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SS・featuring Meiya

御剣冥夜・生誕祝 「Like a box of chocolate.」Camera A

>>>Camera A・Focus=御剣冥夜

闇夜の中を静かに航行する船の甲板の上で、私は今何が起こっているのかを考えていた。
唐突に訪れた軍用ヘリ、船の中から現れた武装兵、そしてタケルを連れ去ったマスケラの兵士達…彼女達は私が「御剣冥夜」であることを知りつつ、いつでも私達を屈服させられる状態に持ち込んだにも関わらず、御剣の財力に関わるものを一切要求しなかった。
この日本という国で「武装ヘリ」を用いるというリスクを犯しながら、何ら自分達の利益を要求しないこの手口。私には彼女等の意図が正直言って理解しかねる。
そもそも、御剣の情報網を出し抜いてヘリで襲来するなど不可能なはず。となれば内通者が関与し、何らかの手段でこの船への手引きを行っていたとしか考えられない。
「しかし、一体誰が、何故、そのような手引きを…」
御剣の内輪による行動だという推測は導き出せるが、その意図が全く掴めない。

暫くそうして相手の正体・行動の意図について私なりの思索を巡らせていたところ、相手の指定したゲーム開始の合図=汽笛が夜の静寂を破った。
私の感覚が正しければ、タケルを連れたマスケラの兵士も、アサルトライフルで武装した数十人の兵士も、甲板上から姿を消して恐らく十分くらい経過した頃だろうか。
相手が指定した夜明けにはまだ十分猶予があるが、私は今何の武装も持ち合わせていない。
持っているのは…携帯電話。連れ去られたタケルに連絡を取るのは無理だし無意味だろう。
ならば先ず、月詠に連絡を取るのが望ましいだろう。理由は分からないがこの船に同乗していないし、ひとまず連絡を取ってみようか。
上着から携帯を取り出し、短縮ダイヤルで月詠に対して発信…
「っ!」
不意に私の死角から鋭い回し蹴りが飛んできた。電話に気を取られていたために、察知が遅れてしまったか…止む無く通話を切り、蹴りの飛んできた方向に向き直る。

そこには、見慣れぬ構えを取った女の兵士が立っていた。漆黒の軍服を纏い、真っ白いマスケラで顔を隠しているが、余りにも豊満な胸元で「彼女」の性別までは隠せていない。それに…この、何と言うのだろう、鋭角的な肩までの髪型、どこかで見た記憶があるが…
「どうやら、そなたを倒さぬと船内には戻れないようだな…」
マスケラの女は構えを解くことなく黙って頷いた。この構え、中国拳法だろうか。それも一見して隙が無い。今まで剣術の修練のため様々な武道の達人と手合わせをしたつもりだが、斯様な構えの流派には出会ったことが無い。世界は広いものだ…
「ここの所御剣家当主として多忙だったこともあって、素手の格闘戦は久しいな…だが、『御剣』の名を背負う限り、私に敗北は許されぬ。…全力で来るがよい」
私が白の上着に携帯を戻し、それを脱ぎ捨てて宣言すると同時に、相手は素早く間合いを詰めてきた。
相手の初手は…右脚下段の蹴りか。私は一歩下がり悠々回避した…つもりだったが、一歩下がった瞬間には続いて左中段の蹴りが伸びやかに私の胴を襲った。間に合うか、もう一歩の後退…私は先程と違い、多少大袈裟に後ろに飛び退いて相手と間合いを取った。
私が二歩目の後退で宙を跳ぶ最中、私の臍の辺りを鋭い風と蹴りが駆け抜けたのを感じた。
もう一瞬私の判断が遅かったなら、確実に相手の蹴りが私の脇腹を捕らえていただろう。
…流石に、この手に皆流神威がないのとあるのとでは、勝手が違う。今更それを実感する。
しかし、相手に打たれてばかりでは勝機はない。私も打って出るとしようか。

相手の多彩な蹴り技と私の回し受け、私の正拳と相手の確実な受けとが呼吸を重ねる度に繰り出される。しかしどちらも相手の不意を討つには至らず、命中打とはならない。
呼吸の数も思い出せないくらい相当な時間打ち合っている筈なのだが、相手には疲れも乱れもない。私が今、チャイナドレスを着ていなければもう少し自由に動き回って闘うこともできるのだろうが、着慣れないこの服装では脚を思うように使えず、動きが限られる。
…だが、それは相手も想像してる範囲のこと。ならば。
「……次に、賭けるか」
再度構え直し、私は相手との間合いを詰める。静かな睨み合いが一呼吸あった後、相手の状態が少し沈んだ。この動きは一度見た。…上段への回し蹴りか!
待ち構えていたその一撃が早々に来たことを喜ぶ間もなく、チャイナドレスの裾と動きで 私の次の動きを悟られぬよう脚を殆ど曲げる事無く、私は気合任せに前へ向かって跳躍した。体のバネを存分に駆使して跳躍し、相手の蹴りを飛び越え…られるか。

