っている姿を認めて軽い驚きの声を立てる。
「誰…って、タケルちゃんどーしたのさ!?」
不意の来客の正体は彼女の幼馴染み、白銀武だった。見ればひどく疲れ切っている。それに、よく見れば彼としては比較的着飾った衣服のあちこちが泥か何かで汚れて いる。
俯いてた武の顔が上を向いたかと思えば開口一番、
「あれ…何で俺の部屋に純夏がいるんだ?」
「俺の部屋、って…ここ、わたしの部屋なんだけど?」
質問の返答に質問が飛ぶ。暫く沈黙で間が空いてから、先に言葉を発したのは武。
「え、ああ……悪ぃ、間違えた」
何だか疲れきったような呟きが漏れる。流石に気になって問い返す純夏。
「タケルちゃん…なんか、疲れてない?」
「ああ…ちょっとな。今日は色々あり過ぎた」
そう言われて、純夏は今日何があったか漸く思い当たった。前に聞いた予定が正しければ、武は壬姫とデートに出かけた筈だ。しかし、デートに出かけて『色々あり過ぎた』というのは凄く意味深な発言だ。流石に気になる。
「今日はもう疲れた…寝る」
「って、ちょっと! そこわたしのベッド!」
ベッドに向かってふらふらと歩み寄る武を何とか言葉で踏み止まらせた。
「悪ぃ…別にわざとじゃねえんだ。今日は、ちょっと、人間の限界を感じてな…」
気怠げに話しながら淡い暖色のカーペットの上に腰かけてしまう。純夏は軽い溜息をつきつつも口元を緩め、
「それじゃ、ちょっと飲み物淹れてくるよ」
「ああ……目の醒めるやつを頼むわ」
「ん。任せといて」
軽やかな足取りで階下のダイニングへ向かっていった。武は久し振りに聞く幼馴染みの足音に不思議と安堵感のようなものを覚えていた。


「ぁ……ちょっと甘いな、これ」
純夏が階下から持ってきてくれたコーヒーカップを傾け、ミルク多めの温いコーヒーを口に含む武。その横で一緒にコーヒーを飲みながら穏やかな声で純夏、
「…で? 壬姫ちゃんと何かあったの?」
「いや、まあ、何かあったと言えばあったんだが、別にたまと喧嘩したとか、そういうんじゃねえんだよ」
コーヒーを飲んで少し落ち着いたか、武は今日の様々な出来事を純夏に語り始めた。

  *  *  *


まず俺は、今日もいつものようにたまを家まで迎えに行ったわけだ。
いつもなら表の門で呼び鈴鳴らしたらたまが出てくるんだけど、今日に限ってなぜか誰も出てこなかった。
「おかしいなぁ…親がいないのはともかく、今日たまが外出してる筈ないしなぁ」
そんな独り言を言いながら、俺はもう二、三回呼び鈴を鳴らしてみた。それでも家の方から人が出てくる気配はない。…どうなってんだ?
そこで、俺の携帯にメールが入った。慌ててポケットから携帯を出して見たら、たまからのメールだった。
「たけるさんへ なかへはいってきてください ミキ」
メールの内容から考えると、たまはどうやら家にいるらしい。けど、俺が鳴らした呼び鈴には対応できない。どうなってるのかよく分からないが、俺はちょっとだけ不安を感じながらあのでっかい門を潜って中に入ってったんだ。


で、俺が石の渡りを歩いていって漸く母屋の玄関に辿り着いたところで、タイミング良く、またたまからメールが届いた。
「げんかんからみぎにまわってえんがわにきてください ミキ」
…平仮名ばっかで分かりにくかったんだが、今俺が立ってるのが玄関の前だから、『玄関から右に回って縁側に来て下さい』ということだろう。しかし、俺の居場所が分かってメールを送れるんだったら、いい加減出迎えてくれてもいいはずだ。
「たまー! 何かよく分かんねーけど、そろそろ出て来いよ!」
(たけるさ〜ん……)
家の少し奥の方から俺を呼ぶたまの声が聞こえた。どうやら誰かさんみたいに俺に意地悪しようとか、悪戯半分で俺を家に入れてるとか、そういう訳じゃないらしい。
そこで俺は、メールで言われた通り縁側、だだっ広い池のある庭へ歩いていった。


