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SS・featuring Meiya

'04年節分用SS「小噺:おにはそと、ふくはうち」

その日の夕飯前、私達は白銀邸のキッチンに集まり豆撒きの準備をしていた。
「さて、と…今年もやるか」
「豆、準備できてるよ! …はい、御剣さん」
そう言って、鑑は元気よく私に豆の詰まった升を手渡す。
「ん、あ、ああ…」
要領を得ない私は、ただ頷いて鑑から差し出された升を受け取る。
今日は二月三日。節分である。私だって節分が鬼に向かって豆を撒くという風習は知っている。だが、残念ながら実際にそれを見たことも体験したことも無い。ここからどうするか分からない。
それでも、私の前で豆や面の準備をするタケルと鑑を見る限り楽しそうな行事だと察しはつく。
「で、だ…まずは純夏、お前鬼やれ」
何食わぬ顔でタケルは鑑に紙で出来た赤鬼の面を突きつける。鑑は憮然とした様子で、
「えー! タケルちゃんいっつも本気で投げるからやだ!」
「うるせー、純夏のくせに生意気だぞ!」
「何だよー、タケルちゃんが手加減しないからやだって言ってるんでしょー!」
気が付けばタケルと鑑がいつものように言い争っている。そこで私は漸く豆撒きを理解した。
…なるほど、誰かが鬼に扮して豆を撒き、その鬼を家から追い出す招福行事が豆撒きか。
合点のいった私は二人の普段通り?の言い争いに割って入り、
「わたしだって思いっきり豆投げられたら痛いんだぞ、分かってんの!」
「あー、そなた達…」
「お前今鏡で顔見てみろ、顔が鬼…ん、どうした冥夜?」
二人が同時に私を真剣に見つめる。私が何を言い出すか図りかねた面持ちだ。
鑑は兎も角、タケルにまじまじと観られると私も流石に気恥ずかしい。
「あ、いや…その、私が鬼の役ををやろう。豆撒きの鬼がどういうものか、興味がある。
縁起を担ぐための鬼の役で、何も言い争うことはあるまい」
タケルと鑑はお互い睨み合いをやめ、「?」という表情を浮かべ私の方に向き直った。
「豆投げられる役だぞ、いいのか?」
「御剣さん、本当にいいの?」
二人同時に私へ問い掛けた。後で気付いたが、この時二人は含み笑いを浮かべてた気がする。
私は黙って頷き、タケルの手から紙の面を受け取った。そして耳に輪ゴムを通し鬼の面を被った。
紙に開けられた二つの丸い穴。小さな狭い視野。その二つの穴から見えるタケルの顔と鑑の顔。
次の瞬間丸い穴から二人の姿が消えた。続いて、
「鬼は、外っ!」
「鬼はぁ〜そとっ!」
両方から突如豆が投げつけられる。思うように相手が見えず、豆がどこから来るかも分からず、
私はタケルと鑑の投げる豆をただ浴びるだけになってしまった。思うように避けられず。
それでも二人が投げる豆は、先ほどまでの二人の口調に反し全く痛さを感じなかった。

  *  *  *  *  *

2月3日 晴れ

今日は節分。学校から帰って夕飯前にいつも通りタケルちゃんの家で豆撒きをした。
わたし達が子供の頃は何度か豆撒きしたんだけど、「掃除が面倒」とか「豆がもったいない」
なんて言われて、いつからか豆撒きはやらなくなっちゃってたんだけど、タケルちゃんが
「冥夜は豆撒きなんてやったことないだろうから、久し振りにやらねぇか?」
と前の夜になってから持ちかけてきた。やっぱり、豆撒きって大きな家じゃやらないのかな?

当日、いざ豆撒きをやろうとしたらタケルちゃんが私に鬼を押し付けてきた。何だよそれー!
ふつう女の子二人いるところで、女の子のわたしに鬼押し付けてくるかなー? おかしいよ。
でも、結局は御剣さんが鬼を引き受けてくれて、わたし達は御剣さんに向かって豆を投げた。
ちょっと御剣さんには悪い気がしたけど、 いつものタケルちゃんとの豆の投げ合いと違って、
ちゃんとした豆撒きができた。ちゃんとした、って言うのも変かな。
だけど、今までのタケルちゃんとの「力いっぱいの豆の投げつけ合い」じゃなくて、わたし達以外の人が鬼になってその人に豆を投げる、そんなとこが今までと違って普通だった。

って、こんな日記書いてたら、わたし達が今まで普通の豆撒きしてなかったみたいだよ…
でも、実際、タケルちゃんと豆撒きしてどっちかが大人しく鬼になったこと、なかったかも。
それはそれで楽しかったけど、今年の豆撒きはもっと楽しかった!
こんな豆撒きが、また来年もできればいいんだけどな…

  *  *  *  *  *

私は、タケルと鑑に追われるまま玄関を駆け出し、強い冷気のさす宵の屋外に出て行った。
白銀邸の扉が閉ざされ、「福は内」の掛け声が数回とそれに続く小さく響く豆の音だけが
静かな家の中から私の耳まで届いた。
私は視界を取り戻す為紙の面を取り外した。吐く息が微かに白い。そして肌寒い。
何度か吐く息の白さを眺めたところで、玄関からタケルが出てきた。手には豆の入った升。
「今日、寒いなおい…お待たせ、冥夜」
「ん、ああ…私は平気だ。これで一年福が招かれるのだから、今の寒さなど耐えれば済む」
そう言った私の肩にタケルは上着をかけてくれた。それから、
「ん、これ」
私に升を手渡す。私はタケルの意図を計りかねたが黙ってそれを受け取る。
代わりにタケルは私が手にしていた鬼の面を取り上げ、何も言わず自分で被り始めた。
「…タケル?」
私にはタケルが鬼の面を被った意味が分からずただ見つめていた。すると面の下から、
「今度は、お前が鬼に豆撒く番だ。…そうじゃなきゃ、お前に福が来ないだろ?」
言いながら鬼らしからぬ可笑しい挑発のポーズをとり、私に豆を撒くよう促す。
私はタケルの好意に応じて、
「鬼は、外」一握、
「鬼は、外」二握、
「鬼は、外」三握。オーバーアクションなタケル=鬼に豆を撒いた。そっと、しかし沢山。
宙を舞い散らばりアスファルトに落ちる音が、手に握る豆の感触が、新鮮で楽しかった。
鬼を祓う招福の儀式なのに、どうしてか私にはそれが「楽しい」と思えた。

私が今まで経験してきた儀式の中で一番いい加減なものだった。手順も無く、祝詞もない。
だけど、同時に私にとって一番招福の実感がある儀式でもあった。
「笑う門には福来る…よく言ったものだな」



<おしまい…で、いいのかな?>
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