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競作SS「Happy Day!?」/作:壮也
 


■■ 0 ■■■■■

閉め忘れたカーテンから差し込む朝日で目が覚めた。
土曜のお昼時。
それは誰にも邪魔されることなく惰眠をむさぼることができる、人類に与えられた最後の楽園。
なんて、某ゲームとまったく同じ導入だが、それが分かる諸兄方にはとりあえず目を瞑っていただきたい。
なにしろ、昨日――正確には今日の午前三時まで受験勉強をしていたわけで。
土・日くらいゆっくり寝させてほしい。
目覚ましは寝る前にK.O.済みである。
抜かりはない。
というか、いよいよ間近に迫った入試の為に、体調管理も怠ってはならないのである。
せっかく遙と二人で合格目指して頑張ってきたのに、直前でインフルエンザやら事故やら起こした日には目も当てられない。
そういった点でも、やはり寝るべき――――いや、寝なければならないのである。
「お休み……愛すべき地球」
「そして、ちょっぴりやんちゃな人類よ……」
やはり某ゲームの主人公と同じ事を呟きながら布団を被りなおす。
「そう……私、鳴海孝之の体の半分は睡眠欲で出来ています」
もう半分は言うまでもなく、遙である。
おやすみ、遙……。
……。
…………。

ピンポーン。

「…………」
俺は何もきいてない。

ピンポーン。

「…………」

ピンポーン、ピンポーン。

「…………」
負けない、ここで負けるわけにはいかないのだ。

ピンポーンピンポーンピンポーン。

チャイムの感覚が短くなっていく。
俺はチャイムのラッシュを喰らいながら、コーナーへ追い詰められていく。
ああ、なんか出っ歯の親父が叫んでる気がする。

ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン――――。

「…………」
もぞもぞとベッドから這い出し、そのまま床へと落下する。
ごめん、おやっさん。俺、負けちまったよ。
そのまま這うように玄関へと向かった。
その間もチャイムのラッシュは途切れることなく続いている。
……どうやら、相手はPRIDE選手だったらしい。
「はいはい、今開けますよ」

ガチャリ、と音を立てて開くドア。
と、そこに立っていたのは――。

「おはよ」
「…………え〜と、茜ちゃん?」
「そうよ。 他に誰かいる?」
いや、そういう意味ではなく。
「なんでこんな朝っぱらから?」
そして足元の大きなバックは何?
嫌な、とてつもなく嫌な予感がする。
それだけは寝起きの回転率の悪い頭でもはっきりと理解できた。

「いやさ〜。私、家出してきちゃった」









Happy Day!?






■■ 1 ■■■■■

「家出してきちゃった」
満面の笑みで、そんな物騒な事を言いよる涼宮茜。
「そっか〜、家出してきたんや〜」
「そう、家出〜」
「家出ね〜…………それじゃ!」
全力でドアを閉める、が。
「ちょっ、話くらい聞いてよ!」
茜ちゃんに足を挟まれ、失敗。
「あかん! 聞いてしもたら終わりや!」
力づくでドアを閉めようとする俺。
「なんでよ!!」
同じく力任せにドアを開けようとする茜ちゃん。
お互い、ドア一枚挟んでの攻防。
相手が女の子な分こっちが若干有利――いや、不利。
茜ちゃんの足が潰れてしまう、なんて考えている時点で俺の勝ちはない。
ふっ、俺も随分甘くなったもんだ……。
だが、一方的に負けるわけにはいかない。
せめて引き分けには持ち込まないと。
が、
「ふん。分かったわよ」

バタン!!

勢いよくしまるドア。
茜ちゃんが足と手を離したからである。
はぁはぁ、と肩で息をする俺。
(勝った――のか?)

「お兄ちゃんが入れてくれないなら――」
ドアの向こうの茜ちゃんが呟く。

ぞくぅ!

