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SS・featuring Meiya

御剣冥夜・生誕祝後日談 「ふれあいと、ぬくもりと。」

結局深夜に始まった冥夜(と、おまけで俺)の誕生パーティーは、いつの間にか終わってた。正確に言うと、俺が周囲に進められるがままに深酒をしていつの間にか意識を無くして眠ってしまい、目が醒めたらベッドの上という状況だった。
俺はベッドの上で寝そべったまま辺りを見回し、ベッド脇の椅子に腰掛けた私服姿の冥夜を見つけた。俺が口を開く前に冥夜から、
「…お早う、タケル。気分はどうだ?」
穏やかな表情と声が俺に投げかけられる。俺が寝てる傍にずっといてくれたのだろうか。冥夜の顔を見る限り疲れの色は見えないが…
「ん、ああ、お早う……まだちょっと頭が重いけど、多分大丈夫だ」
「そうか…良かった」
冥夜の口元に安堵の笑みが漏れた。…そんなにヤバかったのか、俺?
それより、部屋を見回した時気になったことがある。
「なぁ…今、何時だ? みんな、どうした?」
そう、冥夜を除いて誰もいなかった。それが俺には気になった。
冥夜は一瞬眉をひそめたような表情を浮かべたが、すぐに元の穏やかな顔つきに戻り、
「時間は…そろそろ昼食の時間だ。他の皆は、もう帰った。この船も既に港 に停泊して乗員も皆下船しておる」
「帰った…って! 何で起こしてくんなかったんだよ!?」
俺はベッドから跳ね起きつつ、平然と座ったままの冥夜に思わず詰め寄る。それでも冥夜は動じることなくただ申し訳なさそうな表情で、
「私も起こした方が良いとは思ったのだが…ぐっすり眠っていたそなたをどうしても起こせなかったのだ…済まない」
「…そうか、悪ぃ。俺が起きないんじゃ、無理な相談だよな。…んじゃ、」
事情も聞かず感情的になった自分を内心叱りながら、俺はわざと明るい声色に切り替えて言葉を続けた。
「皆、帰りに何か言ってたか?」
特に深い意味は考えず、ベッドの縁に腰掛けてそう尋ねた。
冥夜は俺の問いかけに感慨深げな笑みを浮かべ、
「そうだな……宴の席で互いの近況を話した以外なら、皆とは『またね』と挨拶を交わしただけだ。『またね』…良い響きだな、別れの挨拶だが」 「ん? そうか?」
俺は何となく受け流した。しかし、
「…私は好きだ。別れの挨拶であると同時に、再会の約束の言葉だから」
そうまで言われると、こいつとの小さな頃の『約束』を思い出さざるを得ない。まあ、その思い出があるから、その思い出があって俺達は今こうして一緒の時間を過ごしてるから、冥夜はこの言葉に拘っているんだろう。
…俺はちょっと、恥ずかしいんだけどな。思い出すの。
「そうだな…しかし、皆よくあんな馬鹿な集まりに顔出してくれたよな。
委員長なんて『馬鹿馬鹿しい』つって断りそうなキャラなのにな」
「気付かぬうちは色々大変だったが…あの計らいはタケル、そなたの案だな? 遅れながらだが、そなたの驚きに満ちた計らい、感謝する」
「あー、いや、その事なんだけどな…」
話を始めようとしたところで、俺の腹の虫が鳴った。…そういやもう昼飯の時間だって言ってたか。でも、そんなに早く腹減るもんかな?
「丁度昼時だ、飯でも食いながら話そうぜ」
「そうだな、船にはもう誰も残っておらぬし…下船して、公園で何か軽い食事でも摂ろう……今日は私とそなたの、デートなのであろ?」
そう言いながら俺より先に立ち上がり、冥夜は笑顔で俺に手を差し出した。
凛々しくもあり可愛くもあるその立ち振る舞いに、俺も思わず笑みを浮かべた。

