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SS・featuring Meiya

御剣冥夜・生誕祝 「Like a box of chocolate.」Start

12月15日、夜。横浜近海の洋上。
俺は、近海をクルーズするには余りにも豪奢な御剣家私有客船の甲板の上に立ち、冬の夜空の下目映い都会の光をぼんやり眺めていた。隣には扇情的な黒のチャイナドレス(何故チャイナかは、ここに問い合わせてくれ)を纏った冥夜も一緒にいる。
流石にこの寒空の下だから、チャイナの上から妙にふかふかした純白のファーコートを羽織っている。ファーコートのおかげで、あの見えそうで見えない魅惑のスリットを拝めないのは男として非常に残念だ。だが、チャイナドレスが描く大胆にして優美な曲線は嫌が応にも冥夜の女性らしさを普段以上に強調してくれている。
(誰も気にしないとは思うが、俺も今はそれなりの格好をしてるんだぜ?)
「…どうした、タケル? 口元がにやけてるぞ」
夜風に髪を靡かせながら街のイルミネーションに魅入った冥夜が不意に俺に向き直って尋ねる。
「ん、あ、いや…何でもない」
俺は咄嗟に自分の下卑た視線を誤魔化し、少し冥夜から視線を逸らした。
育ちのせいか、冥夜には『下心』というものがよく分からないらしい。
そういう初心なところは俺からすれば非常に可愛いのだが、そこを誉めると拗ねられる。…女心ってのも、難しいものだな。
なんて俺が考えてる間も、冥夜の追及の眼差しは真っ直ぐ俺に向けられてる。
「でも、さっきから、私の方ばかり観て夜景を楽しんでいないように見えたが…」
「そりゃお前、そんなむ……き、綺麗な、格好してたら…見惚れるだろ、普通?」
しかし、俺の返答がどうもお気に召さなかったようで、
「格好…タケルは、『格好』に見惚れてたのか?」
軽いジト目を俺に向けて逆に問い返してきた。…どうやら少し拗ねてるらしい。
経験上この辺でちゃんとフォローしとかないと、俺では手に負えなくなる。要注意。

しかし、俺は冥夜が拗ねる原因が思い当たらない。まさか、「そんな胸してたら」と言いかけて誤魔化したのが気に入らないのか。でも、それなら『格好』と強調して問 い返すことはないだろう。…あ、そうか。
「と、当然『お前がいつにも増して綺麗だから』見惚れてたに、決まってるだろ?」
歯の浮きそうな台詞で声が裏返りそうになるのを何とか抑え、必死に作った真顔を冥夜に向ける。続いて数呼吸間の沈黙、睨み合い。冥夜の鋭い(もともと鋭いが、普段にも増して今は鋭い)眼光が俺に真っ直ぐ向けられる。その視線を真っ直ぐ受け、思わず戦慄が走る。緊張の余り息が止まりそうになる。しかし。
「ふふふ…」
殺気だった面持ちから一転、破顔一笑の冥夜。はて、俺が何か、笑わせるようなことをしたのか?
「な、どうしたんだよ…?」
「ふふふふ…今のは、ほんの冗談だ。いつも私ばかりタケルに遊ばれてるから、ちょっとしたお返しのつもりだった。許すがよい」
「何だ、騙し討ちかよ…冥夜も随分と、意地が悪くなってきたな」
そう言いつつも、俺は冥夜の役者っぷりに内心感心していた。ただ、もう少し「冗談」 と「本気」の境界が分かりやすい冗談をやってほしいとは思うが。
そんな俺の負け惜しみにも似た軽い悪態に対し、
「それを言うなら、タケルはいつでも意地が悪いではないか…」
「いや、違うって、お前がそうやって拗ねるところが可愛いから、つい意地悪を…」
と俺が本音を言ってる最中に、
「可愛い……可愛い……可愛い……」
呆けたように冥夜が繰言を呟く。…また俺の思わぬ褒め言葉?がツボに入ったらしい。
下手するとこれで数十分は帰ってこなくなるんだよな…
「って、そこで喜ぶのもどうかと思うが…」
「でも、『可愛い』と言われて喜べないのも、女として素直ではなかろう」
「まあ、それはそうなんだが…」


