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作:N・RYAN
巡る時代(とき)の中で…
☆競作SS展示場
(2)雨宿り
☆競作SS(第一回)
 
競作SS「巡る時代(とき)の中で…」/作:N・RYAN
 


ある日の欅総合病院の一室にて…

2001年と書かれたカレンダーに目を向ける・・・。あの事故から3年経ってるんだよね、本当に…。
あの日の事は、昨日ように思い出せる。孝之君と絵本展行く約束していて、約束の時間になっても
孝之君、来なくて、電話しようと電話ボックスの方に、歩いて行ったら、車が飛び込んで来て、それで…。
考えれば、考えるほど3年も寝てたなんて信じられない…。でも、水月や孝之君達に会って、
3年経ったんだだあ…と実感した。水月は髪切って、大人っぽくなったし、孝之君は社会人の顔になってる。
一番、驚いたのが茜…。子供って感じだったのに、今はもう、一人前の女性って感じ…。私より、大人っぽいよ…。
結局、3年間取り残されてる私…。孝之君や香月先生は「焦らないように」と言う。言いたい事は、私も解る。
3年間と言う時間は、もう戻らないんだから、取り戻せない…。あとは、少しずつでも、社会に適応できるように
するだけしかないんだとも思う。でも、だからこそ、急いで孝之君達と並んで普通に生活できるようにしたい。
知識もだけど、なんと言っても、歩けないと…。歩けないと、何もできない…。やはり、焦ってしまうよね…。
なんで、私の足、動かないんだろう?私は動かしたいのに…。この気持ちは、さすがに孝之君でも解らないと思う。
『病人の気持ちは、同じ病人にしか解らない』と言うけど、本当に、そうだよねえ…って思う。
いけない、いけない、どんどんマイナス志向になってる…。これじゃ、立てるものも立てなくなってしまうと思い、
さあ、明日も頑張るぞと気持ちを切り替え眠った・・・。


同じ頃、某アパート孝之の部屋…

孝之は、遙の見舞いから、戻り1人、ベットに寝ながら、考えていた・・・。

昔は、歩く事なんて、なんとも思ってなかった…。当たり前の事だし、そう思うのが普通だと思う…。
何も無ければ、気づいて無いと思う。遙が、ああいう事になって、目覚めて、初めて、気づかされた。
当たり前の事を、当たり前にやる事の難しさ、重要さに…。
野球でも、当たり前の事をやるのが一番、難しいって言うし、釣りも『鮒に始まり鮒に終わる』と言うし…。
考えてみれば、当たり前の事や基礎って何事にも、重要で一番難しいだよなあ…。当然と思ってるけど。
遙に事故が起き無かった方が、いいに決まってるけど、この事に気づいた事だけは、遙には悪いが、良かったと思う。
そう言えば、俺、遙と水月の間で、揺れてるけど、俺の恋愛の『当たり前の事』ってなんだ?『基礎』ってなんだ?
なんだ、もう答えは出てるじゃないか…。俺の隣にいたのは、遙で、それが当たり前だった…。
水月には感謝してる。今でも愛してる。それは事実だ。でも、断らないといけない。
今まで尽くしてくれて、愛してくれた水月には悪いけど…。いつまでも、このままではいけないから…。
結局、今まで、当たり前の事をできてない自分に、ようやく気づいたのか、俺…。水月、ゴメン…。
と思うと、苦笑いの後に、涙がこぼれてきた…。こんなんじゃあ、遙が不安になるよな…。
付き合うと決めた方に渡そうと思ってた、これを明日、遙に渡さないといけないんだから…。
遙を待てず、水月と付き合った事、でも、もう一度付き合って欲しいという事を言わないといけないんだから。
そして、つらいけど、本当につらいけど、水月に別れを言わないと…。それが、俺の『当たり前の事』なんだから…。