  #  #  #  #  #

「…ほんとに、これで良かったのか?」
俺は冥夜が腰掛けるベンチの隣に腰掛けた。手に持った新聞紙の包みを開いて、開いた口を冥夜に向ける。冥夜は黙って頷き、包みの中から湯気が出てる焼き芋を取り出した。
俺達の昼飯は、海浜公園の売店で売ってた焼き芋となった。俺はてっきり何処かの店で庶民の金銭感覚なら除外されそうな料理でも食べるのかと思っていたんだが…
そんな俺の疑問を何となく察したのか、冥夜は両手で焼き芋を転がしながら真面目な面持ちで、
「タケル、私が焼き芋を食べるのがそんなに意外か?」
「あ、いや…御剣の当主が寒空の下で焼き芋を食うなんて、想像がつかないなって」
俺がそう答えたら、冥夜はふふっと小さく笑って、
「それを言うなら、タケルも今はそうであろ?」
楽しげに切り返してきた。あー、そうか…言われてみればそうなんだけど、俺は長い間庶民暮らしをしてきたんで、今の自分の境遇に余り実感がない。
俺は苦笑いしながら手の包みから大きめの芋を一つ取り上げた。
「そりゃそうだけどさ…何でまた昼飯が外で焼き芋なんだ?」
一寸気取った口調で尋ねながら、俺は手にした芋を回して翳す。掌から伝わる芋の熱気が心地良くて熱い。冬の穏やかな寒気の中で、焼き芋とその包みを手にした両手だけが熱さを保ってる。
両手が温まったのか熱さに慣れたのか、漸く冥夜が両手に芋を収め俺の問いに答えた。昔を懐かしむような視線。想い出の声色。
「剣の修行をしていた頃…落ち葉を集めて焼いたことがある。ただ芋を焼いただけだったのに、それが無性に美味だった…先程あの石焼き芋の店を見かけて、それを思い出した。タケルは、嫌いか?」
「んー…そうだな、ガキの頃は純夏なんかと何度か焼いたけど。美味いって言うより、楽しかったかな。わあわあ言いながら落ち葉集めて火ぃ点けて、焼けるまでじっと待って。ちゃんと焼けたのは一度も作れなかったな」
まあ、原因の大半は俺がせっかちなせいだったけど。
冥夜はそんな俺の昔語りを最後まで聞いて、
「…なるほど。『焼き芋を焼く』こと自体が楽しいから、焼けた芋も美味に感じるものなのか。なら、店で買って食べるのは邪道だったか…?」
眉を少し顰めながら両手に握った芋を睨む。
俺はそうやって生真面目に芋を睨む冥夜を微笑ましく思いながら、
「いいんじゃねえのか? こっちは『石焼き芋』で、家じゃ作れない焼き芋なんだから。…つーか、そろそろ食おうぜ。体冷えるだろ?」
「あ、ああ……」
お互い手にした焼き芋をひと口頬張る。口の中に充ちてゆく芋の熱とほのかな甘味。ほくほくとした食感。懐かしい味。子供の頃こんなちゃんとした焼き芋なんて食った記憶ないけど、頬張るとほろりと懐かしさを感じる。
冥夜も俺と同じようなことを感じたのか、上品に芋を咀嚼しながら目を細めて、
「うむ…よく火が通って美味しい。家の中で食べるよりこうして、外で食べた方がやはりいいものだな…焼き芋というのは…熱っ…」
品良く整った面持ちで咀嚼していたが、やはり芯まで火の通った芋の熱さに耐え切れなかったのか、言葉尻で口元を乱す冥夜。普段の落ち着いた食事風景からは想像もつかないその様子に、思わず俺は笑いを漏らす。
「……タケル、そんなに笑うことはないだろう?」
少し口元を尖らせて抗議の声が向けられる。俺は笑いを抑えて向き直り、
「ははは…あ、いや、悪ぃ悪ぃ。でも…今の熱がってた顔、ちょっと可愛いかな…ってさ」
一応それらしいフォローを入れる。けど、当の冥夜は芋を頬張りながら拗ねたような照れたような表情を浮かべ、
「そんな褒め方されても、素直に喜べぬ…タケルの褒め方はいつも意地悪だ」
そう呟きつつ焼き芋を少しづつ頬張る。焼き芋を頬張る冥夜。何か新鮮な構図だ。その様子を見守る俺の頬は、知らず知らず緩んでいく。
「でも俺は、色んな表情の冥夜が見れて楽しいけどな」
「タケル…そなたはやっぱり、意地悪だ」
冥夜が二回目に口にした『意地悪』という言葉は、その言葉の意味とは裏腹に随分と優しい響きを奏でていた。言葉を紡ぐ彼女の口元に浮かんでるのは柔らかい笑み。優美な唇が描く、柔らかい微笑。
不意に愛おしさが込み上げてきて、俺は思わずその唇に口づけた。触れ合う口腔を通じて温もりが通い合い、ほのかな甘味が互いの舌で交錯した。

