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競作SS「雨宿り」/作:Me262
 


「もう! こんなに降るなんて思いもしなかった!」
春とも夏ともいえない微妙な季節。
水泳部の練習が終わっての学校帰り。
不意に降りだした豪雨の中を、私は駆け抜けていた・・・・・・。
「しまったなぁ。こんなに降るなら学校で時間を潰しておけばよかった」
白陵の坂道を下る辺りまではまだ小雨だったのだ。
そのまま走って帰れば何とかなるかと思ったのが、甘かった。
「仕方ない。どこかで雨をしのぐか・・・」
そう考えて目の前の住宅街を走り続けるが、不幸にも雨露を凌げるような場所はなかなか見つからない。
「!? あそこ!」
ようやくシャッターの下りた店先を見つけると、私はそのまま駆け込んだ。
「はぁはぁはぁ・・・・・・」
ようやく降りしきる雨から解放される。
身体は素直な物で、そうすることによって今度は濡れたことによって纏わりつく自分の制服と髪の毛が気になりだす。
シャワーを浴びた時とは異なり、身体に纏わりつく髪が妙に重く感じた。
「はぁはぁはぁ・・・・・・・・・・・・もう、靴下までビショビショ。もう、最低・・・」
悪態をつきながら私は肩からスポーツバックを下ろして空を見上げる。
ザァァァ――――――――――
雨は周囲の音を掻き消しながら、いつ果てる事なく降り続いていた。
「はぁ、参ったなぁ。こりゃ、暫く止みそうもないわね」
頬にびっとりと付いた髪の毛を払いながらそう思った時だった。


「よう、速瀬じゃないか!」
「え!?」
同じ場所に駆け込んできたのは他でもない、孝之だった。
「孝之!?」
孝之は飛び込んでくるなり私の隣に立つ。
まぁ、そんなにスペースが広いわけじゃないのだから仕方ないのだけど・・・・・・。
「ったく。なんなんだこの雨は。お陰でずぶ濡れだぜ。
ま、自業自得といえばそれまでなんだが・・・速瀬も傘を忘れてきたくちか」
「え?」
「今日の天気予報。
午後の確立、60パーセント。知らなかったのか?」
孝之は意外そうな顔をして言った。
「あ・・・そうだったんだ。今日はたまたま見ないで出てきちゃったから。
朝はあんなに晴れていたから、まさかこんなに降るなんて全然思わなかったの」
夕べは宿題を片付ける傍ら、深夜遅くまでラジオを聴いていた。
そのお陰で今朝は少し寝過ごしてしまっていて、慌てて家を飛び出してきたのだ。
そう説明すると孝之は、
「ふ〜ん。速瀬がそういうのって、珍しいな」
なんて言う。
「そうかな?」
「お前、そういうのはしっかりしている方だからな」
「そう?」
「ああ・・・・・・」
「って、この手は何なのよ・・・・・・・・・」
私は目の前に差し出された孝之の手を叩いて言った。
「イテッ。どうせお前のことだからそのバッグにタオルを入れているんだろう。
それをちょっと貸して貰おうと・・・・・・」
「お生憎様〜。
もうこれは練習の時に使っちゃったんだから。
大体、最初から乾いたタオルなんてあれば、私が使っているわ」
確かにバッグの中にはタオルが入っていたが、流石にそれを使う気にはなれなかったのだ。
「そんな事はわかっている」
「は?」
「それでも濡れたままよりはましだからな。貸せ」
「やだ」
「いいから貸せって」
そう言って孝之は、私の足元にあるバッグに手を伸ばす。
「ちょ、ちょっと本気?
やめてよ。女の子が使ったタオルを使おうなんて・・・・・・孝之の変態〜〜〜!」
「なに〜?」
「や〜い、変態、変態、変態。
ほら、あっち行ってよ。変態菌が移るからさぁ」
「な、なんだと〜!」
「あ〜あ。早く止まないかしら。
孝之なんかと一緒にこんな所で過ごす羽目になるなんて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ヘックシュッ!」
ブルッっと悪寒を感じたかと思うとくしゃみをしていた。
「ほらな、そのままじゃ風邪ひくぞ。一回くらい使っていたって、拭いた方がいい」
「・・・・・・そうだね」
ここにたどり着くまでは走っていたのでそれ程に感じなかったが、一端気が緩むと急に寒気を感じはじめた。
私は孝之の言うとおりに素直に従ってタオルを取りだすと、手足と解いた髪を簡単にそれで拭った。
湿ったタオルを使うのはそれ程気持ちのいいものでもなかったし、そもそも制服がビショビショに濡れている以上は根本的な解決にはならないが、それでも少しは楽になったのかもしれない。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
私はちらりと隣の孝之を見る。
その孝之は何かを考えているようだったが・・・・・・。
「・・・・・・・・・使う?」
手にしたタオルを孝之に差し出そうとしたのと、孝之が豪雨の中を飛び出して行ったのはほぼ同時だった。
「た、孝之!?」
「ちょっとそこで待っていろよ!」
そう言い放つと孝之は雨の中に消えていった。
「ちょ、ちょっと、何処行くのよ!!」
でも、私の声はすぐに雨音にかき消されたのだった・・・・・・。
「こんな雨の中、何処へ・・・・・・」
私の足元には孝之の鞄が置いてある。
だからもう一度この場所に戻ってくるつもりなのだろうけど。
ザアアア―――――――――――――
先ほどから一向に止む事の無い雨。
一人になると同時に余計に寒さがこみ上げてきた。
「寒っ・・・・・・・・・」
両手で身体を包み込むようにするが、そんな事くらいでは何も変りはしなかった。




