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SS・featuring Meiya

御剣冥夜・生誕祝 「Like a box of chocolate.」Camera E

>>>Camera E・Focus=御剣冥夜

自室で動き易い私服に着替え(…チャイナドレスの方が好みとな? それは済まない)、偶然やり過ごした敵集団の足音の方向を追って私は船内内周部へと歩を進めてきた。既にこの『ゲーム』が開始されてどれ程の時間が経過したのかは推測がつかないが、なるだけ早くタケルを開放し、明日の日程に支障がないよう二人して眠れるようにしたい。
明日は私とタケル、二人の誕生日。そして、久々の二人揃っての休日。
その私(とタケルと)の予定を邪魔されたのは正直言って不愉快であるが、タケルを含め皆が斯様な武装集団の襲来にも無事であったのは喜ぶべきか。

私は船内内周部の比較的船尾寄りに位置するレクリエーション・ルームの扉の前に到着した。私室からここに来るまで、船員に出会うことはあれやはり武装した兵士に遭遇することは一度としてなかった。どこか広い部屋で大挙して待ち構えているのだろうか。そうなると、無限鬼道流に通ずる私とて今手にした「デッキブラシ」だけでは手に負えない。
(刀と丈がまるで違うとか、重量が違うとか、そういう細かい問題ではなく)
しかし…戦わずして放棄するのは如何に「ゲーム」と言えど規則に反する。何より、この御剣の名にかけて「敗北」、それも人事を尽くさずして敗北を受け入れるなど言語道断。 いや…そういう「家」の事よりも、私には大切な人がいる。大切な人のために刀を執り戦場に赴く、遊戯でも戦う理由はそれだけ単純なことでいいのかも知れない。
そう思うと私はデッキブラシを握る手に少し力を加えて、改めてタケルの姿を思い描いた。

静かにゆっくりひと呼吸終え、私は落ち着いてレクリエーションルームの扉を開いた。
「……? これは!」
中に設置されていた筈の遊戯施設、例えばビリヤード台やエアホッケー(これは温泉に行った時、純夏と対戦して気に入ったので追加した)等が取り払われており、広々とした空間に大きなお下げをした一人のマスケラ兵士が屹立していた。手にはどういう訳か、ラクロスのスティックを握っている。まさか、あれがあの者の武器ということは…
「あら、着替えてきたの…でも、丁度良かったんじゃないかしら」
少々芝居がかった口調で、相手は入り口に立つ私に向かってゆっくり数歩歩み寄った。
どこかで聴いた声なのかも知れないが、マスケラを通してくぐもり、締め切った防音壁の中で響く声から正体を割り出すのは難しいかもしれない。
単純に髪型と手にしたスティックから考えると、榊である可能性は高いが…
「少々遅くなった、待たせてしまったか…許すがよい」
「…『相変わらず』変わったところで几帳面な人ね。気にしないで」
「それで、私はそなたとどう戦えばいい?」
幾ら何でも、私がデッキブラシ、相手がラクロスのスティックを手に格闘戦というのは滑稽過ぎるだろう(隠し芸か何かであれば、それでも構わないだろうが)。
「そうね…貴方と武術で戦うなら、私じゃ相手にならないから、」
相手は、グラブを嵌めた右手で私の左手側の壁面を指差した。目を向けるとそこには、ありとあらゆる球技の道具が壁に陳列されていた。中には私が見たこともない球技の道具まで置かれている。
「私と、球技で勝負してもらうわ。ルールは簡単。私がこのスティックを使いボールを投げる。それを貴方が捕球して好きな方法で、」
そこまで説明して相手は自分の背後、船首側の壁面にある扉を指差す。
「あの扉の中央辺りの穴にボールを入れれば、貴方の勝ち。但し、私がもう一度ボールをキャッチしてこの天井に投げ入れたら…私の勝ち、で『ゲーム』終了。簡単でしょ?」
「一球勝負、ということか」
「そういうことね。…ちょっと厳しいなら、練習してもいいけど?」
なるほど、確かにルールは明瞭だ…だが、私がここに辿り着くまでの短時間で、よくこの部屋の調度を片付け、扉にまで細工を施せたものだ。敵ながらここまで徹底した手入れに感心してしまう。
「いや、勝負の場だから…そうだな、代わりに一つ、質問をしてよいか?」
「ええ、どうぞ。『白銀君がどこか』『我々の目的は?』という質問以外なら答えるわ」
「そなたが投げるボールというのは、どの球技の玉なのだ?」
道具を選ぶには、目的となるボールのことを知らねばならない。我ながらよく気付いた。
相手も質問されて少し驚いたのか、間を空けてから
「…いい質問ね。ラクロスのボール、と言いたいところだけど、ランダムよ。1回目は野球の軟球かも知れないし、その次はテニスボールかも知れない。…ヒントとしては、私がラクロスのスティックを使って投げられるサイズと重さのボールってところかしら」
と答えた。…それならば。
私はデッキブラシを床に置き、迷うことなくラクロスのスティックを手にした。そしてスティックの傍に置かれていたグラブを少々きつめに着け、再度スティックを握り直す。
「それでいいの? …他にも、色々道具はあるのよ?」
「ラクロスのスティックを使って投げられるもの、とそなたが言った。ならこれが最適だ」
私は、多少虚勢が篭ったかも知れない返答を自信満々で立つ相手に返した。

