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作:水沢葵
ほんとうのたからもの
☆競作SS展示場
 
競作SS「ほんとうのたからもの」/作:水沢葵
 
「・・・・・・・・・・きて」

んんっ。

水月の声がする。

「・・孝・・起きて・・」

俺を起こしてるのか。

水月には悪いけどそうやって揺すられると気持ちいい。

余計に眠くなって・・

「起きなさい!」

うわっ!

水月が布団ごと俺を引っ張りあげた。

一瞬身体が宙に浮いてすぐ下に叩きつけられる。

「いてててて・・・」

「おはよう、孝之」

まだ半分寝てる俺を水月が満面の笑みで見下ろしている。

その手には今俺から剥ぎ取ったばかりの布団を抱えている。

「もう少し優しく起こしてくれて・・ってあれ?ここ、どこだ?」

今まで寝ていたのはいつものベット。

水月に取られた布団もいつもの布団。

だけどやけに天井が高い。

窓の外からの景色も違う、というか窓の形も位置も違う。

「孝之、まだ寝惚けてるの?」

水月の表情は心底呆れたって感じだ。

あらためて部屋を見渡すとたくさんのダンボール。

時計とか最低限のものだけが置いてある。

「ああ、そうか」

そうだった。

今日からここが新しい我が家だった。

「ようやく目が覚めたみたいね」

「ああ。そういうわけでおやすみ」

「そ、そういうわけって!?ちょっと孝之!?」

部屋を見回したときに目に入った時計。

表示は6時を少しまわったあたり。

今日は日曜日。

こんな朝早くから起こされてたまるかっ。

「というわけで、水月、布団を返してくれ」

「何がというわけよ!いいから起きなさい。約束の時間までもう1時間もないんだからっ」

そういやそうだった。

慎二のやつ7時に向かえにくるって言ってたな。

「ほらっ、早く朝ご飯食べて」

「へいへい」





















































































「それでそんなに眠そうなんですか、鳴海さん」

「そうなんだよ・・ふわあぁぁあ・・」

車内で茜ちゃんと話しながらでも、ついあくびがこぼれる。

「もうっ、孝之ったら情けないんだから」

水月がジト目でこっちを見る。

「そんなこと言っても寝たの2時半だぜ?」

「私だってそうよ。でも6時前には起きてたわよ?」

「そ、そりゃそうなんだけど・・・」

そりゃ、そう言われたら返す瀬がないんだけど。

「でも2人ともそんな時間まで何してたの?」

助手席に座ってる遙の一言で一瞬、車内が凍りついた。

「も、もうお姉ちゃんったら何言ってるのよ」

「そ、そうよ、遙ったら」

「え、え?」

「遅くまで荷物の整理してたのよ、ねえ、孝之?」

「あ、ああ」

「そっかあ。私達も昨日、泊まって手伝えばよかったね、茜?」

車内が再び凍りついた。

は、遙〜。

もうこうなったら36計逃げるが勝ちだ!

「あ、あのさ慎二、あとどれくらいかかりそうなんだ?」

俺達の目的地は郊外の造園センターだ。

昨日行ったときはここからあと2時間くらいかかった。

「そうだな、今日は日曜だから昨日より道も込むだろうしな。

・・・2時間半くらいじゃないか?」

いいぞ、慎二、その言葉を待ってたぜ。

「だよな、じゃ、俺悪いけど寝させてもらうわ」

「ちょ、ちょっと孝之」

水月の声が聞こえてくるけど聞こえないふりだ。

「鳴海さん・・・逃げましたね」

茜ちゃんの呟きも聞こえない聞こえない。

「おやすみ、孝之くん。それでね、水月、昨日は・・・」

遙は1人気づかず再び車内を凍りつかせる。

遙伝説、アダルト編ってとこだな・・・。

マジで眠い・・・。

調度いいや、寝よ・・・。


















































































「・・きて、孝之・・・之、起き・・・」

ああ、水月が俺を起こしてる・・・。

なんかちょっと前にもこんなことがあったような・・・。

「・・んん・・デジャヴか・・・」

俺の思ってることがわけのわからない寝言になる。

「そんなわけないでしょ!起きなさい!」

「うわっ!」

だが、その寝言は寝言とはとってもらえなかったみたいだ。

デジャヴでもなんでもなく、正真正銘本当に今朝と同じように

水月に叩き起こされる。

だからもう少し優しく起こしてくれって・・・。

「ほら、孝之、目覚めた?」

「覚めたけど・・・だからもうちょっと優しく起こしてくれって」

「あのね、孝之、私は30分くらいずっと呼んでたのよ?