それから暫くして、ようやく孝之は戻ってきた。
「はぁはぁ・・・・・・」
「ちょっと孝之! なに考えているのよ・・・こんな中に飛び出して行って・・・・・・って、え!?」
「ほら、速瀬!」
帰ってくるなり孝之は私に向かって何かを投げて渡した。
「熱っ!」
手のひらに収まったそれは、熱を帯びた缶コーヒーだった。
「まさか、これを買う為に・・・?」
私は驚いて孝之を見つめるが、孝之自身は自分の缶の蓋を取ると一気に飲み干していた。
「これで少しは暖まるだろ?」
私の視線に気が付いてニヤリと笑う孝之。
「ば・・・馬鹿じゃないの孝之! いくらなんでもこんな事の為に出て行くなんて!」
「まぁ、俺は馬鹿だからな。
そんなことよりも早く飲めよ。折角買ってきたのに冷めたら台無しだ」
「う・・・。
もうっ! 本当に信じられない事をするんだから!」
プッシュッ!
  私も缶を開けてグビリと飲み込む。ほろ苦さと同時に心地よい温かさが身体に浸透してくる。
「・・・美味しい」
そんな私を見て満足げに孝之は笑った。



「・・・前にもこんな事があったよね」
「そうだったか?」
「覚えていないの!?」
「全く」
「もう! ほら、前に橘町にCDを探しに行った事があったでしょう」
「ああ・・・そういえばそんなこともあったな。何気に速瀬って雨女?」
「あのね・・・ま、否定はしないけどね♪」
「うわっ、開き直ったよ。こいつ」
「いいじゃない。そのお陰で孝之と一緒に居られるんだから・・・・・・」
「?」
「あはは、そ、そんな事よりもさ。
孝之ってさ、いっつもこういう事しているの?」
「『こういうこと』?」
「ほら、自分の上着を差し出したり、今みたいに雨の中をわざわざ缶コーヒー買いに飛び出して行ったり。格好いいのか馬鹿なのか・・・まぁ、多分『馬鹿』の方なんだろうけどね」
「なんだとぅ!?」
「ほらそこ、指摘されてキレないでよね」
「あのな・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「あはっ。・・・・・・そういうところが、孝之らしいんだけどね」
「それって褒めてくれているのか?」
「多分・・・ね」
「ふ〜ん」



