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SS・featuring Meiya

御剣冥夜・生誕祝 「Like a box of chocolate.」Camera H

>>>Camera H・Focus=白銀武

どのくらいの時間が経過したのか分からないが、兎も角俺の初料理は完成した。
…分かってるって、肉とタマネギと…その辺切ってつゆで煮込んだだけの料理なんて簡単だって言いたんだろ? んなこたーない、俺のような料理初体験者にとっては「切る」と いう動作ひとつ取っても難しいもんなんだ。特にこのタマネギの汁が目に染みてだな…
「タケルちゃん、さっきから誰に向かって話してるのさ?」
「ん、ああ…その、ほら、1カメさんに。俺の料理の苦労談をだな…」
1カメさん、俺には見えてるぜ。狭い場所からの撮影、お疲れさん。…いや、こっちの話。
「料理の苦労って…パックのお肉とタマネギ取り出して、切っただけでしょ? ほんと、タケルちゃんが話すと、はじめてのお料理が世界旅行したみたいに大袈裟になるよね」
「何だよ、お前がタマネギの汁のこと教えてくれなかったから、汁が目に入ってだな…」
丁度俺達が些細なことを言い合っていたそのタイミングで厨房の扉が開いた。
そして、その扉から入ってきたのは…

「よ、グッドタイミングだな」
今日の主役、御剣冥夜その人だった。随分動き回っていたのか、長い髪は所々濡れて首筋に纏わり付いている。そして手には最初の甲板で取り上げられた筈の皆流神威を握ってる。
少し疲れたような表情を見せつつも俺の顔を見て安心したのか、
「……ああ、タケルか。無事で何よりだ」
そのまま空いた壁際に背中を預け安堵の溜息をついた。
何があったのかさっぱり分からんが、あの大勢の軍人みたいなのを一人で片付けてここまで来たんだろう。疲れたせいか少し冴えない表情の冥夜に俺は、
「おう、俺は見ての通り無事だ。…お疲れさん、夜食に牛丼でも食うか?」
何事もなかったかのように俺は今出来上がったばかりの白米を丼によそい始める。
とりあえず、俺の分、冥夜の分、それで純…あれ?
「あれ? …純夏はどこだ?」
厨房を見回す。小さく吹いてる鍋、三人分としては大仰だった炊飯器、ずらりと並んだ調理器具、それから入り口近くの壁にもたれる冥夜。どこにも純夏はいない。いつの間に?
「ふふ、純夏なら私と入れ替わりに部屋を出た。また、気を使わせたかな…」
そう答えた冥夜は、随分気持ちのいい笑顔を見せて答えた。
でも、「冥夜と入れ替わり」ということはお互い顔を合わせてるってことだろ…
「…いいのか? 一年ぶりくらいにあのまま別れて、今も何も話してねぇだろ?」
「よい。喧嘩別れではないし、また後で会う場はある…心配はいらぬ」
「そっか…んじゃま、折角だし、食おうぜ。この船のシェフ達の作った極上の牛丼とは比べものにならない、庶民派の牛丼だけどな」
言いながら俺は二人分の牛丼に具とつゆを装っていく。誕生日の前夜、それも誕生パーティーの前に主役の二人が牛丼食べるなんて、考えてみれば貧乏くさい話だ。
「…って、勝手に食うことにしてるけど、いいか?」
「タケルの初料理であろ?…もちろん、心していただく」
嬉しそうに答えた冥夜は、壁に預けていた体を起こして俺に近づく。そういや今、『初料理』と聞いて思い出したことがある。確か去年、冥夜がうちで一晩かけて作った初めての料理を食ったっけ。結局その日の晩飯の筈が、翌朝の朝飯になっちまったけどな。
「そういや、冥夜の初料理って言えば…」
「その話なら、聞きたくない」
先程まで嬉しそうにしてた冥夜が、表情を固くしてきっぱり即答した。まあ、確かに、見た目はちょっと不恰好だったけど…そこまで嫌がることないのにな。
「いや、あれ、美味かったって…味が良ければいいじゃねーかよ」
「……よくない。私をからかうタケルは、やはり意地悪だ」
俺から目を逸らせ、拗ねた顔を見せる。そうか、そうきたか…なら、俺はこうだ。
「そっか…じゃ、俺ひとりで全部食うからな」
出来上がった牛丼をわざと冥夜に渡さず、俺ひとりで厨房の奥に運んで食う。わざと漫画ちっくに丼を掲げてガツガツと平らげる。そうやって予想以上にうまく作れた飯を食べつつ横目でちらりと冥夜を見遣る。…俺が立てる咀嚼音に釣られてか、向こうもちらりと俺の方を見た。
「あー、うめぇな…俺、もしかすると料理の才能あるかもな…でも、冥夜にはあげない」
わざと子供じみた口調で言って、再び俺は丼に残った肉と飯を勢いよく頬張り始める。
…すると冥夜がこちらを見る回数が増えたようだ。ふふ、俺の芝居に乗ってきたな。