寒気がした。
ドアで隔てられていても分かる。
(茜ちゃん――――笑ってる!?)
それも飛びっきりの邪悪な笑み。

「――――入れてくれるまでここに居座ってあげるんだから」

俺は玄関に崩れ落ち、渇いた笑いを浮かべた。
ははっ、だから言ったろ。
はじめっから勝ち目なんてないんだって。

力なく立ち上がり、観念してドアを開ける。
「ありがとう、お兄様」
勝ち誇った笑みを浮かべながら颯爽と部屋の中へ入っていく茜ちゃん。
いや、プチ水月。
「こんにちは、小さな悪魔」
そして、さよなら、俺の穏やかな休日よ。
つーか、俺が何をした。
俺は泣きながら茜ちゃんの後についていく。
…………俺の家なのに。


■■ 2 ■■■■■

「へ〜、意外ときれいにしてるんだ〜」
「まあね……」
「へ〜、ふぅ〜ん」
キョロキョロと部屋を見回す茜ちゃん。
「なぁ、茜ちゃん?――――」
「ねぇ、やっぱりベッドの下にエッチな本とか隠してるの?」
「ねぇよ!!」
遙に見つかった後に全部捨てられたわ!!
「ちぇ〜」
「ちぇ〜、じゃないよ!」
つーか、いきなりそんなこと聞くな。
「お兄ちゃん、お昼食べた?」
「いや、まだだけど……てか、茜ちゃん、何で家出なんて――って、そこ! 人が話してるのにうろちょろしない!」
茜ちゃんはキッチンでなにやらゴソゴソと……。
「…………茜ちゃん?」
「なにぃ?」
ひょっこりと顔を上げる茜ちゃん。
……えっと、そのエプロンは持参ですか?
「なに、してるの?」
「ん〜〜? 料理」
いや、それは分かるけどさ。
「なんで?」
「なに? 私の手料理食べたくないの?」
「いや、そんなことないけど……」
「じゃあ、待ってて〜。 泊めてもらうお礼にご飯ぐらいは作るから」
「あ、ありがと〜……じゃ、なくて!何で家出な――――」

ぞくぅ!!!!

「なぁにぃ? おに〜ちゃん」
「な、んでも、ない、です」
こ、怖い! 笑顔が恐ろしく怖い!!
茜ちゃんに気圧されて、おずおずと腰を下ろす。……もちろん正座で。
…………大人しくしてよう。
ぐすん……俺の家なのに……。


■■ 3 ■■■■■

ばたん!

背後で勢い良くドアが閉まった。
……。
………。
「…………あれ?」
なんで俺、外にいるんだ?
「え〜っと、確か……」
茜ちゃんが作ってた昼飯が見るも無残な姿になって、
結局カップラーメンを二人ですすって、
「夕食でリベンジよ!!」とか言ってる茜ちゃんに引っ張られて材料を買いに行って、
結構な量の食材を持って帰ってきて、
「お兄ちゃん、邪魔!!」って言われて家を追い出されました、っと。
うん、状況確認終了。
……。
…………。
「…………理不尽だ」
まあ、いつまでもへこんでても仕方ないか。
せっかく外に出たんだ。
ここは一つ涼宮邸に向かうのが最良だろう。
家の中じゃ、茜ちゃんの監視が厳しくて電話なんか出来なかったからな。
まったく、プチ監禁かっての。
と、そんなことを考えてたら、背筋がぞくりとした。
そして頭に浮かぶ緑色。
「…………」
額に嫌な汗が浮かぶ。
な、なんなんだ、このドウシヨウモナイクライノイヤナヨカンハ……。
「は、ははっ。 気のせい、気のせい」
俺はいまだ治まらない悪寒を振り切るように、足早に涼宮邸へと向かった。


■■ 4 ■■■■■

涼宮邸玄関、呼び鈴前。
何回来ても、この呼び鈴を押すのは緊張してしまう。
すぅ〜、はぁ〜。
すぅ〜、はぁ〜。
深呼吸二回。
「よっし!」
ボタンに指をあわせ、グッと押し込み――――。

ピ〜ン

パッと離す。

ポ〜ン

……。
…………。
……あ、あれ?
いつもならすぐに遙ママ(おばさんと呼べない)が返事をするのに、

ドダン!! バダ、タタタタタ!!

