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俺が望むSS(駄文、SSの書庫)

彩峰慧・生誕記念SS…のようなもの。

昼下がり、白陵大付属柊学園敷地のやや外れに位置する丘の頂の木の下。
シックなパンツルックに身を包んだ一人の女性が子犬を抱きながら丘の下に広がる街並みを臨んでいる。やや眠たげな表情と鋭角的に分かれて跳ねる髪の毛が特徴的な彼女は、独り言とも犬への対話ともつかない調子で言葉を紡いでいた。

「……相変わらず、タケルはお馬鹿さんだね…」
『わん!』
「……2時5分。タケル、遅いね……」
『わんわん!』
「………でも、たった5分だもんね」
『…おい』
「絵本作家展に行って、それから公園で一緒に散歩して……」
『…彩峰』
「……2時10分。遅いなぁ…どこかで転んだりしてないよね?」
『…つーか、俺は時間通りここに着いてるんだろーが。お前一人で何やってんだ?』


背後の武が三度声をかけてから、漸く豊満な胸に犬を抱いた彩峰慧が気怠げに振り返る。
そして相変わらずの呟き口調でひとこと。
「……白銀…ノリ悪い」
「ノリとかいう問題じゃねーだろ! お前が勝手に俺を無視してその胸に抱いた犬と妙なトークしてたんじゃねーかよ…ったく、時間通りに来たってのによ」
お互い口調だけ拾えば相手への温度差が激しいように思えるが、微妙にズレたやり取りを交わしているにも関わらず二人の口元には笑みが漏れている。
「……どうせ鑑に起こして貰ったくせに」
振り返り気味に武を見る慧の視線が微妙に変化を見せる。その視線の意味するところは彼女の含み笑いの奥にあるのだろうか。
「っ…じょ、冗談言うなよ……どこの世界に、彼女とのデートに『幼馴染み目覚まし』使うヤツがいるってんだよ。そんなの、漫画かアニメの主人公くらいだろ」
慧の真っ直ぐ向ける視線に思わず目のやり場を探す武。
対する慧はにやりと笑って、
「……『ほぉら、タケルちゃん、今日彩峰さんとデートなんでしょ! もうお昼だよっ !起きないとまたこの間みたいに遅刻するよ! …わたしだってもう出かけるんだから、 いい加減起きてよ〜』」
奇妙なほど鑑純夏そっくりの口調で、しかし普段の慧の声の大きさのまま言葉を返す。
「あー、もう、分かった分かった! 俺の負け! お前に口で勝てた試しがねぇよ」
よほど慧の口真似に思うところがあったのか、ものすごく照れ臭そうな表情で大きな声を出して慧の口真似を遮り、両手を上げ降参。
すると慧は空いた右手で武の頭を撫でながら、
「……今日の白銀は素直だね、タケル?」
問い掛けられた子犬は、知ってか知らずか思い切り元気のいい声で、
『わん!』
慧の胸に身を委ねながら可愛く吠える。武は慧の胸で吠える子犬に意味ありげなじと目を向け、
「…だから、犬に俺の名前をつけるのやめろって」
まあ、犬に自分の名前がついてて、あまつさえ目の前で何度も名前を呼ばれるのは名前の持ち主としてはしっくりこないものがあるだろう。しかし慧は気にした風もなく、
「……白銀は白銀。タケルはタケル。ね…タケル」
しれっと言い返しながら優しく子犬を抱き締める。胸に抱かれてご満悦のタケル。
そんな様子が面白くないのか武はなおも食い下がるように、
「いや、だから『タケル』だけじゃ、お前が俺の名前呼んでんのか犬の名前呼んでんのか、区別つかねーだろ?」
「……白銀には、愛が足りない」
「いや、それは愛が足りるとか足りないとかの問題じゃねーだろ」
「……馬鹿を言っちゃいけない」
