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俺が望むSS(駄文、SSの書庫)

鎧衣美琴・生誕祝 「ひびのきらめき、ふるさとのかがやき」

##夢を観た。

「…ルちゃん、タケルちゃん!」
「ん、んあ……」
瞼の上が妙に明るくて眩しいのに気付き、俺は目を開ける。
長い間忘れていたような平穏な日常、俺を見下ろす幼馴染み。ここは…?
「………」
「あー、もぉ、寝ぼけてる時間ないってば! ほら、早く起きる!」
「ん、ああ……そういえば純夏、お前と会うの久し振りだな」
本当に久し振りだ。俺があの世界、BETAとかいう化け物と戦う世界に飛んでからかれこれ数年は顔を合わせてない筈だ。よかった、元気そうで…
という俺の感慨など知る由もない純夏は、
「はぁ? 昨日寝る前に顔合わせたと思うけど…って、時間、時間! ほら タケルちゃん、急いで制服着て! 2分だよ!」
必死にがなり立てて俺を急かす。昔は正直、煩いなぁと思ってたけど、今久々にこうして純夏に起こされてみると、世界の平穏さを実感できていいものだ。
「ああ…分かった」
俺は、多少気の抜けた返事を返し、ベッドから起き上がって大きく伸びをする。
どうやら俺は、元の世界=純夏がちゃんと存在する世界に戻れたらしい。
絶望的な数のBETAを殺して、殺して…それでも終わりが見えず俺達人類の居住地域は日に日に衰え消え去っていく。そんな世界の戦場の真っ只中での激戦が、俺の最後の記憶。
その頭の中の生々しい記憶を棚上げして、俺は一人白陵柊の制服に身を包む。
季節はまだ冬、着替えの一瞬一瞬に肌寒さが襲ってくる。寒気が走る。

『タ…ル! 目…開……!!』
『白銀……、貴方………所で………る場合……………しょ!』

「っ!」
頭の中で、声が響いた。聞き覚えのある声。だけど何だろう、こんな緊迫した声をかけられた経験はない。よく分からない、今の声は…?


##平和の意味も知らず、無邪気に暮らしている人々の夢を。


「しっかし、タケルちゃんを未だにわたしが起こしてるなんてねー」
「あん? そりゃどういう意味だ?」
純夏の白々しいジト目を軽く受け流しつつ、言葉の真意を探る。
「お前の言う『未だに』ってのは、どういう意味なんだ? 他に俺のことを起こしてくれそうな…お袋は、いなかっただろ?」
本当に今、俺がいるこの世界でお袋が家を空けてるかどうかなんて知らない。
だが、少なくとも今朝俺が家を出るまでに親父やお袋の気配は感じなかった。だか ら、長らくこの世界を離れてた俺にとっては、当り障りのない言い分だろう。
「ま、いいけど。……さん、こっち来ると遠回りだもんね」
……さん? 聞き覚えがある名前なんだけど…何故だろう、うまく思い出せない。
冥夜? 違う。委員長…でもない。たまでもないし、彩峰という響きでもなくて…何だろう、胸の奥に穴があいたような感じがする。何だよこれ、俺、誰のこと…?
「…ゃん? タケルちゃん? ちょっと、聞いてる?」
「ん、あ、いや……勿論、俺はいつでも人の話を聞き漏らさないぞ?」
胸の辺りの奇妙な感触がまだ拭いきれず、俺は話半分に純夏の相手をした。
俺のこんな態度には慣れっこなのか、純夏はそれ以上俺を追及する事無く、
「ま、いいけど…でも、そんな顔、……さんに見せちゃだめだよ? すっごく心配するからね。てゆーか、……」


##夢と現実の境界は、目覚めた時に見えたものをどう感じるかだけだ。
##それを区別できるのは、神様だけなんだろう。


俺たちは心臓破りの坂を思ったより悠々と登りつめ、漸く白陵柊の校門を拝める場所まで歩いてきた。校門の前に小柄で中性的な顔立ちの女子が、俺を見つめてる。
…? 何だろう、この視線、この顔、俺にはとても見覚えがある。なのに、何故だ、彼女の名前が思い出せない。今すぐ名前を呼んでやりたい、何故だか無性にそう思 うのに、肝心の名前が俺の頭からも、胸の奥からも、響いてこない。彼女は、誰?
「タケルぅ〜! おはよぉ〜! 今日は余裕だね〜っ!」
大きく背伸びをして、一生懸命俺に手を振って呼びかけている。
あの眼差し、あの笑顔…そっか、彼女は俺の愛した人だ。この世界か、あの世界か、それは確信がない。でも、間違いなく、俺が想いを交し合った人だ。
…だったら何で、彼女の名前が思い出せないんだよ、俺! しっかりしろよ…
どの世界の人間か、そんなのは今は無意味だ。名前を、ただ、名前を呼べれば…
「ほら、タケルちゃん、……さん、手を振ってるよ? 振り返してあげなよ」
言いながら純夏が肘で俺を小突く。言われて漸く、俺は重い手を挙げて校門脇で待つ『彼女』に手を振り返してやった。…だけど、名前を呼んではやれなかった。
それでも、少し先で佇んでいる彼女は、俺に向けて一心に微笑んでくれていた。
その笑顔が、俺には何故だか無性に遠いものに感じられた。