今日はなぜにこんな効果音が?

「「「茜ぇ!?」」」

玄関から飛び出てくる、涼宮さん一家(マイナス茜ちゃん)
あ〜、なるほどね……。
そりゃ、娘が家出したら慌てるわな。
「茜!! じゃ、ない……」
「よ、よぉ、遙……」
「あ…………。 う、うぅわぁあ〜ん!! だがゆぎぐ〜ん!!」
半泣きで飛び込んでくる遙。
「あ〜、よしよし……」
「うう、茜が、茜がぁ……」
とりあえず、落ち着いてもらうために、泣きじゃくる遙の背中を優しく撫でる。
「いや、俺もさ、その話をしに来たんだ」
「……えっ?」
はっとした表情で遙が顔を上げる。
「鳴海君、茜がどこにいるのか知ってるのかね?」
と、遙パパ。
俺は、何故か朝からの一連の出来事を説明した。
「そうか……何処の友達の家にも居ないと思ったら、君の家に行っていたんだね」
ホッとした表情の涼宮さん一家。
取り乱してた遙も、すっかりいつも通りだ。
「そうなんですよ。 今は、夕飯を作るとかで。 俺は追い出されちゃいました」
「もう、茜ったら心配かけて」
「まあ、立ち話もなんだ。 鳴海君、ゆっくりしていきなさい。どうせ、家には入れんのだろう?」
「はあ、でも……」
「ええ、ぜひ上がっていってくださいな」
さあさあ、と涼宮両親に家の中へと連れていかれる。
…………俺って流されやすいなぁ。
そんな俺の後ろで、遙が微笑んでたりする。
「…………ま、いっか」


■■ 5 ■■■■■

「はっはっは。 そうか、遙が学校でそんなことを」
「あらあら、遙ったら」
「そうなんですよ〜。 なあ、遙?」
「もう、孝之君、知らない」
「はははは」
遙ママの入れてくれた紅茶を飲みながら、涼宮一家の午後のひととき。
いや〜、穏やかだねぇ……。
……。
…………はっ!
なんか俺、いつの間にか涼宮一家に溶け込んでないか!?
遙パパ&ママにつられて談笑なんかしちゃって。
既にこの家族の中での俺の位置は確定済み!?
「ときに鳴海君」
と、正面に座っている遙パパが真面目な面持ちで話しかけてきた。
「は、はい! なんでしょうか、遙の……え〜と、お父さん」
「そう、それだよ」
「はあ?」
「君は、いまだに私たちを呼ぶときに呼び方を迷っているねぇ」
「そりゃ、まあ」
なんか、この二人おじさん、おばさんって呼べないし。
「もっとくだけた感じでいいんだよ、お義父さん、と」
……は?
「そうですよ? 私の事も、お義母さん、でいいんですから」
お、お二人とも、なんかイントネーションが!! というか漢字表記が!!
「は、ははっ。 ま、またまた〜二人して〜。 なぁ? 遙」
って、何で遙さんは顔を赤らめてどこか遠くに旅立ってますか?
正面にはにこやかに微笑む、遙パパ&ママ。
(ば、万事休す!?)
お父さん、お母さん。 孝之は、孝之はお婿に――――。

ピンポ〜ン

「あら、お客さん」
席を立つ遙ママ。
天の助け!?
ほっとして書面を見ると、少し残念そうな遙パパが。
……残念なんだ。
インターホンを取った遙ママは「あら。 どうぞ、おあがりになって」なんて優しく受け答えしている。
遙は、というと。
「…………(ポ〜〜〜)」
まだ夢の世界にいた。
「お〜い、遙〜。 帰って―――」

ドダダダダ〜!! バァン!

