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作:壮也
雨上がり
☆競作SS展示場
 
競作SS「雨上がり」/作:壮也
 






散歩に行こう、と唐突に思いついた。





現在、午前六時。

かなり早めの朝食を終え、自分の部屋に戻った私は外出の準備を始めた。

今日は孝之君とデートの約束をしている。

待ち合わせは駅前に八時。

今から駅前に行くには早すぎるし、かといって家に居てもそわそわしているだけだし、それに何より、茜にからかわれる。

それなら、待ち合わせの時間まで近所をぶらぶら散歩するのも良いかもしれないと思った。

お気に入りのワンピースと、服に合わせた白色のバッグ。

部屋を出る前に、忘れ物が無いかチェックする。

手帳、携帯電話、コンパクト、コットン・パフ、ティッシュ、ハンカチ、バンドエイド、それとスケッチブック……。

よし、忘れ物なし。

おろしたてのスニーカーを履いて、私は早朝の雨上がりの住宅街へと繰り出した。

「いってきまーす」










君が望む永遠SS
『雨上がり』by soya










「ん〜〜っ!!」

大きく深呼吸をして、背伸び。

朝の空気は気持ちがよくて、思わずスキップしてしまいそうな気分になる。

雨上がりの街並みは、いつもと同じようで、どこか違う雰囲気がする。

なんだか、街全体が呼吸をしているような、そんな雰囲気。

「……自分で言ってて、よくわかんないや」





「あれ?」

あても無く歩いていたはずなのに、いつの間にか私は白陵柊の坂の下に居た。

いつもの癖で、知らない間に通学路を歩いていたのだろうか。

……こんなことだから、茜に「お姉ちゃん、方向音痴」と言われてしまうんだよね。

「……どうしよっかな?」

学校まで行くか否か。

「む〜」

少しだけ悩んで、結局上ることにした。

「ここまで来たんだし。あの丘まで登って行こうっと」





その考えが甘かった。





坂を登りきった私は、肩で息をしながら誰も居ない学校の敷地を歩いてた。

むむう、現役を退いたこの体では、なかなかどうしてあの坂はきつかった。

あの頃、よく毎日登っていたもんだと、思わず自分に感心してしまう。

呼吸が整うのを待って、最終目的地の丘の上へと向かった。





「わぁ〜〜」

丘の上から見える景色に、私は思わず感嘆の声を上げた。

朝日に輝く街並み。

周りの木々の葉に残っている雨粒に朝日が反射して、何とも幻想的な雰囲気を作り出していた。

スケッチをしようかと思ったけど、どうやらあまり時間は無いみたいだ。

ふと、木の根元に可愛らしい花が咲いているのに気が付いた。





ローズマリー

花言葉は『永遠』





三年間の昏睡から目覚めた私は、とてつもない喪失感に襲われてた。

大切な思い出が、全て消え去ってしまったような。

自分ひとりが、取り残されてしまったような感覚に私は何度も泣き出しそうになった。

けれど、そんな時、いつも傍に孝之君が居てくれた。

そして、孝之君は教えてくれた。

たとえ景色が変わっても、この場所で、この街で、私たちが出会い積み重ねてきた想い出は決して無くなる事はないことを。





止まっていた私は、またこの場所から歩いていこう。

私と孝之君の物語が始まった、この丘の上から。

三年という歳月を埋めてしまうように、孝之君と時を重ねていこう。





「あっ! いっけない!!」

すこし、ゆっくりしすぎてしまった。

急がなければ、孝之君との待ち合わせの時間に遅れてしまう。

私は駆け足で坂を下っていった。





駆けて行く私の胸元で、ローズマリーが揺れていた。







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