と、俺達がいつものように他愛無いやり取りを交わしていた時、不意に空中に騒々しいプロペラの音が響き渡った。
すっかり暗闇に溶け込んだ空を見上げると、二機ほどの巨大なヘリコプターがどこからともなく船上へ接近し、ホバリングを始めた。と同時に、船内の方から重いブーツの足音が幾重にも重なって響き、俺達が立つ甲板に向かって来る。
「な、何だ…? どうなってんだよ、これ?」
「いや、私も聞いてはおらぬ」
どうやらこいつは、アクシデントらしい。にしても、ヘリを飛ばしてきたり船内に軍人らしき人々を潜伏させていたり、なかなか手の込んだ芸当だ。
なんて感心してるうちに、船内から出てきた真っ黒な軍服姿の人影およそ二十名ばかりが俺達を完全に包囲する。皆一様に手にアサルトライフルを握り、寸分の隙も見せず銃口を俺達二人に向け続けている。
俺達の包囲網が完成したところで、ヘリコプターからロープを伝って十名足らずの軍服姿の女(背丈から察するに、全員女だろう)が順次降り立ち、俺達と包囲する軍人達との間に着地していく。
ヘリから降りてきた女達は全員白いマスケラで顔を隠しているのだが、「明らかに触角が出てる赤い髪のヤツ」とか「明らかに不自然な角張った猫頭のヤツ」とか、果ては 「注連縄を思わせるぶっといお下げのヤツ」とか混じってる時点で俺には正体がバレバレだったりするんだが…
だが、冥夜はというと、相手の正体に真剣に気付いていない様子で、連中の一挙手一投足を真剣に凝視して動向を窺っている。俺のからかいは見ぬけても、こうした凝った冗談にはまだまだ対応できない…何と言うか、冥夜らしいな。
俺は正直、「連中」のこの仰々しい登場シーンに対して、
(お前等一体、何しに来たんだよ…)
と、ここで正体をバラしてツッコミを入れたくなったんだが、何やら面白いことをしてくれそうな気がしたので、とりあえず期待して様子を観ることにした。