「馬鹿を言ってるのはお前の方だろ! ったく…お前がそんなだったら、今日の誕生日プレゼント、やらねーぞ……あ”」
『誕生日プレゼント』の言葉を耳聡く拾って微笑を返す慧。内緒にするつもりだったのか、口にした途端「しまった」という表情を浮かべて照れ隠し気味に頭を掻く武。
どこかずれっ放しの会話の中で、時折こうした歩み寄りを見せるのが以前のクラスメイトだった二人との大きな違いかも知れない。
「って、お前もすぐに手を出しておねだりするなよ…もうちょっと女の子らしく喜ぶと か、何かあるだろ……」
お手をしてすかさずプレゼントをねだる慧を諌めるように半ば呆れた口調で武が返すと、慧は芝居がかった大袈裟な仕草で左手の薬指を翳して眺める。
「……『プレゼントありがとう…ずっと、大切に…するね』」
胸に子犬を抱いたまま、慧は感無量といった口調を真似て左手の薬指を右手で撫でる。
「何も渡してねぇだろうが…あと、今日のプレゼントは指輪じゃないからな」
「……ちっ」
「そこであからさまな舌打ちをするな」
苦笑交じりに釘をさす武に対し慧はまんざらでもない表情で、
「……うそ、冗談」
半ば武をからかうような調子の笑みとともに言葉を返す。そんな慧の笑みに対して武も不敵な笑みを浮かべ返して背中のデイパックに手を入れ、
「…んじゃま、誕生日プレゼントを渡しておくか……ほれ」
武は慧の眼前に茶色いざらついた紙袋を差し出す。慧は犬を胸に抱いたまま両手を広げて武のプレゼントを受け取る。器用に紙袋を左手だけに持ち替え、空けた右手で紙袋の口に手を入れ中身を取り出してみると…
「………」
先程から武に相対しながら浮かべていた微かな笑みが、その瞬間慧の顔から消えた。
それもそのはず、紙袋から慧が取り出した「プレゼント」というのは…
「……焼きそばパン?」
そう、慧が手にしているのは透明なラップでくるまれた焼きそばパンだった。
「あ、ああ…ほら、彩峰、白陵柊の頃、焼きそばパン好きだったろ? それで、実は今日購買の限定焼きそばパンを購買のおばちゃんに頼んどいて、さっき買ってきて…」
さも当然のように説明している武に対して、慧は突然冷たい視線を向け、
「……白銀さん。自分がなに言ってるかわかってます? 帰りに精神科にでも……」
まるで武を詰問するかのような口調で言葉を投げかける。不意の詰問に武は数瞬狼狽えてしまう。少し間を置いて気を取り直した武、
「いや、冗談だって彩峰…その、実は、本当のプレゼントは…」
「……白銀さん……最ッッ低…」
取ってつけたアホ毛を揺らしながら冷然と投げかけられた言葉。武は慧の頭に急についたアホ毛を剥ぎ取りながら慧の微妙な物まねをさらりと受け流し、
「…って、さっきから俺たちは何でこの木の下でネタを繰り出しあってるんだ?」
「……面白いから、武の態度」
慧が何気なく口にした一言を、武は聞き逃さなかった。肩にかけたデイパックを下ろし、そっと慧の後ろに回って興味ありげに聞き返す。
「え? …今、俺のこと、『たける』って、呼んだか?」
「……呼ばない」
「嘘つけ…呼んでたろ、『武』って」
もう一度問い返しながら、武は背中から包み込むように慧を抱き締める。慧が抱く犬も一緒に。そして慧の肩越しに顔を覗き込み様子を窺う。
「……呼んでない」
「そうかなぁ…俺は、確かにお前が『面白いから、武の態度』って言ったの、聴いたんだけどなぁ…」
後ろから面白がった口調でしつこく食い下がる武に対し、慧は少し膨れて振り返り、
「……白銀、くど…ん…」
白昼、母校の敷地内での行動とは思えない、振り返りざまの一瞬の不意打ち。
武の見せた意外な積極性に、慧は甘んじて身を委ねた。