##だけど…俺には、何かが出来たんじゃないか、と思う。


「ごめんね、純夏ちゃん…本当なら、ボクがタケルを起こしにいってあげなきゃいけないのに」
「ううん、……さん、家の方向が違うから仕方ないよ。それよりごめんね、遅くなって」
さっきから『彼女』の名前を思い出そうと躍起になってる俺を尻目に、二人は本当に仲良く会話を交わしている。この会話(と雰囲気)が本当なら、俺は純夏と……ってコ の二人から、……の方を選んだということになる。…それって、相手が冥夜だったと記憶してるんだが、ここではまた違った日常があったってことなのか?
「……ル? タケル、大丈夫? さっきから何か、ぼーっとしてるよ?」
「あ、ああ…すまん、大丈夫だ。ちょっと、寝不足かもな」
俺は、真剣に俺を見上げて声をかける……に苦笑を返した。そして、名前が呼べないのならせめて触れ合うだけでもと思い、彼女の肩に手を伸ばし…届かない。いや、掴めない。
彼女に手を伸ばした瞬間、俺の周囲は暗転した。純夏も消えて、……の姿だけが見える。
だけど、彼女の姿も、俺を必死に呼ぶ声も、段々、段々と遠く霞んでいって…


##人類の運命を、そして、自分の運命を、俺には、変えられたんじゃないかと思う。


再び光と色を紡ぎ出した俺の視界は、何故かぼやけて赤くなっていた。それに寒気がする。
おかしいな、俺はちゃんと制服…じゃなくて、戦闘服を着用してる筈なのに。
次第に曖昧になっていく感覚の中で泳ぎながら、俺はさっき見ていた夢を思い返した。
純夏、か……昔は必死に探して見つからなかったのに、探すのをやめた今漸く、ひょっこりと顔を出しやがった。何だよ、今更…俺は、俺にはもう…『あいつ』がいるのに。
赤くぼやけた狭い視界の中で、俺がいつも肌身離さず持ってる『あいつ』の写真を探す。
そう、この辺り……コクピットの隅、戦闘中に邪魔にならない場所に…あれ? 手が…
「あれ? 手が、伸びてねぇぞ……」
感覚の帰ってこない右腕へ舌打ちをしてる俺に、冥夜の悲痛な通信が飛んで来る。
『…っ! タケル、もうよい! 今すぐここを離れろ! …彩峰!』
冥夜…そんな痛々しい声出すな。俺は…俺達は、大丈夫。俺達には、守るべきものがある。守るものも持たないあいつ等に、俺達が負ける筈ないだろ? なあ、みんな?
『……分かった。白銀、オート、できる?』
「…悪ぃ、手が、届かねぇ」
手を振ってみせる。が、俺の視界に振った手は見えない。と言うか、振れてるかどうかも自分ではもう分からない。耳だけが、妙に聞こえる。目の前を目まぐるしく埋め尽くしてるコンソールの表示も夥しい数表示された文字も、赤いモノトーンの中で霞んじまってちっとも読めやしねぇ…くそっ。
『……、06帰還をサポート。……援護……』
あぁ…やべぇ。耳まで聞こえなくなってきやがった。…寒いな、ここ。コクピットの生命維持装置か、戦闘服の故障かな? …いや、多分……俺自身の故障、ってとこかな。は、はは…糞っ……


##誰もが諦めたこの星を、守り抜きたい、そう思う。


ああ、そうだ…やっと『あいつ』の名前を思い出した。
みこと。鎧衣、美琴。男だか女だか分からない、ちょっと育ちの足りないあいつ。
俺が初めてあいつのことを意識したのは、あの密林で…噛まれた時だ、確か。
あいつの肌、柔らかかったもんな…それで俺、確か思わず反応しちまってたっけ。
それから…気がついたら俺は、あいつと結ばれてた。美琴を、思う存分抱き締めた。

それなのに、あんなに美琴のために奔走して、俺の忘れ形見と一緒に宇宙に上げて、美琴とまたこの故郷(ほし)で笑って暮らせる日が来ることを信じて、戦って、戦って、戦い抜いた筈なのに……何で最後の夢で、あいつの名前が思い出せなかったんだろう。
ごめんな、美琴…俺、ちょっとだけ、浮気、しちまった。お前のこと、忘れかけたよ…あはは。
美琴は今、どんな夢を観てるんだ? それとも…起きて、仕事してるのかな?