するとマスケラ集団の中から、リーダー格と思しき緑の長髪の女性(月詠さんだな、こりゃ)が一歩前に出て、
「動くな…特にそこの、御剣冥夜。いかにお前の剣術が優れていようと、我々の包囲から男の身を護りながら、銃弾を全く浴びずに決着をつけることはできまい?」
落ち着いた口調で、しかし明瞭に通る声で俺達に宣言する。
「…そなた達、一体何を企んでいる? 私を御剣冥夜と知ってこのような狼藉を働くとは、どういうつもりだ?」
相手が誰だか全く気付いた様子もなく、真剣に問い返している冥夜。
冷静に第三者として見ればもっと緊張感が漂う場面の筈なんだが、敵側の正体が分かってしまった俺としては何とも間抜けな状況に感じる。そんな俺を無視して、冥夜とリーダー(本人が正体を明かさない以上、こう呼ぶのが礼儀だろう)は睨み合いを続ける。
「なに…お前と、ちょっとしたゲームをしたいだけだ」
「ふざけるな! ここは私の船だ。勝手な振舞いは許さん」
どこから取り出したのか、皆流神威を鞘に収めたまま眼前に取り出し身構える冥夜。
しかし冥夜が剣を手にした次の瞬間、リーダーが音も立てずに俺の背後に立っていた。
「…その刀、抜けばこの男の命はないぞ」
些か芝居がかった冷たい言葉と、俺の喉に当てられた本物の短刀。
俺は芝居だと高を括っているから平気だったが、対する冥夜は俺を楯に取られてしまい思うように動けないでいる。相変わらず、このリーダーの正体には気付いてないらしい。
「……」
「………」
二人の静謐な息遣い。互いの間合いを取り合うような、隙を探るような不断の睨み合い。その中で自然と漏れる第三者の息。目に見えない気と気のぶつかり合い。
ほんの数秒間二人の睨み合いを観ているうちに、俺は少し自分の先入観を疑った。
もしかすると俺の背後にいるのは、俺達を知り尽くして芝居を打っている月詠さんではなくて、「本物のテロリスト」なんじゃないかと。そう思えるくらい、俺の背後に立つ女性の気配は只ならぬ沈着さと確実な殺意を帯びていた。
時間にすればほんの数秒間だった睨み合いが終わり、動きを見せたのは冥夜の方だった。
交戦の放棄を明示するべく、冥夜の掌中から愛刀・皆流神威が離れていく。そして鞘に収まったまま、皆流神威が床に力なく落ちる。柄は冥夜と逆の方向を向いている。再び拾う気はないようだ。
刀を手放してなお握り締められている両手が微かに震えているのは、内心の悔しさのせいか。
「……その者を離せ。人質なら、私が幾らでも勤めよう」
俺が予想してたより、あっさりと冥夜は降伏を宣言した。そして、意外にも落ち着いている。
「あと、この船の乗組員には決して危害を加えぬと約束してほしい」
唯一の武器と言える皆流神威を手放し、両手を肩の高さまで上げる冥夜に対し、リーダーは軽く鼻で笑ってから、
「乗組員の無事は約束するが…お前が人質になっても我々には意味がない」
冥夜の申し出を半分はあっさりと承諾し、半分はにべもなく拒絶する。
「なぜならこの男、白銀武を制限時間内に見つけ出すというのが、これから『御剣冥夜が』行うゲームだからだ。ルールは簡単、我々が待ち構える船内のどこかにいる白銀武を、お前が自力で探し出せ。ただし、武器の所持は一切…」
リーダーの女の言葉を待っていたかのように、タイミングを合わせて触角赤毛の女(純夏だな)が冥夜の前に歩み出し、恭しく床に置かれた皆流神威を両手で拾い上げる。拾い上げたタイミングに合わせてリーダーが言葉を繋ぐ。
「認めない。制限時間は日付変更まで、それまでに彼を見つけられなかったら、お前の負けだ」
「…私がその『ゲーム』とやらに参加すれば、結果を問わずタケルと乗員は無事なんだな?」
決然と問い返す冥夜。武器を持たず多勢に無勢の状況でありながら毅然とした態度を崩さず敵に問い返すその姿は、どこか神々しいものすら感じさせる。頼もしいやら、末恐ろしいやら…
迷い無く直立しテロリスト然と身構える連中に怯まないその凛々しい様を見るにつけ、 俺は「御剣冥夜」という女の器の大きさを実感させられる。
俺が冥夜の立場だったら、俺か、自分か、どちらかの無事しか考えられない。なのに、俺の前に立つ「彼女」は迷う事無く自分以外の無事を求める。…大した奴だよ、ほんと。


そんな俺の感嘆はさておいて。
背後に立ち俺を取り押さえているリーダーの女性は少し黙考を見せた後、
「…保証しよう」
少しばかり冥夜に気圧されたのか、それだけ何とか返答した。
ただ、冥夜のプレッシャーに呑まれないようにするためか、彼女は間を置かずに、
「だが、お前が我々とのゲームに負けたら、全員海に投げ込むぞ」
そう言い放ち、海の方向へ顎をしゃくってみせる。
「なっ! …約束が違うぞ、卑怯な!」
冥夜の激昂が返ってくる。相変わらず真面目に反応を返すやつだな、冥夜は…リーダーは続けて言い足す。
「なに、お前が負けなければいいだけの話だ…違うか? それとも、自慢の刀がなければ、武装した我々相手に自信がないか?」
「くっ……私は、負けるつもりなどない」
「まあいい…もしお前が我々とのゲームに勝ったなら、私達は大人しく武装解除して投降する。あとの処遇はお前に全て任せよう。…ゲームの開始には船の汽笛を使うとしよう。御剣冥夜よ、汽笛が鳴るまではそこから一歩も動くな」
最後にそう言い放ち、リーダーの女性は俺を後ろから抱え込んだまま悠々と船内へ移動していった。
俺達を包囲していた軍人連中も続いていく。俺が逃げ出せる余地も、冥夜が不意を突いて今俺を救い出す隙も与えないよう、人垣で壁を作りながら。
ネタだかマジだか分からない状況になりつつあるが、寒空の下残された冥夜のことは何れにせよ気がかりだ。

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