俺は、冥夜が「やっぱり欲しい」と素直に言ってくるまで、虚勢を張って大食いの芝居を続けることにした。…本当は俺も、優しい労いの言葉をかけてやるべきなんだろうけどな。
ま、その辺は後でこいつを一緒に食べる時に、フォローするさ。


>>>Camera H ・Focus=鑑純夏

「まったく…タケルちゃんも、相変わらず子供なんだから」
わたしは、冥夜と入れ替わりに厨房を出てから、扉の外で二人のやり取りを聞いていた。
本当は、こんな野暮なことしちゃいけないんだ、って分かってるけど…
やっぱり、わたしは「今の二人がどうなってるか」知りたかった。
二人がどういう歩み寄りを見せたか、どういう風に変わって、どこが変わってないのか…
それを二人から直に感じて知りたかった。

だけど、(わたしが知ってる限りの)二人のことは、もう分かった。
なら、わたしがこの場所で聞き耳を立てるのはよくないことだ。お互いにとって。
そう思って踏ん切りをつけると、わたしは重い腰を上げてパーティーの会場=ホールへと、
ひとり歩き始めた。それからもう一度二人に会ったら、友達として精一杯笑えばいい。
辛い立場だと言う人がいるかも知れない。だけど、私にとっては二人とも大切な人だから。


>>>Camera H・Focus=白銀武

結局、俺も冥夜もお互い折れて、二人仲良く夜食代わりの牛丼を食べている。
「……よく分からない味だ」
随分と率直な感想だな。まあ、御剣の家で普段出されるような上等な食材を全く使わずにそこいらのスーパーで売ってそうな材料だけで作ったから、仕方ないか。
俺は軽く苦笑いしながら、上品に牛丼を食してる冥夜に対し、
「そりゃまあ、食べたことない食べ物の味だから、そうだろうな。でもさ、美味いとか、不味いとか、何とか他に言いようあるだろうが」
もうちょっと評価の分かりやすい感想を求めた。すると冥夜はもう一口小口に頬張り、
「そうだな、美味しい……と、思う」
その口調は、まんざらでもないって感じだ。自分で何もかも作れた訳じゃないが、自分の手をかけて作った料理をうまいと言われて悪い気はしない。
「そうか、そりゃ良かった…まあ、でも、俺の初料理は純夏先生の採点済みだから、少しズルしたことになるか」
誕生日の前夜(もしかしたら日付が変わってるかも知れないが、多分まだ前夜だろう)に、わざわざ豪勢な客船でクルーズに繰り出しながら、二人で牛丼を食いながら会話。
「…何やってんだろうな、俺たちって」
何とはなしに呟いた俺の言葉に、
「二人で一緒に、食事をしてる」
「……ああ、そうか、そう言われてみれば…そうだな」
何となくご満悦な雰囲気の冥夜が答える。言われてみれば、二人きりなんだな。
ここんとこ、お互い忙しくて二人きりどころか、二人で顔を合わせての食事も難しい。主に俺の出来の悪さが原因だからなぁ…だが、こうして一緒に二人で飯を食うってのも、悪いもんじゃない。
牛丼食ってる「御剣冥夜」の顔を隣から観れるのなんて、俺くらいのもんだよな?
(いや、何か間違った喜び方なのは自分でも何となく分かるんだが…何か、絵になるな)
「…ん? タケル、私の食べ方、何か変か?」
「いや…お前、綺麗に食べるなって…」
「あ……タケル」
冥夜のしなやかな左薬指が俺の口の端に伸びてくる。その指が俺の唇と頬の境界にそっと触れて、すぐに離れる。指先には、うっすらつゆの色に染まった飯粒。
「前から思ってたが、タケルはもう少し落ち着いて食べた方がいい」

今まで目まぐるしい毎日に気を取られてたけど、冥夜は俺のことをちゃんと見ている。
なら…俺ももう少し、冥夜のことをちゃんと見てやれるようにならないとな。


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