なあ、美琴…? この故郷、そこにいる俺達…お前には、見えてるか? 俺には、お前が……

『……っ! 白銀っ!? 白銀っ!』
『どうしたの、彩峰さん? …まさか!』
『……たけるさぁん……たけ、る、さん……』
『榊、珠瀬! ここはもう持たん、燃料と火力の残っているうちに撤退だ、急げ!』
「みこと……そっか、むすめも、いっ……」
『っ・……うっ…』
地球を必死に守る人類と謎の多い侵略者=BETAとの戦いは、まだ終幕を見せようとはしない。


  *  *  *  *  *


遥か遠い星の上から、あの人の忘れ形見である愛娘と一緒に、夜空を見上げて地球を探す。
地球そのものは見えないけど、恒星として煌きを見せる太陽の位置はすぐに確認できた。
あの人は今日も、戦いの日々に明け暮れているのだろうか…

『ママー、なにみてるの?』
「うん、あそこにあかるいほしがあるの、わかるかなぁ?」
小さな娘は、私の横でせいいっぱい背伸びをして私が見据えるものを懸命に追ってる。
『うん、わかるよ』
「ここからじゃみえないけど、あのすぐちかくにね、『ちきゅう』っていうほしがあるの」
『ちきゅう?』
この子にはまだ分からないだろう。
地球という名前が持つ、音の響きの安らぎは。私達の、地球への尽きせぬ思いは。
でも、いつかはこの子にも分かって欲しい。私達が、地球という星から長い長い旅を経てこの星に辿り着いた人間だということを。その『地球』というかけがえのない場所でパパとママは出会い、結ばれ、「きみ」という大切な命をこの世に授かれたということを…
「うん、そうだよ。このほしでみんながしあわせにくらしていけるのは、パパたちが、ちきゅうでがんばってくれているからなんだよ」
そう、パパはまだ頑張っている。私達のため…あるいは、まだ見ぬ遠い子孫のため。
人間が再び故郷に笑って足を踏み出せる、その日を夢見て。
『っ♪……パパ、いつかえってくるの?』
「んー、そうだなぁ、きみがもっとおおきくなってからかなぁ?」
『パパ、それまでがんばってるの?』
「うん、きみやママ、みんなのために、ずっと、ずーっと、がんばってくれてるんだよ」
私がそう言うと、まだ小さい娘は大きな声で地球に向かって、
『パパ、がんばってー!』
一生懸命叫んだ。自分のその一言が、パパの一日も早い平和をもたらすと信じて。

**「みこと……そっか、むすめも、いっ……」
声が聞こえた。あの人の、とても安らかな声…間違いない、あの人の、最後の声。
私のことを男だと言って突っかかってきたあの人。何だか平和ボケしたような、感覚のずれたあの人。遊びのように軽々と戦術機を操り、華々しい戦績を上げていったあの人。そして…私の一番大切な人。タケル。白銀武。

…できれば、あの人とは退屈さを感じるくらいに平和な学園生活の中で出会いたかった。
私が朝少しだけ早起きして彼のお弁当を作り、可愛い寝顔を見せる寝ぼすけさんの彼を起こして、彼が私に文句を言いながらも二人で一緒に登校して…そんな平穏で楽しそうな毎日が、彼と送れたらどんなに素敵だったろう。私は何度も、何度も、夢の中で思い描いていた。
だけど、それももう、叶わぬ夢に……
いけない、今は我慢しなくちゃ。娘が信じて疑わないものを、おかあさんの私も信じてあげなくちゃ。
この子には、飽きるほど笑って欲しい。毎日毎晩、笑っていてほしい…そのためには、母親の私が頑張らなきゃ…そうだよね、「すみか」?
『パパァー、がんばーってー!』
すみかの元気一杯の大きな声は、まだ繰り返し遠い夜空の向こうにいる父親に送られている。
パパ…すみか、こんなに大きくなりましたよ? 貴方に似て、元気一杯で困ってますよ?
貴方の探してた「すみか」さんは、こんな元気な女の子でしたか? こんな可愛い女の子でしたか?
タケルとすみかのことを思えば思うほど、私の頬には熱いものが流れ落ちていく。
もう、堪えられない…タケル…タケル……

『パパーッ!!』
白銀武と美琴の娘・純夏の声だけが漆黒の夜空に向かって希望の光を投げかけていた。
遠く遠く、遥かに見遣っても影さえ見えない、「地球」という故郷に向かって。


<Fin>
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