あまりに起きないから遙達先に行ってもらったのよ、もう」

「わ、悪い・・・」

「分かればよろしい。じゃ、私も行くわよ?」

えっとたしか、

「12時にここでいいんだよな?」

「うん、じゃ行くわね」

「おお、後でな」

水月が造園センターの中に消えていった。

時計を見ると10時をまわったあたり。

意外と早く着いたみたいだ。

「ふわあぁぁあ、俺も行くか」

あくびをしながら造園センターの中に歩いていった。


















































































11時10分、造園センター内某所。

「これはえっと、シロツメ草・・・花言葉は感化、約束。

こっちは、タマリンド、花言葉はっと・・・贅沢、か。

探してみると以外に無いもんだな」

それはそうであろう。

彼がいるあたりはマメ科の花のコーナーである。

そんなところに今回の目的に沿う花など普通はない。

だがしかし、

「これはえっと、スイートピー、花言葉は門出、優しい思い出、か」

数少ない例外が存在した。

「よしっ、これにするか!」

そう言って彼は白いスイートピーを手に取った。

確かに、その花言葉は今回の目的に合っていた。

孝之達が共同で花壇に植えるのに合う花言葉の花、というのが目的である。

だが、その白いスイートピーには、そこには書かれていない花言葉があった。

微妙、というある意味では彼―平慎二の立場を的確に表現する花言葉が。

もちろん、彼がそんなことを知るわけはなかった。




















































11時45分、駐車場。

「車はえっと・・・」

買ってきた花の入った袋包みを抱えた茜が、

駐車場と園芸センターの間あたりでキョロキョロとしていると、

「あっちよ、茜」

と、同じく袋包みを抱えた水月も帰って来た。

「あっ、そっか」

2人は並んで車の方に歩いて行く。

「そういえば水月先輩は何の花にしたんですか?」

「ヒミツ。そういう茜こそ何にしたのよ?」

「私も内緒です。後のお楽しみです」

そんな会話を交わしながら歩いていく2人。

だが、実は、2人はまったく同じ花を買っていたのだ。

2人が買った花の名はアカシア。

友情、という花言葉を持つ花だ。

だが、友情という花言葉の花は数多くある。

そんな中で知らずに2人が同じく選んだアカシア。

それは偶然ではないのかもしれない。

この花は、秘めた恋、という花言葉も持っているのだ。


























































「孝之、起きなさい!」

ガコンッ!

「・・ててて・・」

またも水月に叩き起こされる。

どうやら車の助手席を急におこしたみたいだ。

水月に起こされるのは、今日3回目だ。

さすがに3回目ともなると俺も優しく、なんて言えない。

「ん?遙帰って来たのか?」

1番最後に出たはずなのに1番最初に帰って来てしまった。

慎二に、水月、茜ちゃんは帰って来たから、あとは遙だけだ。

俺が買ってきたのは、アイビー。

最初からこれを買うつもりで来たせいで、車の中で暇を持て余すはめになった。

眠かったんで助手席で寝てたんだが・・・。

「孝之、外を見たら?」

水月の言うとおり外を見ると、

「なんだ、もう帰り着いてたのか」

眼前には我が家があった。

「ほらっ、さっさと降りて庭に行く、3、2、1、はい」

水月に促されて庭の方に歩いて行く。

庭では昨日植えたばかりのコブシの苗木のそばで慎二が花壇を掘っていた。

「孝之、遅せーぞ」

「悪い悪い」

俺もスコップを持って苗木のそばに歩みよる。

「じゃ、孝之、私はキッチンの遙達の手伝いにいくから」

「ああ、美味しいメシを期待してるぜ」

「わかってるわよ、孝之達もがんばってね」

水月が玄関の方に歩いて行く。

どうやら今日は昼と夜をまとめて食うことになりそうだ。

「さてと、やりますか」






































































「鳴海さん、平さん、御飯できましたよ〜」

茜ちゃんが庭先まで俺達を呼びに来た。

「あ、凄〜い」

「だろ?」

茜ちゃんの目線の先には今日買ってきた花々がある。

右からアイビー、アカシア、エーデルワイス、スイートピーの順だ。

「茜ちゃん、2人を呼んできてもらえないかな?」

「え?」

「この前で写真撮ろうと思ってさ」

これこれ、と慎二がカメラを掲げる。

「あ、じゃあちょっと待ってて下さい」



































































茜ちゃんが水月と遙を連れて戻ってきた。

慎二がカメラをセットしてる。

一番右に立っていた俺が水月を傍に引き寄せた。

その横に、茜ちゃん、遙が続く。

「じゃ、撮るぞ〜」

そう言って慎二がカメラのタイマーをセットして1番左に並ぶ。

カシャッ。

撮ったのは1枚の写真だ。

でも、今こうしている時間もわずかなひと時でしかない。

そんなちっぽけなもんだけど、

それが俺達の、ほんとうのたからもの、なんだ。

〜fin〜


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