  #  #  #  #  #

それから俺達は、少し冷めた焼き芋を平らげて海浜公園から街に向かって並んで歩いた。
二人で街を歩くなんてそう滅多にはないから、どう街を歩こうか内心迷った。女の子向けの気の利いた店など、俺は知らないし。
「…タケル? どうした?」
「え、いや…冥夜、行きたい場所、あるか?」
甲斐性なし。実に甲斐性なしな問いかけだ。自分でも分かってる。だが情けないことに、今までの俺に「女の子をエスコートする」なんて経験は全くと言っていいほどなかったんだ。正直、手詰まりだった。
しかし、冥夜はというと俺の内心の焦りなど気にした風もなく、
「ないと、駄目なのか? …私は、ただ一緒に街を歩くだけで構わぬが」
「んー…でもな、歩くったって、どっちに…」
こういう時踏ん切りが悪いのが、我ながらもどかしい。けど、折角の休日(で、しかも誕生日)だ。時間は有効に使いたい。だけど、「有効に使う」手筈が分からず、頭を抱える。…こういう方面ではあんま成長してないな、俺。
そんな俺を見かねたか、冥夜は俺の右腕を取ってどちらへともなく歩き始めた。腕を引っ張る力加減から察するに、強引な感じはない。怒ってる訳じゃないようだが…?
「タケル、そなたは肝心な時に熟慮の余り立ち止まる傾向があるな…こんな時には、流れに任せて一歩踏み出してみるのも悪くないものだぞ」
そう言う「彼女」の声色に、俺も釣られて歩き出した。腕を抱かれたまま。
一歩踏み出せば、二歩目も三歩目も変わりはない。俺達は二人並んで腕組みしたまま、クリスマス前の煌びやかな街並みを歩き眺めた。
絡まった腕と胸の膨らみの柔らかい感触が、時折掠める髪の香りが、隣の冥夜を実感させる。彼女の声色より、視線よりも雄弁に。
そうやって歩きながら俺達は他愛の無い会話を交わし、触れ合って歩いた。腕を介して伝わる冥夜の体温と胸の鼓動が俺には心地良く嬉しかった。

「そういや、冥夜はサンタって信じてたか?」
「いや…庶民の様なクリスマスには、縁がなかった。サンタクロースというのも、知識として知っているだけだ」
「そっ、かぁ……んじゃ、欲しいもの紙に書いて靴下に入れて、寝床に吊っとけ。俺がサンタクロースに頼んどいてやる」
「ふふふ…そうか、それは楽しみだ。楽しみにしてるぞ、タケル」

「タケル…クリスマスに七面鳥を食べるというのは、まことか?」
「んー、まぁ、そう言われてるけどなぁ…実際スーパー行っても七面鳥なんて売ってないから、大抵鶏肉で代用だな。うちは、照り焼きだったかな。で、冥夜はクリスマスって何食ってたんだ?」
「……これと言う料理は。大体御剣の家では来賓を招いてのパーティーで、何料理といった括りは特になかったと思う」
(今年は俺も、そこに出ないと駄目な訳ね…はぁ)
「…どうしたタケル? 冴えない顔をしているが?」

(こうして繁華街を歩いてるうちに、誕生日プレゼントを何とかしてやらないとな…ただでさえこういう買い物、俺は苦手なんだし)
「ああいうのって、冥夜に似合うんじゃないか?」
「ん、そうか? …私は普段ああいうのは余り着けないんだが。タケルはああいったのが好みなのか?」
「…好みって言われても、俺は女物のことは分からんぞ」
「でも、タケルが似合うと言うなら、試着してみた方が良いのかも知れぬ」
「ん、あ、ああ…そうしてみろよ(ほっ…)」