少し離れて池の方から母屋を見て、漸く俺はたまの居場所が分かった。
…たまは、何匹かの猫たちと一緒に屋根の上にいたんだな。
「何やってんだよたま、そんなとこで!」
「え、えーっと、ですねぇ…屋根の上に子猫が登っちゃって、降りられなくなったところをミキが助けに登っていったら、屋根にかけてたハシゴを、パパが片付けて そのまま出かけちゃって……」
ああ、なるほど。…って、ハシゴ片付ける前に上に人いるか確認しろよ親父さん。
それはともかく、俺は屋根の上に腰かけたたまに呼びかけた。
「で、ハシゴはどこにあるんだよ?」
「えーっと、それが……パパ、納屋に鍵をかけて出かけちゃったんで…」
となると、ハシゴでたまを降ろすって方法は使えないわけだ。困ったもんだ。
地面から屋根までの高さは俺たちの家よりちょっと高いくらいだから、まあ飛び降りることも不可能じゃない。そう思って俺は両手を大袈裟に広げて見せて、
「じゃあ、俺が受け止めてやるから、猫抱いて飛び降りろ!」
「え、ええ! で、で、でも、ミキは重いから、たけるさん大変だし…」

『なーんでそこで、わたしのことジロジロ見るんだよっ!』
いや、別に? …まあ、それは置いといて、話続けるぞ。


そんな押し問答を何度か続けたんだけど、たまは怖がって飛び降りられないって流れになっちまった。とは言え、たまの話によると両親は泊まりで出かけちまってて帰りは明日になるって話だし、そのまま屋根の上にたまを置いとく訳にもいかない。
さて、どうしたものやら。俺は考えた。どうすればたまが降りて来られるか。
で、考えた結果、
「じゃあさ、俺が登ってたまを降ろすわ」
「でもたけるさん、ハシゴは出せませんよー?」
「まあ、そこら辺は俺に任せとけって」
そう言って俺は、たまの家の周辺を回りながら屋根の上に登れそうな場所を物色し始めたわけだ。母屋はでかいわ緑は多いわで結構手間取ったけどな。

  *  *  *


「で、デートに着てった一張羅が、そんな汚れた服装になっちゃったわけだ」
おどけた調子で純夏に言われて、武は漸く自分の格好に気付いたらしい。
「あ、そっか…悪ぃ、じゅうたん汚しちまったか」
「あ、違う違う! そういう意味じゃなくて、ご苦労さまってことだよ。それより、もう眠気大丈夫? 今だったらタケルちゃん、部屋に戻れるんじゃない?」
(俺の話聞きながら、そんな事気にしてたのかよ…)
内心そうした気遣いを嬉しく思いながらも代わりに武はカップを持ち上げ、
「もしお前の邪魔じゃなかったら、もう一杯貰えるか? で、もうちょっとだけ話付き合ってくれ」
「ん、分かった」
頷いて純夏はコーヒーカップを武から受け取り、再び軽やかな足取りで階下のダイ ニングへ駆け下りていった。武が部屋を間違えて入ってきた時の疲弊しきった表情は、いつしか緩やかな笑みに代わっていた。