そして、次の日の病室・・・



緊張してるのを、ごまかすように、とりあえず、茜ちゃんを含めた3人で世間話から入る…。リハビリの事、俺のバイトの事など、
ここまではいつも通り…と自分では思っていたが、俺は顔に出やすいらしく、遙に「今日の孝之君、おかしいよ…」と言われる…。
もう、度胸決めるしかないな…と思い、「あのさ、遙…」と言うも、後が続かない…。茜ちゃんも、不審そうに、こちらを伺ってる。
あー、もう、やる事やるんだろ、俺!当たり前の事するって昨日、決めたばかりだろうが!と思ってると、茜ちゃんが、
「あのー、鳴海さん、やる事って?当たり前の事するって何ですか?何を昨日決めたんですか?」と聞いてくる。
「茜ちゃん、なんで、今、俺が思った事解るの?」と聞くと、「だって鳴海さん、口に出してますよ。」と爆笑してる…。
どうも、例によって口に出していたようだ…。さすがに、ここまでくると、腹も決めざる得ないと苦笑いし、
「遙、俺、お前待ちきれなくて、結果的には水月と付き合った。これに関しては弁解の余地は無い。
謝って済む問題じゃないし、当たり前の事を出来なかった俺が悪いんだから。でも、俺は、水月と別れて、
もう一度お前と付き合いたい。OKなら、これを貰って欲しい。中身は時計。今度こそ、同じ時代(とき)を
一緒に刻みたいという意味を込めて、これにした。これが俺のやる事で、当たり前の事だよ、茜ちゃん」となんとか言い切った。
茜ちゃんは、ビックリしたようで、俺の方に一度顔を向けたが、すぐに遙に向かい「お姉ちゃん、良かったね!もちろんOKだよね?」
と笑顔で聞くが、貼るかは無表情のまま、何も語らないし、身動きもしない…。茜ちゃんが「お姉ちゃん、何とかいいなよ!」と
聞いてくれて、ようやく思い出したように「孝之君、水月と付き合ってるんだ…。そうだよね、3年だもんね…」とポツリと呟く…。
ダメかあ、仕方ない…。俺が悪いんだから…と思った瞬間、再び、遙が「言うのつらかったでしょ?私が断っても、水月に戻る事は
しないだろうから、孝之君の性格だと…。私を待ってくれなかったのは残念…」という言葉を聞き、やっぱり…と落胆していると、
続けて「でもね、待ってくれなかった事や水月と付き合った事を、私は責められない…。だって、待つ事のつらさは、
私が一番よく知ってるから…。これ、受け取らせてもらっていい?これ、差し出されて、私嬉しかった…。
私も孝之君と一緒に時間を刻みたい。」と涙を浮かべながら、笑顔で、俺を迎えてくれた。
話が終わると、「もう話終わったんでしょう?姉さん、中身見ようよー!さて、鳴海さんは、安月給で、どんな時計を
プレゼントしたんでしょう?3、2、1、ハイ」という茜ちゃんの物凄い皮肉の掛け声を受け、遙が「開けていい?」と俺に聞き、
俺が頷くと、遙が包装を開く…。中から出てきたのは、イルカ…ではなく、ペンギンの絵の入った懐中時計。
「茜ちゃん、結構高かったんだぞ、これ。見た目、可愛らしくて、こんなんだけどな。水月がイルカなら、遙はペンギンだろ、やっぱ。
それに物凄く買う時恥ずかしかったんだぞー!店員や女の子から白い目で見られるし…。」と笑うと、
「そうかもね。ヨタヨタ歩いて、コケるとこなんか姉さんに似てるかもー」なんて、茜ちゃんが爆笑して言と、
遙が「えー、そんな事ないよう…。違うよね、孝之君?」と聞いてくる。「まあ、ペンギンみたいにカワイイって事だな。
茜ちゃんの言う要素も入って無いとは言わないけどな」と俺も笑うと、遙が、「孝之君までー」と拗ねる…。

「あっ、ところでさ、鳴海さん、なんで腕時計でなく懐中時計?」と茜ちゃんが聞いて来る。
この質問、実は待ってたりした。「ああ、腕時計だと外す事もあるし、なんか縛られてる感じがして嫌じゃないか。
俺と遙はいつも一緒、縛ったりしないって事で」と用意してたセリフで格好良く決めてみる。
「鳴海さん、キザ過ぎー!全然、似合わないよ」と茜ちゃんに笑われてしまった…。うーん、所詮、俺って三枚目?お笑い専用?と 思ってたら、遙が、俺の考えが解ったのか「そんな事無い!私嬉しい!大事にするね」と言ってくれた。
「そう言えばさ、なんか、今回、鳴海さんじゃ無いみたい。良くも悪くも優柔不断が鳴海さんの十八番(オハコ)でしょ?
こんなに男らしく決断するなんて鳴海さんらしくなーい!姉さんもそう思わない?本当に鳴海さんだよね?」なんて言ってくる…。
茜ちゃんの矛先は今度は俺に向いたようだ…。「茜ちゃん、俺だってやる時は・・・」と言いかけると、
「そうだよね。孝之君らしくないかも…?」なんて遙まで言ってくる…。さっきのペンギン発言を根に持っての逆襲なのかあ…。
「おいおい、2人とも勘弁しろよー!俺だって決める時は決めるんだよー!」と焦って言い返すが、
「姉さんと水月先輩の間でフラフラして決められなかったの誰でしたっけねえ…?」と言う茜ちゃんの一言に撃沈…。
こうして、病室には、この後も笑い声が絶えなかった…。全部、標的は俺だったが…。まあ、いいか…。楽しんだし…。



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