「……もしかして、」
数呼吸の間の密着から少し顔を離しただけの状態でじと目が武に向けられる。
「ん?」
じと目の意味が分からず素で問い返す武。
「……もしかして、今のが『誕生プレゼント』?」
「あ、ああ…流石に違う。つーか、冗談に冗談を重ねるほど俺は単純じゃねぇぞ」
「……どーだか」
慧の口元に微かな笑みが浮かぶ。それを見て安心したのか、武は真面目な顔を少し崩し、
「あー…実は、プレゼントと言えば、お前に謝らないといけないことがあるんだけど…」
慧を背中から緩く抱いたまま語気を弱めて話を切り出す。
「……?」
「…実は、その……寝坊してプレゼント買いそびれた。すまん…で、今から橘町にでも出かけて、一緒に買い物しようと思ってたんだけど……」
「………」
慧が目を細める。傍から見れば立ったまま寝てしまったのかと思えるほど目を細めて顔を前に戻す。そしてそのまま何も言葉を発しなくなる。
視線も言葉も向けられない微妙な間を置かれて武も段々焦り始めたのか体を離して前に周り、慧の顔を正面から見据えながら執拗に言葉をかけ始める。
「あ、いや…たちの悪い冗談に聞こえたかも知れないけど、実はこれ、マジなんだよ…」
「………」
慧は目を開かず、武の言葉に反応を示さない。
「流石にちょっと、洒落にならないと思ったんだけど、でも、俺さ、よくよく考えたら彩峰が欲しがるようなものって何か全然分からなくてさ…」
「………」
相変わらず、無反応。
「で、純夏に相談したんだけど、『自分の彼女のプレゼントくらい、自分で選びなよ』 って突き放されてさ…」
「………」
無反応。
「それで…その、できれば、一緒に買い物に行って、見繕って貰おうと…」
「………」
応答なし。
「…あの、えーと…彩峰?」
「……慧」
「え?」
漸く眠たげに目を開いて慧が応答する。とっさの返答に武は間の抜けた返事しかできない。そのまま微妙な沈黙の間ができたところで慧が再び、
「……慧、って呼んでくれたら、今日は許す」
「でも、今までお前、『慧』って呼ばれるとあんまいい顔しなかったろ? 俺が冗談で呼んだ時でもさ…」
「……今日は、無礼講」
表情の見えない顔で些かとんちんかんな返答をされたが、「慧」と呼べということだろう。 そう解釈した武は遠慮なく、
「じゃあ、慧。誕生日プレゼント買いに行こうぜ。何でも好きなもの買ってやる」
「……にやり」
口でそう呟きながら不敵な笑みを満面に浮かべる。危険だ。「何でも好きなもの」というのを本当に間に受けられた気がする。武は慌てて情けない口調で、
「あー…俺の財布の限度額の範囲なら、何でも、な」
「……武の甲斐性なし」
「あーあー、俺はどうせ貧乏学生の甲斐性なしだよ…って、俺のこと、武って呼んだよな? お互い下の名前で呼び合ったのって、これが初めてじゃないか? 何か…いいよな」
照れ臭そうな嬉しそうな、そんな口調で少し浮かれた武に対し、
「……これが最初で最後かも」
相変わらずの不敵な含み笑いとにべもない返事を返し、慧は胸から犬を地面に下ろす。
「……またね、タケル」
タケルに別れの挨拶を済ませ、傍らに立つ武を無視するようにひとり歩みを始め丘を下ろうとする慧。黙ってどんどん進んでいく慧を追いかけて、武も後に続いていく。
「って、お前も案外照れ屋なんだなぁ〜、慧?」
「……別に照れてない」
「まあまあ…照れ屋なお前も俺は可愛くて好きだぞ?」
「……武、恥かしいこと言ってる」
丘の上に残されたのは、二人を見送る子犬。ただ穏やかに二人を見送る子犬の姿。

今日は9月27日。彩峰慧の誕生日。
だけど慧と武にとっては、どうということのない日常の延長。
そんな何でもない日々の中で、何でもないやり取りの中で、積み重ねられてきた触れ合い。
いつの間にか、慧はそんな触れ合いを疎ましく思わなくなっていた。


<Fin.>
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