  *  *  *


で、さっきの話の続きな。
俺は母屋を一周して、弓道場に近い裏庭の辺りに雨樋が通ってるのを見つけた。
古い家にありがちなぐらついた感じはなくて、俺が触った感じでは結構しっかりと固定されていた。俺は腹を括ってその雨樋をよじ登ってったんだ。
まあ、日頃まともに運動してないのと、何かをよじ登るなんてガキの頃以来だったせいもあって、二、三十分かかったかな。屋根に登りつくまで。もしかしたら雨樋が壊れたかも知れねえけど、流石にそこまで確かめる余裕なんてなかった。
で、何とか屋根の上によじ登れた俺は、慣れない瓦の足場をゆっくりと歩きながらたまのいる縁側の方向へ向かってった。
「たまー、大丈夫かーっ……って、こりゃなかなかいい眺めだな」
縁側の方に出てたまの姿が見えると同時に、縁側に広がる大きな池と傍らの梅の木が見えた。丁度梅の花が咲き始めてて、結構綺麗な眺めだったよ。
「た、たけるさん…本当に登ってきたんですかっ!」
「しょうがねえだろ、たま一人屋根の上に置いとけないしさ」
言いながら俺は、足場を探りながらゆっくりたまのいる場所へ向かってった。靴で瓦の上を歩いてると、結構不安定で怖いんだよな。
「で、どうする? 降りるんだろ?」
俺はてっきりすぐに下へ降りるもんだとばかり思ってたから、足場踏み直してたまを抱え上げる準備を始めたんだけど、たまは抱いてる子猫の顔を見てから、
「んーとですねぇ……折角だし、もう少しここにいてもいいですかぁ?」
と言うもんだから、俺も隣に腰をおろすことにした。正直、無理して屋根によじ登ったせいもあって疲れてたしな。


俺は座ってからずっと庭の方ばかり見てたんだけど、たまは違う方を見てた。
「お日さまがぽかぽかしてて、気持ちいいですね〜」
言われた通り上を見上げた。上を見て目に入るものと言えば青い空と小さな雲切れ、それと眩しい太陽。まだ天気予報の気温でいえ冬って感じの今日でさえ、屋根の上は温かくて寒さを感じなかったくらいだ。確かに、気持ちよかった。
「ああ…このまま寝っ転がって、昼寝してもいいくらいだな」
「たけるさん、眠くなっちゃいました?」
たまの声も少し眠たそうな感じがしてた気がする。けど俺は、
「んー…ちょっと。けど、流石に屋根の上で昼寝するわけにもいかねえだろ」
「ミキは、たまにお昼寝してますよ?」
そう言われると、今から昼寝してもいいって言われてる気がするんだけど。でも、今日はデートだっつって迎えに来た手前、ここで今から昼寝っていうのも…
「いいのか? 今日、買い物に行く予定だったろ?」
「う〜んとぉ〜…たけるさんは、お昼寝とお買い物、どっちがいいですか?」
今考えてみりゃ、たまはたまなりに水を向けてくれたんだろうな。あいつ、人に無理強いさせるようなやつじゃないし。けど、その時の俺はそこまで考えが至らず、
「今から駅まで歩いて買い物に行くのは、ちょっと面倒かな…たまには悪いけど」
俺がそう言うと、たまは俺に笑顔で、
「それじゃあ、今からここでお昼寝しましょ〜っ♪」
って言って屋根の上で寝っ転がっちまったんだよな。その気持ちよさそうな顔見てると、俺も『じゃあ、昼寝しよっか』って気分になっちまって…

  *  *  *


ひと通り武の話を聞き終えたところで純夏は手に持ったカップに口をつけてから、
「…で、二人してお休みの午後、屋根の上でお昼寝して過ごしたわけだ」
「ん、ああ…で、昼寝から起きたら俺がたまを抱えて屋根から飛び降りて、で、その、まあ……」
昼寝の続きを思い出して、何故だか妙に気恥ずかしいものが込み上げてくる。武は手に持ったコーヒーカップに口をつけ、意図的に会話に間を置くようにした。
彼の言わんとすることが分かったのか、純夏はそれ以上話にツッコミを入れることなく話題を変えてきた。言わずとも察してる辺り、幼馴染みのなせる業か。
「そういえば、今日って壬姫ちゃんの誕生日だよね? プレゼント、ちゃんとあげた?」
「お前、何気に失礼なこと聞くな。もちろん、ちゃんと持ってったぞ…チェシャ猫の携帯ストラップ」
「……せこっ」
今まで温かい眼差しだった純夏が、急にジト目になったように見える。しかし口元は微かに笑っていたから、本心からのジト目ではないのだろう。
「せこいって何だよ、ちゃんと本人のリクエストに答えて買ってったんだぞ…俺の小遣 に合わせてだけどな」
(まあ、純夏の言わんとすることは分かってるつもりだが、その辺は追々俺がバイトなり何なりして善処していきますってことで。今回はあれで勘弁な、たま)


<終わりのような、終わりじゃないような…>
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