「……分かったわ。始めましょう」
相手が開始を宣言するが早く、彼女の頭上の天井部分に空いた穴からボールが落下した。
あのボールは…硬式のテニスボールだろうか。ボールが床に落ち、高く跳ね上がる前に相手はボールをスティックで器用に捕球し、体を一回転させて私に鋭いパスを投げる。
「っ!」
予想以上に速い。一年余りのブランクも手伝って捕球の感覚に戸惑いもあったが、何とかスティックを延ばし、私の左肩やや上方に来たボールを網に収めることができた。
「さて」
捕球はできた、しかしこれをどうやって目的のゴール=扉の穴に入れるかだ。
相手は既に軽やかな足取りで私に近づいたり、離れたりして私の出方を窺っている。間違いなく相手は経験者、それもかなりの手練であろう。そうなれば、安直なシュート、ランニングでは止められ相手にボールを奪われるだろう。しかし…
「どうしたの! 早くいらっしゃい」
相手の虚を突くには…ラクロスの常識から外れた戦法を取るには…ひと呼吸ひと呼吸の限られた瞬間に思索を巡らす。ラクロスを殆ど知らぬ私に、そう簡単に妙案は浮かばぬか。
「分かった…では、参る!」
先ずは体を動かすとしよう。それに伴い、頭より先に手が動けば、それが正解であろう。
剣術においても、死活を分かつのは頭の回転より手の動き。頼みとなるのは己が体術。
ボールの入ったスティックを構えたまま、私は扉に向かい一直線に走る。
当然それを見た相手は、多少左右の牽制を含めながら私に向かって接近してくる。
しかし、このまま相手と組み合ったら、恐らくスティック捌きで私が負け、ボールを奪われるだろう。なら、その前に何とかせねばならぬ訳か…
「貴方らしく、直球勝負に出たわね…でも!」
予想以上の遠間から、相手のスティックが伸び私のスティックを叩く。…危うくボールを溢してしまうところだったが、咄嗟に握りを返し落下は免れた。
「…やるわね、これで落とさないなんて」
「生憎、私もラクロスを少々嗜んでいてな…その時の師範の教えが良かったのであろう」
薄々感づいてきた相手の正体を含ませ、切り返す。
「……でもっ!」
続いて相手は接近し、体当たり気味にスティック全体を私に向けてぶつけてくる。
「なっ……」
想定外の衝撃に、私はボールを落としてしまった。まずい、このままでは…

頭でどうするのが最善か、それを考えるより体が先に動いてしまうことがある。そしてその行動が、自分にとって全く無意識のうちに完了している場合がある。時としてそれは最悪の結果を招くことがあるため、普段の私ならそのような反射的行動は抑制すべきだろう。

だが…
「…貴方の勝ちね、『御剣さん』」
気がつくと私は目的の扉に開いた穴に右手を半ば押し込み、呆然と立ち尽くしていた。
そして私の眼前に、マスケラを外した予想通りの正体があった。
「あ…私は…榊?」
榊は私の勝ちだと宣言した。私にはボールを落とした後の記憶がない。私は何をしたのか、どう動いたのだろうか。そんな呆然とした私を察したのか、榊が腰のポーチから眼鏡を取り出しつつ説明してくれた。その説明は、私の予想にない行動だった。
「私に攻められてボールを落とした貴方は、私が取り返す前にボールを手で拾って直接扉まで走っていったのよ…ラクロスのスティックとルールに気を取られた私の負けだわ」
「でも…私は、道具を捨てた。この勝負、私の負けではないのか……?」
「いいえ…『捕球して好きな方法で』ゴールを決めたから、貴方の勝ちよ。尤も、」
榊は私に向かって爽やかな笑みを返した。白陵柊では難しい顔ばかりしていた彼女が見せた意外な表情だったが、私は榊の笑顔に好感を持てた。
「貴方を本当に負かすつもりなんて私にはなかったし」
「……どういう、ことだ?」
「貴方は今日の主役なんだから最後まで活躍してもらわないと。それから、言い遅れたけど…お久し振りね、御剣さん」
不意の挨拶と差し出された右手の意味が、すぐに理解できなかった。だが、言われてみれば先程の彩峰といい、榊といい、ここ一年は顔を合わせていなかった。「久し振り」だった筈だ。
それなのに、離れていた時間を感じさせないのは…どういうことだろうか。
「あ、ああ…久し振りだ、榊。正直、榊に変わりがなくて、あまりそう感じなかったが」
「……何かちょっと、白銀君みたいな言い方ね。…似てきた?」

こうして進んで来ると、あの大仰な軍隊での占拠行動は身内の手引きなのは間違いないだろう。残りの行程は然程長くはない、最後まで相手のゲームに付き合うとしよう。
「誰だか知らぬが…粋な計らいをする者がいるものだな」


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