冬にしては燦々とした日差し。けど冬の微かな風はまだ肌寒さを持ってた。
そのおかげか腕越しに伝わる温もりは、互いの繋がりを感じさせてくれた。

  #  #  #  #  #

それでも、12月16日という一日、色々な人が尽力して俺達に与えてくれた特別な休日は確実に終わりに向かってゆく。
どこにでもいる少年少女として過ごせる俺達の時間は、夕日の彩りと共に幕を閉じようとしている。楽しい時間の終わりは、いつでも夕暮れ。

俺達が「帰らなきゃ」と思った矢先、車道の方からクラクションが鳴った。
音の方向を向くと、無駄に長大なリムジンが止まってる。思いっきり周囲の注目を引いている。当然、こんな車を運転しているのは…
「冥夜様、お誕生日おめでとうございます…お迎えに上がりました」
冥夜お付きの運転手、一文字鷹嘴さんだ。…こんな街中をあんな長さのリムジンで走れるなんて、やはり只者ではない。それ以前の問題という気もするが、深く考えると頭痛がしそうだ。気にしないでおこう。
「うむ、ありがとう鷹嘴…いつもご苦労だな」
「お疲れ様でした…さあ、お乗り下さい」
「いや、あんた達そんな普通に挨拶を交わしてる場合かよ」
鷹嘴さんは後部?のドアを開けて冥夜を中に乗せる。手荷物も受け取り、主が乗車し終えたところで、
「…いつまでそんな所に立ってるんだ? 早く乗れ」
「それはそうと、何で俺達がここに来るって分かったんですか?」
鷹嘴さんは俺の問いかけに口元だけで笑みを返し、
「これくらい出来なきゃ、冥夜様のお付きは勤まらんさ。それより、お前も早く乗ってくれ。これ以上遅れると渋滞に巻き込まれるからな」
「あ、はい…」
口調というか有無を言わせぬ圧倒感に納得させられて、俺はそれ以上何も 言わずリムジンの中に乗り込んだ。俺の手荷物は…そのままなんですね…

俺達を乗せたリムジンは、その車体からは想像もつかない静粛さと小回りで停車位置から動き出し、何事も無いように手狭な車道を駆け抜けてゆく。
毎回毎回物理的に無理だと思うんだが、鷹嘴さんの腕にかかればどんな小道だろうとショートカットに変わる。
そんな家路の途中で、不意に俺の肩へ圧力がかかる。冥夜の頭。静かな寝息。どうやら冥夜は疲れて眠ってしまったらしい。
「ま、昨日の夜から色々あったしな…おやすみ」
俺は冥夜の肩を抱いて、そっと寝顔を覗き見た。端正な美貌が見せる無防備な寝顔。見つめてるうち、何とも言えない笑みが漏れてしまう。
そんな俺に対して、唐突に運転席から声がかかる。
「不思議な奴だな、お前は」
「え? どういうことですか?」
そんな俺の問いに対して、微かな笑いの息が漏れたように聞こえた。鷹嘴さんは視線を俺達に向ける様子もなく、
「…到着するまで、冥夜様を起こさないようにな」
とだけ返答して俺の質問に対しては明確な言葉を返さなかった。
それから屋敷に到着するまでの間、お互い言葉を発することもなかった。

遠い日の約束、そこから紡がれた想い、「御剣冥夜」という大きな存在。俺が全てを受け止めて支えることは難しいかも知れない。だけど、俺は今隣で眠る冥夜の穏やかな寝顔を見つめながら、せめて今だけは俺が冥夜の支えになろうと思った。

<了>


「タケルさん、大胆だったね〜」
「……白昼の公園で、許されぬ逢瀬を」
「彩峰さん、それじゃあ白銀くんが二股かけてるみたいでしょ?」
「あ、わ、わたしは冥夜の親友で、タケルちゃんとは、その…」
「……修羅場の予感(にやり)」
「純夏ちゃんも、冥夜ちゃん相手にリベンジなんて、強気だね〜」
「ごごご、誤解だってば、壬姫ちゃん!」
「はぁ…これじゃまるで、出歯亀じゃないの(溜息)」
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