でも・・・孝之のそういう所、私は好きだよ・・・・・・・・・・・・・・・・・・。



「あ、雨・・・大分小降りになってきたわね」
「ああ、そうだな」
空を見上げると、雨雲の向こうに光が差しているのが見て取れた。
この分だともうじき止むに違いない。
だったら・・・・・・
「よしっと」
私は髪を結うと、傍らに置いてあったバッグを肩に掛ける。
「おい。もう少し待てば完全に止むぞ」
孝之はそう言ってくれたが、私はここを出る事に決めた。
「うん。でも、私・・・・・・もう行くから」
「そうか。帰ったらシャワー浴びて身体を温めろよな」
「ありがと。そうするわ」
それ以上、引き止めようとしなかった孝之に私は手を振ると、外へと走り出した。
「コーヒー、ご馳走様♪」
「次はお前が奢れよ!」
そんな声を後ろに聞きつつ、私は既に途切れ途切れに降る雨の中を駆け抜けていった・・・・・・。


身体が軽い・・・・・・・・・。
私の肌を濡らす雫が、火照った身体を冷ましていくのが心地よい・・・。
まるで、水の中を切って泳ぐかのように、今の私は霧雨の中にその身を委ねていた。
そして、気が付いた時には雨は止んでしまっていた。
そこでようやく、私は立ち止まったのだった。

「水月?」
雨雲が過ぎ去り、茜色の陽射しが差し込む路上の先に居たのは遙だった。
「遙じゃない。 珍しいね、こんな所で会うなんて」
私がそう言うと、遙も笑って答えた。
「お使いの途中で凄い雨にあったから、1時間くらい喫茶店で雨宿りしていたの。
お陰で、これから買い物して帰るところ。
その様子だと、水月も酷い目にあったようね」
「あ、うん・・・同じ。
帰りがけにさっきの雨にあったもんだから、雨宿り。
それも、寂れた軒先でよりによって孝之と2人きりで・・・・・・・・」
その途端、私の台詞に反応する遙。
「え? 鳴海君と・・・・・・いいなぁ、水月・・・」
「孝之と2人きり」という言葉に、心底羨ましそうな顔を遙はしていた。
あ、そうだったんだっけ・・・。
遙にとって孝之は・・・・・・・・・。
「あのね・・・・・・。
こっちはお互い頭からズブ濡れになって、もう散々だったんだから。
もう、寒いのなんのって・・・」
無意識に遙に気を使いながら、出来るだけ簡略に、そして言葉を選んで喋った。
・・・・・・なんて私らしくもない言い方なんだろう。
「ゴメンね、水月。本当に大変だったみたいね。早く帰って乾かした方がいいよ」
それでも遙は、いつも通りに微笑んで私にそう言ってくれたのだった。
「うん、そうさせてもらうわ。遙も気をつけてね」
「うん、それじゃぁね、水月」
私の横を通り過ぎて歩いていく遙。
「あ、遙・・・・・・!」
「何、水月?」
「あ・・・・・・う、ううん。
なんでもない。また明日ね、遙」
「? うん。また明日」
一瞬怪訝な顔をしたものの、遙は再び踵を返して歩いていった。
その後姿を見送りながら私は心の中で呟いた。

・・・・・・ごめん。遙・・・・・・

そして腕の時計を確認してみる。
「本当に1時間近くもあそこに居たんだ」
遙の言ったように、時計の針は思っていたよりも進んでいた。
私が感じた孝之と一緒に居た時間は、もっと全然短いものだったのに・・・。
「孝之が傍に居ただけで、こんなに違うなんて・・・・・・・・・」
楽しかっただとか面白かっただとか、格別に何か変った事があったわけじゃない。
ただ・・・孝之と一緒に居る事に慣れてしまった自分が居る事に気付く。
「孝之を好きなのは遙なのに、ね」
紅く染まった夕日を眺めながら、自分に言い聞かせるかのように呟く。
私が孝之と一緒の刻を過ごす事はない。あってはいけない・・・。
それが遙の、そして私自身の為なんだから。

でも・・・・・・。

もう少しだけなら、ちょっとだけだから・・・・・・、
私も、孝之の傍に居させて貰ってもいいよね・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・遙・・・・・・


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