跳躍し宙に踊る私の体と、鋭く体を捻り振り上げられた相手の右脚の距離が瞬間瞬間縮まってゆく。逃げるように跳ぶ体と脚を、空を切る重く鋭い回し蹴りが追いかける。
相手の上体が豊かな胸の重みも手伝ってぐっと沈み込み、相手の脚が想像以上に跳ね上がってくる。私が直立したら丁度頭の位置。今私が跳躍している高さは、胸の位置。回転を強め振り上げられる脚が容赦なく襲ってくる。このままでは蹴り落とされるか…!
無残に甲板に落下する私の姿が一瞬浮かぶも、私はそれを否定し打ち消す。
「いや、まだだ!」
強引に私は膝を曲げ足を引き上げ、その勢いで体を丸め回転させる。相手の蹴りが届く前、何とか相手の蹴りの射程から自分の体を逃がすことが出来た。だが、まだ安心するのは早い。ここから相手の背後に着地し、体勢を立て直す隙を与えないようにせねば…
息を抜き、体を落としに懸かる。視界に入った甲板上では、相手がまだ宙を蹴っている。
私がこのまま背後に回れば、或は…

相手の上体が起き上がり、背後(私の今いる方向)に向き直る寸前、私は躊躇せず相手を羽交い絞めにして動きを封じた。変に手加減をして反撃されても困るので、このまま締め落とす気持ちで両腕に力を篭めていく。
「勝負、あったな……そなた、私の質問に答える気はあるか?」
若い女の体を羽交い絞めにし確実に極めつつ、私は幾分乱暴に質問を投げかけた。
相手は首を軽く何度か横に振り、私の極めるがまま抗おうとしなかった。どうやら敗北を認めたらしい。私は念のため、敗北の意思を確認した。
「…そなたとの勝負、私の勝ちでよいのだな?」
もう少し極め続ければ意識を失うだろうその寸前のところで、相手の首が少し縦に振られた。それを確認して、私は羽交い絞めを解き相手を甲板の上に解放した。相手は力なく甲板の上に崩折れ横たわった。続いて私は相手の正体が気になり、マスケラを取り払った…
…すると。
「な…何故、彩峰が?」
マスケラの下から出てきたのは、かつて私が白陵柊(知ってるとは思うが、かつてのタケルの学舎)に在籍していた頃の同窓生、彩峰慧だ。ラクロスの時に見せた身のこなしからして非凡な運動能力の持ち主だとは思っていたが、まさか…
「大丈夫か…?」
「……御剣、とても怖かった。くすん」
どうやら大事には至らなかったらしい。だが先程のは、少し力を入れすぎただろうか。その自覚はある。知らずとは言え、同窓の友に真剣勝負をしたのだから。
「あ、いや…済まぬ。相手の素性が分からなかったので、つい真剣に…許すがよい」
「……気にしてない。御剣なら、白銀のことで本気になるの分かってたし」
「…しかし、何故、彩峰がこのような『ゲーム』に、参加してるのだ?」
先程の推測と目の前に現れた彩峰。私には両者の符号がつかず敵の真相が見えなくなった。
そこで彩峰から何か教えてもらえるかと思ったのだが。
「……それは、秘密。御剣がゲームに勝ったら、分かる」
「そうか…それも私に、敵側の手の内を読ませない算段か」
こくり。無表情に彩峰が頷いた。
今思えば、マスケラから出ているこの髪形で彩峰だとどうして分からなかったのだろうか。彼女の事を私が忘れる筈はないのに…

ともあれ、私の知ってる人間=彩峰が敵に扮していたことから察すれば、敵側の人間も私の親しい人間だと思って間違いないだろう。つまり、私やタケル、船内の人間に本気で危害を加えるつもりはない、文字通りの『ゲーム』を開催してるだけだと。

そうと分かった私は、月詠への携帯電話通話を取りやめ単身船内へ乗り込むことに決めた。
そして、誰とも知らぬ『ゲーム』の主催者の思惑通り、タケル探しに専心することにした。


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