力いっぱい開かれたドアから飛び込んでくる、青い髪の――。
「遙!? 茜は? 見つかった!?」

……遙。
お前、速瀬にも連絡してたのね。



■■ 6 ■■■■■

「まったく、心配して損したわ」
「まぁ、いいじゃんか」
俺の家、玄関前。
涼宮邸に飛び込んできた速瀬は、遙から事情を説明されて、安堵のため息一つ。
その後、茜ちゃんに対して怒髪天。
「文句の一つも言ってやるわ」と俺の後をぶつぶつ文句を言いながらついてきたのだ。

速瀬が来たことで涼宮邸の午後のお茶はお開きになった。
遙は茜ちゃんを迎えに行こうとしていたけど、遙パパの、
「無理に連れてかえる事はない。 それに鳴海君の家なら安心だ」
という一言で引き下がった。
……その無条件の信用が、少し怖い。
と、玄関を出るとき遙がなにやら恥ずかしそうにしてたけど、なんだったんだろ?
後ろ手に持ってた箱を渡したかったのか?
まあ、明日にでも聞いてみるか。

ドアノブに手をかける。
ふむ、どうやら鍵はかかっていないみたいだ。
ドアノブをまわし、ドアを開ける。
と、そこには、
「お、お兄ちゃん!! それに、水月先輩!!」
荷物を抱えた茜ちゃんが居た。
「そうよ〜。 もう茜ったら、いきなり家出とか言うからびっくりしたじゃない」
「す、すすすいませんでした。 そ、そそれじゃ!」
「ありゃ? 茜ちゃん、帰るの?」
「う、うん。 あ、カレー、置いてあるから。 それじゃ、お兄ちゃん、またね! 水月先輩も!!」
ダダダーと土煙、は上がってないけど、そんな勢いで茜ちゃんは走っていった。
「……なんだったんだ?」
「さあ? ま、とりあえず家に入ったら?」
と、さっさと家に上がっている速瀬。
「……そうだな」
促されて、俺は玄関をくぐった。
……文句はとうに諦めてる。

部屋の中にはカレーの匂いが漂っていた。
「ん〜〜、いい匂い」
速瀬は、匂いに導かれるようにキッチンへと入っていった。
「どっこいしょっと」
あ〜、なんかどっと疲れた。
なんで休日にこんなに疲れてるんだ、俺。
「なあ、速瀬」
「なに〜?」
「茜ちゃん、結局、何が理由で家出したんだ?」
「さあね……。ん? これって……。 ああ、そういう事か〜」
なにか見つけたのか、一人呟いてる速瀬。
「何だ? なんかあったか?」
「ん〜? べっつに〜。 茜のカレーなかなかの味だなぁって」
つまみ食いかよ。
「さぁて、私も帰ろ〜っと」
速瀬が、にやにやしながら玄関へと向かう。
俺は顔だけ出して見送る。
「んじゃ、孝之。 夕飯楽しみにね〜」
ほう、そんなに茜カレーはおいしいのか。
「ああ、じゃな」
むふふ〜、と意味ありげな笑みを浮かべて速瀬がドアを閉める。

「ふぅ……」
さて、ようやく静かになったな。
「晩飯まで、ゆっくりしますか」
昼に寝れなかった分を取り返すために俺はベッドに寝転がった。
「おやすみ〜〜」
ぐぅ。










孝之の自宅のキッチン。
コンロには茜ちゃんお手製のカレーが。
そして、すこし離れたところに準備されたカレー皿。
その上に、可愛らしくラッピングされた箱が一つ。
その箱に孝之が気付くのはあと何時間後のことだろうか……。


『Happy valentine!!
      to my brother. from sister of the future』
(ハッピ〜、バレンタイン!!
      お兄ちゃんへ、未来の妹より)

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